最後の野外遠征
昭和基地の夏期宿舎では最近何度か排水管が凍っているようです。1月下旬に白夜も終わり、朝晩の気温も寒い日はマイナス10度を下回るようになってきました。南極の短い夏もそろそろ終わりを告げようとしています。私は最後の野外遠征として、12月末から1月初めまで滞在していたラングホブデに再び来ています。
コケの温度などを図る計測機器のデータ回収をしているところです。この後も設置を続け、クマムシが生息するコケの環境を通年で調べます。
海辺の砂の中に生息するクマムシを採取中です。フィルターで水を切って砂泥を集めます。実際には日本に帰ってから顕微鏡で少しずつ探さなければならないとのことで、なかなか根気のいる作業のようです。
今回は陸上生物チームが前回訪れた際に設置した観測機器からのデータ回収や定点モニタリング調査、追加サンプリングのお手伝いが中心となります。1月の初めにラングホブデを離れる際は、一生のうちでもう二度と目にすることのない風景になるだろうと思っていたのですが、こんなに早く再び訪れることができました。支援要員として呼んでいただいた陸上生物チームや隊長に感謝しています。ただ、ラングホブデの滞在も残すところあと2日です。その後は昭和基地に戻り最後のモニタリングを終えた後は数日のうちに「しらせ」に戻る予定です。南極にいることのできる残り少ない貴重な時間を大切に過ごしたいと思います。
≪今日の生きもの≫
”クマムシ”
しばしば”最強生物”などと表現されることもあり、その生態やモゾモゾと動く愛らしい姿に一部で根強いファンを持つ小さな生きものです(写真は「ナンキョククマムシ」という種です。体長は0.4mmほどです。)。種類にもよりますが、乾燥しすべての代謝が止まった状態(これを「クリプトビオシス」と呼びます。)になると高温、低温、高圧などにも耐え、水分が与えられると再び動き出すことができます(クリプトビオシスでない状態の時は意外なほどあっけなく死んでしまうようですが。)。南極のような極限の環境でもコケ、地衣類の隙間や海辺の砂粒の間などに生息しています。今回の観測隊の陸上生物チーム3名の内2名が主にクマムシの研究をしています。
【写真提供】慶応大学生物学教室 鈴木忠(56次陸上生物隊員)