環境省
VOLUME.72
2019年8・9月号

KEY PERSON INTERVIEW - 「プラごみゼロ宣言」を発表した神奈川県が目指しているもの

KEY PERSON - 穂積克宏さん 神奈川県 環境農政局 環境部 資源循環推進課長

 2018年8月、鎌倉市の由比ガ浜にシロナガスクジラの赤ちゃんが打ち上げられ、胃の中からプラスチック片が見つかりました。本県ではこれを「クジラからのメッセージ」として受け止め、「プラごみゼロ」を宣言。2030年までのできるだけ早い時期に、リサイクルされないプラごみをゼロにすることを目標に、現在、市町村や企業、市民団体等と連携しながらプラごみの削減や回収に取り組んでいます。

 東京都に次いで人口の多い神奈川県は、家庭からでるプラごみの量も当然多く、年間約14万tが分別収集されています。一方でポイ捨てや不法投棄などによって河川から海へと流れ込むプラごみも多く、海洋プラスチックごみ、特にマイクロプラスチックごみ問題にどう取り組むべきかが、今後の大きな課題ともなっています。

 プラごみ問題を解決するため、県ではこれまで、コンビニやスーパー、飲食店と一緒にプラスチック製ストローやレジ袋の利用削減に取り組んだり、環境イベントなどでごみのポイ捨て禁止を呼びかける、といった啓発活動を行ってきました。しかし、プラごみゼロの輪を広げていくには、もっと多くの県民や企業を巻き込んでいく“仕掛けづくり”が必要です。そうした思いから2018年12月末にスタートしたのが、「共に行動してくれる企業や市民団体を募り、それぞれの取り組みをサイト上に公開する」という試みです。

 実は、「プラごみゼロ」を宣言する以前から河川や海岸の美化活動が盛んで、「かながわ海岸美化財団」、「桂川・相模川流域協議会」などの市民団体が精力的に活動を続けていました。県民の環境に対する意識も総じて高く、海岸美化財団の活動にはボランティアを含めると年間約16万人が参加しています。県内企業も意識が高く、プラスチック製から紙製ストローへの転換やレジ袋の利用削減などにいち早く取り組む企業が多くみられました。

 今まで表には見えてこなかったこうした個別の取り組みを「見える化」することで、行政・企業・市民団体の連携が進み、活動の輪がさらに広がっていくと考え、共に行動してくれる企業や市民団体の取り組みを紹介するサイトを開設しました。

 取り組みの内容を誰もが見えるような形で情報提供することは、県民の視野を広げ、活動へのモチベーションを高めることにもつながります。地域のクリーンイベントに参加する人の多くは、自分の住んでいる街をきれいにしたいという気持ちで参加しているようですが、他の取り組みを知ることによって、地域のごみ拾いが海のプラスチックごみを減らし、ひいては持続可能な社会を実現することにもつながることがわかってきます。そうやって共通の目標をみんなが意識することが、プラごみゼロを実現する大きな原動力になると思っています。

 今後の展開としては、取り組みを行っている企業と企業を結びつける役割を県が担っていければと考えています。いくつかの取り組みが連携することで、活動はより大きな流れとなります。企業の側から他の企業に声を掛けるのは難しくても、行政が仲立ちをすることでそれは可能になるはずです。「団体や企業を連携させていく仕組みをつくることで、こんなにプラごみは減らせる」という実証モデルを今後、神奈川県が示していけたらうれしいですね。

相模湾に漂着するマイクロプラスチックの状況

神奈川県では2017年5月から2018年5月までに計15回、漂着マイクロプラスチック調査を実施。相模湾沿岸では外洋から運ばれてくるものより、河川によって内陸から流れてくるプラごみ由来のマイクロプラスチックが多いことが明らかになった。

相模湾に漂着するマイクロプラスチックの状況

取り組みの輪を広げる啓発活動

取り組みの輪を広げる啓発活動

16の行動メニューから自分でできそうな活動を選ぶ「マイエコ10宣言」の配布や、ダンスや歌を使った動画の配信などにより、取り組みの大切さを周知している。

「かながわプラごみゼロ宣言」賛同企業などの活動紹介

「かながわプラごみゼロ宣言」賛同企業などの活動紹介

2019年5月末の時点で116の企業や団体が宣言に賛同。神奈川県のサイトにはそれぞれの取り組みを掲載。

http://www.pref.kanagawa.jp/docs/p3k/sdgs/sandoukigyou.html

相模湾に漂着するマイクロプラスチックの状況

神奈川県では2017年5月から2018年5月までに計15回、漂着マイクロプラスチック調査を実施。相模湾沿岸では外洋から運ばれてくるものより、河川によって内陸から流れてくるプラごみ由来のマイクロプラスチックが多いことが明らかになった。

相模湾に漂着するマイクロプラスチックの状況

KEYNOTE - FIRE 行政・企業・市民団体などが連携することでプラごみゼロへ

KEYNOTE - FIRE 行政・企業・市民団体などが連携することでプラごみゼロへ

ページトップへ戻る