砂漠化する地球 -その現状と日本の役割-
砂漠化対処条約
砂漠化の問題に国際的に取り組んで行くため、1994年6月17日に「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)における砂漠化に対処するための国際連合条約」(通称:砂漠化対処条約)が採択されました。砂漠化対処条約は、特にアフリカ諸国を中心とした開発途上国において深刻化する砂漠化問題に対し、国際社会がその解決に向けて協力することを目的としています。
砂漠化対処条約は、基本的な取組の方向を「原則」として示し、資金の提供を中心課題として位置づけています。
砂漠化の影響を受けている締約国に砂漠化対処に向けた行動計画の策定を義務づけているほか、すべての締約国に対して砂漠化対処の取り組みについて定期的に締約国会議に報告することを義務づけています。
また、条約の下に補助機関として、科学技術と助言のため科学技術委員会を設置しています。また、条約実施状況について定期的なレビューを行うため、条約実施レビュー委員会を設置しています。
条約の補助機関組織
- 科学技術委員会(CST:Committee on Science and Technology)
砂漠化対処条約の締約国会議に科学的・技術的な情報および助言を提供するために設置された締約国会議の補助機関。 - 条約実施レビュー委員会(CRIC:Committee for the Review of the Implementation of the Convention)
条約実施の定期的なレビューを行うため、第5回締約国会議で設置された締約国会議の補助機関(COP5 / Decision1)。
砂漠化対処条約の構成
- 砂漠化の定義
「砂漠化」は、「乾燥地域、半乾燥地域及び乾燥半湿潤地域における種々の要因(気候の変動及び人間活動を含む。)による土地の劣化」と定義されている。極乾燥地域は、条約の対象から除外されている(第1条)。 - 一般的義務
締約国一般が負う義務として(1)砂漠化及び干ばつへの対処に当たり、物理的、生物学的、社会経済的側面に対する総合的な取り組み方法を採用すること、(2)砂漠化の影響を受ける開発途上締約国の経済の状況について注意を払うこと、(3)砂漠化への対処及び干ばつの影響緩和に貧困撲滅のための戦略を組み入れること等を定めている(第4条)。 - 砂漠化の影響を受ける締約国の義務
砂漠化の影響を受ける締約国は、砂漠化対処と干ばつの影響緩和のために(1)十分な資源を配分し、(2)持続可能な開発のための計画の中で砂漠化対処の戦略・優先順位を確立し、(3)NGOの支援を得て、地域住民の参加を促進することが義務づけられている(第5条)。 - 先進締約国の義務
先進締約国は、開発途上締約国による砂漠化対処及び干ばつの影響を緩和するための努力を積極的に支援し、相当の資金等を提供するとともに、地球環境ファシリティー(GEF)からの資金供与等を促進すること、技術、知識及びノウハウの移転を促進することが義務づけられている(第6条、第20条2項)。また、援助の提供の際には、行動計画に対する支援を優先させる(第9条2項)。 - 行動計画
砂漠化の影響を受ける締約国は、国家行動計画を作成し、実施すること(第9条1項)とされており、行動計画については、(1)砂漠化対処と干ばつの影響緩和の長期的戦略を立て、持続可能な開発のための国の政策に行動計画を組み入れること(2)土地の劣化防止に重点を置くこと、(3)政策決定や行動計画の実施・検討の際、NGOや地域住民の参加を確保すること等が定められている(第10条2項)。 - 資金と資金メカニズム
資金については、(1)先進締約国は、砂漠化の影響を受けるアフリカ諸国を優先させ、GEFの活用を含め、資金調達を促進すること(第20条2項(b))、(2)国内、二国間、多数国間の資金源の利用と質的改善を図ること(第20条4項)等が規定されている。また、資金メカニズムについては、砂漠化の影響を受ける開発途上締約国の資金調達を促進する地球機構(Global Mechanism)が設立された(第21条4項)。 - 科学技術委員会
締約国会議に対し、科学技術分野での情報及び助言を提供する補助機関として、政府の代表者であって専門分野の能力を有するメンバーからなる科学技術委員会が設置されている(第24条1項)。さらに、締約国の指名に基づき、独立専門家の名簿を作成・維持することとしている(第24条2項)。
附属書(概要)(注1)>
アフリカ、アジア、ラテン・アメリカ及びカリブ、地中海北部並びに中・東欧について、地域毎の行動計画(国家行動計画,小地域行動計画,地域行動計画)に関する指針を規定している。
コラム:砂漠化対処条約(UNCCD)が骨組みを作った「土地の劣化の中立性」
UNCCDでは、砂漠化防止の取り組みを進めるために、「土地の劣化の中立性(Land Degradation Neutrality : LDN)」という概念の重要性を訴えています。LDNとは、世界中の土地の劣化を改善して、持続可能な管理と土地の回復をめぐる持続可能なバランスに達することを目指す、という概念です(注2)。資源が劣化し、気候変動の影響が広がる世界で、人間が土地の使い方を改善し、一度は劣化させてしまった土地に命を取り戻すことによって、健全で生産性のある資源を十分に確保することを意味します。
2015年9月の国連サミットで採択されたアジェンダにSDGsが記載され、その翌月10月に開催されたUNCCDの第12回締約国会議(COP12)でLDNの定義が以下のとおり決定され、本定義についてはUNCCD条文で定義された「影響を受ける地域」に適用することが決定されました。
LDN「土地の劣化の中立性」の定義(注3):生態系の機能およびサービスを保持し、食料安全保障を向上させるために必要な土地資源の量と質が、ある生態系もしくは空間において安定もしくは向上している状態。
コラム:持続可能な土地管理とは?
