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グッドライフアワード2015 環境大臣賞 優秀賞

森田屋

SATURN project

第2回グッドライフアワードで環境大臣賞グッドライフ特別賞を受賞した「森田屋」の『SATURN project』。森田屋は茨城県内にある「森田屋縫製」という婦人服の縫製工場です。江戸時代からの屋号を守り、縫製工場になってから三代目となる入江勇太さんが取り組んでいるのは、障がい者の就労を支援しながら、縫製工場で廃棄物となってしまう端布(はぎれ)を使った作品づくり。ミシンの音が賑やかに響く工場をお訪ねしました。


プロジェクトの主役は『森田屋』で働いているみなさんです。
端布が自由な作品に生まれ変わって障がい者の自立を支援!
活動のきっかけは?
縫製工場の廃棄物を福祉の視点でアートに活用!

縫製工場の廃棄物を福祉の視点でアートに活用!

『有限会社 森田屋縫製』の工場は、茨城県内の田園風景が広がる陶芸が盛んな町の一角にあります。江戸時代から「森田屋」の屋号で呉服商を営んでいて、昭和30年代に洋服の縫製工場を始めたそうです。

『SATURN project』代表の入江勇太さんは、この森田屋縫製の三代目。今も社長である父親の右腕として工場を切り盛りしつつ、障がい者就労支援を軸とした『SATURN project』に取り組んでいるのです。

中学生の頃からファッションには興味があったものの、入江さんの興味は身に着ける側のお洒落心でした。家業の縫製工場の後継ぎであることは意識しながらも、高校時代には福祉に興味を抱き「自治行政を学んで法的な側面から福祉に関わってみたい」と大学は法学部に進学しました。大学卒業後は福祉関係の企業に就職。しかし、27歳の頃、家業を継ぐために実家に戻り、縫製工場の仕事に携わるようになりました。

ちょうどその頃、工場から産業廃棄物として捨てられる端布に着目。地域の障がい者に作品を作ってもらう取組を始めたところ、水戸芸術館のキュレーターの目に留まり、館内で端布を使ったアートワークショップをさせてもらえることになったのです。

障がい者の就労支援。現実は安い人件費での単純作業が多く、本当の意味で「自立」するのは難しいのが現状です。入江さんは「端布の作品にアートやエコプロダクツとしての付加価値を付けて世の中に認められれば、障がい者にとっても自立に向けたやりがいのある仕事になるはず」と、ワークショップなどの活動を広げていきました。


森田屋縫製の工場は、就労継続支援施設
でもあります。

プロジェクト代表の入江勇太さんと、
父親で森田屋縫製社長の謙二郎さん。
どんな取り組みを?
障がい者就労継続支援施設で端布を使ったアート作品を!

産業廃棄物である端布の活用と、障がい者の就労支援。さらに入江さんにとって追い風となったのが、平成15年度の「障害者自立支援法」成立でした。それまで、一般企業などの施設で障がい者を受け入れるのは制度的に難しかったのですが、この法律によって介護費用などの給付を受けることができるようになりました。

入江さんはさまざまな手続きを経て『森田屋』を「就労継続支援B型」の施設として登録。本格的に障がい者の就労支援活動を始めました。

現在、森田屋縫製は7名ほどの障がい者を受け入れています。障がい者のみなさんは、日常的には縫製工場の仕事をこなし、イベントなどのスケジュールに合わせて端布を使った作品を作ります。大量に作れるものではないので、イベントなどを頻繁に開催するのは難しく、また、障がい者のみなさんの作品づくりは気分や体調次第で捗らないこともあるようで、まさにマイペースな活動です。

とはいえ、美術館やギャラリーでの作品展や、さまざまな場所で開催するワークショップなどを通じて、産業廃棄物である端布の再活用と障がい者就労支援を兼ね備えた『SATURN project』の理念は、少しずつ、共感の輪を広げつつあるのです。


