環境省保健・化学物質対策化学物質の内分泌かく乱作用SPEED'98検討会平成12年度第1回資料

内分泌攪乱化学物質問題検討会平成12年度第1回資料1


平成12年度に優先してリスク評価に取り組む物質の選定及び評価方法について(案)

1.背景

 平成10年5月に公表した「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」において、環境庁は内分泌攪乱作用が疑われる物質として67のリストアップを行った。

 これらの物質は内分泌攪乱作用を持つと断定されたものではなく、優先的に調査研究を行う対象として取り上げたものであり、環境庁では、これらの物質について、全国の環境実態調査等を進めた。

 平成11年10月に開催された「内分泌攪乱化学物質問題検討会(座長:鈴木継美東京大学名誉教授)」において、「[1]環境実態調査結果や文献調査から、リスク評価を優先的に実施する物質としてA物質に分類された4物質をはじめとし、専門家の意見を伺いつつ、リスク評価に着手すること」および「[2]優先して実施するリスク評価の対象物質の選定やその方法について、別途検討する場を設けること」とした。

 リスク評価の対象物質については、国会での「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法)の審議において、67物質が論議され、そのうち現状で法的に何らの規制も受けていなく、かつ内分泌撹乱に関する有害性の評価の知見が乏しい物質については、内分泌攪乱作用に関する試験を優先的に実施することなどにより有害性の評価を早急に行うことが求められた。

 一方、平成11年12月19日、政府においては、内分泌攪乱化学物質問題の重要性に照らし、平成12年度から内分泌攪乱作用を有すると疑われている物質のうち、ミレニアムプロジェクトによって、優先的に取り組むべき物質についてリスク評価を行うことと決定した。

 そこで、平成12年4月より内分泌攪乱化学物質問題検討会の作業グループとして専門家からなる「内分泌攪乱作用が疑われる物質のリスク評価検討会」を開催し、平成12年度に優先してリスク評価に取り組むべき物質の選定について検討した。

2.リスク評価実施についての基本的考え方

 本問題は、国民の安全安心にかかわる重大事項であることから、速やかにリスク評価を実施し、その結果を公表するとともに、必要な行政措置を講じることが求められる。

 一方、内分泌攪乱化学物質に関する有害性評価やリスク評価の手法については、現在OECDを中心に先進各国の共同作業によるスクリーニング手法の検証などが進められているが、これらの検証が完了し、試験プロトコールの作成など試験法が開発・確立されるには、まだ時間が必要な状況にある。

 この国民の関心が高く対応が急がれる問題に対して、速やかに現時点での可能な限りの科学的結論を得るには、これまでのOECDなどの国際共同作業の成果を応用しつつ、我が国の英知を集めた科学的作業により、現在の評価の到達点を早急に示すことが現実的であり、かつ国民の願いにも応えるものと考えられる。

 この作業を限られた時間のなかで、予算を有効に使い効率的に実施するため、次のような作業上の原則により実施する。

(1)評価対象とする物質は、原則として、「環境ホルモン戦略計画SPEED'98」において、リストアップされた物質とする。

 これらの物質の体内代謝物は、生体内でどのように変化するかほとんど未解明であり、動物によっても差があることや試験管内試験においてS9mixで処理することのコンセンサスが得られていないことなどから、体内代謝物そのものを同定し、その代謝物を用いて試験を行うことは、今回の評価対象とはしない。

(2)内分泌攪乱化学物質の概念は、当初の受容体が介在するメカニズムから、現在では体内の幅広い内分泌系に対する介入を起こすものに拡大してきている。

 したがって、幅広い内分泌系への影響をエンドポイント(影響点)として、その有害性を想定し検討を加える。

(3)国際的に確立した評価手法がないため、現時点で可能な評価は、これまで文献的に報告された内分泌系への影響に関する報告を網羅的に収集し、文献の信頼性評価を行い、これらの文献から信頼できる影響を抽出し、それらの影響について、必要な試験管内試験および動物実験を行うことにより、有害性の有無を確認する。

 これらの文献的評価の過程で重要な文献でありながら、信頼性等に疑念のあるものについては予備的に試験管内試験等の実施により確認を行う。

(4)文献の信頼性評価、予備試験の結果からリスク評価を実施する物質を選定する。実施するリスク評価のうち有害性評価については、文献等から得られた信頼できる有害性について、個別物質ごとに手法を検討し検証する。

(5)なお、今回リスク評価に進む優先物質として選定されたとしても、単に有害性の疑いがあるにすぎず暴露評価を含めた総合的なリスク評価が終了するまでは、現実的なリスクがあるとみなされるべきではない。また、技術上の理由から、リスク評価に進むことを保留した物質についても同様である。

 また、リスク評価に進む必要がないとする物質は、有害性にかかわる情報からみて、現時点では有害性がないか現実的なリスクが想定しがたいと判断されたものであり、数万以上ともいわれる多くの化学物質のなかで取り立てて、内分泌攪乱作用を現時点で評価するレベルにはないとされるものである。

 しかし、今後の科学の進展によっては確認されていない有害性も確認されることもありうるが、その場合は、将来、他の多くの化学物質と同様にあらためてOECDなどの試験法を用いた評価の対象とされよう。

