第3節 低炭素社会の実現に向けた日本の取組

1 気候変動枠組条約第16回締約国会議(COP16)と日本の対応

(1)気候変動における国際交渉の経緯

 気候変動枠組条約に基づき1997年の気候変動枠組条約第3回締約国会議(COP3)で採択された京都議定書では、温室効果ガス排出量を削減する国際的な取組は、まず先進国から始めることとして、京都議定書第一約束期間(2008~2012年) 中の先進国の温室効果ガス排出削減の数値目標を決めています。しかし、京都議定書には、米国が参加しておらず、また途上国に削減約束が課せられないため、削減約束を負っている国のエネルギー起源二酸化炭素の総排出量は、2008年時点で世界全体の約27%です。削減約束を負っていない途上国の経済発展に伴い、温室効果ガスの世界の排出量は今後も増え続けると予測されています。こうしたことから、今後、実効的な温室効果ガス削減を行うためには、京都議定書を締結していない米国やエネルギー消費の増大が見込まれる中国等の新興国を含む世界全体で地球温暖化対策に取り組んでいくことが必要です。

 京都議定書第一約束期間以降(2013年以降)の温室効果ガス排出削減の枠組みに関する国際交渉については、2007年(平成19年)12月にインドネシアのバリ島で開催されたCOP13において、バリ行動計画が採択され、2013年以降の行動の内容について、すべての締約国が参加して2009年のCOP15までに合意を得ることが決まりました。この決定を受け、2009年(平成20年)12月にデンマークのコペンハーゲンで開催されたCOP15においては、我が国は、米中を含む全ての主要国が参加する公平かつ実効性のある枠組みを構築することを目指して交渉に尽力しました。その結果、「コペンハーゲン合意」(Copenhagen Accord)が取りまとめられ「条約締約国会議(COP)としてコペンハーゲン合意に留意する」ことが決定されましたが、コペンハーゲン合意は、一部の国の反対により、COPにおける正式決定とはなりませんでした。コペンハーゲン合意では、附属書I国(先進国)は2020年の削減約束を、非附属書I国(途上国)は削減行動を、それぞれ、2010年(平成22年)1月31日までに事務局に提出することとされており、多くの締約国が、削減約束及び削減行動を事務局に提出しました。

(2)COP16の成果と日本の取組

 2013年以降の国際枠組みに関する国際交渉は、2010年(平成22年)11月末から12月にかけてメキシコ・カンクンで開催されたCOP16に向けて、COPの下に置かれた作業部会において続けられてきました。

 作業部会として、米国や途上国を含む包括的な枠組みを構成する主な要素(先進国と途上国の排出削減に関する目標や行動、適応策、資金・技術等による途上国支援等)に関し議論する気候変動枠組条約作業部会と、京都議定書の第二約束期間の設定に関し議論する京都議定書作業部会が並行して行われました。先進国が特に前者の議論を進めようとする立場であったのに対し、途上国は先進国が京都議定書の第二約束期間を設定すべきと主張し、対立しました。

 こうした交渉において我が国からは、地球規模での排出削減のため、コペンハーゲン合意を踏まえ、米中等を含む全ての主要国が参加する真に公平かつ実効的な一つの法的拘束力のある国際枠組みの早期構築が不可欠であることを主張し、そうした枠組みの構築に向けて、排出削減の目標や行動、途上国支援の在り方等について積極的に議論に貢献しました。

 また、京都議定書については、

・2008年から2012年までの期間に先進国が温室効果ガスを削減する義務を定めた画期的な国際条約であること、

・しかし、同議定書で現在削減義務を負っている国のエネルギー起源CO2排出量は、2008年時点では世界全体の27%しかカバーしておらず、一方、議定書を締結していない米国と、議定書を批准しているが削減義務を負っていない中国の排出量が占める割合は、1990年の約34%から2008年には約41%にまで増加していること、

・こうした状況において、我が国など一部の国のみが京都議定書のもとで2013年以降も引き続き削減義務を負う現行の枠組みの固定化については、世界規模での真の削減にはつながらないこと

