プログラム
(1)開会式(5月25日)
主催者、来賓から、次のような挨拶があった。
ア. サバ州観光文化環境省事務次官
サバ州の生物多様性やコタキナバル世界自然遺産について、マレーシアの生物多様性国家戦略による取組などが紹介された。
イ. サバ州観光文化環境大臣
サバ州では新たに2つの海洋公園を指定することや、2025年までにサバ州の森林の30%を保全する目標など、生物多様性条約の次期世界枠組みに則った取組を推進する決意が表明された。
ウ. 国際自然保護連合(IUCN)保護地域委員長
東南アジアの生物多様性が、気候変動や経済活動により深刻な影響を受けている状況を説明。革新的な変革(Transformative Change)の必要性を唱えた。
エ. IUCN副会長
環境問題に取り組む活動は引き続き強化する必要があること、先住民族やその団体と手を取り合うこと、伝統的知識の重要性などを強調。APC2が新しい取組を始める良い機会になることへの期待が示された。
オ. IUCN会長(オンライン参加)
アジア太平洋地域の生物多様性保全におけるIUCNのこれまでの取組を紹介するとともに、それらが気候変動や人の健康、安全にもつながることを強調。
カ. 星野一昭 第1回アジア国立公園会議(APC1)共同議長
生物多様性保全と気候変動対策との連携が重要なことを指摘するとともに、APC1以降の日本における30×30※達成に向けた取組を紹介し、APC2から生物多様性条約第15回締約国会議(CBD-COP15)へ有意義な発信ができることへの期待が示された。
※2030年までに陸域、海域のそれぞれ少なくとも30%を保護・保全しようという目標。CBD-COP15で採択を目指す次期生物多様性世界枠組みの案に含まれている。
以上の後、サバ州代表から開会宣言がなされAPC2が開幕した。
サバ州代表による開幕の挨拶
(2)全体会合(5月26,27日)
26日午前の全体会合では、共同議長が会議の趣旨や進め方について説明を行った後、星野一昭APC1共同議長から会議の概要やAPC1を契機に発足した「アジア保護地域パートナーシップ(APAP)」の成果について、IUCNから愛知目標に代わる新たな世界目標やアジアが直面する30×30に向けての挑戦について発表があった。
星野 一昭 元環境省自然環境局長(APC1共同議長)
また、生物多様性保全のための次期世界枠組みの策定に向けたアジアの果たす役割をテーマにパネルディスカッションが行われ、保護地域拡大におけるOECMの在り方や、エコツーリズムを導入することでの経済活動と環境保全の連携、女性や若者、先住民族の意思決定への参加が重要であるといった意見が出された。
次に、参加した先住民やユースの代表から保護地域の保全について、歴史的に軽視されてきた先住民族が保全活動や意思決定の場へ参加する重要性や、ユースの役割を認知すること、そしてサポートが不可欠であることなどの発表があった。
最後に各作業部会(WG)、ユースセッション、先住民・地域社会セッションの議長から、討議のポイント等について紹介がなされた。
古田 尚也 大正大学教授(WG1議長)
27日午前の全体会合では、共同議長が地域レベルの問題に焦点を当てる2日目のセッションについて説明した。続いてマレーシア工科大学のアムラン教授がアジア各地で文化的背景により保護してきた自然環境と保護地域について、国際教養大学の熊谷嘉隆副学長(APC1共同議長)がアジア地域の生物多様性の状況、30×30の達成に向けた日本におけるOECM等の取組、気候変動やSDGsへの対策との連携の重要性、そしてビジネス界の果たすべき役割について講演した。さらにインドのサルマ氏がサイの保護に関する発表を行った。
その後、国内外の行政界を跨いだ保全をテーマにパネルディスカッションが行われ、ボルネオの成功事例と挑戦、サイの保護、海洋保全(サンゴ)についての発表があり、生物多様性の保護には一つの国やエリアだけではできることが限られており、国・境界を越えた協力(transboundary collaboration)が不可欠で、調査や活動といった学際的なつながりもさらに重要であるといった意見が出された。
