第2章 内外の人間活動とその環境への影響

 人類の生存基盤である地球は、私たちの手では作り得ないかけがえのないものです。人間活動は、この地球の環境に様々な影響を及ぼすものです。

 地球温暖化に関する科学的知見に基づけば、人為起源の温室効果ガスが引き起こす地球の温暖化は、私たちの生存基盤に深刻な影響を及ぼすものです。また、直ちに地球環境を悪化させ、被害を生んでいる人間活動もあります。ここでは、経済情勢と環境が相互に関係する中で私たちが活動している状況をいくつかの事例で見ながら、内外の人間活動が環境に及ぼす負荷について考察します。

 他方で、これらの環境負荷を低減し、環境問題の解決に向けて取り組む動きも盛んになっています。ここでは、こうした活動も概観します。このような中、環境と両立する経済への変革を果たし、社会を持続的に発展させようとする新しい価値観も育ってきています。このような新しい考えの芽についても紹介します。

1 人類が地球環境に及ぼす負荷と地球温暖化が人類の生存基盤に与える影響

 私たち人類は、人口の増加や経済の発展に伴い、より多くのエネルギーや食料を消費したり、森林を農用地へと転換したりする等、環境への負荷を増大させています。わが国においても、温室効果ガスの排出や廃棄物の発生等を通じて環境への負荷を及ぼしています。ここでは、そのような地球とわが国における環境への負荷の状況を概観します。


(1)人口やエネルギー消費の増加などの地球環境全体への負荷

 人口、エネルギー消費の増加及びそれに伴う二酸化炭素の排出や農地の拡大、森林減少などは、地球環境への負荷を考える上で、基本的な要素です。

 世界人口白書2008(国連人口基金(UNFPA))によると、2008年の世界人口は約67億5,000万人でありこの35年間でおよそ倍増しました。さらに、国連人口部は、2006年世界人口予測で、2050年の世界人口を91億9,000万人と推計しています(図2-1-1)。世界の一次エネルギー供給は増え続け、1971年の約55億TOE(石油換算トン)から、2006年の約117億TOEへとこの35年間でおよそ2倍になっています(図2-1-2)。


図2-1-1 世界人口の推移


図2-1-2 世界の地域における一次エネルギー供給量の推移

 特に、急激に人口が増加している東アジアを含むアジア地域では、工業化の進展等により、環境負荷が増大しています。これらの地域では経済成長も著しく、とりわけ製造業が発展しているため、経済活動に伴い、資源の利用量やエネルギー消費量も増大しています(図2-1-3、2-1-4)。


図2-1-3 世界における地域別の経済成長率の推移


図2-1-4 GDPに占める製造業付加価値額の割合の推移

 わが国は、アジアの各国と経済的な結びつきが強く、漂流・漂着ゴミや越境大気汚染等の環境問題でも協力して取り組むなど、アジア地域の国々との関係は大変密接になってきています。

 わが国が、アジアの各国と協力して、開発途上国の経済成長を図りつつも、新たな環境負荷が生じないように取り組むことで、地球全体での環境負荷を低減することに繋がります。

 人口の増加、エネルギー使用の増加、経済の発展などを背景に、地球全体に負荷を与える問題としては、温室効果ガス排出量の増加があります。温室効果ガスの大部分を占める二酸化炭素の人為的排出量は、長年増加し続けています。1950年から2005年までの約60年間で年間の人為的排出量が59億7,700万トンから292億7,800万トンに増加し、約5倍にも達しています(図1-1-3)。平成19年4月に公表された「気候変動に関する政府間パネルIPCC)第4次評価報告書第2作業部会報告書」では、1980年~1999年と比較して世界の平均気温が1.5~2.5℃上昇すると、最大30%の種で絶滅リスクが増加する可能性が高いこと、海面温度の約1~3℃上昇により、より頻繁なサンゴの白化現象と広範な死滅をもたらすこと、また、温暖化の進行により、穀物生産性が低下する地域と向上する地域が出現し、穀物生産にも一層の格差が生じること、洪水と暴風雨による被害が増加すること、熱波、洪水、干ばつにより罹病率と死亡率が増加すること、いくつかの感染症媒介動物の分布が北上することなど、地球規模でのリスクの増大を指摘しています。加えて、「IPCCの第4次評価報告書」では、「今後20年から30年間の排出削減努力と投資が、より低い安定化レベルの達成機会に大きな影響を与える。」と指摘しています。温室効果ガス排出量削減が遅れることとなれば、将来における大気中の温室効果ガス濃度の低レベルでの安定化が困難になると考えなくてはなりません。平成21年3月にコペンハーゲンで開催された「気候変動:世界リスク、課題及び決断」においては、70か国以上から2,500人以上の気候学者等が参加し、「最近の観測結果から、IPCCの示したシナリオのうち、最悪のものか、更に悪いものが現実になりつつあることが確認できた」などとする見解が取りまとめられています。

