第3章 環境の世紀を歩む道筋

 第1章、第2章で述べたとおり、環境に負荷を与える人間活動は依然として拡大しており、地球温暖化の進行、資源消費の増加、生物多様性の劣化などが進んでいます。国連環境計画UNEP)が平成21年2月に発表した「グローバル・グリーン・ニューディール」の報告書では、仮に現状のまま対策がとられなかった場合、世界の温室効果ガス排出量は2030年までに45%増加し、地球の平均気温が6℃上がるであろうと指摘しています。英国で財務大臣の下で検討を進めた結果を盛ったスターン・レビューによると、気温が5〜6℃上昇すると世界のGDPの5〜10%に相当する損失が生じ、途上国では国内総生産(GDP)の10%を超える損失が生じるとされています。

 このような事態は避けなければなりませんが、今、行動を起こせば避けられると考えられます。今、私たちは、100年先の人類に、21世紀初頭の選択が正しかったと言われるかどうかの岐路に立っているのです。わが国は、そのような厳しい認識の下、地球温暖化を始めとする環境問題の解決に向け、国際社会をリードしていこうとしています。100年先を見据えたとき、地球生態系と両立できる経済への発展を追求していくことは不可避です。このような経済へ向けて舵を切る好機が、この世界同時不況の下で巡ってきました。環境対策を着実に進め、国際社会と共有する目標に向かって、低炭素社会づくり、循環型社会づくり、自然共生社会づくりを統合的に進めていかなくてはなりません。

第1節 100年先を見据える国際交渉と日本の役割

 環境分野の国際的なルールづくりにおいては、科学的知見に基づき議論を進めることが特に重要です。地球温暖化問題に関しては、IPCCが公表する評価報告書等が科学的な根拠として大きな役割を担っています。循環型社会づくりのための国際的な取組に関しては、G8において日本の主導により「3Rイニシアティブ」が推進されています。経済協力開発機構OECD)では、物質フロー指標に関する取組を行い、UNEPにおいては、持続可能な資源管理に向けて科学的知見の取りまとめ作業が行われています。このような科学的な知見に基づく枠組の下で、資源の循環利用を長期的に確立していく必要があります。生物多様性に関しては、2010年目標の達成状況を生物多様性条約事務局が評価している地球規模生物多様性概況(GBO)が、地球規模の生物多様性の状況を科学的に示すものとなっています。その成果を政策に活かしていくことが求められています。これには、中長期的な経済社会のあり方を大きく見直していくことが求められるため、環境と経済の関係を良く理解して政策を展開していくことが必要です。

 最新の科学的な知見が未来の地球環境の悪化を予測し、警鐘を鳴らしています。科学の警告を踏まえて、100年先を考えた的確な判断をしなくてはなりません。ここでは、地球と人類の未来を決める国際交渉の論点や国際交渉においてわが国が果たすべき役割を述べていきます。

1 G8北海道洞爺湖サミット等の成果

 平成20年5月に神戸で行われたG8環境大臣会合や、同年7月にわが国が議長国となり行われたG8北海道洞爺湖サミット、そして平成21年4月のイタリアのシラクサでのG8環境大臣会合は、それぞれ、環境分野で大きな成果を上げています。以下に、それらの会議の成果を振り返ります。


(1)G8北海道洞爺湖サミット及びG8環境大臣会合(平成20年5月)の成果

 平成20年5月、神戸でG8環境大臣会合が行われました。この会合は、「気候変動」、「生物多様性」及び「3R」の3つの分野について、同年7月に開催された北海道洞爺湖サミットに向け、以下のとおりG8の環境担当大臣として有益なインプットを与えるものとなりました。

○気候変動の分野では、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減させる長期目標をG8北海道洞爺湖サミットで合意することへの強い意志が表明され、すべての国が低炭素社会について明確なビジョンを持つべきこと、IPCCの科学的知見を考慮した実効的な中期目標の設定が必要であること等がメッセージとして発出されました。また、[1]低炭素社会に関する国際研究ネットワーク、[2]セクター別の削減ポテンシャルに関する更なる科学的分析の実施、[3]コベネフィット・アプローチの促進、及び[4]途上国の温室効果ガス排出量データ整備への支援について議論を深める「神戸イニシアティブ」を開始することで一致しました。

○生物多様性の分野では、議長が提案した「神戸・生物多様性のための行動の呼びかけ(Kobe Call for Action for Biodiversity)」にG8各国が合意し、議長国である日本はSATOYAMAイニシアティブを含む「『神戸・生物多様性のための行動の呼びかけ』の実施のための日本の取組」を表明しました。

○3Rの分野では、今後3Rをさらに進めるための目標と行動を列挙した「神戸3R行動計画(Kobe 3R Action Plan)」にG8各国が合意しました。さらに、日本として、アジア等における循環型社会構築に貢献していくための新たな行動計画「新・ゴミゼロ国際化行動計画」を発表しました。

 平成20年7月に北海道洞爺湖で開催されたサミットは、議長である当時の福田総理大臣が「化石燃料への過度な依存を断ち切り、低炭素社会へ舵を切れるかどうかがかかった重要なサミットである」と表明するなど、環境・気候変動問題が主要な議題の一つとされたサミットでした。会議の結果の首脳宣言について見ると、気候変動に係るものが過去最多の14項目、森林、生物多様性、3R、持続可能な開発のための教育がそれぞれ1項目ずつ盛り込まれ、気候変動問題を重視しつつ、地球環境問題を広く取り扱っていることが分かります。これらのうち、以下では気候変動問題の成果について概要を紹介します。

 気候変動問題については、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減させるという長期目標について、気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択を求めること等について合意がなされました。また、全ての先進国間で比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的な削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施することを認識しました。

○バリ行動計画の着実な実施:バリ行動計画京都議定書第一約束期間後の地球温暖化対策について2009年の締約国会議で合意を得られるように作業を進めるという計画)を、2009年までに気候変動枠組条約プロセスにおいて世界的な合意に達するための基礎として歓迎する。

○長期目標:2050年までに世界全体の排出量を少なくとも50%削減するとの目標を、気候変動枠組条約の全締約国と共有し、同条約の下での交渉において検討し採択することを求める。

○中期目標:G8各国が自らの指導的役割を認識し、各国の事情の違いを考慮に入れ、全ての先進国間で比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施。

