II.
地球温暖化対策を総合的に推進し、京都議定書に定める排出量の削減目標を達成するために
4. 地球温暖化防止のための総合的な制度
(1)総合的な制度が果たす基本的な機能
地球温暖化防止を目的とする総合的な制度においては、効果的に6種のガスの排出量の削減ができるよう、その対策全体を規定し、日本に課せられている目標を確実に達成可能なものとする必要がある。
その総合的な制度の基本的な機能は、次のように考えることができる。
日本の数値目標である「2008年から2012年までの第1約束期間に1990年レベルから6%削減」するとの目標を達成するため、各主体が様々な手法により温室効果ガスの排出量を削減し、又は吸収量を増大することについて定めた総合的な計画を策定すること。
総合的な計画においては、「2008年から2012年までの第1約束期間に1990年レベルから6%削減」について、国内取組による削減目標量及び国際的取組による削減目標量を定めること。これらの削減目標量の定めは柔軟性をもって必要に応じ修正することができることとすること。
国内における削減目標量を達成するための自主的取組、規制的措置、経済的措置、ライフスタイルの転換のための環境整備等の各政策措置の強度や組み合わせ方、期待する削減量等を決定すること。また、その政策措置の実施により、実際にどの程度の温室効果ガスの排出量が削減され、又はどの程度の吸収量の増加が達成されたかの効果の判定を行い、計画の進行・達成状況を評価すること。
我が国の削減目標量を達成するために、附属書T締約国間での排出量取引、いわゆる共同実施、途上国との間でのクリーン開発メカニズムを必要に応じ活用することとなるが、その具体的なプロジェクト、日本が得られる排出量及びそのタイミング、これらに要する費用及びそれを賄うための財源などについて、具体的な事例に即し、また、状況の進行に応じて、計画の進行・達成状況を評価すること。
国内措置及び国際的な取組において、その目標の達成が予定どおり進捗していない場合は、必要に応じ政策措置を強化するなど、計画の進行・達成状況に対応して機動的に対処すること。
(2)総合的な制度の要素
このような基本的な機能を果たす総合的な制度の枠組みに関して、これまで本審議会が検討してきた要素を示せば、次のようなものである。
法目的
温室効果ガスの種類の規定
地球温暖化防止計画等
温室効果ガスの排出量の削減措置
国、地方公共団体の措置
国、地方公共団体の自主的取組
事業者の自主的取組
国民の自主的取組の環境整備
温室効果ガスの排出量の削減のための装置等の段階的な普及措置
電力の生産、供給における温室効果ガス排出量の削減
環境規制の段階的な導入
経済的措置
事業等の実施
政策策定・実施に際しての配慮
既存の法律の改正
地域における取組
手続きの透明性
吸収量の増大
温室効果ガス排出量の監視等
温室効果ガスの観測、環境監視等
教育・学習、広報
長期戦略研究
調査研究
技術開発
国際協調・国際協力及びこれに伴う国内措置
排出量取引
いわゆる共同実施
開発途上地域への支援、クリーン開発メカニズム等
(3)総合的な制度の検討に当たっての留意事項
本審議会では、具体的な対策の内容も念頭に置きながら、上記のような総合的な制度の枠組みについて検討を深めていくこととする。その際、吸収源の取扱い、排出量取引に係る国際ルールに関する協議・合意の動向に即応し、遅滞なく、検討を行うこととする。また、検討に当たっては、本審議会の「今後の地球温暖化防止対策のあり方について(中間とりまとめ)」においても指摘しているように、{1}削減手続き等の決定手続の透明性・公開性、負担の公平性、{2}長期的・継続的な排出削減、{3}温室効果ガス排出削減に関するあらゆる手法の検討という三つの基本的考え方に留意するほか、以下の各点について留意するものとする。
物質別、部門別の排出削減量などを明示することなどにより、対策の分かりやすさ、実行しやすさを高める配慮を行うこと。
新たな制度の下で行われる対策が、産業の国際競争力を不当に損ねることのないよう、対策の費用対効果を高める配慮が必要であること。
環境への負荷が大きい活動ほど課徴金等の重い負担を課す等の考えも検討すること。
ライフスタイルの見直しに当たっては、より大きな利便性を求めていくとの消費者の性向を抑制することが必要であり、過剰な負担にならないように配慮しつつも、そのための実効性ある方策の導入も考慮すること。
将来のエネルギー供給及び必要な社会資本の在り方についても視野に入れて 検討すること。
地球温暖化防止に効果的な技術開発が進むようなシステム作りを目指すこと。
新しい環境保全技術の急速な普及に効果がある仕組みを設けること。
社会制度や価値観・慣習などを全体として変革していくことも視野に入れて検討すること。
地域に根ざし、地域住民や地域の事業者も巻き込んだ効果の高い取組が促進されるような仕組みを設けること。
なお、本審議会は、「2008年から2012年までの第1約束期間に1990年レベルから6%削減」という我が国の目標の達成に関する当面の方針に関し、次のとおり政府の説明を受けた。
二酸化炭素、メタン、亜酸化窒素では、2.5%の削減を達成する。
HFC、PFC、SF6では、+2%程度の影響に止めるよう極力排出抑制に努める。
吸収源については、京都議定書の規定に従えば0.3%の削減が見込まれる。2010年頃における我が国全体の森林等による純吸収量が総排出量比で3.7%と推計されるところ、今後の国際交渉において追加的な吸収分の確保、適切な方法論等の確立に努める。
その他、排出量取引、いわゆる共同実施、クリーン開発メカニズムなどの活用を図る。
これらの対策を推進することにより、日本の目標を達成する。
これに関し、吸収源については今後十分な科学的知見を集積することが必要であること及び条約における「人為的な吸収」の定義を明確化することにより国土全体の森林等による純吸収量を対象とし得るかどうか検討する必要があることを指摘したい。さらに、過大な吸収量を見込む場合には温室効果ガスの削減努力を損なうおそれがあること、我が国を含む先進国は2013年以降も更なる削減努力が求められること等を考慮すれば、本審議会としては、国内における温室効果ガスの排出を削減するための制度の整備に力を注ぐとともに、吸収源の扱いや国際的取組に関するルールづくりに関しても、各国の地球温暖化防止対策を推進させ、抜け穴を生ずることなく地球全体としての温室効果ガスの純排出量が確実に減少するような方向で政府が努力することを期待する。
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