第2節 持続可能性の検証と豊かさの考察

1 世界の持続可能性の現状

 私たちが望む豊かな暮らしは、主に持続可能な環境と経済と社会の3つの側面の安定の上に成り立っていると考えることもできます。その私たちの暮らしが持続可能なものであるのかを検証するためには、地球が生み出す資源を地球環境が許容できる範囲で利活用できる環境保全システムが構築・維持されているかどうか(環境の持続可能性)、公正かつ適正な経済活動を可能とする経済システムが構築・維持されているかどうか(経済の持続可能性)、人間の基本的権利や文化的社会的多様性を確保できる社会システムが構築・維持されているかどうか(社会の持続可能性)のそれぞれを考慮する必要があります。


持続可能性に関する3つの側面

 ここで、環境の側面の持続可能性が損なわれれば生活環境の悪化等によって社会の側面の持続可能性に影響を及ぼし、また、自然資源の劣化や枯渇によって経済の側面の持続可能性にも影響を及ぼしうるといったように、環境は、社会と経済の基盤であると考えることができます。

 近年の世界的に重要な社会変化として、人口動態をあげることができます。1970年には37億人であった世界人口は2009年に68億人と急増しました。国連人口部の推計によると、これまで、中国をはじめとする東アジアやインドをはじめとする中央・南アジアの人口増加に牽引される形で人口増加が進み、今後2050年までは、東アジアの人口増加傾向が緩やかになりつつ、中央・南アジアでの人口増加が依然として顕著で、また、アフリカでの人口増加傾向が加速するとされています。


世界の人口動態

 1970年(昭和45年)から2009年(平成21年)までの経済動向としては、特に中国におけるGDP成長が顕著で、東アジアを中心とするアジア経済の伸びがみられます。一方で、アフリカでは、人口増加の傾向に比してGDPの伸びが見られず、1日1.25ドル以下で生活をする貧困層の割合が1980年代から2005年まで5割を超えており、地球規模での社会経済的な格差は拡大しつつあると考えられます。


世界のGDPの割合の推移(地域別)

(1)エネルギー供給と地球温暖化

 1971年(昭和46年)から2008年(平成20年)までの間に世界のエネルギー供給量は約2.2倍に増加しました。また、これをエネルギー源別に見ると、石炭・石油・天然ガスの占める割合は、1970年代から現在に至るまで8割以上を占めています。


世界の人口、GDP、エネルギー供給の推移

 また、世界の二酸化炭素濃度の測定結果に基づき我が国が算定している二酸化炭素分布情報によると、2009年の大気中の二酸化炭素の全球平均濃度は、過去最高水準となっていることがわかりました。


二酸化炭素濃度分布の経年変化

(2)バイオマスエネルギーの消費と森林資源の損失

 森林の薪炭材としての利用については、世界全体で毎年伐採されている34億m3の森林資源の内、その約半分が薪炭材として消費されています。特に、アフリカでは貧困を背景とした森林の薪炭林としての過剰利用や農地開拓による森林伐採が顕著に進んでいると考えることができます。


森林伐採の内訳(地域別)

 また、これに加えて、食料需要の増加等の背景もあって、近年、アフリカ、南アメリカ、東南アジアの熱帯地域を中心に農地面積が拡大して森林面積は減少する傾向にあります。


森林面積と農地面積の推移(地域別)

 さらに、違法伐採若しくは公的な機関の把握できない森林伐採は、公的な統計データに反映されないため実際の森林伐採量は公表されている数値より高いことが懸念されています。

(3)食料需給の変化と水資源の枯渇

 カロリー供給の構造の変化については、動物由来の食料によるカロリー供給の割合が1961年(昭和36年)の15.4%から2007年(平成19年)の17.2%までやや増加しているものの、全体としては、穀物等の植物由来の食料生産の増加によるものと考えられます。


人口一人当たりのカロリー供給量推移(世界)

 アジアにおけるカロリー供給の構造の変化を見てみると、1960年頃から2007年にかけてカロリー供給総量が約1.5倍に増加し栄養状態が改善される傾向にある一方で、1970年(昭和45年)に動物由来の食料によるカロリー供給の割合は7%程度であったものが、2007年には15%まで上昇しています。この傾向は東アジアにおいて顕著であり、カロリー供給の総量は約2倍、動物由来の食料によるカロリー供給の割合は1970年の7%から2007年の21%まで3倍に上昇しています。


人口一人当たりのカロリー供給量推移(東アジア)

 一般に、同じ水量を用いて畜産物と穀物を生産した場合、畜産物の方が非効率的であるとされており、水1m3で生産できる小麦が0.2〜1.2kg、トウモロコシが0.3〜2.0kgであるのに対して、牛肉は0.03〜0.1kgとなっています。今後、2050年までの間に、特に東アジアを中心として、飼料穀物の需要増大に由来する穀物需要の増加が見込まれており、これによる水資源の欠乏が懸念されています。