セクター別アプローチ:各国の排出削減目標を達成する上でとりわけ有益な手法。また、エネルギー効率を向上させ温室効果ガス排出量を削減するための有用な手段となりうる。

○その他:

・革新的技術のためのロードマップを策定する国際的イニシアティブの立ち上げ

・気候投資基金の設立を歓迎・支持(既にG8メンバーは約60億米ドルの拠出を約束)


(2)G8環境大臣会合(平成21年4月)の成果

 平成21年4月にイタリアのシラクサにおいて、G8環境大臣会合が行われました。この会合は、現下の財政・経済危機という文脈での低炭素技術の開発と活用、気候変動対策、生物多様性、そして、わが国が提案した子どもの健康と環境に関して議論が行われました。

 特に、生物多様性に関しては、「生物多様性に関するシラクサ宣言」が採択されました。同宣言では、気候変動の緩和と適応のための生態系の役割に焦点をあて、生物多様性と気候変動との関係を強調したほか、生物多様性の経済評価に関する研究への支援が必要であること、2010年までに遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)の国際的枠組に関する交渉を完了させるために作業することなどとしています。また、「神戸・生物多様性のための行動の呼びかけ」に盛り込まれたSATOYAMAイニシアティブに言及しつつ、自然資源の持続可能な管理を促進することの重要性が明記されました。さらに、科学と政策のインターフェイス強化の重要性が強調されたほか、生物多様性に関する2010年以降の枠組みの構築については、科学的研究を基礎として、生物多様性の損失に関する直接的及び間接的な要因への時宜を得た対応の必要性等が提案されました。

 そのほか、議長総括により、7月にイタリアで予定されているG8サミットに対して、以下のようなメッセージが伝えられることになりました。

○低炭素技術については、経済発展と排出削減の双方に取り組むため、回復・刺激パッケージは、低炭素技術への投資に加えて、さらに効率的な製品とエネルギー使用への投資を含むべきである。

○気候変動対策の行動については、気候変動には緊急の対応をとることが必要であり、バリ行動計画とバリロードマップのすべての柱をカバーするコペンハーゲンでの京都議定書第一約束期間後の枠組に関する野心的な合意を達成しようという意志が明らかとなった。また、中・長期目標、適応・財政措置・ガバナンスを含む、鍵となる事実に関する交渉の著しい進展が必要であり、野心的な合意に向けて交渉を継続するためには、先進国が中期・長期の目標や途上国の緩和・適応のための財政支援に関する自らの立場を明確にすること、そして、途上国が、全世界の削減努力に対する自らの貢献について明確にすることが重要である。

○生物多様性については、生物多様性と生態系サービスは、ミレニアム開発目標の達成及び人類の生活と福祉のために不可欠である。生物多様性は、関連する経済的な価値を有し、世界的な経済危機への対処に貢献する。生物多様性に関する2010年以降の枠組に向けた共通の道筋を特定することが緊急に必要である。

○子どもの健康と環境については、鉛含有塗料の迅速な削減の促進、有鉛ガソリンの世界的な根絶、化学物質や重金属の影響、気候変動の影響などを含む「子どもの健康と環境」に関連する調査研究の協力、そして小児環境保健に携わるすべての専門家の知識と能力を高めることが、今日適切な行動である。

2 京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス削減枠組

 京都議定書では、温室効果ガス排出量を削減する国際的な取組は、まず先進国から始めることとして、第一約束期間(2008〜2012年)中の温室効果ガス削減の枠組を決めています。先進国の中でもアメリカなどが参加しなかったので、削減義務を負っている国のエネルギー起源二酸化炭素の総排出量は、2006年時点で世界全体の約30%です(図3-1-1)。削減義務を負っていない開発途上国の経済発展に伴い、温室効果ガスの世界の排出量は今後も増え続けると予測されています。こうしたことから、第一約束期間後の枠組では、「共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則」という考えの下ですべての国が参加するようになることが強く望まれています。


図3-1-1 世界のエネルギー起源二酸化炭素排出量(2006年)

 第一約束期間後の温室効果ガス削減枠組に係るわが国の立場や、これに関連する国内の取組、長期的な削減目標について専門家が検討した技術上の見通し等について述べていきます。


(1)京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス排出削減枠組の国際交渉

 平成19年12月にインドネシアのバリ島で開催されたCOP13では、バリ行動計画が採択され、すべての締約国が参加して京都議定書第一約束期間後の2013年以降の温室効果ガス排出削減枠組について、2009年のCOP15までに合意に至ることが決まりました。平成20年12月にポーランドのポズナンで開催されたCOP14は、国際的な金融危機の中にあっても気候変動問題に各国が積極的に取り組んでいくという強い決意の下で議論が行われました。わが国は、2008年(平成20年)9月に提出した次期枠組みの基本的考え方に関する提案に沿って、世界全体の温室効果ガス排出量を2050年までに少なくとも半減する長期目標の共有を訴え、セクター別アプローチの考え方、経済発展段階等に応じた途上国の行動等について、議論に積極的に参画しました。COP14は、2009年末における次期枠組みへの合意に向け、各国の見解をまとめた議長ペーパーの作成、2009年の作業スケジュールの決定、付属書I国の削減目標の検討に関してはIPCC等の科学的表現及び削減ポテンシャルやコストなどの要素に基づくべきとの日本の考えが反映された結論文書の採択等の成果を上げ、交渉の本格化に向けた共通の基盤が整備されるとともに、適応基金を用いた途上国の支援の基本的条件が整いました。

 気候変動枠組条約の下に設置されている特別作業部会(条約AWG)は、平成21年3月末〜4月初めにドイツのボンで会合を行い、COP15での合意事項に関して交渉を進めるための論点を整理しました。引き続き、6月に同地で会合を開催し、12月のCOP15での合意に向けて、議長が示す交渉文書に基づき議論が行われる予定です。


