第3章 環境の世紀を歩む道筋

 第1章、第2章で述べたとおり、環境に負荷を与える人間活動は依然として拡大しており、地球温暖化の進行、資源消費の増加、生物多様性の劣化などが進んでいます。

 今、私たちは、100年先の人類に、21世紀初頭の選択が正しかったと言われるかどうかの岐路に立っています。わが国は、このような厳しい認識の下、地球温暖化を始めとする環境問題の解決に向け、国際社会をリードしていこうとしています。

第1節 100年先を見据える国際交渉と日本の役割

 地球と人類の未来を決める国際交渉の論点や国際交渉においてわが国が果たすべき役割を見てみましょう。

1 G8北海道洞爺湖サミット等の成果

 平成20年5月にG8の環境担当大臣等が神戸に集まり開かれたG8環境大臣会合は、「気候変動」、「生物多様性」及び「3R」の3つの分野について、同年7月に開催された北海道洞爺湖サミットに向け、有益なインプットを与えるものとなりました。

 平成20年7月に北海道洞爺湖で開催されたサミットでは、気候変動問題について、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減させるという長期目標について、気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択を求めること等について合意がなされました。また、全ての先進国間で比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的な削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を設定することを認識しました。

 平成21年4月にイタリアのシラクサで開かれたG8環境大臣会合では、「生物多様性に関するシラクサ宣言」が採択されたほか、現下の財政・経済危機という文脈での低炭素技術の開発と活用、気候変動対策、生物多様性、そしてわが国が提案した子どもの健康と環境に関する議論が行われました。

2 京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス削減枠組

 京都議定書では、温室効果ガス排出量を削減する国際的な取組は、まず先進国から始めることとして、第一約束期間(2008〜2012年)中の温室効果ガス削減の枠組を決めています。削減義務を負っている国のエネルギー起源二酸化炭素の総排出量は、2006年時点で世界全体の約30%しかありません。このため、第一約束期間後の枠組では、「共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則」という考えの下で、すべての国が参加することが強く望まれます。


(1)京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス排出削減枠組の国際交渉

 平成19年12月にインドネシアのバリ島で開催されたCOP13では、バリ行動計画が採択され、すべての締約国が参加して京都議定書第一約束期間後の2013年以降の温室効果ガス排出削減枠組について、2009年のCOP15までに合意に至ることが決まりました。

 気候変動枠組条約の下に設置されている特別作業部会(条約AWG)は、6月にドイツのボンで会合を開き、12月のCOP15での合意に向けて、議長が示す交渉文書に基づき議論を行う予定です。


(2)京都議定書目標達成計画等に基づくわが国の取組

 ア 京都議定書目標達成計画

 京都議定書は、気候変動枠組条約の下で平成17年に発効し、わが国は、第一約束期間(2008〜2012年)中の温室効果ガス排出量を基準年度比で6%削減するという法的拘束力のある約束をしています。6%削減目標を達成するために、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成17年法律第61号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づいて、京都議定書目標達成計画(平成17年4月28日閣議決定(平成20年3月28日全部改定)。)が定められています。わが国の温室効果ガス総排出量は、平成19年の確定値で13億7,400万トン(二酸化炭素換算)であり、基準年の総排出量(12億6,100万トン)を9.0%上回っています。このため、6%削減目標を達成するためには、15.0%(森林吸収源対策での削減3.8%、京都メカニズムでの削減1.6%を含む)も削減しなくてはなりません。


京都議定書目標達成計画の進捗状況


温室効果ガスの排出状況及び2010年度の温室効果ガス排出量の目安

 イ 低炭素社会づくり行動計画

 G8北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減させる目標を気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択を求めることについて、G8間で共通理解が持たれ、わが国も2050年に現状から60〜80%削減するという長期目標を掲げ、低炭素社会づくり行動計画を平成20年7月29日に閣議決定しました。


低炭素社会づくり行動計画(平成20年7月29日閣議決定)の概要

 同計画では、21年の然るべき時期に中期目標として国別総量目標を発表すること、国際的支援として5年間で100億ドル程度の資金提供を行う「クールアース・パートナーシップ」の推進等を行うこととしました。国内対策としては、革新的技術開発、既存先進技術の普及を図ります。また、地熱エネルギーを含めた再生可能エネルギーの利用拡大を進めるほか、排出量取引の国内統合市場の試行的実施、税制のグリーン化等の国全体を低炭素化へ動かす仕組みづくり、低炭素型の都市づくりなどの地方、国民の取組の支援について定めました。


中期目標の6つの選択肢

 ウ 国内排出量取引制度

 国内排出量取引制度とは、排出量の交付総量を設定した上で、排出枠を個々の主体に配分するとともに他の主体との排出枠の取引や京都メカニズムクレジットの活用を認めること等を内容とするものです。平成20年10月の地球温暖化対策推進本部の決定に基づき、「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」が始まっています。平成21年3月現在、参加申請のあった事業者の総排出量はわが国の産業部門全体の排出量の約7割をカバーしています。