熊谷 嘉隆 国際教養大学副学長(APC1共同議長)
(3)作業部会(WG)(5月26,27日)
ア. WG1/自然を活用した解決策(Nature based Solutions : NbS)
WG1は日本環境省が主催し、大正大学の古田尚也教授が議長を務めた。最初にIUCN-世界保護地域委員会(WCPA)のNigel
Dudley氏からNbSの基本的なコンセプトや要素、そして保護地域の管理にどのように関係するかについて説明があった。
日本からは、国際教養大学の名取洋司准教授がNbSとしてのSATOYAMAイニシアティブについて、東京大学の山本清龍准教授が東日本大震災からの復興におけるNbSについて発表を行った。
山本清龍 東京大学准教授
このほか、気候変動対策、防災、水資源の確保、持続可能な経済と暮らし、人の健康といった視点からのNbSについて計12件の発表があり、議論が行われた。そこでの意見の概要は次のとおり。
-
異なる省庁がインフラ、気候変動、水、生物多様性などを管轄している場合、縦割りを解消し、どのようにNbSを実施していくのかは非常に重要で根本的な問題。これに苦労している国が多い。市民社会も変化を促すポテンシャルを持ちうるのではないか。
- 被災地域でのグレーインフラの整備にあたっては、モデルによるシミュレーションやモニタリングの実施が住民の理解を得るために重要。
- 保護地域の森林は、炭素固定の面で大きな利益をもたらす。
- 政府への働きかけ、政府職員へのNbSに関するキャパビルや信頼醸成が重要。日本のように国民や政府が自然へのリスペクトを持つ場合はよいが、それに欠ける国には、国際的な義務が課されることが必要。
- 自然に依存して生活している人々は、自然の破壊により生活を脅かされている。これに対応していかなければならない。
- 温室効果ガスの排出削減に向けて、国立公園というシステムが果たすべき役割を掘り下げることが必要。
- 生物多様性を中心に据えるか、人の生活を中心に据えるか、両方に一長一短がある。いずれにしてもNbSを推進する努力を続ける必要がある。
- 政策決定者を説得するために自然の価値を経済換算することが必要。
- リスクに置き換えて議論することで政府や企業、人々も動く。特にリスクの予測やデータがより頻繁に政策決定者へ知らされることが重要。
- 人間は短期間の視点しか持たないことが多いが、それを変えていかなければならない。
WG1でのNbSに関する議論
- 人々が変化や行動変容を望まない傾向がみられるなかで、一つのプロジェクトをスケールアップしていくことが重要。
- 気候危機による影響も含め難しい問題があるが、解決策もすでに数多くある。それを比較検討して、その地域や国にふさわしいものを選択し実施していくことが重要。
- NbSのクライテリアをさらに改善していき、実施機関(国、ドナー、NGO他)を助ける必要がある。
- 対処すべき3つのブロックが明らかになった。1つは政治的ブロック、2つ目は社会の受容、3つ目は長期的な能力向上の必要性。
- 新型コロナウイルス感染症の世界的拡大は、人の健康と自然が密接な関係にあることを思い出させてくれた。健康的な食事、自然の中を散策するというシンプルなことが重要。
さらに、NbSに関する関係者の理解を深めるために指針等が必要だとして、議長よりNbS推進ガイドブック(案)が示され、参加者から意見を募ることが発表された。
イ. WG2/保護地域のガバナンス
「法と戦略」、「慣習法」、「協働管理」、「女性、若者、先住民、地域社会」といった4つのテーマごとに計21件の発表があった。