乾燥地における砂漠化、土地劣化に対処する上で、近年、「持続可能な土地管理」(Sustainable Land Management:SLM)の重要性が広く認識されるようになってきました。SLMとは、適切な土壌や水の管理によって持続的な土地生産、生計の維持、環境の保全を実現する、技術や仕組みを包含した概念です(注4)。SLMはその技術とアプローチに分けてとらえられています。SLM技術は、土地の劣化を制御したり、生産性を高めたりする手法で、SLMアプローチは、1つまたは複数のSLMテクノロジーを実装するための方法と手段を指します(注5)。
(注1) | 外務省ホームページ |
(注2) | 鳥取大学国際乾燥地研究教育機構.国連砂漠化対処条約(UNCCD):土地に根差した生活を守る (2016–2017).2017,p2・4・6 |
(注3) | 外務省ホームページ(仮訳を一部変更) |
(注4) | 鳥取大学乾燥地研究センター監修・恒川篤史編集代表.乾燥地を救う知恵と技術―砂漠化・土地劣化・干ばつ問題への対処法―.2014.丸善出版,p24-26 |
(注5) | WOCATホームページ |
砂漠化対処条約の経緯
1968~1973 | アフリカ・サヘル地域(注6)における大干ばつ |
1977 | 国際砂漠化防止会議(UNCOD)開催(ケニア・ナイロビ)― 砂漠化問題に関する国連レベルでの初の会議 |
1992.6 | 国連環境開発会議(地球サミット)開催(ブラジル・オデジャネイロ)― 砂漠化対処条約策定について基本合意 |
1992.12 | 第47 回国連総会開催(米国・ニューヨーク)― 砂漠化対処条約政府間交渉会議(INCD)を設置することを決議 |
1993.5 | INCD 第1 回実質会合開催(ケニア・ナイロビ)― 砂漠化対処条約策定に向けた政府間の交渉が開始 |
1994.6 | INCD 第5 回実質会合開催(フランス・パリ)― 砂漠化対処条約(注7)の採択 |
1994.10 | 砂漠化対処条約署名式典開催(フランス・パリ)― 日本をはじめ86カ国(ECを含む)が署名 |
1996.12 | 砂漠化対処条約発効 |
1997.10 | イタリア・ローマにおいて、第1 回締約国会議が開催され、2001 年ジュネーブ第5 回締約国会議までは毎年、その後は隔年で開催されている |
1998.9 | 日本が受諾書を国連事務総長に寄託(同12月に国内発効) |
2005.10 | ケニア・ナイロビにおいて、第7回締約国会議が開催され、砂漠化対策条約事務局とGEF(地球環境ファシリティー)との間の覚え書きを採択 |
2006 | 条約発効10 年を迎え「砂漠と砂漠化に関する国際年」として国連総会で決議 |
2007.9 | スペイン・マドリードにおいて、第8 回締約国会議が開催され「条約実施を強化するための十年戦略計画と枠組」を決議 |
2009.9~10 | アルゼンチン・ブエノスアイレスにおいて、第9回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・結果重視マネジメントによる2010~2011年の条約機関作業プログラムを採択 ・十年戦略計画に沿った条約実施レビュー委員会(CRIC)の常設補助機関化の決定及び報告書作成ガイドラインの仮採択 ・人員派遣を含む、地域調整メカニズムの強化を決定 |
2011.10 | 韓国・チャンウォンにおいて、第10回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・結果重視マネジメントによる2012~2013年の条約機関作業プログラムを採択 ・地球機構(GM)の取扱方針を決定 ・GEFとの連携強化の確認 |
2013.9 | ナミビア・ウィントフックにおいて、第11回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・地球機構をドイツ・ボンの条約事務局に統合する形で移転し、ローマにはリエゾンオフィスを設置することを決定 ・リオ+20フォローアップに関する政府間ワーキング・グループ及び科学・政策インターフェイス(SPI)設立を決定 |
2015.9 | 国連総会において「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択。持続可能な開発目標(SDGs)の15.3に、2030年までに土地の劣化の中立性を実現するという目標が盛り込まれた。 |
2015.10 | トルコ・アンカラにおいて、第12回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・土地の劣化の中立性(LDN:Land Degradation Neutrality)に関する定義を決定 ・条約対象区域の拡大に関する議論を実施 |
2017.9 | 中国・内蒙古自治区オルドスにおいて、第13回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・2018~2030年新戦略枠組を採択 ・ジェンダーに関する行動計画、干魃に関するイニシアチブ、砂嵐に対処するための政策アドボカシーを採択 ・移民問題と本条約との関係について研究を行うことを決定 |
2019.9 | インド・ニューデリーにおいて、第14回締約国会議が開催され、以下の成果が得られた。 ・干ばつ、ジェンダー、砂嵐、DLDD(砂漠化、土地劣化、干ばつ)を、移民を促進する主たる原因として、これら4つのテーマ別政策枠組に対処するために36の決議を採択 ・土地保有(Land tenure)を条約の新たな主題分野として認めた ・条約の下、干ばつに対処する効果的な政策や実施方法について調査するため、予算の許す範囲内で政府間WGを設置することを決定 |
2021.3現在 | 締約国は197カ国・地域+EU(注8) |
(注6) | サヘル地域とは、サハラ砂漠南縁部を指し、モーリタニア、セネガル、マリ、ブルキナファソ、ニジェール、チャドなどがサヘル諸国として挙げられる。 |
(注7) | 砂漠化対処条約:正式名称「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約」 |
(注8) | UNCCDウェブサイト |