
[ 特集 ]
買い物の基準が変わる?
カーボンフットプリント
に注目しよう
私たちが日々使っている商品やサービスは、原材料の調達や製造、販売、
使用、廃棄などの各過程で温室効果ガスを排出しています。
それらを全て「見える化」する仕組みが
「カーボンフットプリント」。
気候変動の大きな要因のひとつとなっている温室効果ガスの排出を
削減することが差し迫った課題となっている今、注目を集めている
カーボンフットプリントについて、最新の取り組み事例や
私たち一人ひとりが今日からできることを紹介します。
CONTENTS

カーボンフットプリントとは?
カーボンフットプリント(Carbon Footprint of Products:CFP)とは、製品やサービスのライフサイクル(=原材料調達から製造、販売、使用、廃棄、リサイクルに至るまでの製品の一生)全体を通して排出される温室効果ガス(Greenhouse Gas:GHG)の量を、二酸化炭素(CO2)排出量として換算した値のことです。
たとえば紙パック牛乳が私たちの手元に届くまでには、乳牛の飼育から紙パックの生産、牛乳の製造とパッケージング、配送、販売、紙パックの収集やリサイクルまで、さまざまなプロセスがあります。そのプロセスの全てにおいて、CO2やメタン(CH4)、一酸化二窒素(N2O)、フロンガスなどの温室効果ガスが排出されています。

CFPの算定を行うことで、ライフサイクルの中で特に温室効果ガスの排出量が多いプロセスを特定し、より効果的な削減対策などを行うことが可能となります。同時に、温室効果ガス排出量を「見える化」して商品やサービスに表示することは、企業の環境配慮に対する姿勢や努力を消費者に伝える手段になり、消費者が温室効果ガス削減に貢献する製品・サービスを選択できる社会へとつながるのです。
日本政府は2050年までの「ネット・ゼロ」(=温室効果ガスが排出される量と吸収・固定される量の差引がゼロになること)の実現を目指しており、その基盤としてCFPを「見える化」する仕組みは不可欠です。今、さまざまな業種の企業が製品やサービスへのCFP表示を始めています。

カーボンフットプリントの表示方法
CFPは製品自体、製品のパッケージやタグ、もしくは企業のウェブサイトなどに表示されます。靴の生産・輸入・販売を行っているチヨダ物産の製品を例にとって見てみましょう。

出典:環境省「脱炭素ポータル」、「CFP入門ガイド」
靴のタグに表示されている「7.99 kg -CO2e*1」は、靴1足*2あたりのライフサイクル全体を通した温室効果ガス排出量の合計を表しています。「kg -CO2e」とは、「二酸化炭素換算値(CO2 equivalent)」のこと。温室効果ガスの排出量をCO2に換算して表す際に使う単位です。
*1 環境省「CFP表示ガイド」には「kg-CO2eとして表示する」と記載されていますが、本タグは表示ガイド発行前に作られたため、「kg-CO2eq」となっています。
*2 算定サイズ25.0cm
さらにタグの裏面にはQRコードが付いていて、算定報告書などのCFPに関する詳細情報にアクセスすることができます。算定報告書では、原材料調達の段階、原材料が工場に届き靴が完成するまでの段階、工場から靴を輸送し消費者に買ってもらうまでの段階、消費者が靴を使用・維持する段階、そして靴が廃棄・リサイクルされる段階というように、ライフサイクルの段階ごとの排出量も記載されています。
チヨダ物産は、環境省が行っている「製品・サービスのカーボンフットプリントに係るモデル事業」の参加企業です。このモデル事業では、排出削減の取り組みとビジネス成⾧を両立させる先進的なロールモデル創出や、業界ごとのCFP の算定・表示ルールの共通化に向けた支援などを行いました。

日本での取り組み事例
モデル事業の参加企業をはじめ、近年、各業界を代表する企業が続々とカーボンフットプリント表示や温室効果ガス削減に取り組んでいます。その一部を紹介します。
佐川急便
佐川急便株式会社は、令和6年度のモデル事業に参加し、3辺合計160cm以内・重量30kg以内の荷物の輸配送サービス「飛脚宅配便」1個あたりのCO2排出量を算定しました。


梱包資材や伝票の生産から荷物の集荷や輸送、配達、梱包材の廃棄といった「飛脚宅配便」の各プロセスにおけるCO2排出量のほか、再配達にかかるCO2排出量も算定した結果、荷物1個あたりの排出量は1.25 kg-CO2eであり、1回の再配達につきさらに14%増加することが分かりました。
温室効果ガスの排出量削減のためには、私たち一人ひとりが意識や行動を変え、再配達を減らすことが必要です。佐川急便では「スマートクラブ」や佐川急便LINE公式アカウントでの配達予定通知など、再配達削減に向けたさまざまな取り組みを行っています。

