第2章 内外の人間活動とその環境への影響

 経済活動を始めとする私たちの活動は、地球環境に様々な影響を及ぼしています。他方で、そのような環境負荷を低減し、環境問題の解決に向けて取り組む動きも盛んになっています。ここでは、経済情勢と環境との関係や、環境問題の解決に向けた動きを概観します。

1 人類が地球環境に及ぼす負荷と地球温暖化が人類の生存基盤に与える影響

(1)人口やエネルギー消費の増加などの地球環境全体への負荷

 世界では、人口、エネルギー使用及び農用地の増加や森林の減少等により、人間活動が地球環境に及ぼす負荷は確実に増大しています。また、特に急激に人口が増加し、工業化が進展している東アジア等の地域では、資源の利用やエネルギー消費量も増大しています。私たちの生存基盤が脅かされるような安全保障上の問題とならないように、地球環境の悪化を加速させるおそれのある地球温暖化を防止する対応を急がなくてはなりません。


世界人口の推移


世界の地域における一次エネルギー供給量の推移


世界における地域別の経済成長率の推移


(2)世界の水問題

 世界の水資源のうち、人間が容易に利用できる淡水の量について2008年の世界人口で考えた場合、約40L/人・日使えることになりますが、一方2005年の日本人の生活用水使用量は307L/人・日であり、多くの水を使っています。また、わが国は食料の多くを海外に頼っていますが、海外では気候変動に伴い水不足になる地域、浸水地域が増加する地域があります。


(3)わが国の主な環境負荷の状況

 温室効果ガスのわが国における総排出量は、2007年度(平成19年度)において13億7,400万トン(二酸化炭素換算)となっており、京都議定書の規定による基準年(1990年度。ただし、代替フロン等3ガス(HFCs、PFCs及びSF6)については1995年。)の総排出量(12億6,100万トン)と比べ、9.0%上回っています。部門別内訳では、業務その他部門、家庭部門が特に増加傾向にあり、今後の削減が求められています。

 2006年のエネルギー起源二酸化炭素排出量を国際比較した場合、わが国の排出量は世界全体の排出量の4.3%を占めており、1人当たり排出量では世界で9番目となっています。


日本の温室効果ガス排出量


部門別エネルギー起源二酸化炭素排出量の推移と2010年目標


二酸化炭素の国別排出量(2006年)


二酸化炭素の国別1人当たり排出量(2006年)

 わが国の経済社会における物質の流れを見ると、入口の指標である資源生産性は平成18年度で約35万円/トンであり、いわゆる循環型社会元年である平成12年度と比べ約33%上昇し改善しています。また、わが国に投入された物質のうち、循環利用されている割合を示す循環利用率は、平成18年度で約12.5%となり、平成12年度と比べ約2.6ポイント上昇しました。また、1人1日当たりのごみ排出量は、平成18年度に1,116グラムで、平成12年度比5.8%の削減となっています。わが国の最終処分量は、平成18年度で約29百万トンであり、平成12年度と比べ約49%減少しました。


わが国における物質フロー(平成18年度)


ごみ総排出量と1人1日当たりごみ排出量の推移


取組指標の目標及び実績


資源生産性及び循環利用率の推移


最終処分量の推移

2 経済活動と環境への影響

(1)電力に係る二酸化炭素排出原単位の悪化

 経済活動の基盤となる電力の電源構成の変化は、二酸化炭素の排出量に大きな影響を与えます。平成19年のわが国の電力に係る二酸化炭素排出原単位(送電端)は、453g-CO2/kWhでした。近年、排出原単位が悪化する傾向にあります。


電力供給に係る二酸化炭素排出原単位の国際比較

 平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震による原子力発電所の停止により、同年以降の排出原単位は当面は、さらに悪化するものと考えられます。近年、火力発電、特に石炭火力発電の割合が高くなってきています。環境省の試算によれば、石炭火力発電所由来の二酸化炭素排出量が増加し、国内のエネルギー起源二酸化炭素排出量に占める割合もおよそ15年で約2.5倍になりました。


各国の発電量に占める石炭火力発電の割合

 このような中でわが国は、低炭素社会づくり行動計画に定められているとおり、CCS技術の開発等を推進しながら、石炭火力の二酸化炭素排出を削減していくことが求められます。