 を主張してきました。

 さらに同年10月には、「森林保全と気候変動に関する閣僚級会合(REDD+ 閣僚級会合)」を日本(愛知・名古屋)で主催し、国際交渉と並行して実際に途上国において排出削減につながる取組の促進にも貢献しました。

 2010年11月末から12月にかけてメキシコ・カンクンにおいてCOP16が開催されましたが、先進国と途上国の対立構造は依然として続いていました。特にCOP16開始当初に行われた京都議定書作業部会での我が国からの京都議定書第二約束期間の設定に反対する旨の発言を契機に途上国より、現在唯一の法的拘束力のある合意である京都議定書をないがしろにしてはならないとの強い反発がありました。

 このような状況の下、交渉第2週目12月5日からメキシコ・カンクン入りした松本環境大臣は、我が国の方針は、決して京都議定書をないがしろにするものではなく、我が国は誠実に我が国に課せられた京都議定書第一約束期間における削減義務の履行と、真の世界全体の削減のためには、一部の国のみが削減義務を負う、京都議定書の第二約束期間の設定ではなく、コペンハーゲン合意を踏まえ、米中等を含む全ての主要国が参加する真に公平かつ実効的な一つの法的拘束力のある枠組みの早期構築が必要との考えを、各国との二国間会談や、12月9日に行われた公式閣僚級会合(ハイレベル・セグメント)における演説を通じて、粘り強く訴えました。


COP16で演説をする松本環境大臣

 また、COP16議長を務めたメキシコのエスピノザ外務大臣は、COP15のように一部の国から会議の進行が不透明であるとの反発を受けないよう細心の注意を払い、交渉を運営しました。また、交渉第2週目の閣僚級会合においても、参加者を制限せずに議題別に協議を行うなど、一貫して透明性を確保した会議運営を取り続けました。

 こうした、我が国の働きかけと議長国メキシコの尽力の結果、最終的に、最終日にエスピノサ議長が提示した決定文書案が、カンクン合意として採択され、先進国と途上国の双方が削減に取り組むことや削減の効果を国際的に検証する仕組みの導入が合意されるなど、今後我が国が目指す国際的枠組みの構築に向けた重要な一歩となりました。

 また、適応、資金、技術移転など、途上国に対する支援に関しても大きな前進が得られました。


カンクンで合意された決定

 COP17は2011年(平成23年)11月末から12月にかけて南アフリカダーバンで行われる予定です。我が国としては、カンクン合意を踏まえ、米中等を含む全ての主要国が参加する真に公平かつ実効的な一つの法的拘束力のある国際枠組みの早期構築という最終目標に向けて、積極的に知恵を出しながら、引き続き、精力的に対話を重ね、交渉の進展に貢献していきます。

2 低炭素社会の実現に向けた日本国内における取組と海外への展開

(1)国が主体となって進める様々な政策

 先に見たように、地球温暖化の防止及び地球温暖化への適応は人類共通の課題であり、米中等を含むすべての主要国による公平かつ実効性ある国際的な枠組みの下で、様々な主体と連携を図りながら施策に取り組むことが重要です。温室効果ガスを可能な限り排出しない社会を実現するため、経済成長、雇用の安定及びエネルギーの安定的な供給の確保を図りつつ地球温暖化対策を推進しなければなりません。このため、政府は、我が国の地球温暖化対策の基本的方向性を示した地球温暖化対策基本法案を国会に提出しています。

 地球温暖化対策の中でも、[1]税制のグリーン化に関する施策として全化石燃料を課税ベースとする石油石炭税にCO2排出量に応じた税率を上乗せする地球温暖化対策のための税、[2]電気事業者が一定の価格、期間、条件で再生可能エネルギー由来の電気を調達することを義務づける再生可能エネルギーの全量固定価格買取制度、[3]温室効果ガスの排出をする者の一定の期間における温室効果ガスの排出量の限度を定めるとともに、その遵守のための他の排出者との温室効果ガスの排出量に係る取引等を認める国内排出量取引制度(以下「地球温暖化対策の主要3施策」という。)については、2010年(平成22年)12月の地球温暖化問題に関する閣僚委員会において、今後の展開についての政府方針が定められました。また、私たちの日々の暮らしの中の省エネの促進、低炭素社会の実現に向けた地域づくりや革新的な技術開発に関連する取り組みもすでに進められているところです。

