海洋観測のお手伝い
航海9日目。現在「しらせ」はちょうど南緯60度付近を西に進んでいます。この2,3日は時々雪が降り、また昨日は氷山も初めて観測され、いよいよ南極らしくなってきました。「南極」とされるエリアの範囲は捉え方によって色々と異なりますが、南極条約と、それに対応する国内法である南極環境保護法では、南緯60度以南の陸域及び海域を「南極地域」としています。したがって私のような同行者を含めた観測隊員や「しらせ」乗員の皆さんは、この先、国際的な取極めに従って活動することになります。南極環境保護法では、「持ち込まない」「持ち出さない」「壊さない(元来の状態を維持する)」といった基本的な考え方のもと、外来種の持ち込みや鉱物の持ち出し、ペンギンなどの生きものへの干渉、廃棄物の処理方法などが厳しく制限されています。例えば観測隊員は、外来種となる植物の種子を持ち込まないよう、できるだけ新品やクリーニングされた物品を使用し、日本国内や寄港地のオーストラリアで使用されたものについては、服であれば特にポケットの中の清掃を徹底するといったことで南極の環境保全に努めています。
話は変わりますが、観測隊の活動は昭和基地に限らず、既に「しらせ」の航行中にもいくつかの調査が始まっています。観測隊の人数は限られており、研究分野毎に1~数名程度しかいませんので、人手の必要な作業についてはお互いに助け合いながら、また、海上自衛隊の方々の協力も得ながら実施しています。私も微力ながら海洋観測のお手伝いをさせていただきました。私は採水担当となり、海中の各深度から採取した海水をボトルに詰める作業を行いました。これだけ書くと非常に単純な作業に思えますが、調査項目によって、例えば海中の炭酸量を調べるための採水の際は、泡から空気が混ざって数値が変わってしまわないよう細心の注意を払って行うなど、結構気を使う作業でした。
ここで取られたデータは帰国後にまとめられ、世界に向けて公開されます。この調査は毎年行われており、長期的にデータを取り続けることにより、例えば気候変動に関連した海洋酸性化やその影響が生じているか どうか、といった研究の基礎資料となります。普段の仕事ではなかなか関わることのない専門の違う者(しかもその道の超一流の方々)どうしが協力し合ってお互いのことを学べるのも、人数の限られた南極観測隊ならではの魅力のひとつです。
≪今日の生きもの≫
クリオネ
貝殻を持たない貝の仲間です。海洋観測の中で行われている、船から袋状のネットを曳くプランクトン採取調査で時々採れます。多くの方がイメージすると思われる、オホーツク海で見られる赤いクリオネとは別種で、「海の妖精」と呼ぶにはちょっと(かなり?)地味な感じがしますが、羽ばたくように泳ぐ姿はなかなか可愛いです。(右側がいわゆる頭側です。)