3.本検討会での選定方法

 これまでの検討結果や社会的要請から選定した9物質について、文献調査・信頼性評価等を実施し、平成12年度に優先してリスク評価に進めるべき物質を検討した。

(1)検討物質:9物質

 [1]トリブチルスズ、4-オクチルフェノール、ノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチル

 [2]オクタクロロスチレン、スチレン2・3量体、ベンゾフェノン、フタル酸ジシクロヘキシル、n-ブチルベンゼン

<選定理由>

 [1]の4物質:平成11年10月の内分泌攪乱化学物質問題検討会においてA物質に分類され、優先的にリスク評価を進めるべきとされた物質。

 [3]の5物質:PRTR制度の対象物質に関する国会質疑において、SPEED'98で列挙された67物質のうち、何ら規制がなく、有害性の評価が不十分である5物質については、内分泌攪乱作用に関する試験を優先的に実施するなどして有害性を確認するよう要請された物質。

 なお、ポリ臭化ビフェニール類(PBB)も何ら規制対象になっていないが、[1]製造・輸入の実態がなく、環境からの検出もなく緊急な対応の必要性が薄いこと、[2]PCBと構造が類似しており、PCBと一緒に評価する必要があることから、今回は対象外とする。

(2)調査方法

ア.文献調査
 9物質ごとに文献検索データベースを利用して、文献検索を行い、有害性に関する文献を選出し、報告の整理を行った。文献検索データベースとしては、情報源が比較的広いMEDLINE、TOXLINEを主とした。
イ.文献の信頼性評価
 [1]の4物質については、すでにリスク評価に進むことが、昨年の内分泌攪乱化学物質問題検討会で了承されていることから、人健康影響に関する文献の信頼性評価は行わなかった(ただし、昨年の検討会において、生態影響に関する文献の信頼性評価を行うこととなっていたことから、今回は生態影響についてのみ信頼性評価を行う。)。
 [2]の5物質については、リスク評価に進むかどうかについて、検討する必要があることから、人健康影響に関する文献の信頼性評価を行った(生態影響に関する文献はない)。
ウ.試験管内試験(in vitro試験)
 信頼性評価を行った結果、[2]の5物質のうち、文献情報が豊富で、内分泌攪乱作用の有無に関して、相反する試験結果のあるスチレン2量体・3量体については、エストロジェン様作用の有無に関する文献の検証を行うため、[1]レセプターバインディングアッセイ[2]E-screen、[3]酵母two-hybrid assay等を行った。

(3)調査結果

 ア.文献調査・信頼性評価の結果は別紙1のとおり

 イ.スチレン2量体・3量体の試験管内試験の結果は「スチレン2量体・3量体の検討」を参照

4.平成12年度に優先してリスク評価に取り組む物質(案)

(1)トリブチルスズ、4-オクチルフェノール、ノニルフェノール、フタル酸ジ-n-ブチルについては、環境実態調査と生態影響に関する文献からすでにリスク評価に進むことが、昨年の内分泌攪乱化学物質問題検討会で了承されていることから、リスク評価の対象物質とする。

(2)オクタクロロスチレン、フタル酸ジシクロヘキシル、ベンゾフェノン、n-ブチルベンゼンについては、「内分泌攪乱作用が疑われる物質のリスク評価検討会」において文献調査や信頼性評価を行った結果、以下のように判断した。

ア.オクタクロロスチレン
 Chuらの報告によると動物実験により甲状腺の組織学的変化が認められ、内分泌器官である甲状腺への影響が懸念されることから、リスク評価の対象物質とする。
イ.フタル酸ジシクロヘキシル
 Lakeらの報告でみられた精巣への影響は、極めて高用量においての作用であり、ごく一部の被験動物に作用が確認されたにすぎないが、内分泌器官への影響が認められていることから、リスク評価の対象物質とする。
ウ.ベンゾフェノン
 Vazらの報告によると、アロマターゼチトクロームP450との拮抗阻害を試験管内試験で示しており、アロマターゼチトクロームP450はエストロジェン生成に関与する酵素であることから、リスク評価の対象物質とする。
エ.n-ブチルベンゼン
 BackesらやImaokaらの報告によると、ウサギ肝臓チトクロームP450の代謝反応阻害及びラット肝臓チトクロームP450の誘導がみられたとしているが、薬物代謝酵素P450関連作用については、情報が少なく、内分泌攪乱作用との直接の関連が不明確であることから、引き続き情報を収集するとともに、エストロジェン様作用については、最終的には有するとは判定されていないが、念のため試験管内試験を行ったうえで、リスク評価の対象物質とするかどうかの判断を行うこととする。

 なお、これらの物質は、あくまでも文献調査の結果等から有害性評価に進むこととなった物質であり、これらの物質の有害性の有無や程度は今後の検討で判明するものである。


(参考)

内分泌攪乱作用が疑われる物質のリスク評価検討会

1 委員

五十嵐貢一
(日化協化学物質総合安全管理センター部長)
井口泰泉
(岡崎国立共同研究機構統合バイオサイエンスセンター教授)
井上 達
(国立医薬品食品衛生研究所毒性部長)
鈴木勝士
(日本獣医畜産大学教授)
鈴木継美
(座長:東京大学名誉教授)
竹内康浩
(名古屋大学大学院医学研究科教授)
遠山千春
(国立環境研究所環境健康部長)
森田昌敏
(国立環境研究所地域環境研究グループ統括研究官)
若林明子
(東京都環境科学研究所基礎研究部長)

2 検討経過

平成12年4月14日;
第1回開催
     5月24日;
第2回開催
     7月10日;
第3回開催
     7月18日;
第4回開催

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