 ここでは、国が主体となって進める様々な政策のうち、税制のグリーン化と家電及び住宅エコポイント制度を紹介します。


諸外国における温暖化対策に関連する主な税制改正

 ○ 税制のグリーン化

 温室効果ガスの削減へ向けた低炭素社会の構築が世界的な潮流となる中、1990年代以降、欧州各国を中心に環境関連税制の見直し・強化が進んできています。温暖化対策税の早期導入は、後の世代の負担を軽減するために必要であるほか、世界に先駆けた低炭素社会づくりや、グリーン・イノベーションを促進することで環境関連産業の成長を促し、「環境・エネルギー大国」としての我が国の長い目で見た成長・発展に資する契機としても有効と考えられます。

 日本では平成16年から環境税の具体的な検討が行われてきましたが、平成23年度税制改正大綱(平成22年12月閣議決定)において、税制による地球温暖化対策を強化するとともに、エネルギー起源CO2排出抑制のための諸施策を実施する観点から、平成23年度に「地球温暖化対策のための税」を導入することとされました。具体的には、全化石燃料を課税ベースとする現行の石油石炭税にCO2排出量に応じた税率を上乗せする「地球温暖化対策のための課税の特例」を設けるものになります。国会に提出された税制改正法案では、この特例を平成23年10月1日から施行することとしており、3年半にわたる税率の経過措置を設けるほか、一定の分野については、所要の免税や還付措置を設けることとしています。併せて、導入に伴う各種の支援策も行うこととしました。


「地球温暖化対策のための課税の特例」のCO2排出量1トン当たりの税率(3年半の経過措置後の姿)


「地球温暖化対策のための課税の特例」による税率

 このように、「地球温暖化対策のための税」は、川上段階で全化石燃料に対してCO2排出量に応じた課税を行い、これが川下の価格へと反映されていくことにより、広範な財・サービスの価格に環境負荷コストを反映させるものです。こうした経済的インセンティブ(誘因)を与えることにより、産業部門、家庭・事務所等の民生部門、運輸部門等の広い分野において、低炭素型の経済活動へのシフトが進み、エネルギー起源CO2の排出抑制が図られると期待できます。

 同時に、中長期的に温室効果ガスの削減を進めるためには、産業、民生、運輸等の各部門における低炭素化に向けて大規模な投資等を進める必要があります。地球温暖化対策のための税は、先述の価格効果を通じて広く経済活動に働きかけるとともに、課税により確保した税収を、効果的な地球温暖化対策に様々に活用することで、CO2排出抑制への二重の効果を期待することができます。

 さらに、地球温暖化対策のための税の導入により、広く、国民一人ひとりが温暖化対策の必要性や税負担の方向を理解することにより、意識改革を通じて社会全体で地球温暖化対策が進む、アナウンスメント効果も期待できるなど、直接の効果以上に我が国温暖化対策におけるエポックメイキングな施策と考えることができます。

 この他にも、平成23年度税制改正大綱においては以下のような税制上の措置が盛り込まれています。例えば、住宅の省エネ改修及び低公害車用燃料供給設備に対する特別措置が延長されたほか、環境関連投資促進税制(グリーン投資減税)の新設が盛り込まれました。これは、エネルギー起源CO2排出削減又は再生可能エネルギー導入拡大に相当程度の効果が見込まれる設備等を取得等をして、これを1年以内に国内の事業の用に供した場合、30%の特別償却(中小企業者等については、7%の税額控除との選択制)ができるというものです。これらの措置により産業、民生業務、運輸部門における更なるCO2排出削減努力を後押ししていきます。