(2)京都議定書目標達成計画等に基づくわが国の取組

 ア 京都議定書目標達成計画

 京都議定書は、気候変動枠組条約の下で平成17年に発効し、第一約束期間(2008〜2012年)中の温室効果ガス排出量を基準年度比で6%削減するという法的拘束力のある約束をわが国に課しています。6%削減約束を達成するために、地球温暖化対策推進法に基づいて、京都議定書目標達成計画(平成17年4月28日閣議決定(平成20年3月28日全部改定)。以下「目標達成計画」という。)が定められており、国、地方公共団体、事業者及び国民のそれぞれが対策を講じていく必要があります(表3-1-1)。わが国の温室効果ガス総排出量は、2007年の確定値で13億7,400万トン(二酸化炭素換算)であり、基準年の総排出量(12億6,100万トン)を9.0%上回っています(表3-1-1)。このため、6%削減約束を達成するためには、15.0%(森林吸収源対策での削減3.8%、京都メカニズムでの削減1.6%を含む)も削減しなくてはなりません(図3-1-2)。6%削減約束は、約束期間5年間の平均として達成しなくてはならず、対策が遅れるほど約束期間の後半で大幅な削減が必要となってしまいます。


表3-1-1 温室効果ガスの排出状況及び2010年度の温室効果ガス排出量の目安


図3-1-2 京都議定書目標達成計画の進捗状況

 イ 低炭素社会づくり行動計画

 G8北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量の少なくとも半減を達成する目標を気候変動枠組条約の全締約国と共有し採択することを求めることについて、G8間で共通理解が持たれました。世界全体の温室効果ガス排出量を今後10〜20年の間にピークアウトし、2050年までに少なくとも50%削減するため、わが国も長期目標として、2050年に現状から60〜80%削減するという目標を掲げ、低炭素社会づくり行動計画を平成20年7月29日に閣議決定しました。同計画では、21年の然るべき時期に中期目標として国別総量目標を発表することとし、また、国際的な支援として5年間で100億ドル程度の資金提供を行う「クールアース・パートナーシップ」の推進と世界銀行に設立された気候投資基金を通じて太陽光、風力発電所の導入など、途上国に対して気候変動問題への取組を支援することとしました。国内対策としては、「環境エネルギー技術革新計画(平成20年5月総合科学技術会議決定)」に示された技術ロードマップを着実に実行することなどの革新的技術開発、ゼロ・エミッション電源の大幅な拡大、次世代自動車の導入、省エネ住宅・ビル、200年住宅の普及などの既存先進技術の普及を図ることとされました。また、地熱を含めた再生可能エネルギーについて、エネルギーの地産地消の推進、新エネベンチャーの支援、自主的取組の促進等を進めることを定めています。さらに、排出量取引の国内統合市場の試行的実施、税制のグリーン化等によって国全体を低炭素化へ動かす仕組みづくり、低炭素型の都市や地域づくりを進めることなどの地方、国民の取組の支援について定めました(図3-1-3)。


図3-1-3 低炭素社会づくり行動計画(平成20年7月29日閣議決定)の概要

 ウ 国内排出量取引制度

 国内排出量取引制度とは、排出枠の交付総量を設定した上で、排出枠を個々の主体に配分するとともに、他の主体との排出枠の取引や京都メカニズムクレジットの活用を認めること等を内容とするものです。環境省では、費用効率的で確実な削減と国内排出量取引制度に関する知見・経験の蓄積を目的に、平成17年度から「自主参加型国内排出量取引制度(JVETS)」を開始し、自主的に削減目標を設定して排出削減に取り組む事業者に二酸化炭素排出抑制設備の整備に補助金を交付するという仕組みで20年度まで4期に亘り運用してきました。この結果、平成20年夏に運用を終了した第2期までの参加者すべてが、排出削減と排出量取引により削減目標を達成し、排出削減予測量合計を大幅に上回る削減が達成されたこと、排出量が排出枠の初期割当量を上回った事業所においても排出量取引が目標達成のための柔軟性のある措置として役割を果たしたことなどが評価されました(図3-1-4)。


図3-1-4 自主参加型国内排出量取引制度の運用状況

 一方、排出枠の割当方法の公平性等を高めるためベンチマーク方式等の目標設定方法を検討する必要性が課題とされたほか、大きな効果を実現するために参加者数を拡大すること、個別の工場・事業場単位での参加だけではなくグループ企業やフランチャイズなどグループ単位での参加を可能とする仕組みを検討すること、あらゆる部門の参加が可能となるルールづくり、海外市場とのリンク等が課題として上げられました。

 環境省が行ってきた自主参加型国内排出量取引制度の知見、経験等を活かし、京都議定書目標達成計画や、同計画に位置づけられている自主行動計画との整合性も考慮しつつ、既存の制度や企画中の制度を活用し、より広い取組も始まりました。これは、国内排出量取引制度の本格導入に必要となる条件や制度設計上の課題を明らかにするとともに、技術とモノ作りが中心の日本の産業に見合った制度のあり方を考え、国際的なルールづくりの場でのリーダーシップを発揮するため、平成20年10月、内閣に設置されている地球温暖化対策推進本部の決定に基づいて始まった「排出量取引の国内統合市場の試行的実施」です。参加企業等の募集を行ったところ、平成21年3月現在、「試行排出量取引スキーム」の目標設定参加者449社(目標設定主体320)、取引参加者61社、「国内クレジット制度」の排出削減事業者13社の合計523社から参加申請があり、参加申請のあった事業者の総排出量はわが国の産業部門全体の排出量の約7割をカバーしました。「試行排出量取引スキーム」の特徴としては、目標設定参加者が目標を自主的に設定し、自主行動計画参加企業の目標は所属する業種の業界団体が定めている自主行動計画と整合する仕組みとなっていること、排出総量目標や原単位目標が選択できること等が挙げられます。本スキームは、できるだけ多くの業種・企業の参加を得て、様々なオプションを試行・評価し、民間企業等の自主的取組や創意工夫を活かし、技術開発や実効性ある排出削減につながる技術とモノ作りが中心の日本の産業に見合った日本型モデルを検討することが目的となっています。二酸化炭素に取引価格を付け、市場メカニズムを活用し、技術開発や削減努力を誘導する方法で二酸化炭素の削減を図るとの観点に立って、排出量取引の国内統合市場の試行的実施を進めていきます。

 エ 税制のグリーン化

 低炭素社会づくり行動計画では、税制の抜本改革の検討の際には、環境税の取扱いを含め、低炭素化促進の観点から税制全般を横断的に見直し、税制のグリーン化を進めることとされました。

