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[B‐14 動物プランクトン群集組成の長期変動データに基づく海洋生態系の気候変動応答過程の解明に関する研究]

(3)海洋物理構造変化が低次生物生産に影響を及ぼす機構の解明

独立行政法人水産総合研究センター・東北区水産研究所

齊藤宏明

 

[平成15〜17年度合計予算額]

 平成l5〜17年度合計予算額 7,390千円
 (うち、平成17年度予算額 2,006千円)

[要旨]

  50年にわたる動物プランクトン試料群である小達コレクションの解析によって得られる 種組成データベースを用い、気候の長期変動に伴う生態系構造、種毎の生物量の変化を調べると 共に、生物ポンプと呼ばれる生物活動に伴うに炭素の深層への輸送量の変化について研究を行っ た。親潮域では、優占する橈脚類のうち、Eucalanus bungii コペポディド1期から4期(C1-C4)、 Calanus pacificus C2-C4、Metridia pacifica C2-C4、Metridia okhotensis C2-C4の7-8月の個 体数豊度に、ほぼ20年周期の長期変動傾向がみられ、混合域でも同様の長期変動傾向が、暖水性 種であるC.pacificusMesocalanus tenuicornisおよびCtenocalanus vanusにみられた。7-8月 のこれら橈脚類種個体数は、6-7月の基礎生産を反映していると考えられる。1990年付近の極小は、 18.6年周期の1日周期潮汐による鉛直混合の変動に伴い、亜表層の燐酸塩の供給が極小となったこ とおよび夏季の昇温が顕著となって表層への栄養塩供給が低下したことによる海域の生産性の低 下によるものと考えられた。動物プランクトン群集組成や生物量変動が海洋炭素循環に与える影 響は、動物プランクトンの季節的鉛直移動による炭素輸送量および種による輸送深度の特徴から 解析した。その結果、Neocalanus属の3種およびNeocalanus bungiiの季節的鉛直移動によって中深 層に輸送される炭素量は、5.1 gCm-2y-1であると計算された。1960-80年代に得られた北緯40― 60度の海域における動物プランクトン分布量を用いて、この海域における炭素輸送量を求めたと ころ、年間0.12Gtであった。また、1990年代後半の動物プランクトン増加が、温暖化等による増 加トレンドであった場合、季節的鉛直移動による炭素輸送量が1990年以前に比べて100年間で 13-68Gt増加することになり、長期的な炭素循環、海洋の炭素貯蔵量を考慮する際の影響はより 大きくなる。本研究によって、動物プランクトンが海洋炭素循環を考える上で重要であることが はじめて確認された。

[キーワード]

 動物プランクトン、気候変動、カイアシ類、生物ポンプ、炭素循環