環境省環境白書・循環型社会白書・生物多様性白書平成29年版 環境・循環型社会・生物多様性白書状況第1部>第3章 我が国における環境・経済・社会の諸課題の同時解決>第1節 我が国が直面する社会経済の課題

第3章 我が国における環境・経済・社会の諸課題の同時解決

環境問題は人類のあらゆる社会経済活動から生じ得るものであり、環境・経済・社会の諸課題は密接に関係しています。第1章で示した「持続可能な開発のための2030アジェンダ」(以下「2030アジェンダ」という。)の中核となる「持続可能な開発目標」(以下「SDGs」という。)では、経済・社会・環境の諸課題を統合的に解決することの重要性が示されています。その点、我が国の社会経済システムは様々な課題を抱え、大きな変革を求められつつあります。我が国が直面する人口減少・高齢化は、かつて世界が経験したことがない急激なものです。また、第4次産業革命を巡るグローバル競争の激化、世界経済の中心の変化等、我が国を取り巻く状況は、今後大きく変わる可能性があります。2017年1月の内閣府「2030年展望と改革タスクフォース報告書」によれば、このような内外の状況変化に対して、イノベーションを創出するなどして、経済・社会の諸課題に対応しなければ、我が国は低成長が定常化するおそれがあるとされています。

また、第2章で示した気候変動問題は、社会の最大の脅威の一つとして認識され、パリ協定の下、世界全体での今世紀後半の脱炭素社会に向けて世界は大きく舵を切っています。SDGs及びパリ協定は、今後数十年にわたる社会経済活動の方向性を根本的に変える「ゲームチェンジャー」としての性質を有しています。パリ協定を踏まえた温室効果ガスの大幅削減は、従来の取組の延長では実現が困難であり、革新的技術開発・普及などイノベーションが必要と考えられます。

このように、経済、社会、環境の課題解決に向けては、各分野における現状の取組の延長線上ではないイノベーションが必要という点は共通しています。また、人口減少・高齢化社会は、先進国やアジア諸国も同様に直面すると予想されていることに加え、パリ協定への対応は、今後世界の全ての国が求められています。我が国がSDGsで示された環境・経済・社会の統合的向上により、環境・経済・社会の諸課題の解決をいち早く実現することは、課題解決先進国として世界の範となり得るものです。

環境政策が重視すべき方向性として環境基本計画で示されている「環境、経済、社会の統合的向上」は、これまで、いかに社会経済システムに環境配慮を織り込むかという観点を中心に展開されてきました。これは引き続き最も重要な観点である一方、経済・社会的課題が深刻化する中では、環境政策の展開に当たり、「環境保全上の効果を最大限に発揮できるようにすることに加え、諸課題の関係性を踏まえて、経済・社会的課題の解決」(以下「同時解決」という。)に資する効果をもたらせるよう政策を発想・構築する観点から、「環境、経済、社会の統合的向上」を実現することも重要です。

第3章では、我が国が直面する社会経済の課題を概観するとともに、環境政策の展開に当たり、環境・経済・社会の諸課題の「同時解決」に資する効果をもたせるための方向性とその取組事例を示します。

第1節 我が国が直面する社会経済の課題

1 社会の課題

(1)人口減少・少子高齢化

我が国は既に人口減少時代に突入し、かつて経験したことのない人口減少・少子高齢化が進行しつつあります。我が国の総人口は、2010年の1億2,806万人をピークに減少に転じており、2048年には1億人を割って、2060年には9,284万人になると推計されています。総人口が減少する中で我が国の高齢化率は上昇を続け、2035年には国民の3人に1人、2060年には2.5人に1人が65歳以上になると推計されています。また、出生数は減少を続け、生産年齢人口は2060年には、1995年のピークのおおむね半分になると推計されています(図3-1-1)。

図3-1-1 世代別人口および高齢化率、生産年齢人口比率の推移

高齢化による医療・社会保障関係費の急増、財政赤字の深刻化と相まって、生産年齢人口の減少等による供給制約が顕在化し、我が国の経済成長の制約になりつつあります。

(2)都市への人口集中と地方の衰退

総人口が減少する中で、東京、名古屋、関西の三大都市圏の人口は5割を超えており、特に東京圏への一極集中傾向が加速しています。一方、地方部においては、我が国の約38万km2の国土を縦横1kmメッシュで分割すると、そのうちの約18万メッシュ(約18万km2)で人が居住していますが、2050年には、このうちの6割の地域で人口が半減以下になり、さらに全体の約2割では人が住まなくなると推計されています。人口規模が小さい市区町村ほど人口減少率が高くなり、特に人口1万人未満の市町村では、人口が約半数に減少すると予想されています(図3-1-2)。

図3-1-2 2050年の人口増減状況

都市への人口集中は、地方の過疎化や産業の衰退を招きます。総人口が減少している中、どのように地方を維持させていくか大きな課題となっています。

(3)社会資本の老朽化

我が国では、高度経済成長期以降に整備された社会資本が今後一斉に老朽化し、維持管理・更新の必要性が増大すると見込まれています。

既存の社会資本の安全確保とメンテナンスに係るトータルコストの縮減・平準化を両立できるよう、戦略的なメンテナンスに取り組む必要があります。

2 経済の課題

(1)1990年代以降における経済の低成長

我が国の名目GDPは1990年代半ば以降、約500兆円から530兆円の間でほぼ横ばいに推移しています。世界における我が国の一人当たりGDPの順位は、1990年代半ばの第3位から、2000年代に入って急激に下がり、現在は第26位(OECD諸国の中では第20位)にまで低下しています。

