環境省自然環境・生物多様性南極地域の環境保護南極地域観測隊同行日記

越冬交代式

2013年2月1日(金)

 第54次南極地域観測隊は12月下旬の昭和基地入り後、越冬隊が1年間昭和基地で生活し、観測や設営の仕事をするための準備を完了させるべく、着々と準備を進めてきました。

 大型化したしらせでも、2年連続で接岸できない程の厚い海氷に加え、海氷の表面にはパドルと呼ばれる水たまりが多く、雪上車を使用した海氷輸送ができない、使用できるヘリも例年より少ない等、様々な輸送上の困難に見舞われました。このため、全ての輸送を完了させることは困難で、来年以降に持ち越したものもあり、観測や設営は厳しい状況が続きます。しかし、輸送の現場指揮にあたる54次夏隊・越冬隊の両隊長、輸送に従事した隊員・しらせ乗員のがんばりで、越冬に必要な燃料、食料ともに十分な量を運搬し、本日、越冬交代式を迎えることができました。直接輸送に関わらなかった私ですが、本当に連日遅くまでの作業をこなしている隊員に頭が下がる思いです。

 夏期間には夏隊員・越冬隊員の仕事に大差はありません。所属するチームにより従事する作業に差はありますが、夏期間にしかできない野外観測や野外での建設工事等にチームの皆で取りかかります。

 越冬隊のみで過ごす冬期間には夏期間に行わない様々なことが行われるようです。文明圏から遠く離れ、わずか30人程度で生活をするため、一見本業の仕事とも関係ないと思われること(基地内の出来事を新聞として発行する、様々なイベント・娯楽の企画担当をする、喫茶店やバーを開く等)も仕事の一部であり、積極的にこなさなくてはならないようです。単調になりがちな南極の冬の生活を事故なく過ごすため、気分転換になるようなことも自分たちで企画するのです。もちろん、夏期間から継続する観測や施設管理等の本業をそつなくこなす必要があることは言うまでもありません。

 越冬できない場合、様々な問題が生じます。例えば、長年継続して来た観測が中断すると、今まで積み上げてきたデータを有効に活用できません。また、一度観測を中断したら、再開するために多大な労力が必要となります。観測機材を冬期間使用せず保管しておいた場合には今までの観測で得られたデータとのズレがないか等、観測の再開時には検証が必要なためです。厳しい気候により機材や設備等が故障した場合には観測が続けられないことにもなります。これらの問題は越冬隊が滞在することで避けられますし、越冬隊のおかげで南極の冬期間における様々な諸現象に関するデータも得られます。今年も越冬成立に必要な物資輸送が無事完了したことで、これらの問題を避けることができます。関係者一同一安心といったところでしょうか。

 越冬交代式は53次越冬隊、54次越冬隊、しらせの艦長が参加し、例年どおり、19広場(いちきゅうひろば)と呼ばれる昭和基地の看板がある広場で執り行われ、晴天の下、和やかな雰囲気で進行しました。物資輸送を終えた安堵感もあったように感じました。

 交代式では53次越冬隊の隊長が1年間南極で生活を共にした越冬隊員に対し、卒業証書代わりに自作のカップを手渡す姿や、式の終了後にみんなで記念撮影をする姿を見て、もうすぐ訪れる日本の卒業シーズンを思い起こしました。今まで苦楽をともにした隊員が帰国後は全国に散らばり、それぞれの新しい生活を迎えます。そのことがまだ想像できないほど、和気あいあいとした式でした。

 一方、54次越冬隊の方はまた少し雰囲気が違い、これから訪れる南極の厳しい冬の生活をがんばって乗り越えていこう、という気持ちが伝わって来るような、和やかな中にもちょっとした緊張感があるようでした。

両越冬隊集合写真(両側の国旗は同行しているオーストラリア、ニュージーランドのヘリクルーに敬意を払い、両国国旗を掲揚)写真拡大

 越冬交代により、昭和基地の施設の管理責任や、観測の責任の所在が54次越冬隊に引き継がれます。53次越冬隊は1年以上にわたる昭和基地での仕事を終え、引継が完了した隊員から、少しずつしらせに戻ります。

 越冬交代に伴い、ほとんどのメンバーは基地内で宿泊する宿舎が変更されることから、私も朝から引越し準備を行いました。そのため、この越冬交代式は両越冬隊だけでなく、夏隊、同行者のメンバーにとっても大きなイベントでした。

 第1夏宿にいたメンバーの多くは54次越冬隊であり、管理棟と呼ばれる建物に引っ越しです。私を含め第2夏宿にいたメンバーは全て引っ越しで、第1夏宿と管理棟に移りました。第2夏宿は来年の夏まで誰も住むことのない建物となります。53次越冬隊は今まで1年間住んでいた管理棟から第1夏宿に引っ越すものと、引継等を全て終え、しらせに帰る隊員に分かれます。

 式終了後には、しらせに帰る53次越冬隊メンバーをヘリポートで見送りました。54次越冬隊は昭和基地に入ってから越冬交代まで、53次越冬隊から様々な業務の引継を受けています。ヘリに乗り込む隊員にお別れの挨拶、お礼をしている姿があちこちで見られました。私自身も53次越冬隊の方には、野外調査で現地の案内をしていただいたり、環境保全に関する業務でサンプル採取に協力いただいたり、海氷上での安全講習をしていただくなど大変助けられ、頼もしく感じていました。しらせに帰ればまた合流できるとはいえ、しみじみとしてしまいます。

 きっと1年後の越冬交代には、54次越冬隊の皆さんも53次越冬隊の皆さんと同様、野外にも詳しくなり、現地調査でのちょっとしたアクシデントも簡単に解決する等来年業務を引き継ぐ55次隊にとって頼もしい存在になっていることでしょう。

 53次越冬隊の皆さん、1年間越冬お疲れ様でした。54次越冬隊の皆さん、これから来る厳しい冬を知恵と工夫で楽しく事故なく過ごし、55次隊にとって頼もしい存在になってくれると信じています。

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