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10.おわりに

(1)TDIの意義と留意点

(1)一生涯の暴露に対する指標であること

 TDIの一般的な意義として留意すべきことは、TDIは、生涯にわたって連日摂取し続けた場合の健康に対する影響を指標として算出された値であるということである。
 したがって、一生涯の間に一時的に摂取量がTDIを多少超過することがあったとしても、長期間での平均摂取量がTDI以内ならば、健康を損なうものではないことを意味する。

(2)最も感受性の高い時期における毒性を指標とした数字であること

 本報告書で示したTDIの算出に際して留意すべき点としては、ダイオキシンの毒性試験において最も感受性が高いと考えられる胎児期における暴露による影響を指標としたものである。したがって、ヒトの集団全体に対する評価としては、より安全サイドに立ったものと見なすことができる。
 ちなみに、例えば、発がん性などの影響の発現については、より高い暴露により起こるものである。

(3)不確実係数を適用した数字であること

 本報告書のTDIは、毒性試験の結果に不確実係数を適用し、ヒトと動物との感受性の差や個人差等も織り込んだものとなっている。

(4)食事と母乳

 ダイオキシンへの暴露は、大部分が食品からのものであり、食品の種類によって、汚染状況が異なることも事実であるが、それぞれの食品の持つ栄養素の重要性や、体への良い影響も考慮し、バランスの取れた良い食生活を送ることが重要である。
 また、母乳を介して乳児が取り込むダイオキシンの影響については、継続して研究を行う必要があるが、母乳哺育が乳幼児に与える有益な影響から判断し、今後とも母乳栄養は推進されるべきものである。WHOの専門家会合においても、同様の結論が得られている。なお、わが国の母乳中のダイオキシン濃度は、過去20年程度の間に半分以下に低下しているという調査結果もある。

(5)ダイオキシン汚染濃度の低減

 我が国においては、現在の国民の平均的な一日摂取量は、2.6pgTEQ/kg/日程度である。また、母乳中のダイオキシン濃度が低下していることから、暴露量は低減してきていると考えられる。
 さらに、政府のダイオキシン対策推進基本指針によれば、廃棄物焼却施設等からの排出削減対策等の推進により、今後4年以内に、平成9年に比べダイオキシンの排出量を約9割削減することとしており、環境中のダイオキシン濃度は、一層の低下が期待できる。

(2)今後の対策の推進

(1)ダイオキシン対策の推進

 我が国の現在のダイオキシンへのヒトの暴露状況は、今回のTDIと比べて十分に低いとはいえないことから、食物連鎖中のダイオキシンを減少させ、ヒトの体内負荷量を低減させるため、環境への排出を削減することが必要である。
 また、ダイオキシンは、有用目的のために生産される化学物質ではなく、生物にとって有害で無益なものであるから、将来的には、摂取量をできる限り少なくしていくことが望ましいことは言うまでもない。
 国、地方公共団体、事業者、一般国民を含め、あらゆる関係者が、ダイオキシンの環境への排出削減に向けた取組みを推進していくことが何より重要である。

(2)今後の調査研究の必要性

 今回のTDIは、ダイオキシンに関する既存の主要な科学的知見を基に算出された当面のものである。
 ダイオキシンの人体影響については、未解明な部分が多く、今後とも、引き続き、毒性試験や人体への影響調査等各種の調査研究を推進することが重要である。
 WHO専門家会合報告書でも、TDIについては、5年後程度を目途に再検討するとしており、我が国における今後の調査研究の進展や、WHOの検討状況を踏まえながら、改めて検討していくことが適当である。

 


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