2 水質汚濁
(1) 環境基準の達成状況
水質汚濁に係る環境基準は、人の健康の保護に関する環境基準及び生活環境の保全に関する環境基準の2つから成っている。
ア 健康項目
人の健康の保護に関する環境基準が設定されている物質について、昭和62年度公共用水域水質測定結果をみると、全国5,283地点において測定された検体数13万7,658(総水銀を除く。)のうち環境基準に適合していない検体数の割合は0.02%(61年度0.02%)となっており、ほぼ環境基準を達成するに至っている(第1-1-7図)。(なお、総水銀については、50年度以降環境基準を超えると評価される地点はない。)
イ 生活環境項目
生活環境の保全に関する環境基準が設定されている項目の状況を代表的な有機汚濁の水質指標であるBOD(河川)、COD(湖沼及び海域)でみると、環境基準を達成している水域は昭和62年度は全体の70.1%(61年度69.9%)となっている。水域別にみると、河川68.3%(同68.6%)、湖沼43.1%(同40.0%)、海域82.6%(同81.2%)となっており(第1-1-8図)、湖沼は依然として低い達成状況にある。
(2) 閉鎖性水域の状況
水の交換が少なく、汚濁物質が蓄積しやすい湖沼、内湾、内海等の閉鎖性水域では、依然として環境基準の達成率が低く、中でも後背地に大きな汚濁源がある水域では、水質保全のための条件は厳しい。
湖沼については、環境基準の達成状況をCODでみると、琵琶湖(滋賀県)、霞ヶ浦(茨城県)、諏訪湖(長野県)などの代表的な湖沼において未達成となっている。特に、これらの湖沼の中には、手賀沼等のように著しい汚濁状態にあるものもみられる(第1-1-9図)。
海域については、広域的閉鎖性水域における環境基準の達成率をCODでみると、東京湾及び伊勢湾については海域全体に比べ低い状況にあり、また、瀬戸内海でも大阪湾(昭和62年度67%)、広島湾(同0%)などは低い状況にある(第1-1-10図)。
また、生活排水、工場排水等に含まれる窒素、燐などの栄養塩類の流入により、藻類その他の水生生物が増殖・繁茂し、いわゆる富栄養化が生じている。このため、湖沼では水道水の異臭味や浄水場のろ過障害の発生、水産における魚種の変化等、透明度の低下等による景観の悪化などがみられ、内湾、内海においては、赤潮の発生などによって漁業被害や海水浴の利用障害、悪臭の発生、海浜の汚染など広く生活環境への被害が生じている。
(3) 都市河川の状況
生活における精神的な豊かさ、快適さに対する人々のニーズが高まっている中で、都市内の河川はそこに住む人々の生活にうるおいを与える貴重な空間として見直されるようになってきている。しかし、その現状をみると、汚濁が著しく、悪臭を発したり景観を損っているものが多い。
河川の水質汚濁の状況をみると、都市河川について汚濁の水準が高く、近年は改善が進んでいない(第1-1-11図)。また、BODで10mg/1を超える汚濁が著しい河川についてみると、その88%は都市河川であり、地域別にみると大都市及びその周辺(茨城県、埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県、岐阜県、愛知県、三重県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県及び和歌山県)に70%以上が集中している。
(4) 海洋汚染
我が国の周辺海域における海洋汚染の発生確認件数は、昭和63年には927件と62年に比べ48件減少している。このうち油による海洋汚染が全体の約64%となっており、これを海域別にみると、全体の約46%に当たる429件が東京湾、伊勢湾、大阪湾及び瀬戸内海において発生している。
また、タンカーから排出されるバラスト水などの油分によると推定される廃油ボールの漂流・漂着は、近年全体として減少傾向を示しているものの、なお、南西諸島への漂着が多い現状にある。
(5) 地下水汚染
地下水は良好・恒温な水質源として高く評価され、現在でも都市用水(生活用水及び工業用水)の約3割は地下水に依存している。しかし、昭和50年代後半より、トリクロロエチレン等による地下水汚染が顕在化し、その後の調査によって汚染が各地域に広がっていることが明らかになっている。
昭和62年度における地下水の汚染状況の調査によれば、これまで調査が行われていなかった地域において、水道水の暫定水質基準を超えて汚染されている井戸が、トリクロロエチレン2.9%(61年度5.2%)、テトラクロロエチレン4.8%(同3.9%)、1,1,1-トリクロロエタン0.2%(0.1%)の割合で見いだされており、汚染が依然として各地でみられている。
また、六価クロム等の有害物質による地下水汚染についても、局地的なものであるが毎年数件発生している状況にある。
(6) シアン等有害物質の流出事故の発生
昭和63年4月に、入間川(埼玉県)に工場から大量のめっき用シアン化合物が流入し、魚がへい死し、下流の2か所の浄水場において取水が停止されるという事故が発生した。また、6月には阿久和川(神奈川県)でめっき工場からシアンが流入し、魚がへい死する事故が発生した。
シアンや六価クロム等の有害物質を使用する工場・事業場から有害物質の流出事故が発生した場合には、人の健康又は生活環境に重大な被害が生じるおそれがあるため所要の対策を講じる必要がある。