日本から参加した東京都立大学の高橋進客員研究員は、営造物型国立公園制度を有するインドネシアにおいて、近年住民参加による協働管理方式が一部採用されたグヌンハリムンサラック国立公園と、従来型管理のブキットバリサンスラタン国立公園との比較調査を行った結果、森林伐採率において顕著な違い明らかになり、地域住民参加による協働管理方式が森林保全の上からも有効であることを発表した。また東京農業大学の下嶋聖准教授は、長年月の登山利用や雨水により高山植生荒廃が進行している北アルプス雲ノ平地区において、山小屋を中心に関係機関、大学、登山者等ボランティアによる任意協働団体を設立し、土地状況に適合した植生回復工法により植生再生に取組んだ結果、明らかに植生回復が進展したことを発表した。さらに文教大学の海津ゆりえ教授は、日本の国立公園制度の説明とともに、5年前に関係機関、関係団体、住民参加による協働管理協議会が設置された妙高戸隠連山国立公園における活動実績を分析し、そのメリットとデメリットの比較を行い、協働管理を促進するためにさらに必要な取組みについて整理した。
本WGでの討議において出された主な意見は次のとおり。
- アジアにおける30×30達成の上からも、国立公園ガバナンスの効率的システム化、利害関係者との横断的パートナーシップ構築、社会経済的問題への包括的取組等が重要。
- 効果的かつ公平・公正な政策実施のために、科学的知識や技術と先住民の信仰体系や慣習、市民による知識生成の統合が必要。
- 保護地域協働管理への女性参加や保護地域の計画・管理におけるジェンダー主流化がより重要。
- 現場からの教訓と確かな技術的専門知識を関係者間で共有し、あらゆるレベルの意思決定により良い情報を提供する必要。
- 優良な事例をさらに拡散し、多様なステークホルダーの協力と連携を促進するため、地域のプラットフォームを構築することが重要。
- 既存の枠組みの下での保護・保全地域、OECMの認定、開発に関するより広い議論への女性や若者、先住民、地域社会の参加が必要。
- ガバナンスの質の向上のため、制度レベルでは国の政策と法的枠組みの調和により、セクター間の協力を強化し、地域レベルでは利害関係者の参加で、包摂性と衡平・公正な利益配分、参加に関する成果が評価される仕組みが重要。
ウ. WG3/生物の生息域接続と移動に配慮した保護
14件の発表と討議があり、次のような意見があった。
- フィリピンのタートルアイランズ遺産保護区域(THIPA)ではインドネシアに跨る海域において、両国が連携・協力してウミガメの保護のための「THIPAプロジェクト」を実施しているが、国境を跨いで移動する野生生物の保護には国家レベルでの対策が必要。
- 経済成長に伴う鉄道や道路の建設によって、東南アジアの小型類人猿やテナガザル、インドのアジアゾウの生息地などにおいては、生息地が分断され深刻な影響が出ている。特に、テナガザルの保護にあたっては国境を越えた法執行、共同パトロール、情報提供等をはじめとする国際協力が重要。
- 分断された生息地の回復と保全についてIUCNのガイドラインを参考に、政府の強力な施策の推進と財政的基盤の確保が必要。
- 自然保護に向けて政策決定者に行動を促すため、政府の雇用するレンジャーの配置による密猟対策や学校教育における自然に関する授業が重要。
- マレーシアでは、小動物は生態系を脅かされると生物多様性に変動が生ずるとの研究結果から、政府は自然保護政策として「緑の回廊」を推進しており、このような取組がとても重要である。
- 生物多様性に富むアジア地域において今後とも道路、鉄道などの線形インフラが新たに建設されることが予想される。野生生物の生息域を分断しない配慮や「緑の回廊」という視点での整備が必要。
エ. WG4/効果的な保護
13件の発表と5つのテーマでパネルディスカッションが行われた。そこで出された主な意見は次のとおり。
- 保護地域の管理の評価システムにおける課題として、政府や自治体が密猟、違法伐採の保護地域に対する影響を公開しても、地域のグループが実際に現状を把握していない、また把握していたとしても、解決のための経済的なモチベーションが存在しないといった点が挙げられる。
- 保護管理システムにより包括的にさまざまな分野の自然環境の評価はできているが、その評価に対して、明確なビジョン、目的、目標を持って対策が設計されていないこと、加えて、調査に必要な人材・知識が追いついていない。
