物の豊かさ心の豊かさか
 これまでみたように、私たちは、環境負荷の低減に向けより一層の取組を行うことが求められていますが、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄型の社会経済システムを前提にした取組では、その効果には限界があることから、限られた環境容量の中で持続可能な社会を構築していくためには、今日の社会経済システムそのものの見直しを図ることが必要になっています。
 こうした考え方に基づき、政府においても内閣総理大臣主催の「21世紀『環の国』づくり会議」を設置し、「持続可能な簡素で質を重視する」社会への転換を図り、地球と共生する『環の国』日本の実現するための方策を検討しました。同会議では、『環の国づくり』とは、現在の社会経済の構造、私たちの生活のあり方と価値観を環境の視点から変革していくことであるとの認識の下、従来型の社会経済システムを、経済活動で使用される資源はできるだけ少なく、かつ循環的に使用するとともに、経済発展の内実を量的拡大から質的向上に移していくべきということが議論され、さまざまな提言がなされました。
 新しい社会経済システムの具体像については、今後、市民、企業、政府等のあらゆる主体が一体となって環境負荷の低減に取り組み、かつ、検討していく中で生み出されるものであると考えますが、各主体の取組の中には、今日の社会経済システムの見直しにつながる動きを見出すことができます。
 例えば、耐久消費財の使用年数の長期化や中古品小売業の売上の急増等、消費者が新品へのこだわりを捨てている傾向が見えていることや、「モノの豊かさ」よりも「心の豊かさ」を求める人の割合が増加していること、ゆとりのある時間の過ごし方に価値を求める傾向が見受けられることなど、社会の豊かさへの価値観が変わってきていることが伺えます。また、第2章第2節4でみたように、企業におけるリース・レンタル業の増加に現れるような、物の利用からサービスの利用への転換、つまり脱物質化が社会全体で見られるようになれば、個別製品の効率改善では達しえない結果がもたらされる可能性があります。さらに、地域における環境に関する自発的な取組の拡充を通じた地域の活性化は、従来の一極集中型の大量生産に基づく社会経済システムとは、別の方向性を指し示しています。

環境基本計画における「持続可能な社会」の定義
 これまでみてきたように、わが国を含めた世界の社会経済システムの基盤となる環境は、多くの分野でより一層深刻な状況にあります。こうした状況に対し、企業や市民の取組が徐々に浸透し、経済成長以上に環境負荷を低減させるという環境効率性の向上が図られてきていることは事実ですが、環境負荷の総量を一定の範囲にとどめるためには、今日の大量生産・大量消費・大量廃棄の考え方に基づく社会経済システムそのものを根本的に見直し、経済の成熟化を伴いながら、資源とエネルギーの大量消費に依存しない新しい段階の社会への移行を目指さなければなりません。
 地球サミットから10年を迎えた本年、ヨハネスブルグサミットが開催され、持続可能な発展の持つ意味について改めて議論が行われることとなりますが、私たちはこの機会を捉え、持続可能な社会の構築に向け、現在どのような選択を行い、第一歩を踏み出す必要があるのかじっくりと考え、将来のために環境の視点から社会の構造改革を進めていく必要があります。

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