3 新しいライフスタイル
(1) 市民の日常生活と都市の環境
都市・生活型公害の解決は、市民の日常生活における行動や生活様式と切り離しては考えられない。それはもちろん、政府、地方公共団体及び民間企業が一致協力して、上に述べてきたような都市システムをいかに早く実現できるかにかかっているのであるが、また都市の住民が今後どのような環境の中に住むことを望み、どのようなライフスタイルを選択していくのかにも大きく依存している。
生活雑排水による都市河川等の水質汚濁、自動車の利用に伴う大気汚染、交通騒音、粉じん公害等の問題は言うに及ばず、空き缶の散乱問題から各種家庭用品の使用に伴う近隣騒音、ごみ処理の問題まで含めて、今や現代人の生活のあらゆる局面で、市民一人ひとりが環境汚染の被害者であると同時に汚染者にもなりうる立場にある。
フロン入りのスプレーの使用がもたらすオゾン層破壊の例が示すように、市民一人ひとりの行動が地球的規模の環境問題にまでつながっていることが明らかになった今日、まず我々自身の生活行動の結果を深く認識し、それに応じて自らの生活を見直すとともに、身近な生活環境を改善しより快適な環境を創造するための活動に積極的に参加していくことが重要である。それがひいては地球的規模の環境保全に市民一人ひとりが貢献する道であり、昨年の環境白書が提案した「地球人としてのライフスタイル」であると言うことができよう。
昭和63年に総理府が行った「環境保全活動に関する世論調査」によると、都市住民の間では身の回りの環境問題に対する関心が高いばかりでなく、環境保全活動やリサイクル活動等に対する参加意識も強い傾向がある。また、日常の生活の中で様々な環境保全への配慮・工夫を行ったり、実際に身近な環境改善のための住民活動や自然環境を活かしたまちづくりに参加している人も多い。反面、適切な情報や他の活動主体との交流が不足しているため、市民の積極的な関心や参加意識が実際の行動に結び付いていない面も見受けられる。
一方、市民の生活を支える数々の消費物資を産み出すとともにサービスを提供し、そのライフスタイルを大きく規定しているのは、企業活動である。都市に活動の拠点を置く民間企業においても、自らの事業活動が都市の環境に与える影響と責任を自覚し、既に述べたような都市の生態系循環の再生のための諸処の措置、対策を自ら講じ、あるいは行政施策に協力するとともに、都市社会の一員として、良好な都市の環境の形成に積極的な役割を果たしていく必要がある。
(2) 環境教育、環境保全活動の促進
今後一層進展する生活水準の向上、社会の高齢化、余暇時間の増大に伴い、都市においても自然観察や環境保全、まちづくり活動を通じての市民の生涯学習や社会参加も活発になっていくと予想される。
このため、環境政策の立場からは、都市における環境問題の現状や見通しに関する的確な情報の提供、その他市民の日常生活における環境配慮のあり方も含めて環境学習の普及に努めるとともに、自然環境の保全を行うナショナル・トラスト活動、ごみのリサイクル活動、その他良好な都市の環境の保全・創造活動の推進のための地域組織の形成、指導者の育成、各種活動団体間の情報の交流等を図ることが重要である。また、より良い都市の環境の構築、維持管理により大きな費用を伴う場合が多いことから、その費用負担のあり方についても地域住民の理解と合意形成を図ることが重要である。
これらの要請に応えるため、日頃から環境の状況に関する各種情報の迅速、的確な提供に努め、多様な広報活動を行うとともに、「環境週間」をはじめとする各種の行事、シンポジウム等を開催又は後援して、民間団体や地方公共団体間の交流の促進に努めている。また、地域の実情にあわせた生活雑排水対策のあり方について指導指針を定めるとともに、日常の暮らしの中で誰もができる環境への配慮、工夫を広く国民各層から募り、これを国民の環境学習のための教材として取りまとめたうえ、普及に努めていくこととしている。
また、環境庁に設置された「環境教育懇談会」の報告(昭和63年3月)の趣旨を踏まえ、現在、中央で民間が中心となって、環境教育の推進のため環境科学技術に関する知識の普及啓発事業を充実していこうという動きもみられる。今後、地方公共団体においても、地域における環境教育を総合的、継続的に推進するため、環境教育の拠点づくりが進められ、環境教育・情報のネットワークの整備が図られるものと期待される。