環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成26年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 環境保全を織り込んだ被災地の復興~グリーン復興~

第3節 環境保全を織り込んだ被災地の復興~グリーン復興~

 東日本大震災で甚大な被害を受けた被災地では、復興に取り組む中で、環境への負荷を低減しつつ経済・社会の再生も行っていくという取組が始まっています。このような取組は今後の我が国の地域づくりの一つの目指すべき方向と考えることができ、このような動きを加速させていく必要があります。

 本節では、このような観点から被災地の復興に当たっての考え方と、持続可能な地域づくりの先進的な事例を紹介します。

1 被災地におけるグリーン復興の取組

(1)国立公園を核としたグリーン復興の取組

ア 三陸復興国立公園の創設

 環境省では、東北地方太平洋沿岸に指定されていた陸中海岸をはじめとする複数の自然公園を三陸復興国立公園として再編成し、自然環境を活かして復興していくこと、自然の恵みと脅威を学ぶ場として後世に引き継ぐことを、被災地で広域にわたって連携して実践していくための基盤を構築することとしました。その第一弾として、地域の暮らしの中で維持されてきたシバ草原の美しい種差(たねさし)海岸やウミネコの繁殖地で有名な蕪島(かぶしま)をもつ種差(たねさし)海岸階上岳(はしかみだけ)県立自然公園(青森県)を陸中海岸国立公園に編入し、平成25年5月に三陸復興国立公園として指定しました。また、三陸復興国立公園の南側に位置する南三陸金華山国定公園についても同国立公園への編入を検討しています。

三陸復興国立公園指定記念式典

種差天然芝生地

イ 南北につなぎ交流を深めるみち
 (みちのく潮風トレイル(東北太平洋岸自然歩道))

 環境省では、地域の自然環境や暮らし、震災の痕跡、利用者と地域の人々などをさまざまに「結ぶ道」として、復興のシンボルとなる長距離の自然歩道「みちのく潮風トレイル」を青森県八戸市から福島県相馬市までの約700kmについて平成27年度末までに設定する予定であり、そのための準備を地域との協働で進めています(http://www.tohoku-trail.go.jp/(別ウィンドウ))。平成25年11月29日には、八戸市から岩手県久慈市までの約100kmの区間が開通しました。開通までには、地域でのワークショップを何回も実施し、地元の関係者からの意見を聞いて路線を決めたほか、利用のルールやおもてなしについても意見交換を重ねました。

みちのく潮風トレイルを歩く利用者

ウ その他の取組

 平成24年度から26年度の3年間、5つの地域において「復興エコツーリズム推進モデル事業」を実施しており、平成25年度はワークショップ等を通じた自然観光資源の調査や人材育成、モニターツアー等を実施しました。

相馬市松川浦でのモニターツアー

 国立公園内の利用施設については、被災した施設の復旧のほか、宮古姉ヶ崎(岩手県宮古市)では、被災した公園施設の一部を遺構として保存し、自然の脅威を学ぶ場とするための整備を、三陸復興国立公園に編入された種差海岸(青森県八戸市)においては、地域の自然やくらしを紹介するための施設の整備を進めています。

種差海岸(青森県八戸市)で整備中の情報提供施設(イメージ図)

 また、津波・地震による自然環境への影響を把握するため、自然環境モニタリングを継続しており、平成25年度はこれまでの調査結果を復興事業や各種保護施策で活用するため、津波浸水域における重要な自然を表したマップ「重要自然マップ」を作成し、平成26年4月 に公表するとともに、情報発信のためのウェブサイトをリニューアルしました。

 「しおかぜ自然環境ログ」 http://www.shiokaze.biodic.go.jp/(別ウィンドウ)

(2)津波を被った水田の復元による地域の復興

 東北地方の太平洋沿岸の水田は、その多くが東日本大震災の津波によって被災しました。津波を被った水田には多くのがれきが散乱し、海水によって作付できないほどに土壌中の塩分濃度が高まりました。そのような中、宮城県内4か所(気仙沼市、南三陸町、塩竃市、石巻市)と岩手県陸前高田市の水田で活動している特定非営利活動法人田んぼ(以下「NPO法人田んぼ」という。)は、全国から集まった多くのボランティアとともに手作業でがれきを取り除き、「ふゆみずたんぼ」方式により水田の復元に取り組んでいます。

復元した水田(南三陸町志津川)

 ふゆみずたんぼとは、稲刈り後の冬期にも水を張った水田のことです。そうすることにより、稲わらなどの有機物が水中で分解され、菌類や藻類、イトミミズなどが増え、それらをエサとする水鳥や小動物などさまざまな生き物が育まれ、生物多様性が高まります。増加した生き物の働きにより、農薬を使わずに稲の害虫や雑草の繁殖を抑えることが可能になるとともに、その排泄物や死骸によってきめ細かな粒子からなる土質へと変わり、施肥を抑えることができ、稲の収量も上がります。

