環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部第2章>第3節 パリ協定を踏まえた我が国の地球温暖化対策

第3節 パリ協定を踏まえた我が国の地球温暖化対策

1 地球温暖化対策の緩和策

(1)温室効果ガス排出量

2015年度の我が国の温室効果ガスの総排出量は13億2,500万トンで、前年度比2.9%減(2013年度比6.0%減、2005年度比5.3%減)となり、2年連続の減少となりました。主な減少要因としては、電力消費量の減少(省エネ、冷夏・暖冬等)や電力の排出原単位の改善(再生可能エネルギーの導入拡大や原発の再稼働等)に伴う電力由来のCO2排出量の減少により、エネルギー起源のCO2排出量が減少したことなどが挙げられます(図2-3-1)。

図2-3-1 我が国の温室効果ガス排出量と中長期目標

温室効果ガスの排出量と経済成長の関係を見てみると、2000年代初頭までは、エネルギー起源CO2排出量と実質GDPは同様の傾向の伸びを示してきましたが、2013年度以降は温室効果ガス排出量が減少しつつGDPが成長しているデカップリング傾向が見られています(図2-3-2)。

図2-3-2 我が国のGDPとCO2排出量の推移
(2)我が国の炭素生産性

我が国は、経済成長とCO2排出量とのデカップリング傾向(切り離し)が見られる一方で、かつて世界最高だった炭素利用における効率性(温室効果ガス排出量当たりのGDP。以下「炭素生産性」という。)は、世界の位置付けが低下しつつあります。

炭素生産性については、我が国は1990年代半ばでは世界最高水準でしたが、2000年頃から順位が低下し、世界のトップレベルの国々から大きく差が開いた状況となってきています。この順位の低下は、第二次産業と第二次産業以外で同様の傾向を示しています(図2-3-3)。

図2-3-3 炭素生産性の推移(当該年為替名目GDPベース)

その背景として、先進国の一部の国が、経済成長しながら温室効果ガスの削減を進める中で、我が国の温室効果ガス排出量は民生部門で大きく増加したことなどに伴い1990年代から2013年頃にかけて増加又は横ばいの状況が続いたこと、我が国のGDPが他国と比べて伸び悩んだことが挙げられます。そのほか、当該年為替による名目GDPを分析しているため排除できない為替の変動や震災後の原子力発電所の稼動停止の影響も含まれます。

(3)地球温暖化対策計画の策定

我が国は2016年5月、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成10年法律第117号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づく地球温暖化対策計画及び政府実行計画を閣議決定しました。地球温暖化対策計画は、我が国の地球温暖化対策に関する総合計画で、パリ協定や2015年7月に国連に提出した「日本の約束草案」を踏まえ、2030年度の中期目標として、温室効果ガスの排出を2013年度比26%削減するとともに、長期的目標として「2050年までに80%の温室効果ガスの排出削減を目指す」としています。また、事業者、国民等が講ずべき措置に関する基本的事項や、目標達成のために国及び地方公共団体が講ずべき施策等についても記載しています(表2-3-1)。

表2-3-1 地球温暖化対策計画(概要)

また、地球温暖化対策の強化のため、地球温暖化対策計画に定める事項に温室効果ガスの排出の抑制等のための普及啓発の推進や国際協力に関する事項を追加するとともに、地域における地球温暖化対策の推進に係る規定の整備等の措置を講ずる地球温暖化対策推進法の一部改正が行われました。

(4)長期低排出発展戦略の検討

我が国においてもパリ協定に基づく長期低排出発展戦略の策定に向けた検討が始まっています。

環境省では、2016年7月から中央環境審議会地球環境部会長期低炭素ビジョン小委員会において、パリ協定等で2020年までに今世紀半ばの長期的な温室効果ガスの低排出型の発展のための戦略の提出が招請されていることなどを踏まえ、2050年及びそれ以降の低炭素社会に向けた長期的なビジョンについて審議を行い、2017年3月に「長期低炭素ビジョン」を取りまとめました。

経済産業省では、2016年7月に「長期地球温暖化対策プラットフォーム」において、2030年以降の長期の温室効果ガス削減に向けて、経済成長と両立する持続可能な地球温暖化対策の在り方の検討を行い、2016年12月に中間整理を公表しました。2017年4月に取りまとめを予定しています。

また、2016年5月のG7 伊勢志摩首脳宣言においては、「我々は、2020 年の期限に十分先立って今世紀半ばの温室効果ガス低排出型発展のための長期戦略を策定し、通報することにコミットする」こととしています。

