
沖縄本島から南西に約410km、八重山諸島の中心地である石垣島は、エメラルドグリーンに輝く海が美しい観光地です。沖縄県で初めて自然共生サイトに認定された『石垣島 野底(のそこ)ウミショウブ群落 自然共生サイト』は、絶滅危惧種であり、石垣島で唯一海草のウミショウブが群生する地域として知られています。そして野底エリアでは、ウミショウブの再生活動を、地元住民と企業が協力して行っています。

ウミショウブの花。
ウミショウブは、国内では石垣島と西表島の浅瀬だけで見られる希少な海草の一種で、海洋生物のすみかや二酸化炭素の吸収源となるなど、沖縄の海の環境を守る重要な役割を担っています。2000年代の野底エリアは一面がウミショウブの群生地であり、多様な海洋生物が生息する豊かな自然環境でした。しかし、2010年代後半から西表島でウミショウブの減少が確認され始めます。野底エリアでも2020年から減少の一途をたどり、群生地は消滅の危機に瀕しました。その原因は、保護活動により増加した、絶滅危惧種のアオウミガメによる捕食です。

2020年までは青々としていたウミショウブが年々減っていきました(写真左は2005年撮影、右は2023年撮影)。
そこで動いたのが、2008年から環境教育の一環でウミショウブの観察を行っていたNPO法人エコツアーふくみみと、石垣市立野底小学校の児童たちです。2020年からは、これまでの観察に加え、地元の人々と協力してウミショウブの保全・回復に努めるようになりました。さらにその活動を知った企業が2023年に参加します。
『石垣島 野底ウミショウブ群落 自然共生サイト』に企業の立場で参加していた、東京海上アセットマネジメント株式会社の真中克明さんにお話を伺いました。
「私たちは資産運用を行う金融の会社ですが、金融の力でサステナビリティの推進につながる取り組みはないかと探していました。そこで、アオウミガメの増加によって減少した、野底エリアのウミショウブの保全活動をしているという話を聞き、会社として現地のブルーカーボンや生物多様性などを生かした支援ができないかと考えました。私たちはウミショウブ保全プロジェクトの組成を支援することから始め、今は活動を支援する役割を担っています。例えば、2024年にクラウドファンディングで予算を確保し、アオウミガメの侵入を防ぐ防護柵の設置などもサポートしました。2024年4月にバンコクで開催された『第2回国連海洋10年の地域会議&第11回WESTPAC国際海洋科学会議』に、野底小学校の児童が招待され、この取り組みについて報告したときや、自然共生サイトに登録されたときなどは、大変うれしく感じました」

防護柵を設置したウミショウブの保護エリア。

ウミショウブを観察する野底小学校の児童たち。
同じく企業として参加している、沖縄セルラー電話株式会社の上江洲安寿さんにもお話しいただきました。
「私たちは地元の企業として、日頃から沖縄の環境を守る取り組みを行い、地域の経済発展に貢献したいと考えていました。そこで、当社の通信技術を使ったモニタリングなどの支援のほか、野底小学校の教室内に設置した水槽でウミショウブの株を再生させ、防護柵へ移植する活動を進めています」

教室内の水槽にてウミショウブの養殖もスタート。

ウミショウブの数を調べています。
東京海上アセットマネジメント株式会社と沖縄セルラー電話株式会社のほかに、富士通株式会社が水中ドローンでのモニタリングによる技術支援を行っている『石垣島 野底ウミショウブ群落 自然共生サイト』。今後の活動について、真中さんと上江洲さんはこう話します。
「野底エリアはウミショウブだけでなく、10種近い海草類が見られる藻場で、水質浄化機能やブルーカーボン貯留機能(※)を有しています。企業活動において生物多様性というのは二の次に思われていた時期がありますが、あらためて地域の特性を考慮した自然資本に注目していく必要があると感じています」(真中さん)
「再生エリアを広げていくために、私たちの取り組みに賛同していただける沖縄県内の企業へお声がけして、新たに2社の協力が決まりました。今後は、野底小学校の児童たちも一緒に自然に優しい防護柵のアイデアを出し合って設置を検討していきます。また、アオウミガメの食料となるエサを新たに考えて、ウミショウブを守る活動を展開したいと思います。地元の方々と一緒に活動を盛り上げていき、ウミショウブの花が海一面に広がる姿に戻したいです」(上江洲さん)
※ブルーカーボンは海洋生物によって吸収・貯留された炭素のこと。光合成により二酸化炭素を吸収・貯留するため、大気中の二酸化炭素を一定期間除去する働きがあります。

アオウミガメの生態系について野底小学校の児童たちと授業で学びます。
下記の「関連リンク」に「石垣島 野底ウミショウブ群落 自然共生サイト」に関連するホームページがありますので、興味がある方はご覧ください。
【データ】
名前 | :石垣島 野底ウミショウブ群落 自然共生サイト |
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住所 | :沖縄県石垣市野底 |
TEL | :098-951-0639(沖縄セルラー電話株式会社) |