- 以上のような課題への対応としては、①エビデンスベースの調査方法の実施(アンケートの使用、モニタリングの実施等)、②ステークホルダーの拡大、③SDGs活動との統合と連携、の3点が挙げられる。
- 保護地域管理の効率性と政策に対する理解度が政府レベル、地域レベル、民間レベルで異なることから、統合された一つ政策を、「グローバルポリシー」として普遍的に広めることが重要。保護地域に対する我々の価値観の変化が、効率的な自然保護に大きくプラスの影響を及ぼす。
- 保護地域管理の効率性を測る“ものさし”について、「IUCN グリーンリスト」が一つの指標になる。この国際的な基準を、交渉の場でどのように官民の理解を得るために利用できるかが、保護地域管理の効率化の次の段階。
- 保護地域管理の効率性の“ものさし”は一つではなく、さまざまな指標を統合させることで可視化されていくことが重要。
- 国際的にレンジャー教育のマニュアル化が進んでいない。統一的なレンジャー教育が欠けているため、国・地域ごとにレンジャーの能力に差が生じている。また、レンジャーを輩出している機関がそもそも教育体制や装備を整えられていない現状も重要な問題。
- レンジャー同士の交換留学プログラムの実施による国ごとのレンジャーの能力差の収縮、3年ごとのレンジャー機関の実態調査の実施が具体的な解決策になる。
- 私たちは保護地域の住人を管理による「犠牲者」として考えることが往々にしてあるが、保護地域管理をさらに進めていくには、人的・資源的資本を巻き込んだ「共同管理」(co-management)が保護地域の保全の鍵となる。
- 地域を巻き込んだ管理を行う際に、そのコミュニティの“エリート”は誰であるかを認識することが第一段階。次に、その“エリート”が、そもそも保護地域管理にどの程度興味を持っているのか、そしてその“エリート”が、保護地域管理に関心を持っていないとされる子どもや女性たちに、どのようにアプローチしているか、もしくは、教育機会を阻害してしまっているのか、という地域内でのネットワークを注視する必要がある。
オ. WG5/保護地域の経済的・財政的持続可能性
13件の発表と次の2つのテーマを中心に議論が行われた。日本からは環境省国立公園課の中山直樹氏が、日本における「国立公園満喫プロジェクト」をはじめとする取組を紹介するとともに、各地で行われた自然体験型のツーリズムについて発表を行った。
パネルディスカッションにおける議論で出された主な意見は、次のとおり。
◯ 資金運用上のポイント
- 次の3つのプロセスを重視することが重要。①ステークホルダーとの協議を重ね、どのようなサポートを提供することが地域にとって有益なのかを話し合うこと。②国内外のさまざまな事例を参照し、現実的な方法を探ること。③自然保護や生物多様性に取り組む資金の重要性を多くのステークホルダーが理解するように促すこと。それらのプロセスを時間をかけて進めながら、できるだけ意見の異なる多様なステークホルダーと関わり、共に関係を築いていくことが大切。
- 自然保護の目標だけでなく、地域社会の活性化を含めたより包括的な視点を持つことが重要。地域住民が保護活動に関わる機会を設け、資金運用のプレイヤーとして運営に携わることを通して、自然保護活動が地域の生活の向上にも大きな役割を果たすことを理解してもらうことが重要であり、そのことが保護目標を達成する唯一の手段。
◯ 財政的持続可能性の確保と保護地域運営のポイント
- 生物多様性の保全と、地域社会に対する経済的支援を両立させていくには、自然資源を観光資源として活用し、マスツーリズムではなく小規模の観光事業を実施しながら、環境教育のアプローチを実践していくことが重要。その中で、地域の資源を活かした満足度の高い体験を来訪者に提供し、それらの事業を地域住民の主導によって進めていくことで、小規模でありながら価値のある持続可能な観光モデルを作り出すことができる。
