環境省保健・化学物質対策水俣病対策水俣病公式確認50年

祈りの言葉

 公害の原点ともいうべき水俣病の公式確認から50年を迎えるに当たり、水俣病によって、かけがえのない命を失われた犠牲者の皆様に、心から哀悼の意を表します。
 50年前、不知火海という魚湧く美しい海に恵まれたこの地に生を授かり、暮らしていた皆様には、幸せな人生が約束されていたはずでした。その幸せを水俣病によって奪われ、健康被害に苦しみながら、大切なご家族を残してお亡くなりになられた皆様が、どれほど無念であったかを思うとき、私ども行政に携わる人間として、言葉に詰まりただ頭を垂れるばかりです。
ここに政府を代表して、水俣病の拡大を防げなかったことを、改めて心よりお詫び申し上げます。

 「総理大臣の談話」で述べられておりますが、水俣病については、我が国の高度経済成長が始まった時代に、公害を発生させた企業に適切な対応をなすことができずに、その被害を拡大させてしまいました。そうした水俣病の犠牲の上に今日の社会の繁栄と暮らしの豊かさが築かれていったとも言えます。そして、この水俣病問題を契機に、環境問題への本格的な対応が開始され、私たちはより安心して暮らすことができるようになってきています。私たち一人ひとりは、自らが暮らす社会のこのような成り立ちに思いを致し、水俣病を学び、犠牲者の声に耳を傾ける必要があります。水俣病は公害のみならず環境問題の原点であり、現在の社会や行政のあり方に対し重い問いかけを発し続けているものと考えております。
 私は、水俣病のような悲劇を二度と繰り返さないよう、その経験の重さを胸に刻み、より複雑化・多様化する環境問題に対して、国、地方公共団体、事業者、そして国民のすべてが真剣に取り組み、恵み豊かな環境の中で幸せに暮らせる持続可能な社会を実現するため、政府を挙げて取り組んでいくことを誓います。そして、水俣病の教訓を世界に発信していきます。

 環境大臣としてこの地を訪れるのも今回で3度目となりましたが、水俣病の悲劇を伝える語り部の皆様をはじめ水俣病の被害者の方々に接するとき、苦しみを乗り越えて人生に取り組む方々の力強さや温かさを感じます。また、資源ゴミの分別、リサイクルなどに熱心に取り組んでいる人々や、環境や健康を大切に考えて食品づくりに取り組む人々のことなどを話にお聞きして、この地が誇りを持って暮らしていけるような場所になるように努力をされ、もやいの絆で地域の一人ひとりが結ばれつつあることに感動を覚えます。

 今年の新年は、水俣病公式確認50年事業実行委員会のご尽力により、「 記憶、祈り、そして未来へ」との思いを込めた、不知火の海に響く恋龍太鼓の荘厳な音とともに、幕を開けました。
 長い歴史と経緯を経てなお、水俣病問題は現在進行形ではありますが、このように公式確認から50年という節目の年を迎えるに当たり、平成7年の政治解決や一昨年の最高裁判決も踏まえ、すべての被害者の方々が地域社会の中で安心して暮らしていけるよう、地元自治体と協力して、また地域の皆様との対話を大切にしながら、今後とも、全力で取り組んでいくことを誓います。

 最後に、改めて、水俣病の犠牲となり亡くなられた方々の御冥福をお祈りし、私の「祈りの言葉」とさせていただきます。  

 平成18年5月1日  環境大臣 小池 百合子