第2節 静脈産業で世界の循環型社会の構築を

1 世界の廃棄物の将来予測

 21世紀に入り、発展途上国において急激な経済発展と人口増大が予想され、廃棄物の発生量の増大など環境負荷の増加が懸念されています。特に発展途上国においては廃棄物処理等の意識や技術の未熟さから環境に与える影響はさらに増大する可能性があります。


世界の廃棄物量の推移(将来)

 天然資源の大量消費を前提とし、多量で質的にも自然界での分解が困難な物質を自然環境に排出することによって成り立つ「一方通行」型の社会経済システムは、将来に亘って環境に悪影響を与える負の遺産となります。一方通行型の社会から生じる環境負荷の低減を図り、持続可能な社会を実現するためには、廃棄物の発生抑制(Reduce(リデュース))、再使用(Reuse(リユース))、リサイクル(Recycle)の3Rを進め、適正処理の確保を徹底し、物質の循環の輪を途切れさせない循環型社会を構築することが不可欠です。

 我が国は、第2次世界大戦後から、今日に至るまで、経済社会情勢の変化及びそれに伴う廃棄物の質・量の変化に応じてさまざまな廃棄物問題を経験してきました。また、そうした問題を解決するために廃棄物・リサイクル分野における取組を発展させてきました。現在の我が国の取組はこれまでの課題の解決方法が蓄積されたものということもできるでしょう。


廃棄物・リサイクル分野における我が国の経験

 経済成長と都市ごみ量には密接な関係があり、1人当たりGDPと都市ごみ排出量との間には相関関係が認められます。経済発展の途上にある国々は、これまで我が国が経験してきた廃棄物問題を近い将来に経験する可能性があることが予測されます。


一人当たりGDPと都市ごみ排出量の相関関係について

 こうした国々において、我が国の経験が参考となると考えられます。これは世界全体の環境負荷の削減に対する我が国の大きな貢献となります。また、我が国の廃棄物・リサイクルの経験を世界に発信することで循環型社会ビジネスを世界展開し、グリーン・イノベーションによる成長にもつながるものです。

 そこで、本節では、廃棄物・リサイクル分野におけるこれまでの我が国の経験及びその時々で獲得し、発展させてきた社会システム、技術、ライフスタイルなどの取組を世界の廃棄物問題の解決に役立てるための視点から、アジアを始めとする世界の廃棄物・リサイクル事情及びニーズを概観し、今日の我が国が有している経験を海外において活用する道筋を展望します。

2 世界の廃棄物・リサイクル事情

(1)国際的な廃棄物の現状

 廃棄物の定義は各国で異なるため、単純に比較はできませんが、図「日本の一般廃棄物(ごみ)排出量の推移と主要アジア・南米各国の最近の都市ごみ排出量の関係」を見てみると、かつて経済成長とともに急増した日本のごみ排出量ですが、廃棄物・リサイクル対策が進んだため1970年代からはほぼ横ばいとなっています。これに対しアジア・南米各国は、現在のところまだ多くの国が経済成長の緒についたばかりであることもあり、一人一日当たり都市ごみ排出量は少なくなっていますが、今後急増していくことが見込まれています。


日本の一般廃棄物(ごみ)排出量の推移と主要アジア・南米各国の最近の都市ごみ排出量の関係

 図「主要各国の一人当たりGDPと一人当たり排出量の比較」を見てみると、世界の国々の一人当たり都市ごみ排出量は、前項にも述べたようにその国の一人当たりGDPとの相関関係があることが分かります。欧州各国や我が国などは廃棄物・リサイクル対策も比較的進んでいるため、一人当たりGDPが上昇しても都市ごみ排出量があまり高くならない傾向にあります。ただし、一人当たりGDPが極めて高い国の中には、一人当たり都市ごみ排出量も高くなっている国もあります。


主要各国の一人当たりGDPと一人当たり排出量の比較

 これをみると今後急速な経済成長が見込まれる発展途上国が深刻な公害問題や廃棄物問題を回避して循環型社会を達成するためには、一人当たりGDPが上昇しても廃棄物量は少ない日本型の経済成長を促していくことが重要です。

