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第4回グッドライフアワード環境大臣賞グッドライフ特別賞

公益財団法人 吉野川紀の川源流物語(奈良県川上村)

2県を繋ぐ森里海の連携「紀の川じるし」で 流域の産業を元気に!

奈良県川上村の源流から流れる吉野川は、和歌山県に入ると紀の川と名前を変えて、和歌山市の海まで流れます。源流から河口まで、およそ136kmに及ぶ流域をひとつの「商店街」に見立て、豊かな川の流れに支えられた地域の「恵み」をブランド化。流域の自然環境を守り、地域の産業を応援する取組です。

ムービーもご覧ください

源流の村の呼びかけで、流域の人たちが繋がりました!

活動のきっかけは?
水源地の村づくりの積み重ねが発想の原点

奈良県の南東部、三重県との県境に位置する川上村は人口約1300人ほどの山あいの村。古くから吉野杉の産地としての伝統があり、大台ヶ原にも近い山並みに深い森が広がっています。吉野川(紀の川)の源流も、この豊かな森の中にあります。

『紀の川じるし』は2015年に始まったばかりの取組ですが、川上村には「水源地の村」として源流の森を守り、流域の市町村や人々と連携して環境を守り、地域振興をしていこうとする活動の積み重ねがありました。1996年には「私たち川上は、かけがえのない水がつくられる場に暮らすものとして、下流にはいつもきれいな水を流します」など5項目の『川上宣言』を全国に発信。最源流部の原生林約740ヘクタールを「水源地の森」として村で購入し、健やかな森を守る保全活動などを行ってきました。

川上村では吉野川・紀の川流域の14市町村と連携した事業を実施。とくに和歌山市とは水源地保護に関する協定を結び、多くの和歌山市民が川上村の源流の森を訪れて森林保全活動を行うなど、流域の住民とともに水源地の村づくりを進めてきたのです。

森、里、海を繋ぐ川の環境。吉野川・紀の川の流れがもたらす流域の「恵み」をブランド化。地域を元気にして、水源の森を守り、流域の環境を守る意識を広めていこうとする『紀の川じるし』の取組は、こうした長年の「水源地の村づくり」の中で培われた人脈や、参加する人たちの高い環境意識に支えられているのです。


川上村の源流部には深い森が広がっています。(普段は入山が制限されています)


吉野川紀の川源流物語主催の水源地の森ツアーの様子。
どんな取組を?
流域の「恵み」で「森・里・海」の繋がりを訴求!

源流の森の林業。川の水が潤す農業。流れてきた栄養分による豊かな海での漁業など。吉野川・紀の川は、質の高い第一次産業を育んできた特徴がありました。『紀の川じるし』は、流域の自然の「恵み」を商品化しているキーパーソンを繋いで、新たな「ブランド」としてアピールしています。自然を活かした流域の産業が元気であり続けることが、森や川、里や海の自然環境を守る意識も高めます。

取組の主体である公益財団法人吉野川紀の川源流物語では、上流域の林業、中流域の農業、河口域の漁業で活躍するキーパーソンの笑顔を紹介するポスターを作成したり、上流、中流、河口それぞれのエリアのお店などを結ぶシールラリーなどを企画。また、流域の「恵み」を集めた『紀の川じるしの見本市』を開催して、流域の住民の方々や、訪れる観光客などに『紀の川じるし』が目指す流域の環境保全や地域振興の問題解決を訴求しています。

シンボルマークのデザインなどには、川上村の地域おこし協力隊の若者が活躍。観光案内所を改修した地域おこし協力隊の拠点『やまいき商店』では、毎週土曜日に村の旬の幸とともに『紀の川じるし』の産品を集めた『やまいき市』を開催しています。


地域おこし協力隊の岩本寛生さん。

流域各地の恵みをブランド化!

