第2節 地球と生き物とのつながり

1 地球上でつながる生物たち

(1)空の道を渡る−フライウェイ−

 近年、標識を付けた小鳥の再捕獲による調査や、カモ類、タカ類などの衛星による追跡調査技術の進歩によって、一部の鳥類の渡りのルートが詳細に明らかにされつつあります。たとえば、我が国では秋から冬にかけて全国で数多く見ることができるヒドリガモやオナガガモについては、夏期にロシアのカムチャツカ半島などで繁殖して、秋頃、北海道に飛来します。飛来したこれらのカモは、各地の湖沼で羽を休め、採餌して栄養を補給しながら日本の南方へ移動し、日本各地で越冬します。


オナガガモ・ヒドリガモの渡りのルート及びオナガガモの飛来地別の飛来数推移(月別)

 このような、空を介した野鳥の生息地のつながりは、空の道のつながりという意味で「フライウェイネットワーク」と呼ばれています。このフライウェイネットワークは、国際的にも重要な生態系ネットワークの一つです。

(2)陸域のつながりと隔離による種の分化

 氷河期の日本列島は、現在とは異なり大陸と地理的に連続していました。この時期に、南方の台湾方面、又は、北方の朝鮮半島・サハリン方面などから様々な生物が日本列島に移動してきました。現在、哺乳類など、我が国で見ることができる野生生物の多くは、氷河期に陸域をつたって我が国にやってきた野生生物の子孫にあたります。


日本の哺乳類の近隣地域との共通性

 これらの生物は日本列島内で分布を広げましたが、切れ込みの深いトカラ構造海峡等にはばまれて、これらの海峡以北と以南で全く異なる種が生息することになりました。

 このように地理的に隔離された野生生物は、長い年月を経て別の種に分化していくと考えられています。我が国に生息している野生動物は、両生類をはじめとして、我が国にのみ生息している固有種が多いのが特徴です。両生類の場合、その生息環境が水域であるため、島嶼ごとに隔離され、また、山地が入り組んだ我が国の複雑な地形に分断されて著しく分化が進んだ結果だと考えられています。

(3)森と海の広大な連環

 森や川を下ってきた栄養塩類は、海に流れ込みます。海の中では、この栄養塩類を利用して植物プランクトンや海藻が育ちます。これらの植物プランクトンや海藻は動物プランクトンや小型の魚類、貝類の餌となり、これらのプランクトンを大型の魚類が捕食します。さらに、こうして育まれた魚類や貝類などは鳥や人間に利用されています。このように、海域と陸域は一体の生態系であると捉えることができます。

 海域と陸域のつながりの大規模な事例として、アムール川の事例があります。オホーツク海の流氷は、アムール川がアムール湾に注ぎ込む際に形成されます。オホーツク海北西部では、アムール川の淡水とオホーツク海の海水とが混じり合い、冬場には、北西の非常に冷たい季節風を受け、塩分の薄くなった海水が氷結して海氷となります。海氷の形成に伴い、冷たくて塩分の濃い重い海水が沈み込んで大陸棚から流れ出し、その過程でアムール川から供給される鉄分をオホーツク海南部や北太平洋まで運びます。この栄養塩類を養分として、オホーツク海では大量の植物プランクトンが発生し、これがサケ・マス・タラ・ニシン・サンマ・カニ・アマエビ・ホッカイエビ・ホタテガイ・コンブ・カキ等の餌となって、オホーツク海の豊かな漁場をはぐくみます。


海流によって運ばれるアムール川から流入する鉄分

2 健全なつながりの損失

(1)森林生態系のつながりの損失

 世界の森林は、商用伐採や薪炭林としての過剰な伐採又は農地等の他の用途への転用などの人為的な影響、森林火災などの自然現象によって減少しています。

 生物多様性の保全のために重要な原生林は、世界全体で約11億ヘクタールあり、北アメリカ、南アメリカ、東南アジアを中心に分布しています。世界全体で原生林の減少が進んでおり、1990年(平成2年)から2010年(平成22年)までの間に約8,860万ヘクタールの原生林が消失しています。


世界の森林消失の状況(上)と世界の地域別原生林の面積(下)

 森林の生物多様性を考える場合、森林のつながりやまとまりの大きさの程度も重要です。東南アジアの熱帯林では、森林の分断化が森林に生息するゾウやオラウータンに重大な影響を与えていることが報告されています。これらの大型草食動物は森林内を広範囲に移動しながら植物の果実を食してその種子を散布する種子散布者としての機能を有しており、これらの動物に依存する植物の繁殖に重大な支障をきたすと考えられています。

(2)健全な水環境のつながりの損失

 これまで河川沿いの氾濫原の湿地帯や河畔林は農地、宅地などとして営々と開発、利用された結果、流量の減少、水循環の経路の変更や分断、砂礫の供給の減少、攪乱の減退や水質汚濁などに伴い、河川生態系は大きな影響を受けてきました。

 我が国においても、昭和初期以降、ダムや堰堤などの河川横断物による分断化が進んでいます。例えば、評価期間後半の1990年代に、全国の主な113の河川(一級河川等)で、調査区間(河川の中下流部)のうち、サクラマスやアユなど、遡上能力の高い魚類の遡上可能な範囲が河口から25%未満であったのは17河川(15%)、50%未満であったのは46河川(41%)でした(図2-2-13)。

 また、河川の流域環境の改変が、海洋環境に影響を与えている可能性があることも報告されています。

 相模湾に流入している神奈川県相模川において実施されてきた砂防、ダム、堰の建設や砂利採取等は人々の生活に様々な恩恵を与えている一方で、本来の土砂動態を変化させ、ダムの貯水能力や流域の生態系に様々な障害が顕在化し始めています。

 相模ダムでは貯水池への土砂堆積が進行し、利用容量が減少しています。また、城山ダムから河口にかけての中下流河道域では、ダム建設などによる土砂移動量の減少によって、砂礫質の河原の減少による河畔域の生態系の衰退、水生生物の良好な生息環境を形成する瀬や淵の劣化が生じています。また、相模川周辺海岸域では、渡り鳥の飛来地となっている河口干潟の減少、茅ヶ崎海岸の砂浜の後退などが生じています(図2-2-14)。


相模川の河口の変遷


相模湾におけるブリの漁獲尾数推移



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