わが国の石炭火力発電所の二酸化炭素排出量及びエネルギー起源二酸化炭素に占める割合

 わが国は、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの新たな導入・活用策を通じ、2020年には最終エネルギー消費に対する再生可能エネルギーの比率(ヒートポンプ等を含む)を世界最高水準の20%まで引き上げることとしています。また、低炭素社会づくり行動計画に位置づけられたとおり、2020年に発電電力量に占めるゼロエミッション電源(再生可能エネルギー・原子力発電等)の比率を50%以上に引き上げることとしています。


最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合(目標値)

 わが国は、今後、非化石エネルギーの利用拡大に最大限取り組むとともに、徹底した安全を確保しつつ原子力利用等を進めていくこととしています。これらに加え、中越沖地震により停止していた原子力発電所も再開することになれば、二酸化炭素排出原単位の改善が進むことが期待されます。


(2)ガソリン価格の高騰と自動車利用の関係

 平成20年は、世界的にガソリン価格が高騰しました。この時期の高速道路利用台数は、例年に比べ低く留まっていることが分かります。また、ガソリン販売量も同様の傾向にあります。

 消費者は、ガソリン価格の高騰を受けて、自動車の利用を控えたり、使い方を工夫したりしたと考えられます。


ガソリン価格の高騰と高速道路利用台数


平成18~20年のレギュラーガソリン販売量


(3)市況の急激な変化による物質循環への影響

 平成20年後半からの世界景気の減速を受け、需要の減退により多くの天然資源の価格が急落しました。同様に、循環資源の価格にも影響が生じました。

 例えば、平成20年の夏以降、鉄スクラップの価格が急落しました。また、ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)の価格についても、秋頃から急激かつ大幅な下落が見られるようになりました。


鉄スクラップ価格の推移

 このため、使用済みペットボトルが輸出事業者・市町村において大量に停留することや、使用済みペットボトルから再商品化される国内のフレークなどの価格が大幅に低下することが懸念されました。


国内のPETフレーク・バージン市況推移

 このように循環資源の価格は、市場で取引されるようになると、天然資源の価格変動の影響を大きく受けます。したがって、安定した国内循環システムの体制整備においては、国際市況といった経済要因の影響を理解し、これを考慮した仕組みを作ることが重要です。

 以上、見てきたように経済活動の動向は、エネルギーの構成や燃料や資源の価格、環境関連の設備投資等に様々な影響を与えます。環境政策の検討には、エネルギー価格の変動のような経済事情を織り込んでいくことが重要です。低炭素社会づくり行動計画では、あらゆる部門における二酸化炭素の排出削減を進めるため、二酸化炭素に価格を付け、市場メカニズムを活用するとともに、二酸化炭素排出に関する情報提供を促進することとしています。また、環境基本計画に基づき環境的側面、経済的側面、社会的側面の統合的な向上を図っていくことが必要となっています。

3 環境負荷を低減する活動の動向

 次に、国、地方公共団体、企業やNPO、NGOなど、環境問題に取り組む主体の動向を見ます。


(1)国の取組

 国は、様々な環境保全に係る施策に取り組んでいます。環境省は、毎年度、環境保全に係る施策が政府全体として効率的、効果的に展開されるよう、各府省の予算のうち環境保全に関係する予算について環境保全経費として取りまとめています。近年、環境保全経費の国の予算額に占める割合は概ね横ばいですが、国の予算全体の減少に応じて環境保全経費の総額も概ね減少傾向にあります。


環境保全経費の国の予算に占める割合の推移


(2)地方公共団体の取組

 住民に身近な存在である地方公共団体が、環境対策に果たす役割はますます大きくなっています。地方公共団体において環境行政に従事する職員数は、平成20年4月1日現在、全団体で75,235人、普通会計部門に従事する職員数(一般行政部門)の3.0%と減少傾向にあり、清掃部門で、ごみ・し尿などの収集・処理業務を民間業者などへ委託する取組が進められていることが一因と考えられます。このように、清掃部門や公害部門の職員数は減少傾向ですが、環境保全部門の職員数については、近年やや増加しています。

 都道府県、市町村の環境行政に係る予算の推移及び普通会計予算に占める割合からは、地方公共団体における環境行政への位置づけは高まっていますが、予算面では厳しい状況にあることが分かります。


