食品廃棄物を
「電気」と「肥料」
にする工場が
企業と消費者の
リサイクルの環を
つなげる
株式会社Jバイオフードリサイクルは、
企業が出す食品廃棄物を
電力と肥料にリサイクルする事業を展開し、
循環型社会の実現に貢献している会社です。
同社の環境経営レポートは
エコアクション21オブザイヤー2024※1
で金賞を受賞しています。
社長の橋本恭彦さんに
同社のリサイクル事業の広がりと、
環境にやさしい経済活動における
リサイクル会社の役割について
お聞きしました。
環境経営システムに関する認証・登録制度
「エコアクション21」の
認証・登録事業者を対象にした、
環境経営レポート及び
社会課題解決につながる取組の顕彰で、
年に一度決定される。
インフラ企業の技術と商業施設の廃棄物
それぞれの資源が補い合って生まれた会社
2018年に操業を開始したJバイオフードリサイクルは、鉄鋼大手のJFEグループ内で都市インフラや環境・エネルギー事業を展開するJFEエンジニアリングと、駅ビルやエキナカなど様々な事業を展開する鉄道大手のJR東日本グループを母体にしています。
「JFEグループは以前から太陽光、風力、地熱そしてバイオマスといった再生可能エネルギーの事業を展開しています。その一環としていくつかの地方自治体PFI事業※2を受託して、一般家庭の生ごみを原料とした、メタン発酵技術によるバイオガス発電事業を2013年から行っています。この技術をもっと展開したいという思いがJFEグループ側にありました。
一方のJR東日本グループは、運営する駅ビルやエキナカなどから毎日食品廃棄物が出ており、新規事業のひとつの分野としてリサイクル率の向上にも繋がる食品リサイクル・バイオガス発電事業に取り組もうとしていましたが、この分野の技術やノウハウ、リサイクル工場に適した用地がありませんでした。
技術・ノウハウ・工場用地を持っていて、食品廃棄物をリサイクルしたい事業者を求めていたJFEグループと、食品廃棄物をリサイクルしたいニーズがあり、技術・ノウハウ・工場用地を求めていたJR東日本グループ、それぞれがうまく補い合えることから、共同でJバイオフードリサイクルを設立しました」
Jバイオフードリサイクル横浜工場の施設全景。JFEエンジニアリングの施設が集まる京浜工業地帯の一角に位置している。(写真提供:Jバイオフードリサイクル)
「発酵」という実績ある技術を活用して
リサイクルしにくかった廃棄物を再利用
日本における食品廃棄物のリサイクルは、取り組みが始まってからまだ20数年で、依然としてリサイクル方法の模索・開発が続いている分野です。
「1990年代まではほとんどの食品廃棄物が焼却処分されていましたが、2001年に食品リサイクル法※3の施行により食品関連事業者にリサイクルの数値目標が設定され、食品の製造・加工業など食品流通の『川上』の業種から出る産業廃棄物は、主に家畜の飼料や肥料としてリサイクルが進みました。
しかし食品流通の『川下』の業種である外食産業から出る生ごみ、コンビニなどの食品小売業から出るお弁当のような一般廃棄物は、プラスチックのパッケージや割り箸などの食品以外のごみが混ざっており飼料や肥料になりにくいため、その後も焼却処分されることが多く、現在でも食品リサイクル法の数値目標に届いていません」
※3 正式名称は「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律」。
そのような状況で、食品廃棄物のリサイクル方法として近年注目を集めているのが、Jバイオフードリサイクルも行っているメタン発酵によるエネルギー利用です。
「メタン発酵によるエネルギーの回収自体は、下水汚泥を処理するために日本の下水処理場でも昔から使われてきた技術です。飼料や肥料になりにくい『川下』から出る食品廃棄物をリサイクルする技術としても有用ですが、プラスチックのパッケージや割り箸などの食品以外のごみはメタン発酵の前に分別する必要があり、これを人の手で分けるのには限界があることがリサイクルの上で課題になっていました。
そこで、当社の工場では発酵の前処理として、廃棄物を破砕した上で、遠心力を利用した不適物除去装置を用いています。食品ごみとその他のごみを分けることができ、当社の技術的な特徴になっています。
分別された食品ごみは発酵槽に送られ、メタンが60%程度含まれるバイオガスを生成し、そのバイオガスを使用してガスエンジン発電機で電力をつくります。割り箸やプラスチックなど食品以外のごみは、グループ会社のJ&T環境株式会社の施設でサーマルリカバリー※4しています」
発酵槽内部の温度は発酵に最適な37℃に保たれている。(写真提供:Jバイオフードリサイクル)
発生したバイオガスはガスホルダー(写真左奥)に貯蔵され、ガスエンジン発電設備(同右)で電気に変換される。
