1 環境対策と技術革新(イノベーション)


 第1節でみた環境制約を回避するためには、環境影響が発生する以前に十分な対応を図るべく、今日のような不況期においても新たな対策に着手することが必要不可欠です。こうした対策は、適切に実施された際には、技術革新、雇用創出、その波及的効果に加え、将来の損害回避等、さまざまな効果を通じ、経済にとってプラスの効果を与え得ることとなります。
 まず、技術革新についてみると、第1章第2節でみたように、自動車や太陽光発電については、適切な対策が国内での技術開発を刺激し、わが国の企業は世界でトップレベルの技術力を誇ることとなる一方、風力発電はデンマークがいち早く国を挙げての開発・販売に取り組み、世界市場の4割のシェアを確保しています。また、燃料電池についても、世界の巨大企業が共同開発に取り組む一大プロジェクトになっており、日本だけでも平成22年に1兆円の市場が誕生することが見込まれています。

太陽光発電パネル及び風力発電機の国別生産シェア

燃料電池の導入目標と市場規模

 市場のグローバル化が進む中、先行企業の開発した技術が世界で大きな市場シェアを獲得している事例が見られますが、環境問題が世界共通の課題となっていることから、今後規模の拡大が予想される環境対策に関連する市場においても、わが国の技術の優位性をさらに発展させることができます。

わが国のエコビジネス市場規模の現状と将来予測についての推計


2 環境対策と雇用

 OECDが1997年(平成9年)に発表した「環境政策と雇用」に関する報告書は、環境対策が雇用に与える影響については、雇用に与える効果は小さいものの、全体としてはわずかにプラスの効果を持つことを示しています。
 各国における環境分野での雇用創出状況をみると、ドイツでは、機械製造業や食品関連産業を上回る約130万人の雇用が環境分野で確保されており、アメリカでも、リサイクル・リユース産業において、自動車製造業に匹敵する約112万人の雇用が創出されているとの結果が出されています。

環境政策の雇用に対する潜在的な影響

 わが国においても、平成9年現在の環境分野での雇用規模は約70万人に達し、平成22年には約87万人に達するものと推計されているほか、都道府県等が実施する雇用対策についてみても、これまでの緊急地域雇用特別交付金における実績では、環境・リサイクル分野が総事業の約3割を占めるなど、最も多く実施されています。

3 環境対策による波及的な経済効果


 環境対策は企業にとって一般的に費用であると考えられていますが、対策の実施に必要な設備を製造する企業にとっては売上になります。わが国の環境装置生産実績は、昭和41年度に約341億円であったものが、平成12年度には1兆6,432億円に達するなど、環境関連の市場が拡大していることがわかります。また、環境装置の導入だけでなく、環境分野における投資を通じた生産誘発効果及び雇用創出効果を産業連関表を用いて分析した結果では、環境関連事業は、おおむね建設部門等の産業と同程度の生産波及効果をもつこともわかっています。

環境装置生産額の推移


4 将来の損害の回避

日本の公害にみる被害額と対策費用の推計
 対策の実施時期については、現在のような経済状況が厳しい中、対応にちゅうちょする向きも見られます。環境対策については、費用が現在の時点で発生するのに対し、効果は現在よりもむしろ未来に対して発生するものであり、かつその利益は、個別企業ではなく幅広く社会の利益となるものです。したがって、費用の負担者が必ずしも費用に見合う利益を得られるわけではないため、ともすれば負担を回避したり、先送りしてしまう状況があります。しかし、環境汚染によって人の健康に被害が生じた場合には取り返しがつかないこと、一度失われてしまった環境を復元することは困難であるか、極めて高額な費用を要する場合があることなど、わが国は、すでにこれまでの歴史の中で苦い教訓を得ています。
 さらに、地球規模の問題では被害額は膨大なものとなり、UNEPによれば、大気中の二酸化炭素濃度が2050年に産業革命以前の2倍に達すると仮定した場合の被害総額は、全世界で3,042億ドルに達すると試算されています。


 これまでみてきたように、環境対策が経済に与える効果にはさまざまな側面がありますが、環境対策が適切に行われた際には、上記の技術革新、雇用確保及びその波及的効果等の経済上の利益をもたらす場合があり得、さらに、将来の損害を未然に回避し得るとの意味で、環境対策は経済にとってプラスの効果を与え得ると言うことができます。
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