 また、私たち人類が地球上で生きていくためには、食料や木材などの基礎的な産物が得られなくてはなりません。2005年時点で、陸地面積約129億6,400万ヘクタールのうち、耕地及び永年作物地を合わせると約15億6,400万ヘクタール(陸地面積の約12%)あります。これらの農用地から、主要穀物(米、小麦、大麦、らい麦、えん麦、トウモロコシ)が約21億5,300万トン生産されるなど、私たちの食料需要を支えています。また、2005年時点で、森林面積は約39億5,200万ヘクタール(同約30%)あり、2000年からの5年間に年平均約730万ヘクタール減少しています。これは、北海道の面積の約9割にも相当します。これらの土地利用の推移は、図2-1-5のとおり、農用地が増加し森林が減少する傾向にあります。


図2-1-5 世界の土地利用面積率の推移

 しかし、こうした生産の基盤も地球温暖化の進行によってその機能を失わないか懸念されています。食料生産について、IPCCの第4次評価報告書では、中緯度から高緯度地域では平均気温1~3℃までの上昇で生産性がわずかに増加し、それを超えると地域によっては減少に転じること、また、低緯度地域では気温が1~2℃上昇するだけで作物の生産性が減少することが予測されています。今後も人口増加が続くため、地球温暖化による食料生産性の低下は人類の生存に重大な影響を及ぼす問題です。

 ここまで見たとおり、人口、エネルギー使用及び農用地の増加や森林の減少といった問題を始め、人間の経済活動も密接に関係し、地球環境への負荷は確実に増大しています。地球環境の悪化による水不足、食糧不足、自然災害や病気の蔓延など人類をとりまく問題は一層深刻になっており、地球温暖化の進行によってさらに悪影響が加速的に強まることが懸念されます。各国並びにコミュニティの生存基盤が脅かされるような安全保障上の問題に発展しないよう、地球環境の悪化を防ぐ方策、中でも地球温暖化防止に対する十分な対応を取らなくてはなりません。


(2)世界の水問題

 平成21年3月にトルコのイスタンブールで開催された第5回世界水フォーラムにおいて、「水に関するイスタンブール首脳宣言」がまとめられました。「水は、洪水、ハリケーン、干ばつを通じて経験されてきたとおり、生命及び生活を破壊する力も有しており、気候変動が、これらの悲惨な出来事を悪化させることが予想される。」との警告がなされました。

 水資源については、地球上に存在するおよそ14億km3の水のうち約97.5%が海水等で、地下水、河川、湖沼などの淡水の量は約0.8%です。このほとんどが地下水であり、容易に利用できる淡水の量は約0.01%、約0.001億km3のみです。これを単純に2008年の世界人口で計算すると約40L/人・日使えることになります。一方で2005年の日本人の生活用水使用量は307L/人・日であり、いかに水を多く使っているかが分かります。また、わが国は、食料の多くを海外に頼っており、海外で穀物や肉類などを生産する際に使用されている水をわが国が消費した水と仮定するバーチャルウォータの考え方で使用量を算出すると、平成17年に約800億m3との試算があります。これは、国内の年間水使用量に相当します。2050年には世界人口が2008年のおよそ1.4倍になることを考えると、わが国も水問題に無関心ではいられません。

 さらに、IPCCの第4次評価報告書では、2020年までにアフリカでは7,500万人~2億5,000万人の人々が、気候変動に伴って水の入手が困難になるおそれがあると予測しています。また、世界気温の2℃上昇により、バングラデシュの年間ピーク流量時には浸水地域が少なくとも25%増加すると予測しています。わが国に目を転ずれば、国内最大の湖である琵琶湖で、生態系にとっての生命維持装置ともいうべき全循環が、温暖化の影響によって不活性化し始めている可能性が指摘されています。このように、水不足と洪水という水に関する両極端の問題の深刻化と水質悪化が懸念されます。また、気候変動による影響のほとんどは水と何らかの関連を持っており、温暖化における国際交渉においても、温室効果ガスの削減という緩和策はもちろん、洪水防止や適切な水管理など、温暖化によって生ずる影響に対する適応策も重要な課題となっています。