「メタン発酵は微生物の働きを利用した技術です。JR東日本のグループ施設をはじめ、レストランやコンビニから出る一般廃棄物の食品ごみは基本的に人間が食べるはずだったものですが、メタン発酵に用いる微生物にとっても良い栄養バランスになります。それに対して工場から出る産業廃棄物は『肉だけ』『チーズだけ』のように特定品目を一度に何十トンも受け入れるので、栄養が偏り発酵させにくい場合があります。
そこで、栄養バランスが良い一般廃棄物を微生物の『ご飯』に見立て、栄養に偏りがある産業廃棄物を『おかず』として組み合わせることで、安定して発酵させられることも当社の強みです。現在、AI学習を活用して、うまく発酵できる食品廃棄物の組み合わせを提案してくれるシステムの開発も進めています」
元々食品だった廃棄物だから
電気だけでなく肥料にもなる
バイオガスを生成した後に残ったメタン発酵の残りかすである残渣(ざんさ)は、通常は焼却されることが多いそうですが、Jバイオフードリサイクルではこれを肥料として農家に提供することでもリサイクルしています。
「元々が食品なので、発酵残渣も肥料の3要素であるチッ素、リン酸、カリウムを含んでいます。そこで脱水機にかけた残渣を肥料として販売できるよう肥料登録しており、現在、当社から出る残渣の約3分の1を農家に出荷しています。
農業と関係ない会社が作った肥料ですが、試験的に使ってもらうなど地道に信頼を積み重ねて、大規模な農家を中心に利用が増えてきました。ある農家では、飼料用のトウモロコシの栽培の際に通常の肥料に加えて当社の肥料を入れたところ収量が3割アップし、『土壌の肥料成分を保つ力が上がった』と評価してもらえました。
本来はさらに乾燥させたほうが使いやすくなりますが、その分二酸化炭素(CO2)を排出することにもなります。ですから環境負荷をかけない形で、たとえばもみ殻と混ぜて水分の割合を落とすなど、もう一工夫ができないか模索しています」
食品廃棄物からできた液体肥料「はまのしずく」と固形肥料「はまのみのり」。同社の肥料を加えたトウモロコシ(右)はより大きく育った。
リサイクルしたくなる「環」をつくり
企業の「選択肢のひとつ」になりたい
Jバイオフードリサイクルの特徴的な取り組みに、食品廃棄物を出した顧客に対して食品廃棄物からできた電力を割引料金で返す『創電割Ⓡ』による「電力リサイクルループ」(以下電力ループ)と、食品廃棄物からできた肥料で育てた農作物を返す「農業リサイクルループ」(以下農業ループ)があり、この2つを合わせて「ダブルリサイクルループ」と呼んでいます。
「電力ループを形づくる『創電割Ⓡ』は、JFEグループのなかに、当社をはじめとした発電事業者と、発電した電力をとりまとめて利用者に販売する小売電気事業者(アーバンエナジー株式会社)の両方があることで実現したサービスです。廃プラスチックの焼却発電による電力を割り引いて顧客に返したところから始まり、当社でも食品廃棄物を出してくれた顧客に電力料金を割り引いて返しています。ごみの出し先と電気の供給元を変えるだけでできる環境への取り組みとして、企業からは投資家や消費者に向けたPRの面でも評価していただいています」
「電力ループ」に加えて「農業ループ」で農作物の形でも返ってくることは、食品廃棄物を出す企業にとって、リサイクルの取り組みをPRしやすくなるメリットがあるそうです。
「肥料の事業を進めるなかで生まれた『電力ループの農業版ができたら面白い』という発想が形になったのが、『農業ループ』の取り組みです。
これに魅力を感じてくれたJR東日本のグループ会社の協力のもと、2024年の秋から冬にかけて東京駅のエキナカで、イベントスペースでの野菜の販売やレストランでのコラボメニューの提供を行いました。農家の方が自ら店頭に立ち、農業ループで作った野菜であることを説明しながら販売しました。農家をはじめスタッフとして参加した社員も『お客様が農業ループに関心を持ってくださる姿を直接見られて、良い機会だった』と喜んでいました」
「ダブルリサイクルループ」は、食品廃棄物を出した事業者に電気と農作物を返す仕組み。(画像提供:Jバイオフードリサイクル)
2024年秋、Jバイオフードリサイクルが生産した肥料で栽培された野菜を東京駅のマルシェで販売している様子。(写真提供:JR東日本グループ)
最後に、Jバイオフードリサイクルはエコジン(エコロジー+人)としてどんな役割を担いたいと考えているのか、橋本さんに聞いてみました。
「『食品廃棄物を出したら電力と肥料になって還ってくる』というループのなかに、企業やその先にいる消費者の方が入りやすい状態をつくることが当社の役割です。
現在さまざまな企業が環境への取り組みを進めています。そのなかで自分たちだけでは実現できないことが出てきた時に、『選択肢のひとつ』として当社を活用してもらうことで、環境に貢献していく企業、そして人の環が広がっていってほしいですね」
原稿/甲斐荘秀生