環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成24年版 図で見る環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 さまざまな環境問題への対応

第3節 さまざまな環境問題への対応

1 被災地におけるし尿、一般廃棄物等の処理及び下水の状況

 被災地では、日常の各家庭からのし尿、ごみの収集処理に加え、避難所からのし尿、ごみへの対応が必要となっています。環境省では、震災直後の廃棄物処理の迅速な実施及び災害廃棄物の収集運搬等の緊急支援を各関係団体に要請し、多くの地方公共団体及び各一般廃棄物処理事業者団体から、収集運搬等のための人員や収集運搬車両について多数の派遣支援を、また機材については、多くの無償支援をいただきました。

 下水については、震災直後の早い段階から、市街地内のすべての下水管を対象に点検を行いました。また、津波等で被災した下水処理場では、暫定的な施設等により簡易処理等を行いつつ、処理水質の段階的向上を図りながら、本復旧に向けた取組を実施しています。

2 被災地における環境汚染の状況

(1) 水環境・土壌環境等の状況

 東日本大震災では、有害物質の公共用水域・地下水への漏出、津波による廃棄物や油などの海洋への流出により、国民の健康への悪影響や生活環境の悪化が懸念されたため、緊急に水環境のモニタリング調査を実施しました。調査は、地震や津波により甚大な被害を受けた青森県から茨城県において、河川、海域の水質・底質、地下水の水質について、環境基準項目、ダイオキシン類等の調査を実施しました。

 このほか、特に水質の悪化が懸念される被災地の閉鎖性海域(5海域)を対象に、震災後の状況を把握するために、水質、底質、生物等の調査を実施しました。さらに、被災地の沿岸域周辺において環境残留性・有害性の高い物質等を対象として、水質及び底質等について調査を実施しました。

 また、海洋において、音波を利用した海底ごみ調査を実施した結果、大型の災害廃棄物等は発見されませんでした。加えて、洋上を漂流している廃棄物の漂流経路、到達場所及びその時期等について今後の予測を実施しました。その結果、当該漂流物の大部分を占める標準漂流物の一部は、2012年10月頃には北米大陸西岸の沿岸域に到達し始めることが予測されています。


標準漂流物の漂流予測結果(2011年12月~2013年6月)

 土壌環境については、東日本大震災に伴う津波による化学工場等からの有害物質の流出や火災によるダイオキシン類の発生が予想され、国民の健康への悪影響が懸念されたため、緊急に土壌環境のモニタリング調査を実施しました。

 調査の結果、鉛やヒ素など4物質について、土壌溶出量基準値又は土壌含有量基準値を超過することが、一部の調査地点で確認されました。土壌溶出量基準値を超過した地点については、当該地点の近隣における地下水の利用状況を調査し、飲用に供されていることが判明した場合、地下水の水質を調査し、環境基準値を超過していないことを確認しました。また、土壌含有量基準値を超過した地点については、当該地点の土地利用状況を調査し、人の立入りが制限されていることを確認しました。

(2)アスベスト等の飛散状況

 被災地におけるアスベストの大気濃度調査の調査結果では、一部の建築物のアスベスト除去等工事現場において、周辺への飛散はなかったものの、敷地内でアスベストの飛散が確認された事案が確認されましたが、それ以外は大きな問題はありませんでした。

 大気については、岩手県、宮城県、福島県及び茨城県において、避難所等被災者が多数生活している地域を中心に、地方公共団体の要望を踏まえ30地点で大気環境モニタリングを実施したところ、ヒ素及びその化合物について指針値を超えた地点が1地点存在しましたが、9月に実施した再調査により、問題ないことが確認されました。

3 腐敗水産物の処理

 海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律に基づき、緊急的な海洋投入処分に関する告示として、「環境大臣が指定する廃棄物並びに排出海域及び排出方法に関し環境大臣が定める基準」が、平成23年4月7日には宮城県内の腐敗水産物について、平成23年6月17日には岩手県内の腐敗水産物について、それぞれ告示されました。この腐敗した水産物の海洋投入処分については、平成23年7月頃に完了しています。


腐敗した水産物の処理

4 被災したペットへの対応

 東日本大震災により、被災地域の住民のみならずペット等の動物も大きな被害を受けました。特に、福島県では、東京電力福島第一原子力発電所の事故が発生し、住民の方々は着の身着のままで避難せざるを得ず、多くの動物たちが警戒区域内に取り残されました。

 発災以降、人的支援、ペットフード等の物資の提供、義援金の募集及び配布等に関して、地方公共団体や緊急災害時動物救援本部((公財)日本動物愛護協会、(公社)日本動物福祉協会、(公社)日本愛玩動物協会、(公社)日本獣医師会で構成)等の関係団体の協力を得ながら、被災ペットの救護の支援が行われました。

 また環境省は福島県と全面的に協力し、ほかの自治体、緊急災害時動物救援本部、獣医師等の協力を得ながら、警戒区域内の被災ペットの保護活動を実施しました。


被災したペットへの対応

5 自然環境の変化の状況

 東日本大震災をもたらした地震・津波により、東北地方の太平洋沿岸の自然環境は大きく変化しました。

 砂地に生育するアマモなどの海草藻場については、その多くが影響を受けて消失したり、規模が縮小している地域が多いのではないかと予想されています。一方で、津波後に種から発芽したと考えられるアマモの株が確認されていて、アマモ場に生息する魚類の生息密度は減ったものの、種数は大きな変化がないという地域も見られています。今後アマモ場が再生していくか、長期のモニタリングが必要です。

 岩手県船越湾は環境省のモニタリングサイト1000事業のアマモ場調査の対象地として継続的に調査が実施されています。撮影された海域は、津波前は高さ6mほどのアマモに覆われていましたが、津波後はほとんどが消失し、高さ数十cmのアマモの株がまばらに点在している状態でした。


岩手県船越湾のアマモ(平成23年10月18日撮影)

 干潟は、三陸海岸南部のリアス海岸の地域の湾奥、松島湾及び仙台湾沿岸に分布していましたが、多くの地域で津波の影響を受けています。津波により地形そのものが改変され、現在もその形状が変化し続けている干潟や、干潟の底質が変化したことにより、生息する生物種の構成が大きく変化した干潟もみられます。また、地震による地盤沈下の影響により、干出しなくなってしまった干潟がみられたり、砂浜についても消失したり、砂浜の幅が狭くなったところがみられます。宮城県蒲生干潟は現在も地形が大きく変化し続けています。


東北地方太平洋沿岸の干潟における底生動物の出現種数の変化

蒲生干潟(宮城県)の航空写真