(3)わが国の主な環境負荷の状況

 ア 地球温暖化に関する負荷

 温室効果ガスのわが国における総排出量は、2007年度(平成19年度)において13億7,400万トン(二酸化炭素換算)となっており、京都議定書の規定による基準年(1990年度。ただし、代替フロン等3ガス(HFCs、PFCs及びSF6)については1995年。)の総排出量(12億6,100万トン(二酸化炭素換算))と比べ、9.0%上回っています(図2-1-6)。


図2-1-6 日本の温室効果ガス排出量

 部門別内訳からは業務その他部門、家庭部門等が特に増加傾向にあることが読み取れ、今後の削減が求められています(図2-1-7)。


図2-1-7 部門別エネルギー起源二酸化炭素排出量の推移と2010年目標

 これらの部門における個々の主体の排出では、温室効果ガス排出量のうち大きな割合を占める二酸化炭素の1世帯当たりの排出量は5.35トン/世帯、業務その他部門の床面積当たりの排出量は0.13トン/m2となっています(図2-1-8、2-1-9)。


図2-1-8 1世帯当たりの二酸化炭素排出量


図2-1-9 業務その他部門の床面積当たりの二酸化炭素排出量

 2006年のエネルギー起源二酸化炭素排出量を国際比較した場合、わが国の排出量は世界全体の排出量の4.3%を占めており、1人当たり排出量では世界で9番目となっています(図2-1-10、2-1-11)。


図2-1-10 二酸化炭素の国別排出量(2006年)


図2-1-11 二酸化炭素の国別1人当たり排出量(2006年)

 イ 廃棄物の発生等の負荷

 わが国の経済社会における物質の流れを見ると(図2-1-12)、入口の指標である資源生産性では平成18年度で約35万円/トンであり、いわゆる循環型社会元年である平成12年度と比べ約33%上昇し改善しています(図2-1-13)。


図2-1-12 わが国における物質フロー(平成18年度)


図2-1-13 資源生産性及び循環利用率の推移

 わが国に投入された物質のうち何割が循環利用されているかを示す循環利用率は平成18年度で約12.5%となり、平成12年度と比べ約2.6ポイント上昇しました(図2-1-13)。

 また、1人1日当たりのごみ排出量は平成18年度に1,116グラムで、平成12年度比5.8%の削減となっています(図2-1-14、2-1-15)。


図2-1-14 取組指標の目標及び実績


図2-1-15 ごみ総排出量と1人1日当たりごみ排出量の推移

 資源ごみなどを除いた1人1日当たりに家庭から排出するごみの量は、平成18年度に約601グラムで、平成12年度比8.1%の削減、事業系ごみ排出量については、平成18年度に1,582万トンとなり、平成12年度比12%の削減、産業廃棄物の最終処分量は、平成18年度は約2,180万トンで、平成12年度比で51%の削減となりました。

 廃棄物の総排出量については平成18年度において約4億7,000万トンとなっており、内訳は、一般廃棄物が約5,200万トン、産業廃棄物については約4億1,800万トンとなっています。

 わが国の最終処分量は平成18年度で約29百万トンで、平成12年度と比べ約49%減少しました(図2-1-16)。しかし、最終処分場の残余年数については一般廃棄物が15.6年(平成18年度末時点)、産業廃棄物で7.5年(平成18年度末時点)と依然として厳しい状況が続いています(図1-3-1、図1-3-2)。


図2-1-16 最終処分量の推移

 平成19年度に新たに報告のあった産業廃棄物の不法投棄事案は、382件、10.2万トンで、件数・トン数ともに前年度より減少しました(図2-1-17)。


図2-1-17 産業廃棄物の不法投棄件数及び投棄量の推移

 全国の都道府県等が把握している平成20年3月31日時点における産業廃棄物不法投棄等の不適正処分事案の残存件数は2,753件、残存量の合計は1,633.7万トンでした。

2 経済活動と環境への影響

 1では、人口やエネルギー消費量等の増加、水問題の深刻化など、世界とわが国の環境負荷の状況を概観しました。わが国における環境負荷については、地球温暖化に繋がる二酸化炭素排出量が増加し、部門によっては増加傾向が続いている状況でした。

