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第3回グッドライフアワード環境大臣賞グッドライフ特別賞

東北大学大学院農学研究科 

エネカフェメタンを中心とした
バイオマスエネルギー生産と資源循環

宮城県大崎市の鳴子温泉。温泉街観光の拠点ともなる湯めぐり駐車場にある『エネカフェメタン』は、お金ではなく「生ごみ」を持って行くと飲み物をいただける小さなカフェスペースです。小規模なメタン発酵装置で作ったバイオガスの炎で湯を沸かし、発酵時に分解された液体を液肥として再利用する取組が、環境大臣賞グッドライフ特別賞に選ばれました。


営業時間は9時〜16時。
金曜日などはお休み(不定休)です。
ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)
生ごみから作ったバイオガスを活用する!
活動のきっかけは?
温泉熱と食べ残しの生ごみでエネツーリズムを実践!

『エネカフェメタン』があるのは宮城県の鳴子温泉という温泉地。古くから奥州三名湯のひとつに数えられる鳴子温泉には温泉旅館やホテルが建ち並び、多くの観光客が訪れます。この取組の代表者である多田千佳さんは、東北大学大学院農学研究科の准教授。鳴子温泉の近くに大学の研究施設と農場があり、家畜の糞尿や生ごみからエネルギーとしてバイオガスを取り出し、分解された時に出る液肥を活用する研究をしていました。

有名な温泉地であるという鳴子温泉の地の利を活かし、観光客の食べ残しなどの生ごみと、豊富に湧き出る温泉の熱を活用したメタン発酵システムを「エネツーリズム」として実践できないかという発想が、『エネカフェメタン』誕生のきっかけです。

多田さんはさっそく地元で温泉街の活性化などに取り組む「鳴子まちづくり株式会社」に相談し、大崎市とも連携。地元の方々の理解を得られたことで、市が所有する観光駐車場にメタン発酵装置とカフェスペースを設置して、プロジェクトがスタートしたのです。


『エネカフェメタン』の仕掛け人、
多田千佳准教授。

温泉街には鳴子こけしの郵便ポストも
ありました!


ウッディな外観が特徴的な
『エネカフェメタン』。

生ごみは持ち込んだ人が計量して
投入します。
どんな取り組みを?
温泉の廃湯をメタン発酵に利用しています

『エネカフェメタン』は駐車場の片隅に建てられた小さなカフェスペースです。カフェに隣接して生ごみからバイオガスを生成するためのメタン発酵装置が設置されています。この装置で作られたメタンガスの炎で沸かしたお湯で入れた飲み物をいただくために必要なのはお金ではありません。生ごみを持ち寄ってメタン発酵の原料として投入するのです。

冬は雪が降る寒冷地でもある鳴子温泉。メタン発酵装置の発酵槽は40度前後に維持する必要があり、その熱源にはカフェのすぐそばにある足湯の廃湯が活用されています。生ごみの処理能力は1日当たりおよそ12kg。現在は、地元の方々の協力を得て、1日に5〜6kgの生ごみが投入されて、約600リットルのバイオガスを生成することができるようになっているそうです。

メタン発酵装置で作られたバイオガスは、カフェでお湯を沸かすほか、カフェの横に立てられたガス灯にも使われています。また、メタン発酵時の副産物として出てくる「消化液」は窒素やカリウムなどを含んだ「液肥」としてエネカフェメタンに会員登録をしてくれた人たちに配布。農家や家庭菜園で野菜などを作るための肥料として活用されています。この液肥には公募によって『循(MEGURU)』という名前が付けられています。

小さな紙コップに入って出てくる飲み物には、コーヒーやお茶(日本茶)のほかに、これも温泉熱を活用して乾燥させた「エノキ茶」などがあります。生ごみを発酵させて作ったメタンガスですが、もちろんガスそのものには臭いなどはありません。カウンターに置かれたバーナーで燃える透き通った炎はとてもきれいです。


生成されたガスはこのバルーンに
溜まっています。

カフェのカウンターではガスの炎を
間近に見られます。


隣接した乾燥施設で作られた
エノキ茶がオススメ!