時間を見つけて、端布を活用した
作品をためていきます。

自由な発想で、端布を使った作品が
生まれていきます。


何もしなければ、この棚にある布は
全て廃棄物になってしまうそうです。

イベントやワークショップも開催しています。
成功のポイントは?
「できること」をひとつずつ「やっていく」。

森田屋縫製は、高級婦人服を中心に製造している工場です。工場内には業務用のミシンが並び、「入江さんが子どもの頃から働いてくれているベテランのスタッフ(縫い子)たちがてきぱきと洋服を仕上げていくのです。工場から生み出される製品には高い品質が求められるのはもちろんのこと、時には、厳しい納期の仕事に追われることもあります。

この工場では、障がい者のみなさんはそれぞれが「できること」を分担して仕事をしています。機械に入れる布地を運んで押さえたりする役割もあれば、ベテランのスタッフと一緒に見事な技でミシンを使いこなす障がい者もいます。

「たとえば、一般には障がいとされがちな自閉的傾向は、逆に品質を上げるための才能と見ることができるんです」と入江さんが教えてくれました。

現在の社長である入江謙二郎さんは、後継者である勇太さんのこうした取組を「自分がやりたいことに情熱を傾けて、勇太のやり方で『森田屋』の看板を守ってくれれば、こんなにうれしいことはない」と、穏やかな表情で話してくれました。工場のスタッフのみなさんも、障がい者とともに働くことを、当たり前のこととして、毎日の仕事に取り組んでいます。

勇太さん自身、「大変な現実に愚痴や文句を言っているより、できることからひとつずつやっていこう」という気持ちで『SATURN project』に取り組んでいるそうです。いろんな立場の人が、誠意をもって「できること」をやっていく。シンプルですが、この姿勢を持ち続けていることが、『SATURN project』が前進を続けられる理由なのだと感じました。


森田屋縫製では、高級婦人服などを
丁寧な手仕事で作っています。

細かな部分も
熟練の技で仕上げていくのです。


リボンの細部の縫製を担当しているのは
障がい者のスタッフ!

この洋服も、彼女が一人で仕上げた作品です。
レポート
安いモノの背景にある『ひどいこと』に気付いてほしい。

障がい者の就労支援やアート活動。意義ある取組であることは理解できても、現実はなかなか大変なこともあります。知的障がい者の仕事ぶりには「気分次第」な面もあります。取材時も、さっきまで一緒にテーブルを囲んでにこにこしてたのに「全員で記念写真を撮りましょう」と言った途端に奥の倉庫に隠れてしまう人がいたりして……。

でも、だからこそ「健常者」には思いも付かない感覚のアート作品を生み出す「力」もあるのだと入江さんが教えてくれました。実は、この日、入江さんが着ていたシャツも障がい者の方が縫った作品でした。「気分次第」に、でも丁寧に装飾縫いを入れたシャツの風合いには、人間味のある温かさを感じます。

「最近はさまざまな産業のファスト化が進んでいます。アパレル業界も国産衣料の割合は約3%にまで落ち込んでいるといわれていて、産業構造は崩壊寸前というのが現実です。ファストファッションを全否定するわけではないですが、あまりにも安いモノの背景に『ひどいこと』があるということを知ってほしいと思います。障がい者の自立支援も、安い人件費で単純作業をこなすことが多く、それでは本当の自立はできません。『SATURN project』の活動を通じて、障がいの有無さえも関係なく、作る側と買う側が一緒に楽しさを共有できる、持続可能な社会が実現できるといいですね」と入江さん。

森田屋と同じような取組が全国各地に広がって、便利な、あるいはお洒落な端布の作品がいろんなところで買えるようになれば、世の中が少し楽しくなる気がします。毎日の取組には大変な面もあるでしょうが、これからますます『SATURN project』が広がっていくことを期待しています!


就労継続支援施設としての休憩スペース。
端布作品もここで作ります。

みんなが書いた書き初めも展示されていました。


この日、勇太さんが着ていたシャツも作品!

社長室にはアワードの賞状が飾られていました。
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