穀物の需要予測と水資源の枯渇状況

(4)地下資源の採掘と環境負荷

 鉱物資源や化石燃料といった地下資源は有限であり、これらの枯渇性資源について、現時点での確認埋蔵量から年間生産量を割った可採掘年数は、鉄鉱石が70年、鉛が20年、銅が35年、金が20年、クロムが15年、石油が46年とされているように、その多くが100年を下回っています。


世界の主な地下資源の確認可採埋蔵量・年間生産量(左軸、対数表示)及びその可採年数(右軸)

 隠れたフローについて、鉱物資源として銅を例に考察します。銅鉱石の品位の低下は、銅の単位あたりの生産に伴う廃棄物や銅の精製に必要なエネルギーの増加を意味することから、鉱物資源の採掘に伴う環境負荷を評価するためには、これらの隠れたフローを含めた関与物質総量(TMR: Total Material Requirement)についても考慮する必要があります。TMRの推移を見ると、2001年以降、世界の銅鉱石の生産量に大きな変化はないもののTMRの値は増加していると考えられ、銅鉱石の品位の低下に伴う環境負荷の影響が懸念されます。


世界の銅鉱石の生産量と関与物質総量(TMR)の推移

(5)経済の発展と環境負荷

 GDPの伸び率と二酸化炭素の排出量の増加率は、相対的にはデカップリングが進んでいる状況ですが、絶対的なデカップリングが進んでいるとはいえない状況にあります。


経済とCO2排出量の相対的デカップリング

 世界約140カ国について、GDPとWWFが2010年(平成22年)に公表したエコロジカルフットプリントの数値との相関を見てみると、一人あたりのGDPが高い国については、エコロジカルフットプリントの値も高い関係にあることがわかります。


国別一人当たりGDPとエコロジカルフットプリントの関係

2 我が国の持続可能性と豊かさ

 豊かさの測定には様々な課題があり、国内外で多くの研究や試みが行われています。豊かさは多元的なものとして捉えられ、主な要素として、物的生活水準(所得、消費、富)、健康、教育、安心・安全(経済的、身体的)等が挙げられています。

(1)我が国の持続可能性の現状

 国内の非金属鉱物資源の投入量の大きな減少等を背景に、天然資源等の投入量が1990年から2008年にかけて約22億トンから15億トンまで減少しています。また、これらを背景に、我が国においては、人々の生活や産業における資源の効率的な利用の程度を示す指標である資源生産性(単位GDPあたりの資源投入量)は増加傾向にあり、我が国の社会経済における天然資源の消費のあり方に変化が見られています。


国内資源、輸入資源の種類別天然資源等投入量


天然資源投入量、GDP、資源生産性の推移

 次に、経済活動に伴う環境負荷の例として、温室効果ガスの排出量について見てみましょう。平成21年度の温室効果ガスの総排出量(確定値)は、12億900万トン*(注:以下「*」は二酸化炭素換算)でした。これは、京都議定書の規定による基準年(1990年度。ただし、HFCs、PFCs、SF6については1995年。)の総排出量(12億6,100万トン*)と比べると、4.1%下回っています。平成20年度の総排出量と比べると、産業部門をはじめとする各部門の排出量が減少したことなどにより、5.7%減少しています。平成20年度と比べて平成21年度の排出量が減少した原因としては、平成20年10月に発生した金融危機の影響による景気後退に伴う、産業部門をはじめとする各部門のエネルギー需要の減少が平成21年まで続いたことなどが挙げられます。


わが国の温室効果ガス排出量

 最後に、我が国の自然資源のストックという視点から、生物多様性の状況について見てみましょう。

 第1の危機(人間活動や開発による危機)として、干潟については、戦後まもなくの1945年頃に現存していた841km2の干潟が、1978年頃には34%が消滅して553km2となり、1996年頃には496km2まで減少して1945年頃に比べて41%の干潟が消滅しました。陸水域である湿原については、1900年頃から1996年頃の面積を比較すると約61%が消滅しています。


我が国の干潟面積の推移(第1の危機)

 第2の危機(人間活動の縮小による危機)として、耕作放棄地の面積は1985年から2005年にかけて約2.9倍まで増加しています。


耕作放棄地の面積(第2の危機)

 第3の危機(人間により持ち込まれたものによる危機)としての外来生物問題について、近年では、侵略的な外来種が我が国の自然環境の中に定着しつつある状況にあり、我が国固有の生態系への影響の増大も懸念されています。


河川に生息している外来種(1991〜2005年)

(2)豊かさの要素としての環境の質の状況

 汚染のない環境は健康な生活を営むための基盤であり、美しい水、きれいな空気、豊かな緑といった良好な環境は、私たちの生活の質を高めるものであると考えられます。その環境の質を測定することは、環境の側面から見た豊かさの程度を知るための一つの指標となりうると考えられます。

 豊かな日常生活を享受するに当たって多くの人が良好な大気環境を求めている中で、我が国の大気中の二酸化硫黄、二酸化窒素、一酸化窒素の濃度は減少しており、我が国の大気汚染の程度は改善に向かっています。