 ここでは、環境への負荷について、経済活動との関係、原油価格の高騰や平成20年後半以降の不況による影響等の観点から取り上げ、経済活動と環境への影響を見ていきます。


(1)電力に係る二酸化炭素排出原単位の悪化

 電力は経済活動の基盤となるもので、経済の動きと密接に関わっていますが、一方、環境にも大きな負荷を与えています。中でも電力供給は、その電源構成の変化によって、二酸化炭素の排出量が変化します。2007年のわが国の一般電気事業者の供給する電力に係る二酸化炭素排出原単位(使用端)は、453g-CO2/kWhでした。わが国は、オイルショック以降、1970年代から80年代にかけて脱石油を推進するため、原子力・石炭・LNGをバランス良く開発し、排出原単位を低減させてきました。平成10年には354g-CO2/kWhまで排出原単位を低減しましたが、その後、排出原単位は悪化しています。電気事業者の発電にかかる二酸化炭素排出原単位について、各国が排出原単位を低減させている中、わが国も排出原単位の低減に向けて取り組んでいく必要があります。(図2-2-1)。


図2-2-1 電力供給に係る二酸化炭素排出原単位の国際比較

 近年の排出原単位の悪化は、原子力設備利用率の低下や渇水等が要因と考えられます。また、平成19年7月に発生した新潟県中越沖地震による原子力発電所の停止により、同年以降の排出原単位は当面は、さらに悪化するものと考えられます。平成20年度の商業用原子力発電所の設備利用率(稼働率)は60%にとどまり、平成15年に次ぐ低率となりました(図2-2-2)。


図2-2-2 各国の原子力発電所の設備利用率

 石油ショック以降、電源構成については安定供給を確保するため石油依存度を低減させ、石油に代わるエネルギーとして原子力、天然ガス、石炭等の導入を促進してきました。火力発電は、近年の電力需要の増加や原子力発電所の設備利用率低下等に対応するなど一定の役割を果たしています。全電源に占める発電電力量の割合は平成18年時点で石炭が27.4%、石油が11.1%、天然ガスが23.3%と火力発電の中では石炭火力の比率が最も大きくなっています。

 一方、各国における発電電力量に占める石炭火力の割合について見てみると、英国やドイツでは減らしてきているものの、わが国はなお、世界平均と比較して10ポイント以上低い水準にあります(図2-2-3、図2-2-4)。わが国の石炭火力発電の現状について詳しく見てみます。石炭消費量を基に環境省が試算したところによれば、石炭火力発電所の二酸化炭素排出量については、2006年時点で1990年に比べ約3倍と推計されており、さらに、国内のエネルギー起源二酸化炭素排出量に占める割合も約2.5倍と推計されます(図2-2-5)。


図2-2-3 各国の発電量に占める石炭火力発電の割合


図2-2-4 主要国の電源別発電電力量の構成比(2006年)


図2-2-5 わが国の石炭火力発電所の二酸化炭素排出量及びエネルギー起源二酸化炭素に占める割合

 石炭火力は、他の火力発電に比べ発電時における二酸化炭素排出量が多いことから、石炭火力発電については、低炭素社会づくり行動計画において、発電効率を高め排出量を削減できるクリーン燃焼技術や、排出された二酸化炭素を大気中に出さずに地中に埋め戻すCCS技術の開発を推進することや、これらの技術に係る本格実証実験を実施し、ゼロ・エミッション石炭火力発電の実現を目指すとされていることを踏まえ、石炭火力の二酸化炭素排出を削減していくことが求められます。

 わが国は、太陽光発電をはじめとする再生可能エネルギーの新たな導入・活用策を通じ、2020年には最終エネルギー消費に対する再生可能エネルギーの比率(ヒートポンプ等を含む)を世界最高水準の20%まで引き上げ、化石燃料に過度に依存した経済・社会から脱却し、世界に先駆けていち早く低炭素社会の構築を図ることとしています(図2-2-6)。また、低炭素社会づくり行動計画で位置づけられたとおり、2020年に発電電力量に占めるゼロ・エミッション電源(再生可能エネルギー、原子力発電等)の比率を50%以上に引き上げることとしています。


図2-2-6 最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合(目標値)

 わが国は、今後、非化石エネルギーの利用拡大に最大限取り組むとともに、徹底した安全の確保を絶対的な前提として、原子力発電について、主要利用国並の設備利用率の維持と新規建設の着実な実現を目指すこととしており、これらに加え、2007年の新潟県中越地震により停止していた原子力発電所も再開することになれば、二酸化炭素排出原単位の改善が進むことが期待されます。


