環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部第2章>第6節 科学的基盤を強化し、政策に結び付ける取組

第6節 科学的基盤を強化し、政策に結び付ける取組

1 基礎的データの整備

(1)自然環境調査とモニタリング

我が国では、全国的な観点から植生や野生動物の分布など自然環境の状況を面的に調査する自然環境保全基礎調査のほか、様々な生態系のタイプごとに自然環境の量的・質的な変化を定点で長期的に調査する「モニタリングサイト1000」等を通じて、全国の自然環境の現状及び変化状況を把握しています。

自然環境保全基礎調査における植生調査では、詳細な現地調査に基づく植生データを収集整理した1/2.5万現存植生図を作成しており、我が国の生物多様性の状況を示す重要な基礎情報となっています。2016年度までに、全国の約80%に当たる地域の植生図の作成を完了しました。また、砂浜・泥浜の面積等の変化状況やクマ等の野生鳥獣の生息分布状況の調査を実施しています。

モニタリングサイト1000では、高山帯、森林・草原、里地里山、陸水域(湖沼及び湿原)、沿岸域(磯、干潟、アマモ場、藻場及びサンゴ礁等)、小島嶼(しょ)について、生態系タイプごとに定めた調査項目及び調査方法により、合計約1,000か所の調査サイトにおいて、モニタリング調査を実施し、その成果を公表しています。また、得られたデータは5年ごとに分析等を加え、取りまとめて公表しており、第3期の取りまとめに向けた検討を進めています。

また、インターネットを使って、全国の生物多様性データを収集し、提供するシステム「いきものログ」(https://ikilog.biodic.go.jp/(別ウィンドウ))により、2016年度末時点で450万件を超える全国の生物多様性データが収集され、地方公共団体を始めとする様々な主体で活用されています。

(2)地球規模のデータ整備や研究等

地球規模での生物多様性保全に必要な科学的基盤の強化のため、アジア太平洋地域の生物多様性観測・モニタリングデータの収集・統合化等を推進する「アジア太平洋生物多様性観測ネットワーク(AP-BON)」のワークショップを2016年9月に台湾で開催しました。また、第9回全球地球観測システム(GEOSS)アジア太平洋シンポジウムにおいて、AP-BON分科会を2017年1月に東京で開催しました。さらに、東・東南アジア地域での生物多様性の保全と持続可能な利用のための生物多様性情報整備と分類学能力の向上を目的とする「東・東南アジア生物多様性情報イニシアティブ(ESABII)」を推進するため、ワシントン条約附属書掲載種の識別研修及び分類学能力構築の研修等を実施しました。

研究開発の取組としては、独立行政法人国立科学博物館において、「ミャンマーを中心とした東南アジア生物相のインベントリー-日本列島の南方系生物のルーツを探る-」、「日本の生物多様性ホットスポットの構造に関する研究」等の調査研究を推進するとともに、約440万点の登録標本を保管し、これらの情報をインターネットで広く公開しました(http://www.kahaku.go.jp/research/(別ウィンドウ))。また、地球規模生物多様性情報機構(GBIF)の活動を支援するとともに、GBIF日本ノード(データ提供拠点)である独立行政法人国立科学博物館及び大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立遺伝学研究所と連携しながら、生物多様性情報をGBIFに提供しました。

2 科学と政策の結び付きの強化

生物多様性及び生態系サービスに関する科学と政策の連携の強化を目的として設立された「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間の科学及び政策プラットフォーム(IPBES)」の事務局の機能の一部である、アジア・オセアニア地域の生物多様性及び生態系サービスに関する評価の技術支援機関(TSU)が我が国に設置されており、2016年5月にアセスメントの第一原稿が取りまとめられました。また、IPBESの総会第5回会合が、2017年3月にドイツ・ボンで開催されました。同会合では、2014年から5か年の作業計画の実施状況の確認及び次期作業計画開始に向けた議論が行われ、我が国はIPBESの国際的な議論に積極的に参画するとともに、IPBES作業計画に我が国の知見を効果的にインプットし作業計画に貢献するため、IPBESに関わる国内専門家及び関係省庁間における国内連絡会を2016年8月及び2017年3月に開催しました。

3 生物多様性の観点からの気候変動の適応策の推進

保護区域での適応策検討に資するため、既存のデータ、評価ツールや手法に関する情報収集を行うとともに、大雪山国立公園をモデル地域として、今後の保護区の管理を想定しながら、それらを活用した生態系の変化予測と生態系サービスを含めた影響の予測、脆弱性評価、それらを踏まえた適応策検討の試行を行いました。