カモ類の渡りについては、これまで繁殖地と越冬地はわかっているものの、繁殖地からどのような経路を通って越冬地に飛来しているのか、について明らかになっておりませんでした。部分的に、鳥類標識調査により、 越冬地である我が国で足環を付けられた個体がロシアなどで捕獲されたことにより、渡りの途中で通過する地点がわかることがある程度でした。
このような中、最近の技術の発展により、人工衛星の送信機を鳥類に装着し経路を把握することができるようになりました(人工衛星を利用した調査)。 環境省は、H17年度から冬鳥を代表するカモ類に送信機を付け飛来経路を追跡することを始め、個体数は限られるものの、我が国で越冬しているカモ類がどのような経路を通って繁殖地へ渡っているか、また、繁殖地からどのような経路で越冬地へ南下するか、が明らかになってきました。
2007年9月、農林水産省高病原性鳥インフルエンザ感染経路究明チームの報告書「2007年に発生した高病原性鳥インフルエンザの感染経路について」が発表され、感染経路については「渡り鳥からウイルスが分離される等の直接的な証拠はなく、感染経路の特定はできなかったが、海外の事例などから、渡り鳥によるウイルスの国内への持ち込みが想定される。」と記述されており、渡り鳥の飛来経路への関心が高まってきております。また、我が国における高病原性鳥インフルエンザの発生時期はこれまで冬季のみであり、渡り鳥の中でも冬鳥の渡りの飛来経路が注目されています。
これらのことから、高病原性鳥インフルエンザの感染経路に関する関連情報として、冬鳥を代表するカモ類の飛来経路の情報を提示することとしています。なお、もちろんのことですが、ここで経路を示すカモ類が高病原性鳥インフルエンザウイルスを運んでいるということを意味するものではありません。
カモ類が、越冬地である日本から、繁殖地へと渡り始める時期に入りましたので、人工衛星追跡を行っているカモ類のうち渡り開始が確認されたものについて、随時移動情報を掲載していきます。
平成20年~21年の移動状況
宮崎県で送信機を装着したマガモ4羽の移動状況を表示しています。
4羽とも日本海を北上し、中国黒竜江省、同吉林省、北朝鮮東部沿岸及びロシア東部に渡っていることが確認されています。
このうち、ロシア東部に渡った個体は8月中旬に南下を開始し、9月にはロシアのハバロフスク北部で確認されています。
また、中国黒竜江省に渡った個体は11月中旬に南下を開始し、韓国を経由して、宮崎県に戻ってきていることが確認されています。
図 宮崎県で送信機を装着した個体の移動状況 (平成21年2月16日現在)
※環境省事業「渡り鳥の飛来経路の解明事業」請負者東京大学生物多様性科学研究室より情報提供
※無断転用不可
兵庫県で送信機を装着したオナガガモ14羽、ヒドリガモ1羽の移動状況を表示しています。
多くは日本列島の日本海沿岸、山形県、青森県等を経由して北海道に渡り、一部はさらに北上してロシア東部に達していることが確認されています。また、1羽はロシアのハバロフスク地方沿岸部に渡っている様子が見られます。
その後、ロシア東部に渡っていた個体のうち1羽が、10月上旬より南下を開始し、11月下旬に北海道東部に渡ったことが確認されています。
図 兵庫県で送信機を装着した個体の移動状況 (平成21年2月16日現在)
※環境省事業「渡り鳥の飛来経路の解明事業」請負者 東京大学生物多様性科学研究室より情報提供
※無断転用不可
長崎県で送信機を装着したマガモ2羽の移動状況を表示しています。
2羽とも韓国、北朝鮮東部沿岸を経由して中国黒竜江省に渡っていることが確認されています。
このうち1羽は、10月中旬より南下を開始しており、北朝鮮東部沿岸を経由した後、韓国南部に渡ったことが確認されています。
図 長崎県で送信機を装着した個体の移動状況 (平成21年2月16日現在)
※環境省事業「渡り鳥の飛来経路の解明事業」請負者 東京大学生物多様性科学研究室より情報提供
※無断転用不可