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グッドライフアワード2015 環境大臣賞 優秀賞

NPO法人 ザ・ピープル

「希望の綿」
ふくしまオーガニックコットン
プロジェクト

東日本大震災と、原子力発電所事故の被災地から新しい希望を生み出したい! NPO法人『ザ・ピープル』の『「希望の綿」ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』が、『グッドライフアワード2015』環境大臣賞優秀賞を受賞しました。はたして、どんな活動なのか。福島県いわき市の活動拠点を訪ねてきました!


たくさんの人の力で着実に前進しています!
ムービーもご覧ください(これから先は、環境省サーバーを離れます)
耕作放棄地から新たな「希望」を紡ぎ出す!
活動のきっかけは?
環境に配慮した方法で在来種の茶綿を栽培!

福島県いわき市は、東日本大震災で事故を起こした福島第一原子力発電所から約30〜70km程度の距離に位置しています。今も、市内には原発周辺地域から避難する人たちの仮設住宅が建ち並び、原発での作業に従事する人たちがたくさん流入している「特殊な状況」が続いています。原発事故は、いわき市内の農業にも大きなダメージを与えました。風評被害や、かねてからの後継者不足が重なって、耕作放棄地が増えていったのです。

『ザ・ピープル』は、いわき市内を拠点に、大震災以前から古着リサイクルなどの活動に取り組んできたNPO法人です。代表は吉田恵美子さん。震災後は『いわき市小名浜地区復興支援ボランティアセンター』を立ち上げて、さまざまな活動に取り組んでいました。

『ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』がスタートしたのは2012年のこと。ザ・ピープル代表の吉田恵美子さんが、荒れていく畑を見るに見かねて「何かできることがあるんじゃないか」と方法を模索するなかで、日本国内でのコットン栽培に取り組む会社とタッグを組んだのがスタートでした。

栽培するコットンは、信州大学から種を分けてもらった在来種の茶綿(『備中茶綿』という品種)を選びました。『ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』ボランティアと市民が力を合わせて、環境に配慮した方法でコットンを栽培し、さまざまな商品を生み出して販売していこうという取り組みです。栽培するコットンは「希望の綿」と名付けられました。


震災直後からがれき撤去などにも
取り組んできました。

耕作放棄地などを借りてコットンを栽培しています。


ボランティアのみなさんと一緒に
作業に取り組んでいます。

着々と成長しているコットンの苗。
どんな取り組みを?
希望の輪を全国に広げる『コットンベイブ』

そもそも、コットン(綿)は日本での自給率がほぼ「0」に近い作物です。食用ではないので、野菜のような風評被害の影響もありません。『ふくしまオーガニックコットンプロジェクト』では、栽培1年目となった2013年、いわき市内や広野町に15カ所の畑を借りて、約300kgのコットンを収穫することができました。さらに2014年には、畑は25カ所に増えて、収穫量も900kg近くにまで増やすことができたのです。

コットン栽培に参加したボランティアの数はのべ1万人以上。東京など各地から集まるボランティアと、地元市民が力を合わせて栽培した「希望の綿」は、タオルハンカチやTシャツ、手ぬぐいなどの商品に加工して、ネットショップなどで販売しています。

また、ユニークなのが「コットンベイブ」と名付けられた小さな人形です。種が入ったコットンのかたまりを手作りで組み合わせたもので、いわき市内の仮設住宅で避難生活をしている女性のみなさんが中心になって、心を込めて作っています。全国で購入した人に「このコットンベイブに入っている種を植えて、収穫した綿を再び送り返してもらう」という試みです。

この取り組みが契機となって、周辺地域の学校(12校程度)にも、コットン栽培を学習として採り入れる動きが広がっているそうです。全国でコットンベイブの種を育てている人たちや、ボランティアとして参加する人たち、さらにはTシャツなどを購入してくれる人たちを含めて、「希望の綿」が生み出す「希望の輪」が着実に広がりつつあるのです。


ひとつひとつ表情が違う『コットンベイブ』。

夏には黄色い花が咲きます。


いろんな商品になってネットなどで販売中!

収穫にもたくさんのボランティアが集まります!
成功のポイントは?
コットン栽培が新たな希望に!

震災直後から、吉田さんが中心になって立ち上げた『いわき市小名浜地区復興支援ボランティアセンター』では、がれき撤去などの作業にも取り組んでいました。津波被災地の状況がある程度落ち着いてきたところから、コットン栽培の取り組みが始まったことで、全国から集まってくれるボランティアの「受け皿」として機能することができたのです。

もちろん、休耕地(耕作放棄地)を貸してくれたり、農作業にボランティアとして参加して力を貸してくれる地元の人たち。さらには、コットンベイブ作りに取り組む仮設住宅のみなさんの力など、たくさんの人たちがこの取り組みを通じて新たな「希望」を見つけられたことも、大切な成功のポイントといえるでしょう。

実は、このプロジェクトで販売しているTシャツなどの原料となるコットンは、すべてが自分たちで栽培したものではありません。まだまだ収穫量が少ないことなどもあり、プロジェクトの畑で採れたコットンは約5%に留まっています。今後は、自分たちで作ったコットン100%の商品を開発していくことも「目標のひとつ」ということです。

また、伝統的な藍染めの産地での研修を行うなど、さらに魅力的な商品作りにも熱心に取り組んでいるところです。このプロジェクトは、まだ始まったばかりです。栽培している茶綿がいわき市や福島の新たな特産品として挙げられるようになり、たくさんの魅力的な商品が生み出されていくこと。そして、コットン栽培が被災地の人たちの新たな「希望」に成長する日が来ることが、本当の意味での「成功」といえるのでしょう。


育苗場での作業では笑顔もあふれています。

植樹祭などでは、ボランティアや
一般参加者も頑張ります。


2012年に開催された技術講習会の様子。
レポート
コットンベイブ作りをしている仮設住宅を訪問!

福島県いわき市へ取材に伺ったのは3月下旬。残念ながら、畑は収穫が終わり種まきが始まる前で何もなく、茶綿が育っている様子を見ることはできませんでした。でも、いわき市内の仮設住宅で、より原子力発電所に近い広野町から避難しているみなさんがコットンベイブ作りをしているということで、その現場を訪問してきました。

この日、作業をしていたのは、仮設住宅に暮らしている猪狩マス子さん、高橋秀子さん、鈴木三紀さんの3人と、浪江町出身で東京で働いていたものの、このプロジェクトを知ってふくしまオーガニックコットンのスタッフとして働くことになったばかりの松本幸子さん。仮設住宅の入居者も次第に減っているそうですが、コットンベイブ作りには、この日参加できなかった方を含めて10人程度の女性たちが携わっているそうです。

綿が入っていた「殻」に木製の頭を付けて目を描き、種を包み込んだままのコットンのを丁寧に貼り付けていく作業。殻のカタチなどは自然のものなのでまちまちで、できあがったコットンベイブはすべて微妙に違います。値段は1つ860円(税込)。手作りなので大量生産できるものではなく、「商品」というよりも、福島からの真心を全国に伝え、全国からの応援する気持ちを届けるための「ツール」であるという印象です。

コットンベイブの種を育てて収穫した綿を送り返してくれた人たちの情報は、このプロジェクトの公式サイトで『お帰りなさいコットンちゃんMAP』として紹介されています。福島から発信される「希望の綿」のネットワークが、ますます広がっていくことを応援しています!


取材に集まってくれたみなさん!

コットンベイブの中には種が入っています。

もうすぐ、この畑に新しい苗が植えられます。

ザ・ピープル代表の吉田恵美子さん。
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