大気汚染物質濃度の推移

 次に、我が国の水質について、水質汚濁に係る環境基準の達成率は、全体で87%と比較的良好な状況にあります。特に河川の水質改善が進んでおり、環境基準の達成率は92%に達しています。一方、内陸の湖沼については環境基準の達成率は53%と低く、有機物が多く富栄養状態にあると考えられます。


環境基準達成率の推移(BOD又はCOD)

 私たちの身の回りにある緑地の状況について見てみましょう。都市域に暮らす人々にとって最も身近な緑地の一つである都市公園等の面積は平成21年度末で全国計約116,667ha(98,568箇所)となっており、一人あたりの面積は約9.7m2/人となっています。また、我が国の森林面積は、国土面積の3分の2を占める約2500万haで推移しており、森林における樹木の幹部分の体積を表す森林蓄積量は人工林を中心に昭和41年から平成19年までの間に2倍以上増加しており森林資源が成熟しつつあると考えられます。


わが国の都市公園等の面積と箇所数の推移


森林蓄積量推移

 このような環境の改善に向けた取り組みや、比較的良好な環境の状態も背景にあって、自然とふれあいやすい環境条件が形成されるとともに、人々にも自然とふれあいを求めるような意識も向上しつつあると考えられます。国土交通省が実施している全国一級河川の水質現況調査結果において、多様な視点で河川の環境の現況を総合的に評価する「今後の河川水質管理の指標」では、「川の中に入って遊びやすい」とランクされる河川が全国の一級河川の7割を超えています。また、環境省において全国でエコツアー等を実践している団体等を紹介するエコツアー総覧は、平成17年から運用を開始し、平成22年12月現在、登録されている事業者数は、開始当初の1.9倍の728事業者となり、登録されたエコツアーの累計も3.4倍の2,603件となるなど、自然に親しもうとする人々の意識は着実に高まっていると考えられます。


エコツアー事業者(上)及びツアー登録数推移(下)


河川と豊かなふれあいに関する指標推移

(3)豊かさに関する多様な要素の状況と環境との関わり

 豊かさの多様な要素に関し、平均余命のデータで見てみると、我が国の寿命は戦後延び続け、昭和30年代には男性で65年前後、女性で70年前後であった寿命は、平成21年には男性で79.59年、女性で86.44年まで延びています。国民一人あたりのGDPと国民の寿命の関係を測定すると、一般的にはGDPの成長とともに寿命が延びる傾向にあります。一方、我が国においては、他の多くの国々の傾向とは異なり、GDPの成長は見られない時期においても平均寿命が延びています。


各国別一人あたりのGDPと寿命の関係

 次に、暮らしの中での時間の使い方の変化について見てみると、昭和51年以降、平日の就業時間は8時間前後で推移して大きな変化はありませんが、土曜日・日曜日の就業時間は減少傾向にあり、逆に、昭和51年から平成18年までの間の余暇活動の時間は、土曜日では4.5時間から5.7時間、日曜日で6.3時間から6.8時間まで増加しています。


生活時間の使い方の推移(睡眠、就業、余暇)

 人と社会とのつながりの側面で見てみると、近所好き合いの程度は年を経るごとに低下し、人のつながりが希薄化する傾向にあります。

 このような中、環境の保全活動を通じて、人と人とが互いに関わり合いを持ちうる傾向を見ることが出来ます。自然や環境を守るためのボランティアをしている人は、地域や学校などの団体や家族と一緒に活動している割合が高く、個人と社会や家族といった人間同士の関わりの中でこれらの活動が行われている様子がうかがえます。特に、家族と一緒に自然や環境を守るためのボランティアを行っている人の割合は、他のボランティア活動における割合よりも高く、環境保全活動を通じた家族とのふれあいの場が提供されている側面もあると考えることが出来ます。また、環境保全を図る活動をするNPOの団体数は増加する傾向にあります。人々は、自らの暮らしに深い関わりを持つ環境という共通の関心事を通じて、社会の中でのつながりを確認することができると考えることが出来ます。


自然や環境を守るためのボランティア活動(活動の形態別)


家族と一緒にボランティアをする人の割合(活動種類別)

 我が国の国民生活選好度調査における「どの程度幸福か」に関する10段階評価の結果を見ると、我が国においては、5点及び7又は8点と答える人が多い傾向を見ることが出来ます。

 このような点差のピークが二つに分かれる傾向は、欧州における社会調査におけるイギリスやデンマークのように8点と答える人が最も多い傾向とは異なっており、我が国においては必ずしも多くの人が広く幸福であると感じている状況とはいえないと考えられます。


「どの程度幸福か」10段階評価(日本と欧州4カ国の比較)

 このように、豊かさの要素を掘り下げて考えると、経済活動の規模や物質的な生活水準だけを重視した考え方を取る場合に比べて、将来に向けた持続可能性と現在の豊かさとを同時に向上させていく可能性が開けてきます。持続可能性や豊かさの評価や測定に向けた取り組みの一層の進展が期待されるとともに、私たち一人一人自らが、望ましい豊かさとは何かについてより深く考えてみることも重要であると考えられます。



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