 実際にNPO法人田んぼが活動する水田でも、コメの収量が増加するとともに、生物多様性も高まり、さらには土壌中の塩分濃度も下がって稲作を行うことができるようになりました。NPO法人田んぼでは、収穫した無農薬・無施肥の米を「福幸米(ふっこうまい)」と称して販売しており、稲作農業の6次産業化を図ることで地域経済も支えています。

ふゆみずたんぼの四季

2 グリーン経済を先取りした復興の動き

(1)民間資金を活用した取組

 被災地においては、環境負荷を低減しつつ迅速な復興に資する取組を加速させていく必要があります。そのためには公的資金のみならず民間資金をこのような取組に投入し、地域の自立的な復興に向けた資金サイクルを構築していくことが重要となります。また、地域資源を活用した自立・分散型エネルギーシステムを導入することにより、環境負荷の低減と同時に地域経済の活性化につながることとなります。

 以下では、このような先進的な取組を紹介します。

ア 県民参加型ファンドの創設による太陽光発電事業の推進に向けた取組

 福島県は、平成24年3月に策定した「福島県再生可能エネルギー推進ビジョン(改訂版)」にもとづき、福島県内における再生可能エネルギーの導入拡大を図るとともに、県民の再生可能エネルギーへの関心を高め、地域経済にも貢献するための施策として、県民参加型のファンド「福島空港ソーラーファンド」を設立しました。

福島空港メガソーラー完成イメージ

 このファンドは、地域の資金で再生可能エネルギーの導入を推進するべく、福島県設立の会社が福島空港敷地内に設置する1.2MWのメガソーラーによる太陽光発電事業を投資対象とし、そこで得られる利益を出資者である県民、企業などの地域に還元することで、資金が地域内で循環する仕組みとなっています。このファンドの設立・運営事業は、民間の金融系企業が担っています。

イ 宮城県気仙沼市における地域通貨を活用した取組

 宮城県気仙沼市の気仙沼地域エネルギー開発株式会社は、気仙沼市震災復興計画に再生可能エネルギーの活用が盛り込まれたことを機に市内の森林に着目し、森林施業の際に発生する間伐材を通常価格の2倍で林家などから買い取っています。買取金額の半分を同社が発行する地域通貨「リネリア」で支払い、支払われたリネリアは、市内約180の商店などで金券として利用されています。買い取った間伐材は、同社の木質バイオマス発電プラントの原料として発電に利用する予定です。同施設を用いて発電した電気を「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」を活用して東北電力株式会社に売電するとともに、発電時に発生した熱を地元ホテルの温泉施設に供給することで得た収入をもとにリネリアを発行する予定です。

リネリアの仕組み

 この仕組みは民間の出資金のみで運営されており、地域通貨を媒介とすることで地域経済が活性化するとともに、環境面でも森に管理の手が行き届くことにより山が豊かになり、海に豊かな養分を供給することができます。また、木質バイオマスという再生可能なエネルギー源を市内で調達することが可能となり、化石燃料の使用が抑制されることとなります。

(2)自立・分散型エネルギー社会の構築に資する取組

 我が国では、東日本大震災の被災地域における復興のため、再生可能エネルギーなどの地域資源を活用した自立・分散型のエネルギーシステムを地域に導入し、災害に強く環境負荷の小さい地域を形成していくことが課題となっています。そのため、東北地方などの被災地において、災害時における避難所や防災拠点に対する再生可能エネルギーや蓄電池、未利用エネルギーの導入等を支援する「再生可能エネルギー等導入地方公共団体支援基金事業(グリーンニューディール基金)」を創設し、平成23年度において地方公共団体(東北地方の自治体含め8団体)に補助金を交付しています。交付を受けた地方公共団体は、交付から5年の間に基金を取り崩しながら、図2-3-6に示す4つの事業を実施しています。

 東日本大震災により、最大震度6強の揺れを観測し、津波によって多大な被害を受けた茨城県では、本基金を活用し、公共施設などで再生可能エネルギーの導入を進め、環境にやさしく、災害に強い安全・安心なまちづくりを推進しています。県内でも比較的大きな被害を受けた日立市では、市内15か所の交流センター(公民館)において、蓄電池(約8kWh)と併せて両面受光型と片面受光型の2方式の太陽光パネル(約8kWh)を施設の状況に合わせて設置しています。両面受光型パネルは地面に立てる形で設置し、片面受光型パネルは屋根などの上に寝かせて設置することで、太陽光の効率的な受光と敷地の有効活用の両立を図っています。

日立市田尻交流センターにおける設置状況

グリーンニューディール基金の事業構造