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「S16」で過ごした誕生日

2008年1月28日(月)

 今日は、日帰りで「S16(えすじゅうろく)」という場所に行ってきました。「S16」は、昭和基地の東約20kmに位置する我が国観測隊の主要観測拠点の一つで、一面を雪と氷に覆われた世界です。ここ「S16」も、先日ご紹介した「明るい岬」と同様、ノルウェー語ではなく、当該地周辺で観測活動を行う我が国がこのように呼んでいます。南極点(South Pole)を目指すルートの16番目に設けられたポイントであるため、この一見無機質な地名が付けられています。なお、今は南極の夏の期間ですので往復ともヘリコプターで移動しましたが、冬の期間は天候が厳しく、かつ、「しらせ」とともにヘリコプターも日本に帰国してしまうので、凍てついた海峡を写真のような雪上車で渡り、昭和基地から陸路でアクセスします。

 さて、この「S16」は、主に南極大陸内部に向けた主要観測拠点として利用されており、10台程の雪上車が出番を待っています。今回、私は生物チームの雪氷サンプリングに同行しました。生物チームは、「S16」の北西約15kmに位置する「とっつき岬」と呼ばれる露岩域まで雪上車で移動し、その間の6地点で表面雪氷のサンプリングを行いました。なお、この「とっつき岬」は、昭和基地から雪上車で海氷上を渡る場合の南極大陸上陸地点であり、ここから南極大陸における各種観測が始まるのです。

表面雪氷採取の様子

 さて、話を本題に戻したいと思います。私が同行した生物チームは、採取した表面雪氷を分析し、その中に生息する微生物を調査しようとしています。観測隊員は、自身の体内に生息する菌類や昭和基地から持ち込んだ土壌中のバクテリア等がサンプルに混入しないように、「無菌服」と呼ばれる白衣を着用のうえ、細心の注意を払って採取を行っていました。また、「クレバス」と呼ばれる氷床の割れ目が雪氷の下に隠れている可能性があるため、野外活動支援を専門とする隊員のリードのもと、一歩一歩安全を確保しながらの作業となりました。私は、隊員達のプロフェッショナルな仕事ぶりを固唾を飲んで見守っておりました。

雪上車と齋藤君

 なお、雪上車には、ベッドや通信機器が整備されており、内陸に向けた観測活動を行う際には、この中で隊員の寝食も行われます。「S16」付近も、一面真っ白な世界が広がっているのですが、ここは南極大陸の玄関口に過ぎません。ここ「S16」から雪上車に乗り、数か月に亘って風呂も水道もない大陸内部での観測を行ってきた過去の越冬隊員達に頭の下がる思いです。

 また、私事で大変恐縮ですが、この日1月28日は私の30回目の誕生日でもありました。南極、それも快晴の「S16」で誕生日を過ごせたことは、私にとって一生の記念になると思います。