 ○ 家電及び住宅エコポイント制度

 家電エコポイント制度は、地球温暖化対策、経済の活性化及び地上デジタル対応テレビの普及を図るため、省エネ性能の高いグリーン家電の購入により様々な商品等と交換可能なエコポイントが取得できる制度のことであり、平成21年5月15日から平成23年3月31日の間に購入された製品を対象としていました。冷蔵庫やテレビなどの家電製品は、製造時に比べて使用時に多くのCO2を排出するため、こうした制度を導入し、省エネ性能の高い製品の普及を促すことは、低炭素社会の形成につながるものといえます。


家電エコポイント制度

 家電エコポイント制度の実施により、着実に省エネ性能の高い製品が消費者に購入されてきたことが分かります。平成21年9月以降は毎月100万以上の家電エコポイントの申請を受け付けました。また、エアコン、冷蔵庫及びテレビの全出荷台数に占める統一省エネラベル4☆以上の製品の割合は制度開始以降増加し、平成22年は4~12月の平均で、エアコンが約96%、冷蔵庫が約98%、テレビが約99%と、大部分が省エネ性能に優れた家電となっていました。


家電エコポイント申請受付数(個人申請・単月)

 また、家電エコポイントは経済にも好影響を及ぼしていると考えられます。民間調査会社の推計によると、平成22年の国内家電小売市場規模は、家電エコポイント制度や夏の猛暑などにより、前年から約1兆円拡大し、約9兆5,000億円になったとされており、家電エコポイント制度は、国内の需要不足が言われる中、経済的な落ち込みへの対処という点においても意義があったと考えられます。

 このように、家電エコポイント制度を通じ、消費者の環境に配慮した消費行動に積極的な影響を与えることによって、テレビ等の家庭電化製品の市場のグリーン化と国内需要の喚起の両立を推進しました。

 家電エコポイントと同様の制度として、住宅エコポイントがあります。住宅エコポイント制度とは、地球温暖化対策の推進及び経済の活性化を図ることを目的として、エコ住宅の新築やエコリフォームをした場合に様々な商品等との交換や追加工事の費用に充当できるポイントが取得できる制度です。


住宅エコポイント制度

 この制度の導入によって、省エネ性能の高いエコ住宅の普及が進んでいます。制度導入以降、リフォームと新築を合計した申請戸数は平成22年3月の約3,000戸から平成23年3月の約7.5万戸まで増加してきており、時間の経過とともに、住宅エコポイントのメリットが認知され、活用されてきている様子がわかります。また、住宅エコポイントの実施に伴い、対象となっている内窓・リフォーム用ガラスの出荷量は、前年同月比2~3倍の増加で推移しています。家庭部門における地球温暖化対策が課題とされている中、このように政府が積極的に住宅の省エネ化を推進していくことは、低炭素社会づくりに資するという環境的な効果に加え、国内の新規需要喚起という経済的な効果等も期待できます。


住宅エコポイント申請戸数

(2)地域からの低炭素社会づくり

 2009年度の民生部門(業務その他部門及び家庭部門)の二酸化炭素排出量は、京都議定書の規定による基準年の二酸化炭素排出量から3割程度増加しています。また、民生部門における二酸化炭素排出量は、日本全体の二酸化炭素排出量の約1/3を占めており、民生部門における二酸化炭素排出量の抑制は、低炭素社会を目指す上で重要であるといえます。加えて、エネルギー転換部門及び運輸部門の二酸化炭素排出量は、基準年と比較して、それぞれ約18%及び約6%増加しています。また、エネルギー転換部門及び運輸部門における二酸化炭素排出量は、日本全体の二酸化炭素排出量のそれぞれ約7%及び約20%を占めており、これらの部門への対策も重要な課題です。


最終需要部門における二酸化炭素排出量の推移(基準年=100として指標化)

 我が国では、こうした課題に対し、集約型都市構造の構築、地域単位でのエネルギー利用の効率化等、地域の構造そのものを低炭素型に転換していく対策の強化が必要との認識のもと、地方公共団体による低炭素地域づくりを通じて、日本における二酸化炭素排出量の削減を進めています。