 税制のグリーン化については、第171回通常国会において成立した所得税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第13号。以下「所得税法等の一部を改正する法律」という。)及び地方税法等の一部を改正する法律(平成21年法律第9号)において、自動車重量税及び自動車取得税の時限的減免措置の創設、住宅の省エネ改修に係る税額控除制度の創設等の省エネ住宅促進税制の拡充・延長等が盛り込まれました。また、平成20年12月に閣議決定された「持続可能な社会保障構築とその安定財源確保に向けた「中期プログラム」」においては、税制抜本改革の基本的方向性として、「低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化を促進する。」ことが明記され、所得税法等の一部を改正する法律附則第104条において、「低炭素化を促進する観点から、税制全体のグリーン化(環境への負荷の低減に資するための見直しをいう。)を推進すること。」とされました。


(3)温室効果ガス排出削減に係るわが国の中期目標の検討状況

 京都議定書において、気候変動枠組条約の付属書Iに掲げる国に対しては、中期目標の検討についての情報を国連の場に提供することが奨励されています。また、低炭素社会づくり行動計画で平成21年の然るべき時期に中期目標を発表すると決めました。このような状況を受けて、わが国の中期目標の検討を科学的、論理的に行うため、内閣総理大臣が開催する「地球温暖化問題に関する懇談会」の下に平成20年10月、「中期目標検討委員会」が設置されました。既に7回の検討委員会が行われ、様々なモデル分析により、平成21年4月、我が国の中期目標に係る6つの選択肢(森林吸収減、CDM等による削減は含まず)が提示されました(図3-1-5)。


図3-1-5 中期目標の6つの選択肢

 我が国の中期目標の策定にあたっては、将来の日本のあるべき姿を見据え、国民に選択肢を提示すべく、有識者も含めた開かれた場で、環境、経済、エネルギーへの影響を総合的に捉え、国際的な公平性を確保しつつ、科学的な分析に基づいた検討を行ってきました。

 その結果、既存技術の延長線上で効率改善を行った場合に温室効果ガス排出量は05年比−4%(90年比+4%)、最高効率の機器を現実的な範囲で最大限導入した場合には05年比−14%(90年比−7%)、新規導入機器を全て最高効率にし、更新時期前の既存の機器も一定割合を最高効率のものに買換え・改修した場合には05年比−21%〜−22%(90年比−15%)、新規・既存の機器のほぼ全てを最高効率の機器にすることを義務付けるとともに、経済の活動量(生産量)を低下させた場合には05年比−30%(90年比−25%)等の試算がなされました(図3-1-6)。


図3-1-6 必要な対策・施策

 また、国民生活、経済への影響については、温暖化対策を進めるほど省エネ投資が活発化し民間投資が増加する一方で、実質GDPの押下げ、失業率の増加をもたらす等、経済に一定の影響を与えることが示されました(図3-1-7)。


図3-1-7 経済への影響の分析

 中期目標の選択肢の設定においては、このように、諸外国が発表した中期目標との公平性、実現可能性や国民生活、経済への影響を踏まえた精緻な分析が行われたところです。その上で、平成21年1月の世界経済フォーラム(ダボス会議)において麻生総理が発表したように、裏打ちのない宣言でなく、経済面でも実行可能で、地球全体の温暖化対策に貢献するわが国の中期目標を本年6月までに政府として決定・公表することとしています。


(4)温室効果ガス排出削減の長期的目標に係る技術上の見通し

 温室効果ガス排出削減は、技術の進歩抜きには達成できず、排出削減の様々な長期的目標も技術の発達を前提にしています。私たちは、温室効果ガス排出削減の可能性に関する技術的な見通しを踏まえ、エネルギー供給の約65%を石油や石炭が占める社会から脱却していかなくてはなりません。天然ガス、原子力、再生可能エネルギー等の低炭素エネルギーへの転換や排出された二酸化炭素を大気中に放出せず地中に埋める「二酸化炭素回収・貯留(CCS)」の導入などが進んだ温室効果ガス排出の少ない社会にしていかなくてはならないのです。ここでは、これまでに専門家や国際機関等が研究に基づき発表してきたいくつかの成果を紹介します。

 ア スターン・レビュー

 スターン・レビューでは、2050年に温室効果ガスの濃度を550ppm(二酸化炭素換算)で安定化させるために必要な排出削減に係るコストの上限値は、年間のGDPの1%程度であろうと見込んでいます。具体的には、世界中の電力部門が60%から75%の排出量削減を図り、運輸部門における大幅な削減等が必要であると予測しています。これらの削減を達成するような多くの技術は既に存在しているが、まずやらなくてはならないのは技術コストを下げることと、炭素に価格を付ける政策との両方を進め、これらの技術が化石燃料の代替として競争力のあるものにする必要があると指摘しています。また、技術による排出削減とコスト低減のポテンシャルは非常に大きく、過去1世紀において先進国では、エネルギー効率は10倍以上に改善されており、さらに改善される可能性も、なお相当高いと予測しています。

 イ IPCC第4次評価報告書

 IPCC第4次評価報告書の第3作業部会報告書では、気候変動の緩和策、つまり温室効果ガスの排出削減方策を取り上げ、2030年までと2030年以降に活用が期待される重要な技術を示しています。このような技術としては、例えば、エネルギー供給部門でのCCS、先進的原子力技術及び再生可能エネルギー(潮汐及び波力発電、集中太陽熱、太陽電池等)、運輸部門での次世代バイオ燃料の利用、より高出力、高信頼性のバッテリーを用いた電気自動車、より高効率な航空機、エネルギー使用を最適に集中管理する商業ビルの普及、太陽光電池を取り入れた建築物等が示されています。エネルギー供給、運輸、建築、産業、農業、林業、廃棄物の全分野で、適切な技術が導入された場合に、世界中では二酸化炭素換算158〜310億トン/年の削減量(1トン削減に必要なコストが100米ドルまでの場合)が見込まれるとしています。これは、下限値を取ったとしても2005年の世界全体の二酸化炭素排出量271億tの約58%を占めます。また、例えば、490〜540ppm(二酸化炭素換算)で安定化させるとした場合、再生可能エネルギー、原子力及びCCSの利用が削減量の大半を占めることになると見込んでいます(図3-1-8)。