 エ 税制のグリーン化

 税制のグリーン化については、低炭素社会づくり行動計画では、税制の抜本改革の検討の際には、環境税の取扱いを含め、低炭素化促進の観点から税制全体を横断的に見直すこととされました。第171回通常国会において、自動車重量税及び自動車取得税の時限的免除等の自動車関係諸税のグリーン化、住宅の省エネ改修に係る税額控除制度の創設等の省エネ住宅促進税制の拡充・延長等が盛り込まれました。


(3)温室効果ガス排出削減に係るわが国の中期目標の検討状況

 京都議定書の付属書I国に対しては、中期目標の案の検討についての情報を国連に提供することが奨励されています。わが国の中期目標の検討を科学的、論理的に行うため、内閣総理大臣が開催する「地球温暖化問題に関する懇談会」の下に平成20年10月、「中期目標検討委員会」が設置されました。7回の検討委員会が行われ、平成21年4月、6つの選択肢が提示されました。


(4)温室効果ガス排出削減の長期的目標に係る技術上の見通し

 温室効果ガス排出削減は、技術の進歩抜きには達成できず、排出削減の様々な長期的目標も技術の発達を前提にしています。私たちは、温室効果ガス排出削減の可能性に関する技術的な見通しを踏まえ、エネルギー供給の約65%を石油や石炭が占める社会から脱却していかなくてはなりません。

 スターン・レビューでは、2050年に温室効果ガスの濃度を550ppm(二酸化炭素換算)で安定化させるために必要な排出削減に係るコストの上限値は、年間のGDPの1%程度であろうと見込んでいます。

 IPCC第4次評価報告書の第3作業部会報告書では、温室効果ガスの排出削減方策を取り上げ、2030年までと2030年以降に活用が期待される重要な技術を示しています。

 平成20年5月に、(独)国立環境研究所を中心とした「2050日本低炭素社会」シナリオチームが公表した「低炭素社会に向けた12の方策」は、2050年にわが国の二酸化炭素排出量を1990年比で70%削減することが可能であることを示しました。


(5)COP15に向けたわが国の国際交渉

 わが国は、京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス削減に係る国際枠組みについて、気候変動枠組条約COP15において合意することを目指し、以下の点を基本に国際交渉をリードします。

・京都議定書上で削減義務のある国だけでなく、共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則の下、アメリカ・中国・インドを含む全ての主要経済国が参加する公平かつ実効的な枠組とする。

・IPCCの科学的知見を参考にするとともに、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するという長期目標を気候変動枠組条約の下で採択する。

・この実現に向け、今後10〜20年後に世界全体での排出量をピークアウトさせることを目指し、低炭素社会の構築や革新的技術開発の推進を含む2050年までの世界全体での排出量の削減のあり方を共有する。

3 生物多様性条約第10回締約国会議に向けたわが国の取組

 人類の生存には、生物多様性の維持された地球環境が必要です。経済社会の中で自然に生物多様性が維持されていくように、経済社会のルールや仕組みを変えていくことが必要です。


(1)生物多様性基本法の成立まで

 平成20年5月、自然と共生する社会を実現することを目的とした生物多様性基本法(平成20年法律第58号)が成立しました。折しも、同5月にドイツで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)が、平成22年10月にCOP10を愛知県名古屋市で開催することを決定するなど、国内での生物多様性に対する認識や取組を飛躍的に向上させる好機を迎えています。


(2)生物多様性はなぜ必要か

 毎日の食卓に上るご飯や野菜を始め、我々が毎日の暮らしで無意識に享受している恵みの多くは、生物多様性によってもたらされています。そうした認識が十分にない中で、今日の人間活動が生物多様性に与える負荷は無視できないものになってきています。

 ミレニアム生態系評価(MA)や生態系と生物多様性の経済学(TEEB)の中間報告などの動きに見られるように、最近では、世界規模の視点に立って、我々人類が生物多様性からどのような恩恵を受けているか、生物多様性が悪化した場合どのような影響を被るかなどを評価し、政策につなげようとする試みが行われています。

 環境省は、平成20年度に日本のサンゴ礁がもつ生態系サービスの一部について現在の経済的価値を試算しました。その試算によれば、観光・レクリエーションの提供で2,399億円/年、商業用海産物の提供で107億円/年、波浪・浸食の被害からの保護で75〜839億円/年の経済価値があると見込まれました。サンゴ礁は生物種が豊富な生態系の一つとして保全上重要であると言われますが、存在することで計り知れない恩恵を与えていることも認識する必要があります。


