1 企業の変化とその背景

 近年、企業の環境に関する考え方は、環境に関する取組を社会貢献の一つではなく、企業の最も重要な戦略の一つとして位置付けるなど、より積極的なものへと変化しています。
 こうした企業の考え方が変化している背景として、近年、ISO14001認証取得の広がり、グリーン購入の進展、環境報告書・環境会計の取組の普及などが進んだ点を挙げることができます。環境マネジメントシステムの国際規格であるISO14001は、企業経営者に環境保全の取組について考える機会を提供し、トップダウンの意識改革をすすめる契機となりますが、わが国における認証取得件数は、平成13年末現在で約8千件となっています。また、グリーン購入に取り組む団体数や環境配慮型製品の販売額の増加により、製品やサービスの供給者となる企業においてもグリーン調達が実施されるようになってきているほか、市場が環境面からも評価するようになったことに対応して、企業においても環境コミュニケーションの重要性が認識されつつあり、環境報告書作成企業数は、年々増加しています。

ISO14001審査登録件数の推移


環境報告書発行企業・団体数の推移

 また、グリーンコンシューマーと呼ばれる環境に配慮した商品や店を選ぶ消費者や、投資を行う際に企業の環境配慮行動を考慮するグリーンインベスターといわれる投資家が現れ始めたことも、企業の環境への積極的な取組を促すことにつながっています。さらに、近年整備された環境保全法令の中には、企業の自主的な環境保全活動を促す仕組みが数多く含まれており、環境規制に対応したビジネスが見られるようになったことも挙げることができます。

環境に配慮した商品の販売額・取扱品目数の増加状況

近年の環境法規制等とエコビジネスの例

 このように、企業を取り巻く市場、市民、政府の意識や取組の変化といったさまざまな要因が、確実に環境保全との関わりを深めており、企業自らの考え方と具体的な取組に大きな影響を与えています。

2 企業経営に環境を組み込んだ積極的な取組

 これまでみたような企業の考え方の変化を背景に、企業は、環境法規を遵守し環境管理を進めるのみならず、むしろ積極的に環境保全の考え方を企業経営に取り入れようとする動きがみられます。
 例えば、ビルや工場の省エネ化に必要な技術、設備、人材、資金のすべてを包括的に提供するESCO(エスコ、Energy Service Company)事業や、商品の所有ではなく商品が提供するサービスが求められていることに着目した家電レンタル等は、新たに事業を始めた例としてみることができます。また、新たな製品を開発したものとしては、下水汚泥や廃棄物焼却灰などを原料として含むエコセメントや、企業の環境問題に対する配慮・取組状況等を考慮して投資を行う環境配慮型投資信託であるエコファンド等を挙げることができます。さらに、関係企業が他社製品の回収にも協力する複写機業界の例や、容器の詰替化を積極的に進める洗剤・石鹸業界など、既存の製品の環境負荷を低減するための工夫を凝らすものも挙げることができます。

PPS(製品・サービスシステム)の分類


3 業種別にみた環境問題への取組理由・取組内容の違い


 このように、各企業は、さまざまな環境保全に向けた取組を行っていますが、各企業が属する業種が置かれている状況によって、取組の内容に違いが現れています。

業種別に見た環境保全の取組率

 環境保全に関するあらゆる取組を合計し、その取組率を業種別に見た場合、製造段階でエネルギー消費の多い業種や、最終消費者向けの完成品メーカーで取組率が高くなっていますが、これを業種タイプ別にみると、素材型製造業は産業廃棄物の削減や製造時の省エネルギーの割合が高く、加工型製造業はグリーン調達や環境配慮設計にも相対的に力を入れており、非製造業は、オフィス省エネに集中していることがわかります。
 また、取組内容ごとに実施中又は検討中の割合を見てみると、環境上の効果に加え、製造時の省エネルギーや産業廃棄物の削減などコスト削減につながるものが最初の足がかりとして取り組まれ、その後、グリーン調達や環境配慮設計等に取組が広がっていることがわかります。
 各業種の取組内容や程度の差は、各業界が置かれている状況や、顧客である取引先・消費者といった需要者側のニーズに大きな影響を受けていますが、このことは、言い換えれば、複雑な社会経済システムの中で、より川下にある業界の取組状況が徐々に川上へと広がっていくという可能性を意味しており、最終消費者の意向・行動が、企業の取組を変えていく可能性を示唆しているものと考えられます。

全産業における環境保全の取組内容


4 企業の収益向上策との一致性


 今日の厳しい経済情勢の下、わが国の企業は、業績の向上を図るため懸命の努力を続けているところですが、こうした取組の中には、IT化のように、積極的な経営効率化を図ることが結果として環境負荷の削減にもつながっているものや、自動車のリース契約や各種レンタルサービス、修理リフォームサービスと一体化した商品の販売等、モノの販売からサービスの販売に重点を移した結果、環境負荷の削減につながったものなど、企業の業績向上に向けた取組と環境保全に向けた取組との方向性が一致するものがあることを指摘することができます。

国内自動車販売リース・レンタル車両数の推移


 これまでみたように、企業を取り巻く状況は、環境との関わりを一層大きなものとしており、企業にとって、環境対策が単なる活動の制約要件ではなく、ビジネスチャンスとしても認識されるようになっていると考えられます。

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