- マレーシアのSabah Parksでは、公園を管理する州政府と民間セクターが30年間のパートナーシップを結び、自然保護とエコツーリズムの両立を進めている。民間事業者はエコツーリズム事業を運営し、地域コミュニティに対して雇用を創出し、収益をもたらしている。そのような連携体制においては、両者の合意と意思決定が重要である。民間事業者は事業の拡大を優先するが、保護区域内ではそれが制限されるべきであり、双方の利益を検討した上での意思決定が不可欠。
- 自然保護区の運営において5年間のマネジメントプランを策定し、国の認証を得ながら継続的な取組を行なっている。その中で、民間セクターとの共同によってさまざまなビジネスを創出し、それらの収益を保護地域の入場料などの収益と組み合わせることで、財政的に健全で持続的な運営に取り組んでいる。
◯ まとめ
- 自然保護区における持続可能な財政運営を考える上で、これを行えばすべてがうまくいくというような確実な方法はない。
- 必要なのは、各セクターとの密接なパートナーシップ、従来型の方法と新しい解決策を組み合わせたアプローチ、法制度や総合計画(マネジメントプラン)といった枠組みの強化、そして市民の意識や態度を高めながら取り組みの範囲を拡大していくことである。
- 生物多様性の減少や気候危機に直面している重要な自然資源を守るためには、経済的かつ財政上の多大なリソースが必要であり、その意味で世界経済と地球環境は密接に結びついている。自然環境が直面する脅威は我々の経済に対する脅威でもあり、ビジネスセクターや政府が主導する経済的な意思決定において、生物多様性や生態系の保護という観点が反映されなければならない。
◯ 3つの提言
1)自然に負荷をかけるビジネスへの予算を減らし、自然に良い影響をもたらす公共または民間の取組に対する財政的な投資を増やす。
2)自然環境への影響といった観点を開発の主軸に据え、政策決定や具体的な取組に反映させる。
3)すべての人々に対する公平性を担保した保護地域の財政計画を策定する。そしてその利益や収益を、地域社会や先住民の人々に還元する。
環境省による発表「Nature tourism and Project to fully Enjoy National Park in Japan」
カ. WG6/都市部の自然保護と若者
8件の発表と3つのテーマに沿った議論があった。主な意見は次のとおり。
◯ 都市住民の自然とふれあう機会
- 現在アジアでは急激な都市化が進行しているが、都市に住む人々は郊外に住む人々と比べて自然に接する機会が少ない。自然とふれあうことはこころの健康を保ち、肉体的に健全であるために非常に重要。
- 都市の住民が自然とふれあう機会を増やすためには、郊外に大きな自然公園をつくることも大切であるが、街路樹を植えたり屋上菜園・壁面緑化を進めることで都市内の自然を増やすといったことも大切。
- 郊外の大きな公園では、多くの生物の生息地を守り、多様性を高めることが重要。その一方で、都市内において緑化を進めることは、住民の健康面以外に、都市の社会的・生態学的な価値や防災力を高める効果がある。
- シンガポールのある公園は、大雨時には水を貯めることで街を浸水から守ることができる。このように公園には災害対策の側面があり、気候変動によって災害が多くなるにつれて都市内の公園の重要性が高まっていく。
- 新型コロナウイルス感染症対策の観点からも、大きな公園を郊外につくるより、小さな公園を都市内に多くつくる方が良いと考えられる。いずれにせよすべての人が自然とふれあう機会を持てるようにすることが最も重要。
◯ 環境教育の推進
- 「人は自分の好きなものしか保護しない。人は知っているものしか好きにならない。人は教えられたものしか知らない。」という点に留意する必要。
- 多種多様な人々に定期的に自然関連の活動に参加してもらうことで自然を体験してもらうことが重要。
- 特に都市に住む子どもたちは郊外の子どもたちよりも自然を体験する機会が少なく、生き物についての情報はテレビやインターネットを通してしか得ていない、というケースが多い。子どもが自然とふれあう機会を増やし、自然を好きな人に育つような教育をしていくことには大きな意義がある。
