環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護南極地域観測隊同行日記

昭和基地でのサンプリング

2013年2月3日(日)

 今までいろいろな地域で行われる観測隊の調査に同行してきましたが、今回は昭和基地にいる間に行っている自分の仕事を簡単に紹介したいと思います。

 環境省では、第15回南極条約協議国会議において採択された、「基地の運営などが周辺環境に与える影響を監視及び予測するためのモニタリング計画の立案を各国政府に求める勧告」を受けて、基地活動等が南極の環境に及ぼす影響を評価するためのモニタリング調査を行っています。この調査は、平成20年に作成したモニタリング技術指針を基にしたサンプリングマニュアルに基づき実施しており、2~3年に1度職員が同行する際にモニタリング用のサンプルを採取しています。

 採取するサンプルは海水、表流水、土壌、雪氷、排水、生物(ペンギン死亡個体、魚)です。それぞれ排水処理施設・焼却炉の稼働状況や過去の廃棄物からの汚染物質の流出状況、生物への蓄積状況等を確認することを目的としています。南極というアクセスのよくない場所でのサンプル採取の機会、保護地区などの現地を見られる機会は限られることから、サンプル採取地や保護地区などの状況等も記録に残さなくてはなりません。昭和基地に何度も来ている隊員に昔の状況を教えていただくこともよくあります。

 これまで環境省担当が持ち帰ったサンプルの分析結果等を踏まえ、国立極地研究所では、観測事業が環境に及ぼす影響について検討する環境分科会を昨年立ち上げました。現在は、南極地域の環境の保護に関する法律施行以前に埋設した廃棄物の除去のあり方や、一時的に昭和基地の人口が急増する夏期間の夏宿舎の排水対策の検討等が主な議題となっており、南極地域の環境保護について積極的に議論しています。環境省としても南極の環境を良好に保つため、分科会の議論にも参加し、観測隊に対する情報提供をはじめいろいろな協力をしていく必要があります。このため、今年度はオーストラリアやアメリカなどの南極基地における環境保全の取組を調査しています。

 さて、自分が行うサンプルの採取ですが、現時点で予定したものはほぼ終了しています。サンプル採取は個人でできるものもあれば、他の隊員の助けが必要なものもあります。環境省からの派遣は私一名のみですので、観測隊の協力を得ながらサンプリングを進めました。

魚サンプル採取風景写真拡大

 なかでも北の浦とよばれる地域での魚サンプルの採取が大変でした。魚を採取するには、海氷上に行き、氷に穴をあけて釣るのですが、海氷には海氷の割れ(クラック)があり危険なため、1人での行動は禁止されています。海氷も南極の夏期間で薄くなっているとはいえ、4m近くあり穴開け作業には機械操作に慣れた機械隊員に協力いただきました。魚も常時釣れるわけではないので、短期間に魚を一定数確保するためには、たくさんの隊員の協力が必要でした。幸い、休日日課を利用してたくさんの方にご協力いただきました。

海水サンプル採取風景
積もった雪を除き、その下から数mの氷に穴を開けます。これも一人ではできない作業です。写真拡大

 それ以外にも東オングル島(昭和基地がある島)の基地主要部から離れた単独行動が禁止される地域でのサンプリングでは、生物チームの調査に同行させてもらい、所々で留まってもらいながらサンプルを採取しました。サンプリングは環境省の独自の事業とはいえ、観測隊の協力がなければ成り立たないものです。サンプル採取にご協力いただいた隊員の皆さん、どうもありがとうございました。

排水サンプル採取風景写真拡大

 一方、一人で採取できるものは一人で淡々と採取します。土壌の採取は1サンプルにつき5地点を掘り、それぞれの地点で採取した土壌を混合させて、1つのサンプルとして持ち帰ります。他に比べ時間がかかるサンプリングです。作業中に近くを通る隊員に何をしているのかと興味をもたれることもあります。サンプルの採取目的、作業内容を説明すると、多くの方は地味で地道な作業という印象を持たれるようです。

 環境省では、この採取したサンプルを分析し、昭和基地の活動が及ぼす影響を注視するとともに、環境の改善に向けた様々な提案もしていきたいと思います。また、毎年開催される南極条約協議国会議には、外務省、国立極地研究所、環境省、その他関係省庁が出席します。南極で観測活動している国々の代表団から各国のモニタリング、環境改善の事例等を収集するとともに、日本からも積極的に取組を発表していかなくてはならないと思います。

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