今後これらを踏まえつつ、政府として長期低排出発展戦略の策定に向けた検討を進めていくこととしています。

2 地球温暖化対策の適応策

(1)気候変動の影響への適応計画

2015年11月、我が国は「気候変動の影響への適応計画」を閣議決定しました。本計画においては、[1]政府施策への適応の組み込み、[2]科学的知見の充実、[3]気候リスク情報等の共有と提供を通じた理解と協力の促進、[4]地域での適応の推進、[5]国際協力・貢献の推進からなる5つの基本戦略を設定しています。また、気候変動影響評価報告書の評価結果等を参考に、7分野において、関係府省庁が実施する適応の基本的な施策を示しています(表2-3-2)。

表2-3-2 適応の分野、予想される気候変動の影響及び基本的な施策
(2)気候変動適応情報プラットフォーム

政府は気候変動の影響への適応計画に基づき、地方公共団体や民間事業者の適応の取組をサポートする情報基盤として、2016年8月に「気候変動適応情報プラットフォーム」(事務局:国立研究開発法人国立環境研究所)を設置しました。このプラットフォームでは、関係府省庁と連携して、適応に関する最新の情報を提供しています。

3 地球温暖化対策を支える基盤的取組

(1)技術開発

長期のCO2大幅削減の鍵となる技術について、例えば、電子機器の電圧制御等を大幅に効率化する窒化ガリウム(GaN)半導体の開発実証や車の軽量化等に役立つセルロースナノファイバーの用途開発等に取り組んでいます。

事例:窒化ガリウム(GaN)

GaNは、2014年に名古屋大学の天野浩教授らがノーベル物理学賞を受賞した青色発光ダイオード(LED)等に用いられている物質です。通常、家電製品、電気自動車、発電所等での電力変換等に用いる直流・交流変換器には、ケイ素(Si)のパワーデバイスが使われていますが、GaNはSiと比べて大きな電圧への耐久性が10倍優れているため、同じ性能を持った部品をSiの10分の1の薄さで作ることができます。そのため、エネルギー損失が約10分の1になり、約1割の省エネ効果が期待されています。現在、太陽電池用パワーコンディショナ、サーバ、電子レンジ等への実用化に向け取り組んでいます。

パワーデバイスによるエネルギー損失

事例:セルロース・ナノファイバー(CNF)

セルロース・ナノファイバー(CNF)は、植物の繊維をナノサイズまで微細化した次世代素材で、鋼鉄と比べて5分の1の軽さと、5倍以上の強度を有しています。原料は木材に限らず、稲わらやサトウキビの搾りカスからも得られ、環境負荷が小さく持続可能な素材と言えます。CNFは薄膜太陽電池のガラス基板代替、軽量化した自動車車体、リサイクル可能な建築材料等、様々な分野での活用が期待されています。

セルロースナノファイバー

2016年12月には、産官学が連携し、2020年に自動車で10%程度の軽量化を目標とするNCV(Nano Cellulose Vehicle)プロジェクトが始動しました。CNFを活用した軽量材料で、自動車部品等の製品開発及び各段階の性能評価、CO2削減効果の評価・検証に取り組んでいます。

また、第5期科学技術基本計画(2016年1月閣議決定)で示された「Society 5.0」(超スマート社会)の到来によって、エネルギー・システム全体が最適化されることを前提に、2050年を見据え、削減ポテンシャル・インパクトが大きい有望な革新技術を特定し、中長期的に開発を推進することを目的として、2016年8月、「エネルギー・環境イノベーション戦略」(2016年4月内閣府総合科学技術・イノベーション会議決定)が取りまとめられました(表2-3-3)。

表2-3-3 エネルギー・環境イノベーション戦略の概要
(2)国民運動の強化~ COOL CHOICE ~

パリ協定を踏まえ、国民各界各層が一丸となって地球温暖化対策に取り組むため、2016年5月に地球温暖化対策推進法を改正し、2015年7月より安倍内閣総理大臣自身が先頭に立って進めてきた、地球温暖化対策を推進するための国民運動「COOL CHOICE(クールチョイス)」を一層強化実施しています(図2-3-4)。

図2-3-4 クールチョイスマーク

「COOL CHOICE」では、賛同企業・団体等の協力を得て、全国の低炭素型の「製品への買換え」、「サービスの選択」、「ライフスタイルの選択」等に、「COOL CHOICE」のロゴマークを付して、地球温暖化対策に資する「賢い選択」を促しています。

2016年6月より、環境大臣がチーム長となり、「COOL CHOICE」をより効果的に展開するため、経済界、地方公共団体、消費者団体、メディア、NPO、関係省庁等をメンバーとした「COOL CHOICE推進チーム」を開催し、作業グループ(「省エネ家電」、「省エネ住宅」、「エコカー」、「低炭素物流」、「ライフスタイル」)において、各分野ごとの普及啓発の強化に向けた検討を行っています。