- 自然を活用して気候変動や食糧問題を解決しようとするNbSという概念が広まっていることもあり、環境教育の需要は高まっている。環境教育を進めると同時に、若い人たちのために自然関連の仕事の機会を創出・強化することも重要。
◯ 科学技術の活用
- 科学技術の進展によって当局や専門家が自然界をよりよく知ることができるが、特に現在ほとんどの人が所持しているスマートフォンの進歩は目覚ましく、特定のアプリを使うと、AIが写真や鳴き声のデータから植物や鳥を識別して教えてくれる。これらのアプリは素人でもゲーム感覚で利用できるので、生物について学習し興味をもってもらうのにとても有用。特に子どもに対して環境教育をしていく上で役立つ。
- これらのアプリは大学の研究者によって作られており、ユーザーのデータは開発者に集められている。多くの人がこれらのアプリを利用すると生態学的な研究が進むという点でも、これらのアプリの利用を促進していくべき。
(4)ユースセッション(5月26,27日)
日本から2つの団体が参加し、それぞれの活動の紹介や意見の表明があった。その内容は次のとおり。
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◯ 一般社団法人Change Our Next Decade
- 生物多様性の保全と普及に向けた政策提言を中心に活動しているユース組織で、生物多様性条約のポスト2020目標の設定に向けて活動していた「生物多様性ユースアンバサダー事業」をきっかけに団体として独立。
- 九州のメンバーが中心となって、国立公園であり、世界自然遺産にも登録された奄美大島の保全に関与。生物多様性の保全を推進するためには、様々なステークホルダーと連携し、地域に存在する伝統的な知識などにも着目して、地域の文化・慣習を後世に着実に受け継いでいくことが重要。
◯ 生物多様性わかものネットワーク
- 生物多様性に関わる課題を解決するために活動するユース団体。全国に20名程度のメンバーを有する。主に国内外の会議や法律制定に関わる政策提言と、子どもやユースを対象として環境への意識を高めるための普及啓発・環境教育活動などを実施。
- 日本においては、生物多様性や自然環境の保全のために国立公園が指定され、人々が自然環境に親しみを持てるようにする目的で利用されている。このような国立公園は、自然に対する畏敬の念を育むために利用されるべき。中には公園内でWifiを整備するべきといった声もあるが、あくまで国立公園は自然環境を楽しむための場所。そのためにも、地域社会において自然環境と文化を次世代に引き継ぐためのムーブメントを起こすべき。
- 特に日本においては自然体験の経験を持つ若者の割合が急激に減少。このような現状に対して、ユースは里山などの地域のコミュニティと積極的に関わり、保全活動に携わったり自然の中で遊んだりする経験をしていくべき。
このほか、韓国、マレーシア、インドネシア、インドなどから発表があり、最後にアジアのユースによる「ネットワーク・プラットフォーム」の設立について、その意義や具体的なSNSなどの利用方法、年齢制限の有無などについての議論が行われた。プラットフォームの活用法としては、各国で活動するユース同士のノウハウの共有、広報面での協力、ファンドレイジングでの協働などが挙げられた。また、組織の活性化のため年齢制限は設けつつも、それ以上の年齢のメンバーに対しては、アドバイザーのように関わっていくことができるレイヤーを設けるといった案も出された。
さらに、各国の文化交流のため歌やダンスの披露も行われた。
ユースセッション
(5)先住民・地域社会セッション(5月26,27日)
(8)ク参照
(6)サイドイベント(5月26,27日)
26、27日の2日間にわたり、昼休みやWG終了後に計27件のサイドイベントが実施された。日本からは国連大学の柳谷牧子氏が、OECMとランドスケープアプローチに関するイベントの中で「SATOYAMAイニシアティブ」に関する発表を行った。
(7)エクスカーション(5月28日)
世界自然遺産に登録されているキナバル国立公園をはじめ、都市近郊の保護地域、先住民族が住む村など多彩な8コースが設定された。
