20世紀は都市化の時代ともいわれるように、世界各国で人口増加と速度を競うような急激な勢いで都市化が進展した。国連の推計によると、1920年には世界中で3億6,000万人が都市に居住していたのに対し、1985年には19億8,300万人が都市の住民になった。今後は特に開発途上国での人口増加と都市化の進行がめざましく、西暦2000年には世界の人口は61億人を超え、その47%すなわち29億人が都市に住むことになるという。
我が国においても、大正9年(1920)年にわずか18.0%であった市部人口シェアが、第2次世界大戦中を除き一貫して伸び続け、昭和60(1985)年には76.7%にも達している。これを昭35(1960)年の国勢調査から採用されたDID(人口集中地区:人口密度が1km
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当たり4,000人以上の国勢調査区が互いに接して合計人口が5,000人以上となる地域)でとらえると、1960年に43.7%であったDID人口シェアが1985年には60.6%となった。DID面積も一貫して増大している。21世紀の到来に向けて、DID人口、面積は共に増加のテンポを緩めつつも引き続き増大し、西暦2000年までに人口の密集した地域に居住する人は、さらに1,200万人増加するものと予測されている。今後、農村部においても都市的な生活様式や施設が一層普及していくことを考え合わせると、国民の大多数が都市又は都市的環境の中で生活することになるわけである。
こうした都市化のすう勢の中で、昭和50年代前半には沈静化していた大都市圏への人口流入が50年代後半から東京圏を中心に再び増勢をみせ始める一方、地方圏において過疎地域の人口の減少と中枢都市等の人口増加が進行しつつある。また、生活水準の向上、自由時間の増大、高齢化の進展等に伴い、国民の間により豊かでうるおいのある生活環境や自然とのふれあいを求める声が高まっている。今後21世紀に向けて我が国の産業構造の転換、経済社会の国際化、技術革新、情報化等が一層進展する中で、国土の均衡ある発展を図るためには、東京圏への諸機能の一極集中を是正するとともに、地域の活性化によって人口と産業の地方分散を進める必要がある。
政府が昭和62年6月に決定した「第四次全国総合開発計画」(四全総)はこのような認識のもとに、「多極分散型の国土形成」を基本的目標にして策定された。そこではまた、安全で質の高い国土環境の整備が基本的課題の一つとされており、「豊かな森林や水、清浄な大気、静穏な環境の確保、様々な恵みをもたらす自然環境や歴史的環境、良好な街並みの保全及び複雑化していく環境問題への対応などにより安定したうるおいのある国土を形成する」ことがうたわれている。
こうして今や、大都市のみならず地方の中小都市においても、都市化の進展に伴う様々な環境問題に対して有効な対策を講じるとともに、地域の環境資源を保全・活用し、個性的でやすらぎとうるおいのある良好な環境を積極的に創り出していくことが求められている。また、そうすることが人々や産業を地方に引きつけ、地域の活性化にも資することとなり、大都市圏、地方圏を問わず、都市住民の生活の場、文化、交流の場として「ふるさと」と呼ぶにふさわしいまちづくりへとつながっていくものと期待される。
今年、我が国の多くの都市では、市制100周年を迎える。21世紀の到来を間近に控えたこのひとつの節目にあたり、長期的な観点から今後の都市における環境政策のあり方を再検討してみることには大きな意義があると考えられる。
そこで、第2章201/sb1.2>においては、都市における人間活動と環境の関係を一つの有機的な系−−都市の人間−環境系−−としてとらえ、まず第1節201/sb1.2.1>において、都市の環境問題をこの視点から分析することの意義を論じ、第2節201/sb1.2.2>においては、この視点から我が国の都市の環境の現状とすう勢を分析する。第3節201/sb1.2.3>では、この系を自立・安定的、循環的である生態系のしくみに近づけるための様々な動きや施策の動向を紹介する。さらに、第4節201/sb1.2.4>においてこれらを総合し、今後推進されるべき都市における環境政策の方向について述べる。