図3-1-8 気候変動の緩和策と削減量

 ウ 2050プロジェクト

 平成20年5月、(独)国立環境研究所を中心とした「2050日本低炭素社会」シナリオチームは、「低炭素社会に向けた12の方策」(以下「12の方策」という。)を公表しました。12の方策では、シナリオA:技術による解決など、活力と成長を志向する社会としてGDP1人当たり2%成長を想定した社会、シナリオB:もったいないの文化など、ゆとりと足るを知ることを志向する社会としてGDP1人当たり1%成長を想定した社会の2つを設定しています。いずれの社会でも2050年にわが国の二酸化炭素排出量を1990年比で70%削減することが可能であることが示されました。70%削減するために必要な削減量は、2000年の値を1として人口が0.74倍、GDPが2.75倍になるとの仮定の上で、産業のサービス化による需要側の構造転換で0.45倍に、省エネ機器の普及等による需要側のエネルギー効率改善で0.6倍に、再生可能エネルギー普及等のエネルギー供給側の低炭素化で0.5倍になり、それらを掛け合わせて、70%削減(2000年比では73%)が可能になると結論づけています。70%削減するために必要な削減量のうち、主要3部門の占める割合は、民生部門で21〜24%、産業部門で13〜15%、運輸部門で19〜20%を見込んでおり、主要3部門では全削減量の約53〜59%になると推計されています。

 具体的には、民生部門では自然光の採光や冷暖房効率を上げる断熱構造を取り入れた建築物の普及、高効率機器をレンタルして初期費用を軽減する暮らし等を、産業部門では旬のものを地元で生産する農業、木材の積極的な利用や吸収源確保にも資する林業、低炭素型の商品やサービスの供給による持続可能な産業・ビジネス等を、運輸部門ではサプライチェーンマネジメントの行き届いた無駄のない物流、歩いて暮らせる街づくり等を提言しています(図3-1-9)。


図3-1-9 民生、産業、運輸部門における2050年の二酸化炭素排出削減イメージ


(5)COP15に向けたわが国の国際交渉

 わが国は、京都議定書第一約束期間後の温室効果ガス削減についての実効的な国際枠組みに、気候変動枠組条約COP15において合意することを目指し、2008年のサミット議長国として、また、条約締約国として、世界の国々が十分に納得して枠組に参加できるように、以下の点を基本に国際交渉をリードします。

・京都議定書上で削減義務のある国だけでなく、共通だが差異のある責任及び各国の能力の原則の下、アメリカ、中国及びインドを含む全ての主要経済国が参加する公平かつ実効的な枠組とする。

IPCCの科学的知見を参考にするとともに、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも50%削減するという長期目標を気候変動枠組条約の下で採択する。

・この実現に向け、今後10〜20年後に世界全体での排出量をピークアウトさせることを目指し、低炭素社会の構築や革新的技術開発の推進を含む2050年までの世界全体での排出量の削減のあり方を共有する。

・2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減させる目標の実現に向けて、国際的な連帯の精神の下、すべての国が排出削減に取り組むとともに、先進国が大幅な排出量の削減を達成することによって世界全体の取組を主導する。同時に、途上国、特に排出量の大きい主要途上国は、その責任と能力に応じて、緩和のための行動を取る義務を国際的に負う必要があることを共有する。

3 生物多様性条約第10回締約国会議に向けたわが国の取組

 人類の生存には、生物多様性の維持された地球環境が必要です。経済社会の中で自然に生物多様性が維持されていくように、経済社会のルールや仕組みを変えていくことが必要です。


(1)生物多様性基本法の成立まで

 平成20年5月、与野党の共同提案による生物多様性基本法(平成20年法律第58号)が全会一致で成立しました。この法律は、生物多様性の保全と持続可能な利用を進めることで、生物多様性の恵みを将来にわたり享受できる社会、すなわち、自然と共生する社会を実現することを目的とした法律であり、生物多様性施策に関する基本となる事項を定めています。保全や利用等に関する基本原則、国が講ずべき基本的施策、国、地方公共団体、事業者、国民・民間団体の責務などが規定されています。

 折しも、同じ5月にドイツで開催された生物多様性条約第9回締約国会議(COP9)は、平成22年10月にCOP10を愛知県名古屋市で開催することを決定しました。わが国は、議長国として会議を円滑に運営し成功に導く重要な役割を果たさなければなりません。また、COP10はわが国で開催される生物多様性関係の国際会議としては最大のものになることから、国内での生物多様性に対する認識や取組を飛躍的に向上させる好機ともいえます。国内外で生物多様性の保全や持続可能な利用を推進していくべきときに、生物多様性基本法が成立したことは時宜を得たことといえます。


(2)生物多様性はなぜ必要か

 生物多様性条約は平成5年に発効し、21年3月末現在、わが国をはじめ世界中のほとんどの国(190ヶ国及びEC)が締約国になっています。COP9には約170ヶ国からオブザーバーを含め7,000人以上が参加するなど、この条約には、国際的に高い関心が寄せられています。

 一方、環境省が平成16年に行ったアンケート調査では、国内で「生物多様性」という言葉を知っている、あるいは聞いたことがあると回答した人は全体の約30%に過ぎず、国際的な関心の高さに比べ、生物多様性への国内の関心は必ずしも高いとはいえません(図3-1-10)。その理由の一つに生物多様性という言葉がわかりづらいことが考えられます。


図3-1-10 生物多様性の認識状況

 ア わかりづらい生物多様性という言葉

 生物多様性条約では、生物多様性を、「すべての生物(陸上生態系、海洋その他の水界生態系、これらが複合した生態系その他生息又は生育の場のいかんを問わない。)の間の変異性をいうものとし、種内の多様性、種間の多様性及び生態系の多様性を含む。」と定義しています。生物多様性を端的に、またわかりやすく説明することは難しいのですが、長い生物進化の歴史を経て、地球上のさまざまな環境にさまざまな生物が適応し、食物連鎖などの生物同士の相互関係を持って存在している状態と言い換えることができます。あるいは、地域に固有な自然があり、それぞれに特有の生きものがいること、そして、それぞれがつながっていることともいえます。生物多様性に対する国際的な関心の高さは、生物多様性が人類の生存に必要不可欠である一方、地球規模で生物多様性が失われつつあるとの危機感が高まってきていることが大きな理由と考えられます。