I-ne、山田製薬
美容関連商品の製造・販売を行う株式会社I-neは、製造委託先である山田製薬株式会社とともに令和6年度のモデル事業に参加しました。CFP表示の対象となった商品は、「ボタニスト(BOTANIST) ボタニカルシャンプー モイスト」のボトルと詰め替えパウチです。

「ボタニスト ボタニカルシャンプー モイスト」。

算定の結果明らかになったのは、ボトル、詰め替えパウチともに、シャンプーのCO2排出量の9割以上が、消費者の温水シャワー利用などによる「使用」段階におけるものだということです。また、ボトルと詰め替えパウチの「容器製造」段階のCO2排出量を比較した場合は、詰め替えパウチの方が排出量は18% 減、「廃棄・リサイクル」段階では79%減になることも分かりました。
シャワー時間の短縮や適切な温度設定など、消費者側も意識や行動を変えていく必要があります。

アシックス
シューズなどのスポーツ用品を製造・販売するメーカー、アシックスは、CFP表示の取り組みを積極的に進める企業の一つであり、製品へのCFP印字やシューズボックスへのCFPステッカー貼付を行うほか、ウェブサイトやSNSなどでもCFPを公開しています。
また、2023年にはCFPを当時の市販スニーカーのなかで最も低く抑えたスニーカー「GEL-LYTE III CM 1.95」を発売。2024年には材料を容易に分別しリサイクルできるようにしたランニングシューズ「NIMBUS MIRAI」を発売するなど、「2050年までにCO2排出量の実質ゼロ」という企業目標を実現するための取り組みを続けています。


右:アシックスでは一部のシューズボックスにもCFP表示のステッカーを貼り付けています。
*3 Methodology of calculation for Carbon Footprint of Product
ゴールドウイン
アウトドアウエアブランド、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」を展開するゴールドウインは、令和6年度のモデル事業参加企業の一つ。代表的な製品である「バルトロライトジャケット」のCFPを算定しました。このCFP値は、2025年秋冬モデルより製品タグなどで表示することが検討されています。

算定の結果、特に原材料調達段階での排出量が多いことが明らかになりました。今後はサプライヤーとの連携を強化し、原材料調達段階における排出削減につながる施策を推進していくほか、リペアサービスや衣類のリサイクルを促進することにより、廃棄段階における排出の削減も行うことを表明しています。

また、同社のブランドの一つである「オールバーズ(Allbirds)」も、CFPをすべてのアイテムに表示しています。今後ほかのさまざまな製品にも算定範囲を拡大し、温室効果ガス削減対策を推進していく予定です。
大阪府
地域においても温室効果ガス排出量削減への取り組みが進んでいます。大阪府では、大阪産の農産物等を対象に、スーパーマーケット等と連携して「大阪版カーボンフットプリント」の表示に取り組んでいます。これは、生産から流通段階において排出される温室効果ガスを、一般的な農産物等と比較して「CO2e ○○%削減」*4と表示する独自の取り組みです。対象の農産物を販売する際に専用のラベルを使って表示することで、農薬・肥料・燃料などの削減努力や、地産地消による輸送段階のCO2削減効果を可視化しています。
*4 大阪府内で販売・使用すると仮定して算定

コープさっぽろ
北海道の生活協同組合「コープさっぽろ」では、「原料調達から販売まで」という独自のCFPを表示しています。これは「利用(調理)」が日本の場合、生・焼く・煮る・蒸すなどの多様であること、「廃棄」の処理方法が自治体によって違いがあるという理由からです。取り組みを始めた2010年当初は店頭のPOPで掲示していましたが、2014年からはプライベートブランド「なるほど商品」のパッケージにもCFPの印字を開始。現在は約200点のパッケージにCFPが印字されています。



最後に
CFPの算定には、原材料調達から廃棄・リサイクルまでの全プロセスを分解し、プロセスごとに排出量を計算する必要があるなど、大変な労力がかかります。しかも、それが必ずしも売上などに直結するわけではないのが現状です。それでもCFPを算定するということは、その企業が温室効果ガス削減にそれだけ本気で取り組んでいるということ。CFP表示は、その決意の表れであり、消費者に対して「一緒に気候変動対策に取り組もう」というメッセージでもあるのです。
今日から買い物に行った店などで、CFP表示のある商品を探してみてください。そうした商品を積極的に選んで買うことは、温室効果ガス削減に取り組むことへの第一歩となります。一人でも多くの消費者がCFP表示商品を買えば、やがてCFPが「ものを選ぶ基準」として社会に浸透し、脱炭素を目指したもの作りやサービス提供に取り組む企業もさらに増えていくでしょう。日々の小さな行動の積み重ねによって、私たち一人ひとりが気候変動対策の担い手になれるのです。
原稿/嶌 陽子
イラスト/鴨井 猛