 このような取組のうちの一つに、チャレンジ25地域づくり事業があります。地球温暖化対策は、産業、交通、民生、地域づくりなどあらゆる分野で総合的な対策を進めていくことが課題であり、国をはじめ地方公共団体、民間事業者、NPO、地域住民など多様な主体が参画し、取組を進めていくことがますます重要となってきています。こうした状況を踏まえ、環境省では、平成21年度にチャレンジ25地域づくり事業を開始しました。この事業により、公募により地域の二酸化炭素排出量の削減に効果的な取組を推進し、地域の活性化を図るとともに、環境負荷の小さい地域づくりの実現が進められています。

 チャレンジ25地域づくり事業で採択された事業の一つに、中津川市の事業があります。この事業では、清掃工場の低温排熱をトレーラーにより輸送する熱輸送システム(トランスヒートコンテナ)と、地下水を利用することにより通年で安定した温度を空調等に利用できる地中熱ヒートポンプの二酸化炭素排出削減効果を実証することになっています。トランスヒートコンテナに関する事業については、廃棄物焼却施設から発生する低温排熱を回収して、離れた場所にある公営の病院へ運び、空調や給湯の熱源として利用することにより、二酸化炭素の排出削減の実証実験を行っています。


トランスヒートコンテナによる熱輸送のイメージ

(3)海外に展開する日本の低炭素技術とシステム

 ア 鉄鋼業における低炭素技術の海外展開

 低炭素社会づくりに資する日本の技術やシステムは、様々な分野で海外に展開しています。こうした事例の一つに、鉄鋼業に関する技術があります。

 鉄を生産するに当たっては、エネルギーを大量に使用するため、二酸化炭素を多く排出しますが、各国の鉄鋼業のエネルギー原単位を見てみると、日本は他の国よりも小さく、同じ量の鉄を生産する際に使用するエネルギーの量が比較的少ないことが分かります。このため、日本の鉄の生産に関する技術が海外に広がることは、よりエネルギー使用量の少ない形での鉄鋼生産につながり、世界的な低炭素社会づくりに資するといえます。

 日本の鉄鋼業において開発・実用化された主要な省エネ技術は、海外への普及が進んでおり、日本国外における二酸化炭素の削減に大きく貢献しています。日本が開発・実用化してきた省エネ技術としては、コークス乾式消火設備や高炉炉頂圧発電といった設備があります。こうした主要設備は、中国、韓国、インド、ロシア、ウクライナ、ブラジル等の海外に普及しており、その二酸化炭素排出削減の効果は、2009年(平成21年)10月現在で、計約3,300万t-CO2/年に達しているとされています。また、こうした省エネ技術を国際的に移転・普及した場合の二酸化炭素排出削減ポテンシャルは、クリーン開発と気候に関するアジア太平洋パートナーシップに参加する7ヵ国で1.3億t-CO2/年、全世界では3.4億t-CO2/年(日本の排出量の約25%に相当)ともされています。


鉄鋼業(高炉・転炉法)のエネルギー原単位の国際比較

 イ 発電に関する技術の海外展開

 わが国が有する低炭素社会づくりに資する技術のうち、発電に関するものは多くあります。その中でも、今後温室効果ガスの削減ポテンシャルが高い技術として期待されているのが、高効率石炭火力発電技術です。

 石炭火力発電の効率の推移について、わが国と他国とを比較すると、日本が1990年以降一貫して、世界最高水準にあることが分かります。また、高効率石炭火力発電技術の二酸化炭素排出削減ポテンシャルは、財団法人日本エネルギー経済研究所の推計によると、世界の二酸化炭素排出削減ポテンシャル全体の約1割強に相当するとされており、大きな期待が寄せられています。我が国では、日本の専門家を中国、インド等における発電効率の悪い石炭火力発電所へ派遣し、二酸化炭素排出削減につながる効率改善等のための設備診断や助言等を行ってきています。