 イ 生物多様性に支えられる私たちの暮らし

 この白書に使われている紙は植物繊維から作られています。毎日の食卓に上るご飯や野菜は元々野外に生えていた植物を改良した農作物から作られています。平成16年のスマトラ島沖地震ではマングローブ林(熱帯や亜熱帯の川の河口などの汽水域に成立する林)やサンゴ礁が存在していた場所では津波の威力が緩和され被害が少なかったといわれています。鎮守の森や里地里山のような文化的景観も地域の生物多様性を反映しています。我々が生きていくのに必要な酸素は植物が作り出しています。このように、我々が毎日の暮らしで無意識に享受している大変重要な事柄の多くは、生物多様性によってもたらされる恵みなのです。そうした認識は、人々に十分に行き渡っていません。十分な認識がない中、今日の人間活動が生物多様性に与える負荷は無視できないものになってきています。

 例えば、生物学の視点から持続可能性を評価する指標としてエコロジカル・フットプリントがあります。これは、人間活動が環境に与える負荷を、消費する資源の再生産や排出する廃棄物の浄化に必要な面積で示そうとするものです。世界自然保護基金(WWF)が平成20年に発表した「リビング・プラネット・リポート」によると、平成17年時点で、全世界の人間が世界の平均的な生活水準で暮らした場合、その活動全体を支えるには地球1.3個分の面積が必要という結果を発表しています。

 また、ミレニアム生態系評価(MA)や生態系と生物多様性の経済学(TEEB)の中間報告などの動きに見られるように、最近では、世界規模の視点に立って、我々人類が生物多様性からどのような恩恵を受けているか、生物多様性が悪化した場合どのような影響を被るかなどを評価し、政策につなげようとする試みが行われています。

 環境省は、平成20年度に日本のサンゴ礁がもつ生態系サービスのうち、観光・レクリエーションの提供、商業用海産物の提供、波浪・浸食の被害からの保護の3つについて、現在の経済的価値を試算しました。日本では生態系サービスを経済評価した事例が少なく、今後より正確な試算方法の確立が求められます。同試算によれば、観光・レクリエーションの提供では2,399億円/年、商業用海産物の提供では107億円/年、波浪・浸食の被害からの保護では75〜839億円/年と見込まれました。類似の試算として、TEEBの中間報告では、カリブ海のサンゴ礁が30年間に約80%減少した結果、ダイビング産業での損失が年間30億米ドルになると予測されることを紹介しています。サンゴ礁は生物種が豊富な生態系の一つとして保全の重要性が認識されていますが、存在自体により我々が計り知れない恩恵を受けていることも認識する必要があります。


日本のサンゴ礁の生態系サービスの経済的価値の試算


 サンゴ礁は、漁場の提供や国土の形成・保持、観光やレクリエーションの創出など、人々に多くの恵み(生態系サービス)を与えてくれます。これらはいずれも健全なサンゴ礁生態系が維持されてはじめて実現するものです。

 多様性に富むサンゴ礁がもつさまざまな生態系サービスの機能や価値を定量化することには限界がありますが、環境省では、日本国内において人間がサンゴ礁から受けるさまざまな生態系サービスのうち、[1]観光・レクリエーションの提供、[2]商業用海産物の提供及び[3]波浪・浸食の被害から保護の3つについて経済的価値を試算しました。

 このような生態系サービスの経済評価は、限られた情報といくつかの仮説に基づいた計算であるため、評価できる対象が限定されます。しかし、貨幣価値に置き換えることによって、人々に生態系の価値を分かりやすく伝えることや、他の経済的な価値との比較が可能となることから、開発や保全対策の費用と便益を同じ基準で表現することができるといった点で有益であるといえます。


日本のサンゴ礁生態系が持つ3つの機能に関する現在の経済的価値の試算結果


サンゴ礁の生態系サービス



(3)生物多様性条約第10回締約国会議に向けた日本の取組

 生物多様性条約には、[1]生物多様性の保全、[2]生物多様性の構成要素の持続可能な利用及び[3]遺伝資源の利用から生ずる利益の公正かつ衡平な配分、という3つの目的があります。[3]は、例えば、ある国に生育する植物を利用して外国資本が革新的な医薬品を開発し利益を上げた場合、その利益の一部を植物の採取された国にも公正かつ衡平に配分するという考え方を示しています。また、条約全体の目的を推進するために必要な目標や優先すべき活動などを定めることを目的にして、「生物多様性条約戦略計画」が平成14年のCOP6で採択されました。この計画では、「生物多様性の損失速度を、2010年までに顕著に減少させる」ことを計画全体の目標(2010年目標)としました。この計画の達成状況を評価するため、世界の生物多様性の状況を15の指標から評価した「地球規模生物多様性概況第2版(GBO2)」が生物多様性条約事務局により平成18年に開催されたCOP8において公表されています。

 COP10では、2010年以降の新たな目標を含む生物多様性条約戦略計画の改定と、「遺伝資源へのアクセスと利益配分(ABS)」に関する国際的枠組みの検討終了が重要議題とされるほか、さまざまな議題が予定されています。

 わが国はABSについては、国際的な遺伝資源の利用実態を踏まえ、実質的な利用上の支障が生じないよう、また生物多様性の保全や持続可能な利用にも配慮された枠組みとなるよう作業部会等を通じて議論に貢献します。

 2010年目標を含む生物多様性条約戦略計画の見直しについては、「生物多様性の損失速度を、2010年までに顕著に減少させる」という2010年目標を、一層測定可能で多くの立場の人々が自らの目標として認識でき、取組の推進につながるような目標にすることが重要です。そのためにはGBO2には盛り込まれていなかった生態系サービスの経済評価や人と自然の関わりに関する指標を取り入れる必要があります。この観点から、わが国は、現在第2フェーズの作業が行われているTEEBに参画し、また、現在検討中の「SATOYAMAイニシアティブ」の考え方や生物多様性の総合評価の成果を踏まえ、持続可能な自然資源管理などの指標や、わかりやすく計測可能な新目標を提案します。さらに、来るべきGBO3の作成や国際的なワークショップなどを通じて戦略計画の見直しにリーダーシップを発揮するよう努めていきます。

 生物多様性の保全については、基本的かつ重要な施策として条約発効以前から世界的にさまざまな取組が進んでいます。例えば、地球上の全陸地面積の約13%が保護区に指定されています。(図3-1-11)生物多様性条約では、平成16年に開催されたCOP7において、保護区に関する作業計画がまとめられました。また、保護区の管理の充実や海洋保護区の指定などが課題であることが指摘されています。日本はCOP10に向け、国際的にも課題となっている海洋保護区の指定などを推進するため、東アジアを中心としたサンゴ礁保護区のネットワークの構築を推進します。