日本のサンゴ礁生態系が持つ3つの機能に関する現在の経済的価値の試算結果


(3)生物多様性条約第10回締約国会議に向けた日本の取組

 生物多様性条約には、 生物多様性の保全、 生物多様性の構成要素の持続可能な利用及び遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分、という3つの目的があります。

 COP10では、2010年以降の新たな目標を含む生物多様性条約戦略計画の改定と、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」に関する国際的枠組みの検討終了が重要議題とされるほか、さまざまな議題が予定されています。わが国は、ABSについては、国際的な遺伝資源の利用実態を踏まえ、実質的な利用上の支障が生じないよう、また生物多様性の保全や持続可能な利用にも配慮された枠組みとなるよう会合への参加等を通じて議論に貢献します。

 生物多様性条約戦略計画の見直しについては、「生物多様性の損失速度を、2010年までに顕著に減少させる」という2010年目標を、一層測定可能で多くの立場の人々が自らの目標として認識でき、取組の推進につながるような目標にすることが重要です。そのためにはGBO2には盛り込まれていなかった生態系サービスの経済評価や人と自然の関わりに関する指標を取り入れる必要があります。この観点から、わが国は、現在第2フェーズの作業が行われているTEEBに参画し、持続可能な自然資源管理などの指標や、わかりやすく計測可能な新目標を提案します。

 また、COP10に向け、国際的にも課題となっている海洋保護区の指定などを推進するため、東アジアを中心としたサンゴ礁保護区のネットワークを構築します。

 さらに、一次産業を中心とした人間活動と自然との相互の関わりにより形成された二次的自然環境における持続可能な自然資源管理を全世界的に展開していくためのモデルを、わが国の里山を冠した「SATOYAMAイニシアティブ」としてCOP10で提案・発信します。国内では、事業者が生物多様性に配慮した活動を自主的に行うためのガイドラインの策定や、国民一人ひとりの行動を促す生物多様性に配慮した行動リストの提案を通じ、生物多様性に配慮した企業活動が盛んになるように支援し、国民のなお一層の参加を確保するようにしていきます。

4 人類の発展の物質的基盤を確保する3R

 人口の増加と途上国も含めた経済発展に伴い、長期的には世界中で資源への需要が増大し、天然資源の枯渇と廃棄物の問題がより深刻化することが懸念されます。このような中で、既にわが国の先導によって「3Rイニシアティブ」が進められているほか、OECD、UNEP等の国際機関により資源生産性の向上や資源循環利用に伴う環境影響の低減に向けた取組が活発化しています。


(1)3Rイニシアティブ

 わが国は、平成20年のG8環境大臣会合において3Rを取り上げ、「神戸3R行動計画」に合意しました。この行動計画によって、3R活動が、資源生産性向上や経済活動に伴う資源消費と環境汚染の切り離し(デカップリング)に貢献するという認識が共有されました。その上で、G8各国が今後取り組む具体的行動として、「3R推進を通じた資源生産性の向上と目標の設定」、「開発途上国の能力開発の支援」などが列挙されました。今後は、行動計画に基づく取組を進め、平成23年のG8環境大臣会合等に向けて、行動計画に基づく施策のフォローアップを行うこととされています。

 わが国は、「神戸3R行動計画」の具体化の一つとして、平成21年に「アジア3R推進フォーラム」を発足させます。このフォーラムを通じて、アジア各国において優良な3Rの具体的な取組を創出、発展させ、「循環型社会」を実現するための地域協力を活性化させたいと考えています。


(2)物質フロー分析及び資源生産性の向上に関する国際的取組

 平成20年3月、OECDでは、「資源生産性に関するOECD理事会勧告」が採択されました。G8においても「資源生産性を考慮した目標」の設定に関して合意がなされるなど資源生産性の向上について国際的な取組機運が高まったことを踏まえたものです。今後はこの勧告に基づき、加盟国が、物質フローとそれに付随する環境影響に係る分析能力を強化するとともに、それらの情報を目標設定に使用することを含め、計画目的で利用することを検討することなどが求められています。わが国は、既にこうした内容を循環型社会形成推進基本計画(平成20年3月閣議決定)に盛り込み具体的な取組を推進しています。


(3)資源の利用に伴う環境影響の低減に向けた国際的取組

 3RイニシアティブやOECDでの取組などを通じて、明らかになってきた課題の一つが、天然資源の採掘から運搬、消費、廃棄といったライフサイクル全体における「持続可能な資源管理」の実現には、科学的な知見の蓄積・評価が重要であるということです。UNEPは平成19年11月に、「UNEP持続可能な資源管理に関する国際パネル」を設立し、資源の利用と環境影響・持続可能性に関する情報収集等に取り組んでいます。わが国は、資金拠出や「持続可能な資源管理に関するアジア地域セミナー」の開催を通じ、持続可能な資源管理に関する国際的取組に大きく貢献しています。


資源生産性・持続可能な資源管理に関する国際的な動向



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