環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第2部>第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~>第1節 生物多様性の現状と対策

第2章 生物多様性の保全及び持続可能な利用~豊かな自然共生社会の実現に向けて~

第2章では、我が国の生物多様性の保全と持続可能な利用に向けた取組について記述します。はじめに、生物多様性の現状として、愛知目標の進捗状況について紹介し、国立公園や、野生生物を取り巻く現状について記述します。続いて、「生物多様性国家戦略2012-2020」(2012年閣議決定、以下「国家戦略」という。)の5つの基本戦略に沿って、それぞれに関連する取組を報告します。また、東日本大震災からの復興・再生に向けた自然共生社会づくりの取組について記述します。

第1節 生物多様性の現状と対策

1 我が国の愛知目標の達成に向けた進捗状況

愛知目標の達成に向け、我が国では国家戦略を策定し必要な取組を行っています。2016年11月には、これまでの進捗状況を踏まえて一層強化する取組と国立公園のブランド化、農林水産分野に関する生物多様性保全に資する活動、自然生態系の有する防災・減災機能等の活用やグリーンインフラなどの新たな取組をまとめた「生物多様性国家戦略2012-2020の達成に向けて加速する施策」を公表しました。

2 国立公園を取り巻く状況

(1)国立公園の新規指定・拡充

自然公園法(昭和32年法律第161号)に基づき、我が国の優れた自然の風景地は国立公園、国定公園、都道府県立自然公園に指定されています。このうち、国立公園及び国定公園について、新たな国立・国定公園指定の検討と既存の公園地域の再評価を柱とする「国立・国定公園の総点検事業」を実施し、今後新規指定・大規模拡張を行う18の候補地を2010年10月に公表しました。これを踏まえ、2012年3月に霧島錦江湾国立公園の再編成を行うなど取組を進めており、2016年度には、4月に西表石垣国立公園の大規模拡張、9月にやんばる国立公園の新規指定、2017年3月に奄美群島国立公園の新規指定を行いました。これらによって、現在までに18の候補地のうち8つの国立・国定公園の新規指定や拡張を実施しており、今後も引き続き、残りの候補地における自然環境や利用状況の調査を行い、具体的な区域の指定の検討を進めていきます。

(2)国立公園満喫プロジェクト等の推進

2016年3月に政府で取りまとめた新たな観光戦略である「明日の日本を支える観光ビジョン」において、外国人を日本に誘致するための方策のひとつとして「国立公園」が取り上げられたことを契機として、国立公園満喫プロジェクトをスタートしました。日本の国立公園を世界水準の「ナショナルパーク」とし、2015年に490万人であった訪日外国人の国立公園利用者を1,000万人にするという目標を掲げ、2016年7月には、有識者会議の意見や地域の熱意等を踏まえ、阿寒国立公園、十和田八幡平国立公園、日光国立公園、伊勢志摩国立公園、大山隠岐国立公園、阿蘇くじゅう国立公園、霧島錦江湾国立公園、慶良間諸島国立公園の8つの国立公園を選定し(表2-1-1)、訪日外国人を惹きつけるための取組を先行的、集中的に進めることとしました。本プロジェクトの推進に当たっては、単に利用者数を増やすことだけに注力するのではなく、「最大の魅力が自然そのもの」であり、その大前提の下で「高品質・高付加価値のインバウンド市場の創造」を図ることを念頭に置き、国立公園の本来の目的である「保護」と「利用」が地域において好循環を生み出すことができるよう十分に考慮しながら、取組を進めることが重要です。2016年12月には、この8つの国立公園において、そのような考え方の下、関係省庁や地方公共団体、観光関係者を始めとする企業、団体等、多様な地域の関係者からなる地域協議会における議論を踏まえ、今後の取組の方向性を示した「ステップアッププログラム2020」が取りまとめられました。本プログラムに基づき、ビジターセンターの再整備や歩道等の整備、上質な宿泊施設や滞在施設の誘致、ツアー・プログラムの開発、質の高いガイドの育成、ビジターセンターにおけるツアーデスクの設置等の新たなサービスの提供、利用者負担による公園管理の仕組みの導入、海外プロモーションの実施等に向けた検討を進めるとともに、順次取組に着手しています(表2-1-1)。