図3-1-11 世界の保護地域の割合

 生物多様性の構成要素の持続可能な利用については、COP7で生物多様性の持続可能な利用に関する原則とガイドラインが採択され、基本的な考え方がまとめられました。また、COP8で企業等の民間部門が条約の目的達成に貢献すべきという民間部門の参画に関する決議が採択されました。またこれを受け、COP9ではドイツ政府が条約の目的達成に民間企業の関与を強化するための「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」を立ち上げ、賛同する企業34社(うち9社が日本企業)が条約の目的達成に資する取組の実施を約束する「リーダーシップ宣言」に署名しています。日本は、一次産業を中心とした人間活動と自然との相互の関わりにより形成された二次的自然環境における持続可能な自然資源管理を世界的に展開していくためのモデルを、日本の里山を冠した「SATOYAMAイニシアティブ」としてCOP10で提案・発信します。民間参画の推進については、COP10での発表を視野に、ドイツ政府の「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」を発展させて、独自の取組を実施できるか検討します。国内では、事業者が生物多様性に配慮した活動を自主的に行うためのガイドラインの策定や、国民一人ひとりの行動を促す生物多様性に配慮した行動リストの提案を通じ、生物多様性に配慮した企業活動が盛んになるように支援し、国民のなお一層の参加を確保するようにしていきます。


(4)生物多様性に係る今後の展望

 わが国の総人口は今後減少していくと予想される一方、世界人口は今後とも増加すると予想されています(図2-1-1)。人口増加は生物多様性に与える負荷を増大させる可能性が高く、前出のWWFによるエコロジカル・フットプリントの試算では、すでに人類の活動は地球の許容量を超えていますが、今後何の対策もとらなければその値はさらに増加すると予想されています。生物多様性上重要な地域の保全をより一層進めていくことに加えて、人類が地球という有限な世界で生き続けられるように、生物多様性を持続可能な形で利用するための取組も併せて推進していく必要があります。環境省が平成19年に実施した「環境にやさしい企業行動調査」によれば、地球温暖化防止対策について何らかの取組を行っている企業は88%にのぼるにもかかわらず、生物多様性の保全への取組について「企業活動と大いに関係があり重要視している」企業は13%に過ぎず、生物多様性保全の取組について何らかの取組を行っている企業は約17%に過ぎないという結果が出ています。

 一方で、平成20年5月に開催されたCOP9で「ビジネスと生物多様性イニシアティブ」のリーダーシップ宣言に署名した企業の約3割がわが国の企業であるなど、わが国の先進的な企業は生物多様性への取組を進めつつあります。また、持続可能な自然資源の利用の取組の一つとして、生物多様性に配慮した木材資源や水産資源の認証制度の取組が国内外で進んでいます。昨今の不況により企業の生物多様性に対する取組がより鈍化する可能性もありますが、生物多様性は新たなビジネスチャンスとなる大きな可能性を秘めています。

 また、野生生物の生息環境に配慮した農業と、それにより付加価値を付けた農産物による地域振興など、生物多様性の保全と持続可能な利用の双方を満足させようとする取組も各地で進んでいます。例えば、新潟県佐渡島や兵庫県豊岡市では、野外で絶滅したトキやコウノトリの野生復帰の取組の一環として、無農薬や減農薬により餌となる多様な生きものが住める水田を確保しつつ、その水田で生産された米の販売などにより地域振興につなげるといった試みが行われています。このように、生物多様性を保全することは食の安全や地域活性化といった問題の解決にも貢献するものでもあります。

 以上のような事業者による活動を推進していくには、事業者側の努力だけでなく消費者の理解や協力も重要です。そのためには、我々の生活は生物多様性に支えられていること、わが国は食糧や木材などを海外から多量に輸入しており、国内だけでなく世界の生物多様性に大きく依存していること、生物多様性に配慮した製品の選択により生物多様性に与える負荷や悪影響を軽減できることなどを十分認識することが肝要です。

 わが国は江戸時代に鎖国を経験しました。その間、国内では、限りある自然資源を上手に利用しながら生活を営み、経済を発展させ、加えて、花鳥風月を取り入れた浮世絵やさまざまな生きものを題材とした根付など、海外でも高く評価される庶民文化を発達させました。明治以降は、海外の進んだ技術を取り入れ、高度経済成長を経て世界的にも豊かな国となりました。この間、安全で豊かな生活の確保や経済成長を優先するあまり、少なからず自然を改変させてきたことは否めませんが、国土の67%が森林に覆われるなど、先進国としては豊かな生物多様性が保たれています。そして、多くの国民が自然を敬い、自然と調和しようとする心を持っています。我々は、こうした先人の知恵や暮らしと、最新の科学技術をうまく組み合わせながら、生物多様性の持つ可能性を最大限に活用し、豊かな経済社会を持続的に発展させるために、生物多様性基本法の目的である自然と共生する社会の実現を目指さなければなりません。

4 人類の発展の物質的基盤を確保する3R

 人口の増加及び途上国も含めた経済発展に伴い、長期的に見ると世界では資源の需要が増大し、天然資源の枯渇が懸念される一方で、廃棄物問題が一層深刻化するものと予測されています。例えば、今後新たな油田等の発見の可能性があるものの、現在の消費ベースを前提とした場合、石油は40.6年後、天然ガスは65.1年後に枯渇すると見込まれていますし、世界の廃棄物量は2050年には2000年の2倍以上になるという試算もあります。また、有害廃棄物の不法な越境移動や、処理能力が十分でない途上国等において、環境上不適切なリサイクルが行われることにより、深刻な環境汚染が引き起こされるおそれもあります。アジアそして世界で循環型社会を構築することが、これらの問題を防ぐ上で強く望まれています。そのためには、各国の国内において循環型社会をそれぞれ構築するとともに、廃棄物等の不法な輸出入を防止する取組を充実・強化した上で、わが国の先進的なリサイクル技術も活用して、アジア等において適正な資源循環の管理を進めていくことが必要です。このため、既にわが国の先導によって「3Rイニシアティブ」が進められているほか、OECDUNEP等の国際機関により資源生産性の向上や資源循環利用に伴う環境影響の低減に向けた取組が活発化しています。


