第4節 生物多様性に配慮した社会経済への転換

1 生物多様性の普及啓発

 将来にわたって生物多様性の恵みを持続可能なかたちで享受していくことのできる社会へと転換していくためには、生物多様性の保全と持続可能な利用を、地球規模から身近な市民生活のレベルまで、さまざまな社会経済活動の中に組み込んでいく必要があります。

 愛知目標の20の個別目標の1番目は、「生物多様性の価値とそれを保全し、持続可能に利用するための行動を認識する」ことがあげられています。平成21年に内閣府が実施した世論調査によると、生物多様性という言葉の認知度(「聞いたことがある」あるいは「言葉の意味を知っている」人の割合)は全国で36.4%にとどまっています。COP10の開催等に伴って、生物多様性への関心は大きな高まりをみせていますが、人間活動による生物多様性への負荷を低減していくためには、すべての人々が生物多様性という言葉の意味やその価値を認識し、実際の行動につなげていくことが重要であり、そのことがすべての出発点となります。


「生物多様性」という言葉の認知度

2 企業による取組

 企業等の事業者は、製品やサービスを通じて、生物多様性の恵みを広く社会に提供する重要な役割を担っています。また、事業者の活動は、さまざまな場面で生物多様性に影響を与えたり、その恩恵を受けたりしており、生物多様性と密接に関連しています。

 愛知目標の個別目標には、「ビジネスを含む全ての関係者が、持続可能な生産・消費のための計画を実施する」ことが掲げられています。このように、民間事業者をはじめとするあらゆる主体が、生物資源の利用、サプライチェーン、投融資などにおいて、生物多様性に配慮することが求められています。

 COP10の日本開催を機に、日本経済団体連合会など日本の経済界の主導による「生物多様性民間参画パートナーシップ」が設立されました。このパートナーシップは、企業をはじめとする幅広い主体に、生物多様性に配慮した事業活動への参画を促すための枠組みであり、平成23年2月現在、440団体が参画しています。


生物多様性民間参画パートナーシップの概念図

 こうした先進的な取組が進む一方、事業者による取組にはまだ多くの課題も残されています。環境省が平成22年8~9月に企業に対して行ったアンケート調査では、生物多様性保全と企業活動について、「企業活動と大いに関連があり、重要視している」と回答した企業は、昨年から約4ポイント上昇したものの、17.2%にとどまっています。また、事業活動において生物多様性保全の取組を行っている企業は、全体の4分の1程度となっています。事業活動は、取引先の企業や消費者、さらには生産者、地域社会との密接の関係のうえで成り立っていることから、単独の企業だけの取組には限界があります。そうした意味で、事業者が生物多様性の保全や持続可能な利用に取り組む必要性や価値が、こうした関係者に広く理解される必要があります。


企業活動における生物多様性保全の取組

3 家庭における取組

 生物多様性に配慮した社会経済に転換していくためには、私たち一人ひとりが日々の暮らしの中で生物多様性に配慮したライフスタイルを心がけていくことが重要です。環境省では、国民が生物多様性の保全と持続可能な利用に取り組む際のヒントとして、「ふれよう」「まもろう」「つたえよう」を3つの柱とした「国民の行動リスト」を公表するとともに、一人ひとりがこれから取り組んでいく行動を宣言する「My行動宣言」を呼びかけています。

 日本のエコロジカル・フットプリントの67%は家計消費活動から生じており、消費者の立場として、生物多様性にも配慮した商品やサービスを選択していくことは、生物多様性の直接的な保全にもつながります。私たちが利用している商品やサービスについて、生物多様性にどのような影響を与えているかといった情報が詳細に示されているケースはまだまだ少ない状況にありますが、近年、持続可能な木材製品や水産物を第三者機関が認証する取組が進められています。


日本の総消費エコロジカル・フットプリントに対する最終需要の内訳

 愛知目標の個別目標の中には、持続可能な水産資源の漁獲や農林業の重要性が掲げられています。また、企業など事業者の活動は国民の消費によって支えられており、そうした意味では、消費者の選択が事業活動に大きな影響力をもっています。私たち一人ひとりが、生物多様性や持続可能性などに配慮しながら商品やサービスを選択することを通じ、事業者の活動をよりよい方向に変化させていくことができることになります。そのためには、生物多様性に関して関心を持ち、商品を選択するために必要な知識を身につける努力も必要となります。



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