地方公共団体の普通会計部門従事職員数に占める環境行政従事職員数の推移


都道府県における環境関連予算の推移


市区町村における環境関連予算の推移


(3)学校における環境教育

 環境教育の現状を把握する調査の結果によれば、環境教育を行うために今後設置したい施設については、太陽光、風力などの新エネルギー施設やセンサー等による自動消灯システムなどの省エネ機器に関心が集まっており、また、環境教育の推進のために、副読本や資料等の生徒用の教材の充実等が求められていました。


環境教育の一環として実施している体験活動(小学校)


環境保全活動や環境教育を行うために今後設置したい施設等


環境教育を推進する上での課題・要望


(4)企業及びNPO、NGOなどの取組

 環境省の調査によれば、平成19年度に環境情報の開示を実施している企業数は、1,631となっており、情報開示の方法は、ホームページへの掲載や環境報告書の発行が多数を占めています。環境会計は、761社において既に導入されていますが、現在のところ導入は検討していないとする企業数も多い状況です。このほか、グリーン購入の推進等、企業の環境保全への取り組みが広がっています。


環境情報開示を実施している企業数


環境会計の導入状況

 また、環境保全の取組において、NGOやNPO等の非営利団体が果たす役割はとても大きく、平成19年には、環境NGO数が4,532、活動分野別(複数回答)にみると、全国で500を超える団体が活動しているのは、環境教育、自然保護、まちづくり、森林の保全・緑化、美化清掃、水・土壌の保全、リサイクル・廃棄物、地球温暖化防止などの分野となっています。


環境NGOの個人会員数


環境NGOの活動分野(複数回答)


(5)国際社会の取組

 国境を越えた環境問題がますます大きくなる中で、国際社会でも、地球環境に係る問題への取組が進んでいます。環境関連条約の発効数は近年増大しており、その分野も多様になってきています。


地球環境関連条約採択数の推移

4 環境と経済を持続的に発展させる新しい価値観の形成

 平成20年7月に行われたG8北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の二酸化炭素排出量を少なくとも半減する長期目標について、気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択を求めることなどを盛り込んだ首脳宣言が取りまとめられました。ノーベル平和賞受賞者でケニアの元環境副大臣のワンガリ・マータイ氏が世界中に広めることを提唱した「MOTTAINAI」は、キャンペーンなどを通じて、持続可能な循環型社会の構築を目指す世界的な活動が発展しています。平成22年には、愛知県名古屋市で生物多様性条約COP10が開催されます。わが国は生物多様性の保全と自然資源の持続的な利用が両立するモデルを、わが国の里山を冠した「SATOYAMAイニシアティブ」として、世界へ発信していきます。一方、地球温暖化問題のように一度生ずると将来世代にわたり、取り返しがつかない可能性をもたらす問題については、予防的な取組方法の考え方に基づく対策を必要に応じて講じていかなくてはなりません。

 このように、環境の保全と経済の発展を両立させ、健康で豊かな生活を送るため、地球温暖化の防止、循環型社会の構築及び自然との共生などの取組が不可欠であるという価値観が世界の動きから個人の意識に至るまで共有されるようになってきました。


トキの野生復帰


 平成20年9月25日、新潟県の佐渡島において10羽のトキが放鳥されました。日本の空にトキが羽ばたくのは昭和56年に野生のトキを捕獲して以来、27年ぶりのことです。

 トキは、江戸時代には全国各地で見られるごくありふれた鳥でしたが、狩猟などにより、その数は激減しました。昭和56年にわが国最後の5羽全てを捕獲し、佐渡トキ保護センターで人工繁殖の取組を開始しました。平成11年に中国から贈呈されたトキにより初めて人工増殖に成功し、現在では100羽を超えるまでになりました。

 新潟県の佐渡島では、平成27年頃に60羽程度のトキが定着することを目標に、トキが安心して生息できる環境を整えるため、行政機関や農家、大学、NGO等が合意形成を図りつつ連携・協力して、環境保全型農業やエサ場づくりなどを展開しています。放鳥されたトキの中には、本州に渡って広範囲に移動しているものや、本州に渡った後に再び佐渡に戻ったものもいます。環境省ではこのようなトキの動きを見守りつつ、モニタリングを行ってトキの生態に関する情報収集を行っています。また、野生復帰ステーションでは飼育下のトキが自然の中で自立して生存できるよう、野生順化訓練を進めています。


トキを放鳥される秋篠宮同妃両殿下


田んぼで餌をついばむトキ



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