その背景として、2015年度の年次経済財政報告では、「成長会計分析の結果によれば、我が国の平均的な成長率は、1980年代から1990年代にかけて、4.4%から0.9%へと3.5%ポイント程度低下した。こうした成長率の低下は、TFP(全要素生産性)、資本、労働の寄与がそれぞれ1.5、0.9、1.1%ポイント低下したことによるものであり、TFP上昇率の低迷が成長率の低下にもっとも寄与していたことが分かる。(中略)2000年代に入り、TFP上昇率には若干の改善がみられたものの人口減少を背景に労働投入が引き続きマイナスに寄与する中、資本の寄与が更に縮小した」と解説し(図3-1-3)、特に1990年代以降の投資とイノベーションの不足を指摘しています。

図3-1-3 1990年代以降の実質GDP成長率の低迷とその背景

特に2000年以降、企業では内部留保が蓄積し、また、同時に現預金の保有も増加し、2016年12月現在、総額で246兆円に達する金額となっています。企業が現預金を積み増す理由として、運転資金や将来の投資に向けた資金の確保等の積極的な理由が挙げられる一方で、使い道がないといった消極的な理由も指摘され、我が国において投資機会が不足していることが考えられます。

今後、我が国が経済成長するためには、投資機会の創出等による投資の促進とイノベーションの創出が重要と考えられます。

(2)労働生産性の低迷

我が国の労働生産性は、他の先進国と比べて低い水準にあります。2015年の我が国の労働生産性(就業者一人当たり名目付加価値)は7万4,315ドル(783万円)で、経済協力開発機構(OECD)加盟35か国中22位となっており、G7諸国で最も低い水準が続いています(図3-1-4)。

図3-1-4 OECD加盟諸国の労働生産性(就業者1人当たり)

他方で、我が国が直面する人口減少・少子高齢化の状況下において経済成長を続けていくためには、生産年齢人口の減少による供給制約を克服していくことが大きな課題であり、一人一人が生み出す付加価値を向上させること、すなわち労働生産性の向上が必要不可欠となります。

その際、デフレ脱却に向けて、企業は生産性の上昇を価格引下げで吸収するのではなく、新分野の開拓や、プロダクト・イノベーション(製品あるいは新サービスの市場への投入。新製品あるいは新サービスには、機能・性能・設計・原材料・構成要素・用途を新しくしたものだけではなく、既存の技術を組み合わせたものや既存製品あるいは既存サービスを技術的に高度化したものも含まれる)を通じて付加価値を高め、単価を引き上げながら需要を創出することが重要との指摘があります。安倍内閣総理大臣の第190国会施政方針演説においては、「経済が成長すれば、労働コストは上がる。公害も発生します。『より安く』を追い求める、デフレ型の経済成長には、自ずと限界があります。そのリスクが顕在化する前に、世界が目指すべき、新しい成長軌道を創らねばなりません。イノベーションによって新しい付加価値を生み出し、持続的な成長を確保する。『より安く』ではなく、『より良い』に挑戦する、イノベーション型の経済成長へと転換しなければなりません」とされています。

労働生産性の向上には、イノベーションが重要な要素として挙げられますが、イノベーションの創出に対しては、[1]情報化資産(受注・パッケージソフト、自社開発ソフトウェア)、[2]革新的資産(著作権、デザイン、資源開発権)、[3]経済的競争能力(ブランド資産、企業が行う人的資本形成、組織形成・改革)から成る無形資産投資が波及効果を持ち、我が国は主要国と比べて、無形資産投資のうち、情報化資産、人的資本への投資が弱く、それらの投資を増加させることが課題との指摘があります。

(3)資源・エネルギー制約

化石燃料や鉱物資源等の地下資源に乏しい我が国では、それらの多くを海外からの輸入に依存しています。化石燃料の輸入額は、2000年代以降急増しています。2015年度の化石燃料の輸入額は、原油や液化天然ガス価格の下落を受け、2014年度と比べると大幅に減少したものの、GDPの3.6%に相当する約18.2兆円に達しており、近年の貿易赤字の主要な原因となっています(図3-1-5)。

図3-1-5 日本の化石エネルギー輸入額の推移

また、限られた資源を有効活用するためには、資源生産性(GDP/天然資源等投入量)を向上させていくことが重要です。我が国では、循環型社会推進基本法が制定された2000年度から2009年度までの10年間で資源生産性は約53%向上しており、少なくともこの10年間は天然資源の利用と経済成長がデカップリングされていたと言えますが、この資源生産性の向上は、主に国内の土石系資源(岩石、砂利、石灰石等の金属以外の鉱物由来の資源)の投入量の減少によるものであり、土石系資源以外の金属資源や化石系資源(石炭、石油、天然ガス由来の資源)の投入量はほぼ横ばいとなっていました。また、2009年度以降、天然資源投入量とGDPはほぼ横ばいとなっており、我が国の資源生産性は近年停滞しています。

資源・エネルギーの安全保障の観点からも、国内にある再生可能資源を最大限活用していくとともに、資源生産性を向上させていくことが重要となっています。