S16、S17
1月22日から26日の日程でS16とS17と呼ばれる場所に行ってきました。今までの日記を読まれている方の中には、南極の日記なのになぜ写真は見渡す限りの雪ではないのだろうという印象を持った方もいるかと思います。今まで訪れた雪鳥沢、スカルブスネス、スカーレンは露岩域といわれる雪が常にあるわけではない地域でしたが、今回行ったS16、S17は内陸調査の中継点となる地域で、見渡す限りの雪原です。これが多くの方がもつ南極のイメージではないでしょうか。
S16、S17は昭和基地から南極大陸の内陸側に17㎞程度進んだ場所で、露岩地域に比べ標高が高い(600m程度)ことから、気温が低く、今回初めて羽毛服と呼ばれる厚い服を着用しました。動いている間は十分に暖かいのですが、1カ所に留まって作業をしていると、羽毛服にカバーされていない手足の先に痛みを感じるほどの寒さでした。
雪面は雪が柔らかく積もっているのではなく、氷のように固まっているため、大変歩きにくかったです。移動は雪上車が中心で、宿泊はそりがついた小屋(カブース)でした。雪上車に乗ることも初めてです。
今回は地圏・測地チームに気象の担当者が加わり、そのほか現地での様々なサポートをするメンバーとしてフィールドアシスタント、建設及び機械チームの数名、53次隊の気象担当者、さらに数名の同行者で構成され、毎日少しずつですがメンバーが交代していきました。実施作業はインフラサウンド計の設置や気象計の設置、航空網の滑走路の管理です。南極の、しかも人が滅多に訪れない地域に飛行機の滑走路があることに驚きますが、この滑走路は、科学的調査のための人員輸送や物資運搬等に使用するため、日本の観測隊を含めた11ヶ国が共同で運営する南極の航空網の1つとして、夏の間、活用されているものです。今回は、滑走路の位置が分かるよう旗竿を立てていくという作業が行われました。
12月18日の日記「昭和基地に入るための諸準備」にも書いたとおり、私は気象計関係の作業を手伝いました。気象計の設置は、滑走路の安全な運行のため、滑走路に近い航空拠点であるS17の気象を調べ、航空機等に提供するためのもので、今までの気象計よりも新しいものを設置しました。
南半球の夏でありながら、常時氷点下、ときには毎秒20m近い風も吹くなか、数日かけて気象計の設置をしてきました。大変な作業でしたが、地球の影が大気に反映される現象(地球影といいます)など、普段なかなか見られない景色、美しい景色を見ることができました。
S16、S17の印象は、見渡す限りの雪原というものに加え、なかなか吹き止まない風も忘れられません。風によって体感温度はぐっと下がることはもちろん、作業の支障にもなります。例えば、観測隊では、南極地域の環境の保護に関する法律第17条に従って、廃棄物は飛散しないように大きな袋にまとめて、大型のそりの中などに保管しておき、最後に昭和基地に持ち帰って処分するのですが、今回、袋にまとめる前の廃棄物が風に飛ばされたことがありました。風で飛ばされた廃棄物を追いかけ、まるでラグビー選手のように雪原を走って、廃棄物に飛びつきながら押さえ込む隊員の姿は印象的でした。気象の厳しい場所では、廃棄物をまとめるという何でもないように見える作業でも大きな労力を要するのです。
初氷床、初雪上車、初地球影等々、初めてづくしのS16、S17での作業を終え、26日には昭和基地に戻りました。予定されている私の昭和基地外での調査は昭和基地のある東オングル島の隣に位置する西オングル島を残すのみです。