マレーシアのガイドによるキナバル国立公園と植生の解説
(8)閉会式(5月29日)
WG、ユース、先住民・地域コミュニティの各議長から、2日間にわたる議論の概要が発表された。その概要は次のとおり。
ア.WG1/自然を活用した解決策(NbS)
環境省が主催し、大正大学の古田尚也教授が議長を務めた。発表・議論では、SATOYAMAイニシアティブの取組みが紹介されたほか、保護地域や保護地域以外の有効な面的管理手法(OECM)などがNbSの有効な仕掛けとなる、伝統的な知識と近代的な科学の融合が重要、NbSの考え方が十分理解されているとは言えず適切なガイダンスやツールが必要、保護地域の外側も含め取組を拡大していくことが重要、新型コロナウイルス感染症で人の健康と自然のつながりの重要性が認識され、気候変動への対応においてもNbSは有効等の意見が出された。さらに、保護地域等におけるNbS推進のためのガイドブック(案)が議長より提示され、参加者からの意見をふまえ、CBD-COP15等での公表を目指して修正していくこととなった。
イ.WG2/保護地域のガバナンス
先住民や地域住民の権利と伝統的なガバナンスを尊重する必要性、意思決定の透明性確保と説明責任、取組の適切な評価と成功事例の共有、様々な関係者の連携、保護・保全に必要なコストや得られる恩恵の公平な負担と配分などの重要性などが発表・議論された。
ウ.WG3/生物の生息域接続と移動に配慮した保護
大規模農業開発やインフラ整備などにより生物の生息域の分断が深刻な状況であり、国境を越えた国同士の連携、生態学的な回廊や緩衝地域の設置による分断された生息地の回復と保全についてIUCNのガイドラインも参考にしつつ進めることが必要といった発表・議論があった。
エ.WG4/効果的な保護
IUCNのグリーンリストは保護地域の管理の質を評価し、その向上を図る有効な手段であることが共有された。また、個別の保護地域の優良事例を国レベルへ拡大・発展させていくことが重要であること、保護地域を管理するレンジャーのジェンダーバランスや人材育成なども課題といった発表・議論があった。
オ.WG5/保護地域の経済的・財政的持続可能性
日本から国立公園満喫プロジェクトの取組みについて共有した他、保護・保全のための経済的な手法の重要性を認識し、持続可能な資金調達の戦略が必要であること、生物多様性に及ぼす影響を可視化し、有害な補助金を段階的に廃止すべきこと、様々な経済活動の各段階において生物多様性を主流化させる必要があることなどについて発表・議論された。
カ.WG6/都市部の自然保護と若者
アジアにおける急激な都市の拡大が、人と自然の分断を招いていること、都市における緑地の保全と再生が人の健康の確保や防災、気候変動への適応にも寄与していること、科学技術を活用したモニタリング、子供たちの環境教育や保護活動への参加を促すことも重要であることなどが発表・議論された。
キ.ユースセッション
参加した若者間での取組み共有が行われたほか、若者が自然保護に対する熱意を有しており、その可能性を引き出すことが重要であることを踏まえ、保護地域に関する「アジア・ユースネットワーク」を設立し、参加と経験の共有を促進するとともに、能力開発の機会を増やしリーダー育成を図ることとされた。
ク.先住民・地域社会セッション
今回、初めてIPLC (Indigenous Peoples and Local
Communities)フォーラムがAPCで開かれ、247人の先住民族の代表が集った。先住民族や地域社会の関与なしに、先住民族のガバナンスや慣習的な管理システムを認めずに、そしてFPIC (Free, Prior and
Informed Consent)に基づく同意なしに、保護地域を指定することに対してモラトリアムを要請するアピ・アピ宣言(Api-Api
Declaration)を発表した。
その後、APC2を総括した「コタキナバル宣言」の発表があり、拍手をもって採択された。
最後にサバ州観光文化環境大臣が参加者・関係者の貢献により実りある会議となったことに感謝の意を表し、APC2の閉会を宣言した。
閉会式