成功のポイントは?
誠実な思いを丁寧に繋いでいくことが大切

「ブランド化」というと、コストを掛けたプロモーションなどをイメージする側面もありますが、『紀の川じるし』では地道な取組を広げていくことを目指しています。そもそも、『紀の川じるし』は川上村を中心とした水源地の村づくりと流域連携の長年にわたる実績を象徴するアイコンのような取組といえます。たとえば、ただ販売拠点を増やすより『紀の川じるし』の目標をきちんと理解して協力してくれる輪を広げることを主眼に置いています。

川上村の『森と水の源流館』(水曜休館)と『やまいき商店』(土日祝日のみ営業)、和歌山県紀の川市にある『ファーマーズマーケット紀の川ふうの丘』(火曜定休)、和歌山市の『和歌浦漁港おっとっと広場』(土日祝日のみ営業)など、取組のキーパーソンのみなさんが深く関わる拠点を結び、できるだけたくさんの方に流域を巡ってもらうこと。それもまた『紀の川じるし』の目標です。

取組の内容は、産品の販売や観光振興だけではありません。「水源地の森」や流域の田んぼや自然、地域産業の「恵み」を教材として『紀の川じるしのESD(Education for Sustainable Development=持続可能な開発のための教育)』にも取り組んでいます。川上村ではもともと水源地の村として、「水源地の森」を活用した体験ツアーやエコツアーなどのプログラムを実施しています。「水源の森を守る」という地に足の付いた思いがあるからこそ、『紀の川じるし』は有意義な取組となっているのです。


吉野川、上流部の風景。

『和歌山市民の森』もあります。

取組の拠点でもある『森と水の源流館』

『やまいき商店』。
レポート
「森・里・海」の自然や暮らしを繋ぐ文化を実感!

川上村の中心部には、計画から50年以上を費やして建設された大滝ダムのおおたき龍神湖が広がっています。さらに上流には、1973年に竣工した大迫ダムもあります。巨大なダムの存在は、水源地の村の象徴でもあり、森林による「緑のダム」とともに、水がめの村としての大切な機能を担っています。

『紀の川じるし』の全体像を確認するのが、今回の取組取材の課題。源流から河口まで、130km以上を移動しながら、森、里、海、それぞれのキーパーソンにお話しを伺いました。

吉野杉「樽丸」製造/春増薫さん

私は吉野杉を原料にして、『樽丸』という酒樽の部品を作っています。源流の川上村と河口部の和歌山市周辺は、縄文時代から交流があったことがわかっています。江戸時代には吉野杉やヒノキの運搬で吉野川・紀の川には長い筏が通っていました。『紀の川じるし』のブランド化によって、流域の自然や文化の大切さを、たくさんの方に知っていただけるといいですね。


春増薫さん

紀ノ川農業協同組合 組合長理事/宇田篤弘さん

川上村の『川上宣言』によって、源流の村で吉野川・紀の川にきれいな水を流すための取組が行われていることを知りました。中流部で農業に関わり、その清冽な水の恩恵を利用している私たちも、無関心ではいられません。私たちの直売所である『ファーマーズマーケット紀の川ふうの丘』では、『紀の川じるし』の産品を常設販売しています。たくさんの人たちに『紀の川じるし』の魅力と、その思いを知っていただけるように、これからも取り組んでいきたいと思っています。


宇田篤弘さん

和歌浦漁業協同組合(しらす漁師)/高井宏さん

和歌浦のしらすは『わかしらす』と呼ばれて、とても良質でおいしいことで知られています。豊かな海の幸を獲るためには、川が運んでくれる栄養が大切。最近は漁師にも「豊かな海を守るための森の大切さ」の認識が広がって、定期的に森林保全活動なども行っています。『紀の川じるし』のイベントで、河口域である和歌山市の私たちと、源流の川上村、そして流域のみなさんとの交流が広がっているのも、とても有意義なことだと思います。


高井宏さん

取材では、川上村の栗山忠昭村長が環境大臣賞受賞についての思いや、川上村が源流の森を守り、流域連携を大切にしている思いを語ってくださいました。源流から河口まで、長丁場の取材をアテンドしてくださったのは、川上村水源地課長の今福和男さんと公益財団法人吉野川紀の川源流物語事務局長の尾上忠大さん。取材で出会ったみなさんの熱意には、官と民、企業や個人が豊かな川の流れを守るという思いで繋がって、着実な取組が進んでいることを感じました。キーパーソンのみなさんのコメントは、活動紹介ムービーでもご紹介しています。ぜひご覧ください。


川上村の尾上さん(左)と今福さん(右)。

川上村の栗山忠昭村長。
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