また、政府では地球温暖化のための国民運動実施計画で掲げる、2020年までに地球温暖化問題等への関心度を90%以上とすることや、「COOL CHOICE」個人賛同者600万人以上、賛同団体40万団体以上とすることなどを目標に掲げ、地球温暖化対策計画における、2030年度までの取組目標の達成のため、国民運動の推進を行っています。2017年3月末現在の個人賛同者約215万人、賛同団体約1.1万団体となっています。

一方、2016年8月の内閣府「地球温暖化対策に関する世論調査」によると、地球環境問題に関心があるとする者の割合は87.2%で、2007年の92.3%から少し低下しており、「COOL CHOICE」(賢い選択)の認知度は28.1%となっています。地球温暖化対策計画では、地球温暖化対策の必要性を多種多様なメディア媒体等を通じて継続的に発信することとされており、また、国民運動実施計画においては、「2020年までにCOOL CHOICE認知度50%以上」の目標を掲げていることから、「COOL CHOICE」の一層の発信強化を図っていくとともに、前述の全体目標、個別目標指標等について、定期的に進捗状況を評価し、公表していきます。

コラム:スマートフォン&タブレット端末用アプリ「COOL CHOICE」配信中

環境省では、地球温暖化について意識するきっかけ、また思い立ったときにいつでも地球温暖化の最新情報や自分にあった地球温暖化対策を知ることができるスマートフォン&タブレット端末用アプリ「COOL CHOICE」を配信しています。

また、新宿御苑インフォメーションセンターにおいて、地球温暖化について勉強をするブースを設置しました。ブースでは「COOL CHOICE」アプリを体験することができるデジタルサイネージも設置しています。

「COOL CHOICE」アプリの例

4 地方公共団体の取組

都道府県及び市町村は、地球温暖化対策推進法に基づき、地球温暖化対策計画を勘案し、その区域の自然的社会的条件に応じて、温室効果ガスの排出の抑制等のための総合的かつ計画的な施策を策定及び実施するよう努めることが求められています。特に都道府県及び政令市・中核市は、地域における再生可能エネルギーの導入拡大、省エネルギーの推進等盛り込んだ地方公共団体実行計画(区域施策編)の策定が義務付けられています。2016年10月現在、都道府県及び政令市・中核市(施行時特例市を含む)では99.3%、その他の市町村では21.3%が計画を策定しています。

また、全ての都道府県及び市町村は、自らの事務・事業に伴い発生する温室効果ガスの排出削減等に関する地方公共団体実行計画(事務事業編)の策定が義務付けられており、2016年10月現在、82.5%が計画を策定しています。

事例:長野県環境エネルギー戦略(長野県)

長野県では、2012年度に地球温暖化対策と環境エネルギー政策を統合させた「長野県環境エネルギー戦略」を策定し、「持続可能で低炭素な環境エネルギー地域社会をつくる」を基本目標として、経済成長とエネルギー消費量のデカップリングを目指すとともに、温室効果ガス総排出量、最終エネルギー消費量、自然エネルギー導入量等の5つの数値目標を、短期(2020年度)、中期(2030年度)、長期(2050年度)のそれぞれで設定しています。例えば、温室効果ガスの削減目標は、1990年度と比較して2020年度10%削減、2030年度30%削減、2050年度80%削減としています。また、地域主導型の再生可能エネルギーの導入の取組を、市民・企業・大学・行政機関等のネットワークである「自然エネルギー信州ネット」と連携して後押しすることで、県内経済に循環をもたらす仕組みとしています。

こうした取組により、県内への再生可能エネルギーの導入等は着実に進展しており、2015年には再生可能エネルギーの導入目標等の上方修正を行い、2050年の再生可能エネルギー自給率目標(年間消費量)を34.4%から41.3%に引き上げています。

長野県環境エネルギー戦略における温室効果ガス排出目標

事例:脱炭素社会の実現に向けた条例の制定(徳島県)

徳島県は、2017年1月に、全国で初めて「脱炭素社会」を規定した「徳島県脱炭素社会の実現に向けた気候変動対策推進条例」を施行しました。この中で、緩和策と適応策を両輪とした気候変動対策を行うとともに、自然エネルギー及び水素エネルギーを最大限導入することとしています。また、県民や事業者が主役となる「県民総活躍」により、県を挙げて脱炭素社会の実現に向けた社会的気運を醸成し、自然エネルギーや森林資源等の地域資源を最大限活用して地域課題の解決にも貢献することとしています。

徳島県ではこの条例に加え、2016年10月に策定された「徳島県気候変動適応戦略」及び2016年12月に改定され、2030年度温室効果ガス40%削減(2013年度比)を目標として盛り込んだ「徳島県地球温暖化対策推進計画」を「3本の矢」として、脱炭素社会に向けた取組を進めています。