(2)発展途上国の廃棄物・リサイクルを巡る現状

 それでは、発展途上国の廃棄物・リサイクルの取組はどのようになっているでしょうか。

 発展途上国でも特に中国やインドなど、近年急速に工業化が進む国々においては、日本が高度成長期に経験したような公害の問題や、廃棄物処理に関する問題が発生しています。


 例えば急速な経済成長を遂げている中国は、2010年にはGDPで日本を抜き世界2位となりましたが、同時に廃棄物の量も増え、2005年には都市ごみの量が世界一となりました。人口増が進む北京市では都市ごみの量も一日約1.8万トンに達し、現在も年8%の割合で増加しているとされています。しかもこれらの都市ごみの多くは埋立処理しており、埋立場の不足も懸念されています。中国政府もこの問題に対し、2011年から始まる第12次五ヵ年計画で資源リサイクルの産業化を示すなど、積極的な対応を図っていくことが見込まれます。

 国内経済の工業化がそれほど進んでいない発展途上国は、工業化に伴って発生する廃棄物量そのものが少なく、また都市ごみのうち厨芥は家畜の餌・飼料や堆肥として利用したり、ガラスやプラスチック、金属などは何度も再利用されるなど昔ながらのリサイクルが行われています。しかし、厨芥の河川や湖などへの投棄は、環境汚染の要因となっています。

 こうした発展途上国の廃棄物問題の解決に対し、我が国が経験に基づく貢献を行うことは、世界の環境負荷の低減、環境保全につながります。また、特に廃棄物・リサイクル分野においては日本の企業は高い技術とシステムを蓄積しており国際競争力も持っています。これらの企業にとっては発展途上国への事業拡大は大きなビジネスチャンスであるといえるでしょう。さらに、発展途上国にとっては環境に配慮したスムーズな経済成長のチャンスでもあります。


発展途上国におけるオープンダンピングの処分場

 廃棄物・リサイクル分野の産業は「静脈産業」と呼ばれています。資源を採取し、加工して製品を製造し、販売する「動脈産業」と対比したものです。我が国の静脈産業が廃棄物・リサイクルの取組を日本国内で進めることはもちろん、アジアを始めとして世界に展開し、環境と経済の両立を図っていくことが、世界の環境保全にとってきわめて重要となっています。


主要アジア各国の廃棄物・リサイクル政策・廃棄物量
主要アジア各国の廃棄物・リサイクル政策・廃棄物量

3 我が国の廃棄物・リサイクル産業の世界展開に向けて

 前項では、各国の廃棄物を巡る状況を概観しました。特に我が国の経験をアジアなどの発展途上国に伝えることによって、深刻な廃棄物問題に陥ることなく発展を遂げられるよう促すことは世界全体の環境保全にとって非常に重要です。しかしながら、発展途上国にとっては、経済発展が最優先課題であるため、循環型社会の構築を優先課題とすることは困難である場合が多いと考えられます。

 一方、中国のように電気電子機器廃棄物の処理問題を抱え、EUのWEEE指令やRoHS指令と同様の内容を法案として導入するとともに、我が国のエコタウンで展開されているリサイクル技術などの移転を目指す国も現れていることから、国情に合わせて技術やシステムを導入していくことが必要となります。

 他の環境技術と同様、廃棄物・リサイクル対策技術も、市場原理に委ねていては、社会的に望ましい水準まで普及することができません。このため、適切な制度を構築することにより、技術の普及を促す必要があります。

 また、単純に技術だけを導入しても、不適切な運転管理や処理時の廃棄物の状態によって、新たな環境問題を引き起こす可能性があります。さらに、不法投棄の横行等により、適切に収集等が行われず、技術を活かしきれないままで処理等が行われる可能性もあります。そこで、発展途上国で対応可能な技術だけでなく、技術を活かすシステム、人材育成、法制度や諸計画の整備など、廃棄物処理システムの総合的な導入を図ることが大切です。

 すなわち、技術力をもった静脈産業とその技術を活かすためのシステムや人材育成、制度などを一体的にパッケージとして海外に広めていくことが、環境保全の側面だけでなく、環境と経済の両立の観点からも重要だと考えられます。

(1)我が国の静脈産業による海外展開

 我が国の静脈産業の中には、既に海外展開を行っている事業者も存在します。こうした事業者の海外展開のパターンとしては次のようなものがあります。

[1]日本国内における廃棄物の焼却炉やリサイクル施設などの設計・施工実績をベースに、ごみ処理施設等のプラントを海外において設計、施工している静脈産業事業者によるプラント設計、施工型。