表2-1-1 国立公園満喫プロジェクトにおいて先行的、集中的に取組む国立公園と選定のポイント

3 野生生物を取り巻く状況

(1)鳥獣の管理の強化

近年、ニホンジカやイノシシ等の一部の鳥獣については、急速に生息数が増加するとともに生息域が拡大し、その結果、自然生態系や農林水産業等への被害が拡大・深刻化しています。

こうした状況を踏まえ、2013年に、環境省と農林水産省が共同で「抜本的な鳥獣捕獲強化対策」を取りまとめ、当面の捕獲目標として、ニホンジカ、イノシシの個体数を10年後(2023年度)までに半減させることを目指すこととしました。

このため、2015年5月に施行された鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(以下「鳥獣保護管理法」という。)においては、都道府県が捕獲を行う指定管理鳥獣捕獲等事業や捕獲の担い手の育成・確保に向けた認定鳥獣捕獲等事業者制度の創設等、「鳥獣の管理」のための新たな措置が導入されました。

指定管理鳥獣捕獲等事業は、集中的かつ広域的に管理を図る必要があるとして環境大臣が指定した指定管理鳥獣(ニホンジカ及びイノシシ)について、都道府県又は国の機関が捕獲等を行い、適正な管理を推進するものです。国は指定管理鳥獣の捕獲等の強化を図るため、都道府県が実施する指定管理鳥獣捕獲等事業に対し、交付金により支援を行っており、2016年度においては、37道府県で当該事業が実施されました。

また、認定鳥獣捕獲等事業者制度は、鳥獣保護管理法に基づき、鳥獣の捕獲等に係る安全管理体制や従事者の技能・知識が一定の基準に適合し、安全を確保して適切かつ効果的に鳥獣の捕獲等を実施できる事業者を都道府県が認定するものです。鳥獣捕獲等事業者の捕獲従事者及び事業管理責任者等に修了が義務付けられている安全管理講習及び技能知識講習並びに夜間銃猟を含む認定を受けるために必要な夜間銃猟安全管理講習を政府が実施したところであり、各都道府県において認定鳥獣捕獲等事業者の認定が進んでいます。

なお、狩猟者は、約53万人(1970年度)から約19.3万人(2014年度)まで減少し、さらに2014年度において60歳以上の狩猟者が全体の約3分の2を占めるなど高齢化が進んでいることから、捕獲等を行う鳥獣保護管理の担い手の育成が求められています。このため、政府において、狩猟免許の取得年齢の引き下げ、狩猟を紹介する「狩猟の魅力まるわかりフォーラム」の開催、鳥獣保護管理に係る専門的な人材を登録し紹介する事業等、様々な取組を行いました。

(2)希少野生動植物種の保全

2017年3月に公表したレッドリスト2017では、絶滅危惧種として13分類群合計で3,634種が掲載されており、2012年度に公表した第4次レッドリストと比べると47種増加しています。その要因として、干潟の貝類を初めて評価の対象に加えたなどの事情はありますが、我が国の野生生物は依然として厳しい状況に置かれていることが分かります。

これら絶滅危惧種の分布情報と植生自然度を分類群ごとに集計すると、両生類の69%、魚類の70%、昆虫類の78%、貝類の62%、維管束植物の57%は、里地里山等の二次的自然に生息・生育していることがわかります(図2-1-1)。

図2-1-1 絶滅危惧種分布データの植生自然度区分別記録割合(昆虫類)

絶滅危惧種の減少要因は多岐にわたりますが、例えば、昆虫類については、開発や捕獲のほか、水質汚濁、外来種による捕食、管理放棄や遷移進行・植生変化が大きな減少要因となっています。また、淡水魚類についても、河川や湿原のほか、水田、水路、ため池等、人間活動によって維持されている二次的自然に依存しており、土地利用や人間活動の急激な変化等が、その生息環境を劣化・減少させた要因と考えられます(図2-1-2)。