液肥を入れるペットボトルも常連さんが
持ち寄ってくれるそうです。
成功のポイントは?
温泉街の新名所として地元と連携して運営

メタン発酵装置に投入する生ごみは、主に地元である鳴子温泉の住民の方々が持ち寄ってくれています。小学校で給食を作った時の生ごみや、近くのパン屋さん。犬の散歩のついでに毎日のように立ち寄ってくれる方もいるそうです。また、80km以上離れた石巻市から「鳴子の温泉に入るついでに」と、毎月通ってくれる常連さんもいるとのこと。

液肥の『循(MEGURU)』を活用することなどに賛同してくれたカフェ会員は累計で1400人を超えたそうです。処理能力の限界もあり、温泉街のホテルや旅館の残飯などをまとめて処理するようなことはできませんが、小さなコミュニティで生ごみをエネルギーとして活用するためのモデルとして、とても健全な「つながり」が生まれているといえるでしょう。

そもそも、駐車場の保有者である大崎市や、地元の振興に尽力する鳴子まちづくり株式会社との連携関係を築くことが『エネカフェメタン』を実現させるために不可欠でした。また、カフェなどの建物は東北大学の研究施設となっています。今回、現地取材に同行したグッドライフアワードの益田文和実行委員も「大学や地元の理解を得て、小規模なバイオガス活用システムを実践的なカタチに実現できたことが素晴らしい」と評価していました。

また鳴子温泉の場合は高温で豊富な温泉の源泉を活用していますが、小規模なメタン発酵装置をコミュニティ単位で設置してエネルギーなどを得ていく方法は「日本のどこでも、そこにある資源を使って応用できるシステム」(益田実行委員)である点が注目に値します。


メタン発酵装置の外観。

『エネカフェメタン』は温泉街の
観光マップにも掲載!


看板もナチュラルな雰囲気です。

ドラム缶の重みでガスをカフェに
送っています。
レポート
バイオガスの活用を社会に広げたい!

現地で発酵装置などの説明をしてくれた多田さん自身「自分たちの暮らしから出す生ごみからでもこうしてエネルギーが取り出せることを知っていただける場所にできたのではないかと思います」と、小さなコミュニティごとにこのような施設ができるようになることを目指しています。さらに、作ったバイオガスを運搬して広く活用する方法も模索しているとのこと。2016年3月には石巻市内で行われたイベントで、東京オリンピックの聖火台にバイオガスの炎をともすことができたそうです。

今回の取材では、カフェのカウンターで多田さんとカフェスタッフの遠藤由佳さんからさまざまな話を伺いました。印象的だったのが、生ごみとして投入する「食材」についての話でした。メタン発酵装置では、生ごみを微生物が分解してメタンガスを生成します。そのため、食品以外のプラスチックやビニール製品はもちろん、微生物が好まない食材の投入は避けなければいけません。具体的にはショウガやワサビ、シソ、極度に塩分が濃いものなど。また、貝殻や甲羅などの硬いモノの投入は避けるよう、会員向けの説明書にも明記されていました。さらには、防腐剤などの添加物が多い弁当の残りなども、微生物の働きを阻害してしまうことがあるそうです。

可燃物と不燃物に分別した上に、微生物のことまで考えて生ごみを分別するのは、少し面倒に感じるかもしれません。でも、身近なものからエネルギーを得るためにはそうした気配りが必要なこと。そして、エネルギーを使えることのありがたさを、このメタン発酵装置が教えてくれているとも感じます。

今は大学の研究施設として運営されている『エネカフェメタン』ですが、今後は温泉街の新名所として民間などに運営を移管することも検討されているそうです。隣接する場所には、真新しい公衆トイレが完成し、無料で利用できる足湯や、自分で温泉卵を作るための『温泉たまご工房』などの施設もあります。このレポートを読んでくださったみなさんも鳴子温泉へ行く機会があれば、ぜひ『エネカフェメタン』を訪れて、グッドライフについて考えてみてください。


カフェ店内には
グッドライフアワードの賞状が!

カフェに隣接した下地獄源泉の足湯(無料)。


3月のイベントでは石巻の聖火台に
バイオメタンの炎が!

取材中にも観光のご夫婦が
訪れてくれていました。
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