第4章 持続可能な社会の実現に向けた日本の貢献

第1節 持続可能な社会への道

1 持続可能な社会づくりに向けた動き ~世界のグリーン・グロースの潮流~

 持続可能な社会づくりに向け、国際的な取組が積極的に進められています。例えば、経済協力開発機構(以下本章において「OECD」という。)では、平成21年に開催された閣僚理事会において、「グリーン成長に関する宣言」を採択し、「グリーン成長戦略」を策定することを決定するとともに、その策定に向けた取組強化等を表明しました。同宣言を受けて発表された「グリーン成長戦略中間報告:持続可能な未来のための公約の実施」(OECD、平成22年5月。以下本節において「中間報告」という。)では、「過去の経済成長パターンが環境面において持続不可能であることに対する懸念の強まりと、将来の気候危機の可能性に対する意識の高まりによって、環境と経済はもはや切り離して考えられないことが明らかになっている」との認識のもと、各政府がよりグリーンな成長へと移行する上で現在直面している多くの主要な問題に関して、暫定的な結論を提示しています。こうした中、OECDでは、グリーン成長に向け、組織を挙げて取組を行っています。

 このほかにも、国際連合やアジア開発銀行といった世界の主要な国際機関において、持続可能性を前提とした発展が重要な課題であるとの認識のもと、様々な取組が進められており、環境への配慮を通じた持続可能な社会づくりは、世界的な潮流となっています。

2 グリーン・イノベーションを通じた成長と環境政策

(1)グリーン・イノベーションの必要性と日本の目標

 経済成長は、人類の繁栄に求められる健康や教育などに寄与してきました。世界の例を見ても、経済的な発展と比例する形で、平均寿命が延び、識字率や大学進学率が伸びてきています。その一方で、これまで世界全体としては、経済成長を果たすにあたって、環境への配慮が必ずしも十分ではありませんでした。

 これまで以上に環境制約を考慮した経済成長を実現するためには、環境分野における技術革新を実現しつつ、新たな制度設計や制度の変更、新たな規制・規制緩和などの総合的な政策パッケージにより、低炭素社会づくりを推進するとともに、環境技術・製品の急速な普及拡大を後押しすることが不可欠となります。

 平成22年に策定した「新成長戦略」では、グリーン・イノベーションを促進すること等を通じて、我が国のトップレベルの環境技術を普及・促進し、世界ナンバーワンの「環境・エネルギー大国」を目指すとしています。また、この新成長戦略に基づき、21の国家戦略プロジェクトを設定し、グリーン・イノベーションにおける国家戦略プロジェクトとしては、「固定価格買取制度の導入等による再生可能エネルギー・急拡大」、「環境未来都市」及び「森林・林業再生プラン」の3つを定めました。これら3つのプロジェクトについては、2020年までに実現すべき成果目標の設定とともに工程表を作成し実施しています。

(2)グリーン・イノベーションに資する環境政策の考え方

 グリーン・イノベーションを推進する上で、環境政策が重要な役割を果たします。

 OECDの研究によると、イノベーションに関する環境政策については、大きく分けて、供給側の政策と需要側の政策に分類されます。また、環境政策の策定においては、経済的手法が規制的手法と比較して一般的にイノベーションを誘発する効果が高いとしながらも、経済的手法のなかでも、その方法によって大きく効果が異なることから、イノベーション促進の政策が、「厳しさ」、「安定性」、「柔軟性」、「範囲」及び「深度」の5つの特徴を含むように設計されることが求められるとしています。


イノベーションに関する環境政策の分類

 OECDの中間報告によると、再生可能エネルギー分野など、新しい技術を含む分野の普及を進めるに当たっては、その技術の市場における発展状況に応じた形で適切な政策対応が行われる必要があるとしています。例えば、再生可能エネルギー技術の普及に当たっての初期段階においては、補助金や税制措置により継続的な研究開発・実証支援が求められるとしています。また、政策の対象となる再生可能エネルギー技術の大規模な普及の準備が整った段階においては、各種支援措置は廃止され、自発的な需要に任せた発展に委ねられるべきとしています。


再生可能エネルギー技術の市場における発展段階と求められる環境政策

 環境政策を行うに当たっては、環境技術等の市場における状況を考慮しつつ、将来の環境関連市場の動向を見極めながら行う必要があります。こうした状況を受け、環境省では、平成22年度から、新たな統計調査として、環境経済観測調査を実施しています。この調査は、環境ビジネス関連企業の景況感等の動向を年2回の調査で継続的に把握するものです。

 同調査の平成22年12月調査における結果によると、環境ビジネスは、ビジネス全体と比較して、良い業況にあります。環境ビジネスを現在実施中の企業について、当該環境ビジネスの状況を尋ね、それを全回答企業の会社全体の状況とDI(良いと答えた企業の割合から悪いと回答した企業の割合を引いた値、%ポイント)で比較したところ、「現在」、「半年後」及び「10年先」の全てにおいて、環境ビジネスのDIが全産業を上回り、10年先にかけて一層高まる傾向がみられました。


環境ビジネスの業況DI

3 持続可能な社会づくりに資する技術を支える資金と環境金融

(1)日本における環境分野への研究費の支出とその傾向

 環境問題の解決に資する新たな技術等は、各主体の積極的な取組が無くしては生まれません。環境問題に対応するために必要な技術開発を進めていくためには、それに応じた研究開発投資を適切に行っていくことが求められます。