図2-1-2 絶滅危惧種の減少要因(昆虫類)

これらの特に里地里山等の二次的自然に生息・生育する種の保護については、絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号。以下「種の保存法」という。)に基づく国内希少野生動植物種の指定に伴う規制が調査研究や環境教育等に支障を及ぼす場合があるなどの問題点も指摘されています。そのため、種によっては全ての捕獲等及び譲渡し等を規制するような厳格な規制を適用せずに、生息・生育地の保全・維持管理や外来種の防除等の対策を進めることが、重要であると言えます。

また、野生動植物の生息・生育状況の悪化に伴い、生息域外保全が必要となる種の数は増加しています。生息域外保全を進めるに当たっては、トキやツシマヤマネコのように、行政だけではなく動物園、水族館、植物園、昆虫館等の多様な主体と緊密に連携していくことが必要不可欠となっています。しかしながら、これら動植物園等が行う生息域外保全の取組については、各動植物園等の自主努力に委ねられている部分が大きいため、継続的に実施することが困難となる場合があります。

さらに、国際的な希少野生動植物種については、種の保存法において国内流通を規制することにより、絶滅のおそれのある野生動物の種の国際取引に関する条約(以下「ワシントン条約」という。)の国際取引規制の効果的な実施を補完する役割を果たしています。しかしながら、違法な流通事例等も確認されているため、流通管理の強化を図る必要があります。

これらの状況を背景として、中央環境審議会等において絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存につき講ずべき措置について検討を行い、2017年1月に答申を得ました。この答申に基づき、[1]二次的自然に分布する種も積極的に保全対象とするため、商業目的での業者による大量捕獲等のみを抑制することができる種指定制度の創設、[2]希少野生動植物種の飼育栽培に関し、適切な能力及び施設を有する動植物園等を認定する制度の創設、[3]国際希少野生動植物種の流通管理の強化等の措置を講ずるため、種の保存法の一部を改正する法案を第193回国会に提出しました。

(3)侵略的外来種への対応

我が国の生物多様性の損失に関する各種要因の中でも、外来種の侵入と定着による影響は非常に大きく、例えば、国内の絶滅危惧種のうち、爬虫類の7割以上、両生類の5割以上において、減少要因として外来種が挙げられています。また、国内に侵入・定着した侵略的な外来種が分布を拡大させるなど、外来種による影響は近年も増大傾向にあります。外来種の導入経路の一つであるペット等の輸入に関して、生きている動物の輸入量は、1990年代をピークに減少傾向にはありますが、これまで輸入されなかった種類の生物が新たに輸入されるなど、新たなリスクが存在しているといえます。

2016年、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号。以下「外来生物法」という。)に基づき、特にペット等としての輸入が想定される爬虫類、両生類、魚類、植物について特定外来生物の新規指定の検討を進め、10月から新たに24種類(1科、19種、4交雑種)の生物の輸入や飼養等を規制しました(表2-1-2)。特定外来生物は合計132種類(2科、15属、108種、7交雑種)となっており、2016年の指定は、2005年に外来生物法が施行された際の指定以降、約10年ぶりのまとまった指定となりました(図2-1-3)。

表2-1-2 2016年に指定された特定外来生物
図2-1-3 特定外来生物の種類数

今回の指定は、2015年3月に環境省及び農林水産省で公表している「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(以下「生態系被害防止外来種リスト」という。)」の策定を受けたものです。生態系被害防止外来種リストには、外来生物法による規制のない種や、国内由来の外来種も含めた特に注意の必要な外来種429種類を掲載しており、これらの中から、生態系等への被害が我が国で顕在化する前の外来生物について、被害の未然防止の観点を重要視して選定しています。

また、生態系被害防止外来種リストと同時期に公表した「外来種被害防止行動計画」では、外来種による被害を防止するための基本的な考え方や、外来種対策において各主体が果たすべき役割と行動指針を整理しており、今回指定された種についても、本計画を踏まえ、主にペット・観賞魚業界等を対象に普及啓発を行うとともに、指定後に国内で新たな侵入情報が確認された種については自治体と連携し定着状況の確認調査を実施しました。