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グッドライフアワード2015 環境大臣賞 優秀賞

日本グッド・トイ委員会

市町村と企業の協働による
「ウッドスタート」

『グッドライフアワード2015』で環境大臣賞グッドライフ特別賞を受賞した、日本グッドトイ委員会の『市町村と企業の協働による「ウッドスタート」』は、地産地消の木製玩具による「木育」を推進する取組です。多くの市町村や企業の賛同を得て、ますます広がっている活動の魅力は何なのか。日本グッドトイ委員会の拠点でもある東京都新宿区の『東京おもちゃ美術館』を訪ねてみました。


新宿御苑で開催されたイベントにて。
地産地消の木製玩具を自治体などの誕生祝いでプレゼント!
活動のきっかけは?
都会から森の木の活用法を提言したい。

日本にはおよそ2500万ヘクタールの森林があり、約67%とされる森林率は世界3位ともいわれています。さらに、木を扱う職人さんの技術も高く、世界に誇るべきものです。ところが、木製のおもちゃの自給率はわずか5%未満。近年の日本では里山の荒廃が問題視されていますが、里山を健全な状態に保つには、程よく木を利用することも大切です。

ウッドスタートの取組が始まったのは2010年。日本グッドトイ委員会では、かねてから地産地消の木製玩具を子育てに活用する「木育」を提唱していました。「里山の荒廃には、木を使わなくなった社会の責任もあるのではないか。それなら、都会から木の使い方を提言しよう」という発想が『ウッドスタート』の始まりでした。

日本グッドトイ委員会の設立は1984年。中野区内の「おもちゃ美術館」を拠点に良質な木のおもちゃを普及するための活動を行ってきました。2008年、新宿区四谷で廃校になった小学校の建物の活用方法を考えていた地元市民から声が掛かり、現在の『東京おもちゃ美術館』が開館します。昭和11年に竣工した歴史ある校舎の教室などを利用して、内装に国産材をふんだんに利用した美術館には、木の薫りがいっぱいです。年間の来館者は約13万人と大盛況。『東京おもちゃ美術館』の開館と成功が日本グッドトイ委員会にも大きな転機となり、ウッドスタートの活動も着々と広がりつつあるのです。


東京おもちゃ美術館館長の多田千尋さん

新宿区四谷にある『東京おもちゃ美術館』。
どんな取り組みを?
市町村や企業が「宣言」して地産地消の木材を活用する。

ウッドスタートは、子育てに地元の木材を積極的に活用しようとする「木育」推進の取組です。賛同する市町村などの地方自治体や企業が『ウッドスタート宣言』をして、地元の職人さんが地元産の木材から作った玩具を、誕生した赤ちゃんへの祝い品として贈る『誕生祝い品事業』、公立の保育園などの内装に地元産の木材をふんだんに使うなど『子育て環境の木質化』、また日本グッドトイ委員会が実施する移動型おもちゃ美術館『木育キャラバン』の実施などがおもな活動の内容です。委員会で定めたプログラムのうち、2項目以上の実施を約束することで『ウッドスタート宣言』を行うことができる仕組みになっています。

2015年6月現在、全国で14の市町村が『ウッドスタート宣言』を行い、地域の特色をいかした木育の推進に取り組んでいます。沖縄県の国頭村にある国頭村森林公園には、東京おもちゃ美術館のノウハウをいかした姉妹館『やんばる森のおもちゃ美術館』がオープンしました。

さらに、民間企業にも『ウッドスタート宣言』が拡大中。企業の場合も、誕生祝い品の導入をはじめ、オフィスやショールームの木質化、ノベルティなどの木質化、森林保全活動などのうち2項目の実施を約束することで『ウッドスタート宣言』を行うことができます。地域の森を元気にしながら、木の手触りを大切にした子育てを支援するウッドスタートの理念は、企業のCSR活動としても意義深いものといえるでしょう。

また、木のおもちゃへの理解を広げ、適切な指導やアドバイスができる人材を増やすべく、「おもちゃコンサルタント」や「おもちゃインストラクター」などの養成講座を実施しています。さらに、東京おもちゃ美術館で案内をしてくれるのは、「おもちゃ学芸員」や、赤ちゃん木育ひろば専門の「赤ちゃん木育サポーター」の資格を取得したボランティアの方々です。こうした資格を取得するのは定年後のシニアの方々も多く、赤ちゃんからシニアまで、まさに世代を越えて、木ならではの「癒やし」パワーを楽しんでいるのです。


沖縄県国頭村に広がるやんばるの森。

群馬県上野村でウッドスタートに取り組む
森林組合木工課の遠藤佑季子さん(左)と、
デザイナーの藤巻愛さん(右)。

成功のポイントは?
地場産業を育て、子育てを応援したいニーズとマッチ!

