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7.毒性のメカニズム

 ダイオキシン類の毒性のメカニズムは、十分に解明されている段階に至ってはいないものの、ダイオキシン類による様々な毒性発現に共通するメカニズムとして、アリール炭化水素受容体(arylhydrocarbon receptor、以下Ahレセプター)との結合が指摘されている100)

(1)Ahレセプターを介した毒性

 ダイオキシン類の主たる毒性である肝臓や胸腺への毒性及び発生毒性が、Ahレセプターを持たないマウスでは観察されないという試験結果が得られており101,102)、これらの毒性は、細胞内にあるAhレセプターという蛋白を介して発現するものと考えられている。
 また、ダイオキシン類がAhレセプターに結合すると、さらにいくつかの蛋白と共同して、遺伝子の発現を変化させることが明らかにされており、その結果として多様な毒性が引き起こされるとされている103)
 ダイオキシン類とAhレセプターの親和性は、動物の種及び系統によって違いがあり104)、WHOの専門家会合においても、ヒトのAhレセプターとダイオキシン類との親和性は、ダイオキシンに対する感受性の低い系統のマウスのレベルに近いとの議論がされている。この点が、ヒトはダイオキシン類の毒性に対して感受性の低い種であるとみなす根拠となっている105,106)
 なお、ダイオキシン類による発がん性は直接的に遺伝子を傷つけるのではなく、他の発がん物質による発がん作用を促進するいわゆるプロモーション作用によるとされている。
 ダイオキシン類の発がん作用や内分泌かく乱作用に対するAhレセプターの関与の詳細なメカニズムについては、なお今後の研究を待たねばならないが、ダイオキシン類がAhレセプターと結合することが毒性発現のうえで重要な位置を占めていることは明らかである。

(2)Ahレセプターを介さない毒性

 ダイオキシン類による毒性のうちにはAhレセプターを介さないと考えられるものも認められているが107)、そのような毒性発現はAhレセプターを介する場合よりも高用量の暴露で生じるとされている。


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