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6.体内動態

(1)経口摂取と吸収

 ダイオキシン類は、消化管、皮膚及び肺から吸収されるが、吸収の程度は、同族体の種類、吸収経路及び媒体により異なる。
 爆発事故などでは、ヒトは上記の3経路からダイオキシン類を吸収するが、日常生活では、ダイオキシン類の総摂取量の90%以上は経口摂取による。
 経口摂取での2,3,7,8-TCDDの吸収率は、植物油に溶かした場合は90%に近いが82,83)、食物と混和した場合は50~60%82)、汚染された土壌からの吸収は、土壌の種類により大きく異なるが、植物油に溶かして投与した場合の約半分あるいはそれ以下である84~86)
 なお、消化管吸収には動物種間に大きな差は認められていない。

(2)体内での分布

 ダイオキシン類を実験動物に経口投与した場合、主に血液、肝、筋、皮膚、脂肪に分布していく。特に肝及び脂肪に多く蓄積される87,88)。分布はダイオキシン類の同族体により、また、用量により異なる。
 2,3,7,8-TCDDの肝と脂肪との分布比には種差が認められるものの、その他は特に大きな種差あるいは系統差は認められていない。
 なお、血清中TCDD量は脂肪組織中の濃度と広い濃度範囲で良く対応している89)

(3)代謝・排泄

 一般にダイオキシン類は代謝されにくく90~93)、肝ミクロゾームの薬物代謝酵素によりゆっくりと極性物質に代謝される。また、代謝には大きな種差がある94)。代謝物としては水酸化代謝物や硫黄含有代謝物が検出されている95)。代謝物の多くは抱合を受け、尿あるいは胆汁中に排出される94)。また、2,3,7,8-TCDDあるいはその代謝物と蛋白や核酸との共有結合はほとんど見られない96)
 ダイオキシン類は主に糞中に排出され97)、尿中への排泄は少なく、排泄速度には種差が大きい。ラットやハムスターの消失半減期は12~24日、モルモットで94日、サルで約1年であった。ヒトに2,3,7,8-TCDDを経口投与した場合の半減期は5.8年、9.7年であった。また、ベトナム参戦兵士での血清中半減期は7.1年、8.7年、11.3年であった4)

(4)母子間の移行

 ダイオキシン類は胎児へ移行するが、胎児の体内濃度が母体より高くなるとの報告はない98)。また、ダイオキシン類は母乳中に分泌されるので、乳汁を介して新生児に移行する99)

(5)体内負荷量

 一般に、化学物質による毒性発現は、一日当たりの暴露量よりも血中濃度や体内に存在する量(体内負荷量)に依存している。
 したがって、ダイオキシン類のように、高い蓄積性を有し、体内からの消失半減期に著しい種差の認められる化学物質のヒトにおける毒性を、毒性試験の結果に基づいて評価する場合には、動物での投与量や摂取量を、そのままヒトに当てはめることは必ずしも適切ではない。

 


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