そもそも、里山の荒廃などに悩む地域では、衰退していく地元の森を守りたいというニーズがありました。また、少子化や子育て支援も、地方自治体にとってとても重要な課題です。スタート早々、10を越える自治体やいくつもの企業と連携できたのは、ウッドスタートが目指す理念と、もともと今の社会が秘めていたニーズがマッチしたからこそといえるでしょう。

たとえば、日本グッドトイ委員会が単独で「木のおもちゃがすばらしい」と発信しても、実際に地元産の木材を活用した新しいおもちゃがどんどん誕生するような現状を起こすのは難しいかも知れません。でも、ウッドスタート宣言をするのは自治体や企業です。木育への共感を広げ、自治体や企業が自ら宣言して取り組むことで、ウッドスタートはより有意義な取組になっているのではないかと感じます。

また、良質な木のおもちゃで遊ぶ子どもたちの笑顔が、ウッドスタートにとって最大の力です。五感で生きている小さな子どもたちにとって、自然の香りがいっぱいの木のおもちゃはとても「遊び心地」がいいようで、笑顔でゆったり遊んでいるのが印象的でした。

木のおもちゃで楽しく遊んで育った子どもたちには、木を大切にする心が育つはず。木育を通じて、環境を守り、木の文化を伝え、地域経済を活性化することが、ウッドスタートの大きな目標です。そのためにも、活動の輪はできるだけ大きいほうが効果的。日本グッドトイ委員会では、100の自治体と100の企業がウッドスタート宣言をして、この取組を広げていくことを目指しています。


群馬県上野村の誕生祝い品。

沖縄県国頭村の誕生祝い品。


宮崎県日南市の誕生祝い品。

おもちゃ学芸員によるイベントも人気です。
レポート
子どもたちの笑顔に「グッドライフ」を実感!

今回の取材では、2015年5月に新宿御苑で開催された『森のおもちゃ美術館』(移動型おもちゃ美術館)、そして、新宿区四谷にある『東京おもちゃ美術館』を訪ねてみました。ふたつの場所を実際に訪れてみて印象的だったのは、ウッドスタートというチャレンジのさまざまなものが、良質なデザインに包まれていることでした。

『東京おもちゃ美術館』のロゴは著名なデザイナーさんが作成したもので、館内の案内表示などもロゴと統一感をもってデザインされたフラッグ(旗)などが使われています。芝生の広場に木製のおもちゃや遊具を並べた『森のおもちゃ美術館』では、ロゴデザインを活用したウレタン製のマットが敷かれていました。もちろん、それぞれ地元産の木材を使って作られた木のおもちゃも、とてもかわいらしく素敵にデザインされています。

子どもたちにとってデザインは「理屈」ではないのでしょうが、良質な木材で作られた、良質なデザインのおもちゃで遊ぶことは、きっとすばらしい体験になっているはずです。笑顔で遊ぶ赤ちゃんが多いことも実感できました。また、「美術館」とはいえ、展示されている作品(おもちゃ)のほとんどは子どもたちが手にとって遊ぶことができるようになっています。展示作品はデザイン的にも素敵なものばかりですから、子どもたちの美的感覚にもいい刺激になっているように感じます。

『東京おもちゃ美術館』には、『赤ちゃん木育ひろば』と名付けられた部屋があります。この部屋には入れるのは3歳未満の子どもたちと保護者だけ。厚めの杉材を使ったフローリングの部屋にたくさんの遊具やおもちゃが並び、まだハイハイしかできないような赤ちゃんたちが遊んでいます。さらに「木のおもちゃや部屋は、大人にとっても癒やしをもたらしてくれるんです」(多田千尋館長)というように、子どもたちを見守るお母さんたちの笑顔がとても優しいことも印象的でした。

これからますます、ウッドスタート宣言をする自治体や企業が増えて、日本中で「木の文化」が躍動し、美しい森が受け継がれることを願っています!


『赤ちゃん木育ひろば』は平日でも大盛況!

いきいきと遊ぶ赤ちゃんの表情が印象的でした。

一緒に遊ぶお母さんたちも楽しそうです!

館内の案内表示などもかっこいい!
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