1 各分野における具体的な施策

 地球環境問題をはじめとする今日の環境問題は、社会経済活動と密接不可分なものとなっており、このような新たな環境問題の解決のためには、政府においても、社会経済活動への影響も考慮しつつ、従来の産業型公害への対応とは異なった新たな対応が求められるようになってきました。

 地球温暖化問題については、第1章でみたように、温室効果ガスの9割を占める二酸化炭素の排出量と経済成長は連動する傾向にあります。このため、従来から、温暖化防止効果以外の面でも大きな効用があり、仮に温暖化が起こらなくても後悔しない対策が採られてきましたが、温暖化の影響がより確かなものとなった現在では、それを超えた対策を実施していくことが必要となります。

GDP成長率、二酸化炭素排出量伸び率、エネルギー消費量伸び率の関係

二酸化炭素排出量の部門別内訳

 平成14年3月に決定した「地球温暖化対策推進大綱」では、6%削減約束の達成のために必要な取組について、今日の段階で実施可能なものは直ちに実施し、早期に減少基調に転換した上で削減約束の達成を図るとともに、さらなる長期的・継続的な排出削減へと導くため、個々の対策を計画的に実施していくこととしています。また、対策の基本的な考え方として、「環境と経済の両立」、「ステップ・バイ・ステップのアプローチ」、「各界各層が一体となった取組の推進」及び「地球温暖化対策の国際的連携の確保」を提示しました。

低公害車保有台数の推移と普及率

 また、効果的かつ効率的な温室効果ガスの排出削減のためには、さまざまな政策手法を有機的に組み合わせるというポリシーミックスの考え方を活用することが重要であり、その中でも費用対効果の高い削減を実現するための手法の一つとして、市場メカニズムを前提とし、経済的インセンティブの付与を介して各主体を経済合理性に沿った行動に誘導するという、税・課徴金等の経済的手法については、国民経済に与える影響や諸外国における連携に配慮しつつ、引き続き総合的に検討します。
 廃棄物・リサイクル問題については、最終処分場のひっ迫や資源枯渇等が経済活動への制約になるのではないかとの懸念があり、循環型社会の構築を進め、資源採取量の抑制や環境負荷の低減等を図る必要があります。このため、生産者が製品が使用され廃棄された後においても適正なリサイクルや処分について一定の責任を負うという「拡大生産者責任」の考え方を導入し、その強化を図るとともに、再生品等に対する十分な需要を確保するため、グリーン購入法により国等の機関において積極的に再生品等を購入するほか、ごみ処理手数料、税・課徴金、預託払戻制度(デポジット制度)等の経済的手法の活用を検討することが必要です。経済的手法に関しては、平成12年度に創設された法定外目的税の制度を活用し、各自治体で廃棄物に関する税制等の検討が行われています。

産業廃棄物排出量の推移

地方公共団体における廃棄物に関する税制等の検討状況

 土壌汚染問題については、近年、工場跡地等の再開発・売却の際などに汚染調査を行う事業者が増加するとともに、自治体による地下水常時監視の拡充強化に伴い、重金属、揮発性有機化合物等による土壌汚染が顕在化し、汚染事例の判明件数は著しく増加しています。土壌汚染対策を速やかに講じることは、汚染の除去等の措置の実施者において経済的負担が生じる一方で、環境保全効果はもちろんのこと、将来の対策コストの低減や土地の流動化に伴う経済の活性化をもたらすほか、土壌汚染対策に係る新しいビジネスの拡大も想定されており、現在、国会に「土壌汚染対策法案」を提出し、審議が進められているところです。
 
年度別の土壌汚染判明事例数

 自然保護問題については、従来から保護か開発かという択一的議論が生じやすい傾向にありましたが、近年、佐渡島のトキの保護や屋久島の世界遺産の指定など、自然保護と地域の活性化が一体となって行われている事例や、和歌山県の「緑の雇用事業」や長野県の「信州きこり講座」のように、環境保全対策と雇用対策が一体のものとして行われている事例が数多く見受けられます。また、失われた自然を積極的に取り戻すことを通じて生態系の健全性を回復する自然再生事業の試みが始められています。
 化学物質問題については、影響の科学的な解明が十分でないことを念頭におきつつ、化学物質による環境負荷をいかに効果的・経済的に低減するかが重要になっています。このため、まず、化学物質が環境を経由して人の健康や生態系に悪い影響を及ぼすおそれ、つまり環境リスクを定量的に評価し、総体として環境リスクを低減させていくという考え方の導入を図るとともに、不確実性の存在を前提としつつ、取り返しのつかない影響の発生を未然に防止する予防的方策を講じることが必要です。また、法律による規制にとどまらず、レスポンシブル・ケア活動など事業者による自主的な管理による取組が始められたほか、化学物質排出把握管理促進法の成立により、事業者が自ら排出量を把握し、化学物質の環境への排出等の状況を明らかにするPRTR制度が導入され、これにより事業者等のさらなる取組を促進するという、従来の規制方法とは根本的に異なった方法も導入されることとなりました。

4大樹脂の生産量の推移

日本レスポンシブル・ケア協議会における有害大気汚染物質削減の取組事例


2 環境対策を進めていく上での考え方

 環境問題の各分野では、これまでみたように、対策の基本的な骨格を決める上での鍵となるさまざまな考え方を見出すことができますが、これらは個別の環境問題にのみ適用可能なものではなく、より幅広く一般的に用いることができるものです。今日の環境問題に対処するためには、このようなさまざまな考え方を駆使して的確に対処していく必要があります。
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