[2]日本で蓄積した資源回収・リサイクル技術やノウハウを活用して、海外ニーズに応じた資源回収・リサイクル事業を展開している静脈産業事業者による資源回収・リサイクル事業展開型。

[3]適正な処理を行うための廃棄物処理・リサイクル施設が十分に整備されていない発展途上国において、廃棄物や有害物質の適正な処理等を行う事業を展開している静脈産業事業者による廃棄物の適正処理事業展開型。

[4]アジアへの廃棄物・リサイクル事業の展開に際しては、すでにさまざまな実績を積み、各界とのつながりが深い商社による事業展開型。

[5]自社製品について3Rシステムを構築しており、さらに、国内で培った技術やシステムをアジア地域などに海外展開している国内メーカーによる3R事業展開型。

(2)静脈産業の海外展開を支える国際枠組み

 廃棄物の適正な回収・処理や循環的な利用に当たっては法律等の制度の整備とその適切な執行が不可欠です。一般に、発展途上国では、廃棄物をマネジメントするシステムの優先度が低く、国民の関心も薄いため、都市域に廃棄物が分散している国もあり、これらを適切に収集して運搬し、3Rを推進するとともに、中間処理や最終処分を行う統合的なマネジメントシステムが求められます。相手国で廃棄物が適切に回収、処理されるような社会システムが整っていない状況では、技術を提供しただけでは、廃棄物問題の解決につながることは難しいと考えられます。このため、我が国は、アジア各国において、国家として3Rを推進するための戦略づくりの支援や政策対話を実施しています。また、我が国の提唱により2009年(平成21年)に設立された「アジア3R推進フォーラム」を推進し、3Rに関するハイレベルの政策対話の促進、情報共有、関係者のネットワーク化等を行い、各国において3Rが主要施策として位置づけられるよう促進するとともに、具体的なプロジェクトにつながる事業の実施支援を進め、アジアにおける循環型社会づくりに取り組んでいます。


アジアにおける3R・廃棄物分野の国際協力国家戦略支援

(3)アジアに伝えたい地域コミュニティの力

 循環型社会を目指すためには、自然を敬い、限りある資源を大切にするという「もったいない」の心を国民一人ひとりが持ち、3R行動に積極的に取り組むことも重要です。技術に依存するだけでは、廃棄物問題の解決や、さらには循環型社会の形成に向かうことは容易でありません。廃棄物やリサイクルの当事者の一員である国民一人ひとりが、3Rについて理解するとともに、日常の行為から実践、参加することが欠かせません。我が国でも自治会活動などが廃棄物問題の解決に大きく貢献したように、地域コミュニティや市民活動と社会システム、技術が連携することによって循環型社会が構築されていくと考えられます。世界の循環型社会の構築に向けて、地域コミュニティの力をアジア諸国に広げていくことも重要です。

(4)今後の展開に向けて

 我が国は、経済発展の段階に応じて、さまざまな廃棄物問題を経験し、解決してきた歴史があります。こうした歴史を前提に、我が国静脈産業には、現在の高水準の技術から必要最低限の機能に限定した技術まで多様な技術の蓄積があります。また、廃棄物の適正処理や循環的な利用にあたっては法律等の制度の整備とその適切な執行が不可欠ですが、我が国はアジア各国と法整備等においても協力を行っています。

 こうしたわが国の廃棄物処理、リサイクル技術と、循環型社会の構築に向けた法整備等のシステムに係る国際協力等を背景として、平成23年度において我が国の静脈産業の海外展開を積極的に支援するための事業を行うこととしています。まずは海外展開を目指す先行静脈産業グループに対して事業展開の実施可能性調査等の支援により、我が国静脈産業の海外展開を促進していきます。また、次世代の静脈産業を育成するために企業の新たな循環ビジネスモデルの確立支援を行います。

 さらに、平成22年6月に産業構造審議会がとりまとめた産業構造ビジョン2010に基づき、リサイクル産業の海外展開を積極的に支援すべく、アジアエコタウン協力事業(平成19年度より実施)、アジア資源循環実証事業(平成21年度より実施)に加え、インフラ・システム輸出促進調査事業(リサイクル企業によるFS)を実施することで、我が国リサイクル産業のアジア展開を支援しています。

 我が国の技術とシステムを一体的に、パッケージとして活用しながら、アジア各国が現に直面し、また将来において直面するであろう廃棄物問題が解決されるよう、日系静脈産業の海外展開に取り組み、世界の環境保全に貢献していきます。



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