 日本で支出されている科学技術研究費について見てみると、環境分野への研究費の支出が他の分野に比べ重要視されている現状が見えます。環境分野研究費は平成14年度以降増加傾向にあり、平成21年度までに約4,000億円増加しています。また、環境分野研究費の科学技術研究費総額に占める割合は、平成14年度以降一貫して上昇してきています。


環境分野研究費及びその科学技術研究費総額に占める割合

 また、政府の経費のうち地球環境の保全、公害の防止並びに自然環境の保護及び整備に関する経費である環境保全経費について見てみると、調査研究の総合的推進に関する予算等を含む各種施策の基盤となる施策等の予算額が近年増加していることが分かります。平成23年度における環境保全経費における各種施策の基盤となる施策等は、総額は約997億円であり、環境保全経費の約8.25%に相当します。各種施策の基盤となる施策等は、平成20年以降増加傾向にあり、平成23年度予算については、前年度比で約18%の増額となっています。

 環境関連の科学技術関係予算を用いた研究開発によって多くの成果が出ています。例えば、環境省では、これまで大容量ラミネート型リチウムイオン電池に係る研究開発を推進してきています。2010年(平成22年)末には、民間において大容量ラミネート型リチウムイオン電池を搭載した電気自動車の販売が開始されました。このように、環境関連の国の各種研究開発成果が、民間における実用化開発に着実に結びつく事例も見られます。このように、国として科学技術の研究開発に予算を投じることによって、枯渇性資源に依存しない社会づくりに資する大きな成果がもたらされています。


実用化された電気自動車用リチウムイオン電池の例

(2) 環境金融の新たな役割

 環境問題の解決には、あらゆる社会の仕組みを持続可能なものに変えることが必要です。あらゆる経済活動はお金を媒介としており、社会の仕組みを変えるには、お金の流れも変えていくことが重要です。このことは、金融にとって、社会に対する責任でもあるといえます。中央環境審議会に設置された環境と金融に関する専門委員会が2010年(平成22年)6月にまとめた報告においては、環境金融を「金融市場を通じて環境への配慮に適切な誘因を与えることで、企業や個人の行動を環境配慮型に変えていくメカニズム」と定義し、具体的に期待される役割としては、(a) 1,400兆円を超える我が国の個人金融資産を含めた資金を、環境保全に資する事業活動や環境ビジネス等に対して供給していくこと及び(b) 環境配慮に取り組む企業を評価・支援することの2つを挙げました。また、報告では、新たな提案としては、年金基金による社会的責任投資(SRI)の取り組み促進、企業の環境情報の開示の推進等を挙げていますが、このうち家庭・中小企業における低炭素機器の初期投資負担軽減策であるエコリース事業については、平成23年度からの実施が決まっています。

 環境省では、環境格付融資の促進のため、平成19年から、金融機関が環境格付融資を行い、併せてその融資先が二酸化炭素排出量の削減を誓約する場合に、利子補給を行っています。こうした支援もあり、環境格付融資を行う金融機関は2011年(平成23年)4月時点で47機関と、前年の33機関から大きく広がっています。


環境格付融資の流れ

 今後の環境金融の進展へ向けて、先述した環境と金融に関する専門委員会による報告書における提言の一つとして、有志の金融機関による日本版環境金融行動原則(仮称)の策定が挙げられています。この日本版環境金融行動原則(仮称)については、平成22年8月に末吉竹二郎氏(国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問)の呼びかけに賛同する金融機関等により起草委員会が設けられ、22年度中は行動原則の理念や各金融機関等が取り組むべき基本原則を定める前文・総論部分について議論がなされました。また、平成23年度には業務別のガイドラインの策定に引き続き、行動原則全体への署名の開始を予定しています。この行動原則は、幅広い業態、様々な規模の金融機関の参加を得て、今後の日本における環境金融の議論のベースとなっていくことが期待されています。

4 持続可能な社会づくりに資する知恵の基盤となる教育

 環境問題の解決のためには、環境技術の発展や高度な専門知識を持つ人材の育成だけでは十分ではなく、国民一人一人の環境問題に対する理解が大切です。「子どもの体験活動の実態に関する調査研究」報告書(独立行政法人国立青少年教育振興機構、平成22年)では、幼児期から義務教育終了までの各年齢期における多様な体験とそれを通じて得られる資質・能力の関係性について調査を行ったところ、子どもの頃に「動植物との関わり」が多い大人ほど、休みの日は自然の中で過ごすことが好きであるといった「共生感」が高いことや、子どもの頃に海や川で泳いだこと等の「自然体験」が多い大人ほど、人前でも緊張せずに自己紹介ができるといった「人間関係能力」が高いとの調査結果が出ています。この調査結果から分かるように、子どもの頃の体験は、その後の人生に影響を与えるといえます。このことを鑑みると、国民一人一人の環境問題に対する理解を深め、環境問題の普及啓発を図る上で、子どもに対する環境教育は重要な役割を果たすと考えられます。


「自然体験」と「人間関係能力」の関係

 子どもに対する環境教育や子どもによる自然とのふれあいが重要であるとの認識に基づき、政府においても様々な取組が進められてきました。例えば、環境省では、子どもに対する環境教育に資するため、全国の環境教育・環境学習資料の提供を行う情報データベースサイトを整備している他、ホタルなどの水辺に生息する生きものを守るこどもたちの活動の報告を募集し、ユニークな活動や地域に根ざした活動などを環境大臣が表彰する「こどもホタレンジャー」や、自然体験プログラムの開発や子どもたちに自然保護官の業務を体験してもらい、自然環境の大切さを学ぶ機会を提供する等の取組を行ってきています。



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