廃棄物の不法な越境移動防止のための水際対策


 近年、リサイクル等を目的として、再生して循環利用できる資源が国境を越えて移動しており、それに伴い不法に廃棄物等を輸出しようとして顕在化する事例が増加してきています。このような状況を踏まえ、わが国では廃棄物等の不法な輸出入を防止するため、関係機関が連携して水際対策を行っています。平成20年10月には、「リデュースリユース・リサイクル(3R)推進月間」の活動の一環として、税関による貨物開披検査(貨物の中身を直接検査すること)への環境省職員の立会強化、輸出入関係事業者へのパンフレットやバーゼル法等説明会の案内配布を通じた廃棄物等輸出入管理制度や事前相談制度に関する周知等を行いました。


貨物開披検査の様子 資料:環境省



(1)3Rイニシアティブ

 わが国は2004年のG8シーアイランドサミットでの合意に基づき「3Rイニシアティブ」を推進しており、G8をはじめとする主要国やアジア諸国との政策対話を通じて情報を共有してきました。この結果、G8各国及び主要な途上国において3Rの概念が広く共有され、資源の効率的利用に向けてG8が協調して政策的対応をとっていこうとする動きも出てきました。これを踏まえて、わが国は、平成20年のG8環境大臣会合において3Rを取り上げ、「神戸3R行動計画」に合意しました。この行動計画では、3R活動が、資源生産性向上や経済活動に伴う資源消費と環境汚染の切り離し(デカップリング)にも貢献することなどの認識が共有されました。その上で、G8各国が今後取り組む具体的行動として、「3R推進を通じた資源生産性の向上と目標の設定」、「開発途上国の能力開発の支援」といった具体的取組が列挙されました。今後は、行動計画に基づく取組を進め、平成23年のG8環境大臣会合等に向けて、行動計画に基づく施策のフォローアップを行うこととされています。

 わが国は、「神戸3R行動計画」を具体的に実施していく一環として、平成21年に「アジア3R推進フォーラム」を発足させます。同フォーラムは、アジアにおける各国政府、国際機関、援助機関、民間セクター等幅広い関係者が参加して、3Rに関する国際協力を推進するプラットフォームになるものです。同年3月には、同フォーラムの発足に向けた準備の一環として、「アジア3Rハイレベルセミナー」を開催しました。会議ではアジア各国における3Rの推進に向けた協力の優先分野として、3Rの実践に必要な資金の確保、人材開発、国際共同研究などが列挙され、今後同フォーラムの下でこれらの分野に係る具体的な協力内容を協議していくこととされました。わが国としては、このフォーラムを通じて、アジア各国において優良な3Rの具体的な取組を創出、発展させ、廃棄物の適正処理の推進と3Rを通じた資源利用に関する効率の向上によって「循環型社会」を実現するための地域協力を活性化させたいと考えています。


(2)物質フロー分析及び資源生産性の向上に関する国際的取組

 わが国は、平成15年に初めて策定した「循環型社会形成推進基本計画」において、物質フローを活用した指標を設定したこと等を踏まえて、同年4月にフランス・パリで開催されたG8環境大臣会合において、「資源生産性」について各国で共同研究を開始することを提案し合意されました。これを受けて、OECDでは、平成16年に「物質フロー及び資源生産性に関する理事会勧告」が採択され、OECDにおいては物質フロー分析に関するガイダンスマニュアルの作成などの国際共同作業が行われました。

 さらに、平成20年3月には、「資源生産性に関するOECD理事会勧告」が採択されました。これは、平成16年以降のOECDにおける取組の進展やOECD加盟各国の政策の進展に加えて、G8においても「資源生産性を考慮した目標」の設定に関して合意がなされるなど資源生産性の向上について国際的な取組機運が高まったことを踏まえたものです。今後はこの勧告に基づき、加盟国が、物質フローとそれに付随する環境影響に係る分析能力を強化するとともに、それらの情報を目標設定に使用することを含め、計画目的で利用することを検討することなどが求められています。わが国は、既にこうした内容を循環型社会基本計画に盛り込み具体的な取組を推進しているため、この勧告の内容については加盟国の中でも最も取組が進んでいるといえます。


(3)資源の利用に伴う環境影響の低減に向けた国際的取組

 3RイニシアティブやOECDにおける取組などを通じて、明らかになってきた課題の一つが、天然資源の採掘から運搬、消費、廃棄といったライフサイクル全体における「持続可能な資源管理」の実現に向けて科学的な知見の蓄積・評価を行うことの重要性です。UNEPは平成19年11月に、「UNEP持続可能な資源管理に関する国際パネル」を設立し、資源の利用と環境影響・持続可能性に関する情報収集、資源の利用に伴う環境影響に関する科学的評価と資源の効率的利用に関する政策的な助言の提供、人材育成と国際的な知識交流の支援に取り組んでいます。パネルにはわが国も含め各国から約20名の専門家が参加してデカップリング及び資源生産性の概念の理解、持続可能性の観点からの製品及び資源の優先順位付け、地球規模の金属フロー並びにバイオ燃料の持続可能性の4つの課題について、幅広い科学的知見を評価する作業を行っており、平成21年にはその報告書の完成・公表が予定されています。

 わが国は、平成20年度から同パネルへ資金拠出を行うとともに、平成21年3月には、アジア各国からパネルに加わっている専門家と、アジア各国の政策責任者の参加する「持続可能な資源管理に関するアジアセミナー」を開催し、パネルの活動や成果の普及を行うとともに、アジア各国の現状や政策の必要性をパネルの専門家に訴えました。わが国は、これらを通じて、持続可能な資源管理に関する国際的取組に大きく貢献をしています(図3-1-12)。


図3-1-12 資源生産性・持続可能な資源管理に関する国際的な動向


(4)循環型社会構築の国際的推進に向けたわが国の役割

 世界全体で、なお一層の資源生産性の向上及び資源利用に伴う環境影響の低減のための政策を具体的に実行して成果をあげていくことが求められています。わが国は、「もったいない」の言葉に代表されるように昔からものを大切にしてきた経験を生かし、これらの取組のトップランナーとして、レアメタルの回収等も含めた再生利用の質的向上などより高度な課題に取り組む必要があります。これらを踏まえ、「アジア3R推進フォーラム」の発足等を通じ、わが国の知見・技術・経験を活かした国際協力を推進し、人類の持続可能な発展のための物質的な基盤を築く上でのリーダーの役割を果たしていく必要があります。



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