各国の石炭火力発電の効率の推移

 ウ 交通輸送システムの海外展開

 交通輸送に関しても、日本の優れた技術が海外に展開しています。

 我が国が誇る新幹線及びその技術は、台湾やイギリスへ海外展開をしています。台湾高速鉄道(台湾新幹線)は、台北市(南港駅)から高雄市(高雄駅)まで、全長約345kmを繋いでおり、東海道・山陽新幹線「のぞみ」700系を改良した700T型車両が最高速300km/hで運行されています。また、イギリスで初の高速鉄道路線が開業し、わが国の新幹線技術を用いた車両が運用されています。

 環境性能についてフランスのTGV、ドイツのICEと比較すると、新幹線は車体幅が大きく広い車内空間を確保しているにもかかわらず編成重量は軽く、定員1人当たりに換算すると半分以下です。また、軽量であるため走行時の省エネに優れ、レールの摩耗も小さくなるほか、高い車内気密性を実現していることから、トンネルの断面積が小さくすることが可能で、他と比べてインフラ構造物と用地幅を小さくし、資源消費量を低減できます。


新幹線の比較優位性

 新幹線の走行時における省エネルギー化には、多くの技術が活かされています。最新のN700系(2007年(平成19年)登場)では、空力特性に優れた先頭形状、車体外板と窓ガラスとの間の凹凸をなくした一体フラット構造が採用されているほか、全車間に全周ホロを設置し、徹底的な車体表面の平滑化により走行抵抗の低減を図っています。また、曲線区間の速度向上を図るための車体傾斜システムの採用や、電力回生ブレーキを拡大し、省エネルギーを進めています。

 環境性能に優れた日本の新幹線技術の普及が海外にも拡大することで、わが国の鉄道産業の発展はもとより、地球全体の温暖化対策に貢献することが期待されます。

 エ 中国と連携した日本の技術の展開

 日本の民間会社による低炭素社会づくりに資する技術・システムの中国への展開も進んでいます。平成22年の第5回日中省エネルギー・環境総合フォーラムでは、過去最大となる44件の協力案件が合意されました。

 スマートグリッドに関する案件としては、日本の民間企業と中国の大連市との間の協力案件があります。この案件では、大連市甘井子区で開発が進められている「大連エコサイエンス&テクイノベーションシティ(中国名:大連生態科技創新城)」において、先進的なスマートコミュニティの実現に向けた協業を行うこととされました。


スマートグリッド関連システムのイメージ

 このほかにも、日中の協力案件として、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託を受けた日本の民間事業者と北京市交通委員会との間で、通信技術を活用したサービスシステムと、その効果検証システムを組み合わせることにより省エネ・CO2の総合マネジメントを行う「新交通情報システム」の技術実証事業が進められています。


中国北京市で実証研究される交通情報システムのイメージ

 現在、中国は、大気汚染や水質汚濁などの環境問題に直面しており、これらは中国経済の持続的発展を制約する要因としても懸念されています。こうした状況において、上述のような日中間の協力が進むことは、中国の環境問題やエネルギー問題の解決に向けた取組が進み、中国における持続可能な社会づくりに資するとともに、日本にとっては新しい環境関連市場の開拓につながるなど、双方がメリットを享受できる望ましい状況であるといえます。


 日本の低炭素社会づくりに資する優れた技術・システムは、民間企業や公的部門の努力により、様々な形で海外に展開されビジネス化されてきています。こうした動きは、日本の技術を、個別の設備・機器納入のみならず、システムとしてインフラ関連産業の海外展開を進めるべきとする近年の状況に対応するものです。今後、日本がシステムとしてインフラ関連産業の海外展開を進め、運用を行っていく場合、現地の労働力を積極的に活用していくとともに、必要な教育を十分に行うことが重要になると考えられます。こうした機会を通じて、これまで以上に、「もったいない」などの持続可能な社会を実現する上で欠かせない日本の心を、優れた技術とともに広めていくことができます。システムとしてインフラ関連産業の海外展開を進めていくことは、単にビジネス市場の拡大として日本の経済に貢献するにとどまらず、そのシステムに込められた日本の優れた技術と心を同時に広めながら、世界の持続可能な社会づくりに貢献するものといえます。



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