(2)ガソリン価格の高騰と自動車利用の関係

 平成20年の4月以降8月頃まで、世界的に原油価格が高騰しました。その背景としては、中国やインドなど新興工業国のガソリン消費が増加していること(図2-2-7)、原油の供給量の増加が原油に対する需要の増加に比べて小さいこと、産油国の産出量が伸びていない中で需要が増加していること(図2-2-8)、原油市場へ投機的な資金が流入したことなどが挙げられています。


図2-2-7 ガソリン最終消費量の推移


図2-2-8 近年の世界の原油生産量

 この高騰を受けて、国内のガソリン価格も上昇を続け、平成20年1月から3月までのレギュラーガソリンの平均価格1リットル当たり153円が、8月には185円まで上昇しました。なお、4月の価格の低下は、暫定税率の失効による影響が出たものです。その後安値に転じ、平成21年1月には106円まで下落するという価格の異常な乱高下が起きました。ガソリン価格の各年のグラフを見ますと、平成20年が他の年よりも高い位置にある一方で、高速道路利用台数の各年のグラフを見ますと、平成20年が他の年より低い位置にあり、ガソリン価格の高騰が自動車利用の動向に影響を与えた可能性があります(図2-2-9)。また、ガソリン販売量の変動も同様の傾向にあると言えます(図2-2-10)。


図2-2-9 ガソリン価格の高騰と高速道路利用台数


図2-2-10 平成18~20年のレギュラーガソリン販売量

 平成19年と平成20年のゴールデンウィーク、お盆、年末年始において高速道路利用台数を比較すると、高価格であった平成20年のお盆では、その利用が減ったと考えられます(図2-2-11)。


図2-2-11 混雑期の高速道路利用台数の比較

 また、社団法人日本自動車連盟(JAF)が、平成20年7月の約1ヶ月間インターネットで自動車を保有・使用している人に『車の使用に関する緊急アンケート調査』を行ったところ、「自動車を保有する、または使用する上で、負担感を感じる」と答えた回答者が84%、「負担が増えたことによる車の使い方が変化した」と答えた回答者が71%に上りました。

 こうした状況を踏まえると、消費者は、ガソリン価格の高騰を受けて、自動車の利用を控えたり、使い方を工夫したりしたと考えられます。


(3)オイルサンドの開発

 原油の高値傾向は、その他にも、私たちの経済活動や環境に影響を与えており、これまでコストが高く開発が進んでいなかった新たな資源の経済的な開発を可能にしています(図2-2-12)。例えば、カナダのオイルサンドの採掘ですが、2002年末からカナダのオイルサンドに含まれる原油量が統計上原油埋蔵量に参入されたことにより、カナダはサウジアラビアの2,642億バレルに次ぐ世界第二位の埋蔵量(1,781億バレル)に位置付けられています。2007年には、カナダでのオイルサンドの開発により、年間約4億7,000万バレルの原油が生産されました。これは、全世界の原油供給量約40億バレル(平成18年)の約12%に当たります。しかしながら、生産過程において湯で砂と油を分離するため、従来の石油生産に比べて多くのエネルギーと水が必要です。生産に伴って、二酸化炭素の大きな排出源となること、油を分離するために使った水の適正な処理が必要であることなど、安定的な開発を進めるに当たり、二酸化炭素の排出を減らすための高効率化や地下固定等に配慮するとともに、排水の適正な処理も必要となります。


図2-2-12 ニューヨーク原油先物市場の推移

 こうしたオイルサンドに代表される非在来型原油については、原油の安定的かつ多様な調達先確保の観点から、その利用可能性を高めるべく技術開発及び事業参入機会の推進を図ることがエネルギー安全保障上重要です。一方で、環境負荷の面でも課題があることを踏まえ、それぞれのエネルギー源が抱える課題を解決しつつ、環境への適合を図りながらバランスの取れた活用を行っていくことが必要です。


(4)市況の急激な変化による物質循環への影響

 平成20年後半からの世界景気の減速を受け、需要の減退により多くの天然資源の価格が急落しました。同様に、循環資源の価格にも影響が生じました。

 例えば、平成20年の夏以降、鉄スクラップの価格が急落し(図2-2-13)、これにより、使用済み自動車の再資源化等に関する法律(平成14年法律第87号。以下「自動車リサイクル法」という。)で市場原理に任せていた自動車の鉄スクラップの需給バランスが変化したことにより、一部の鉄鋼業における流通に影響が生じました。このことは、現在のところ自動車リサイクル法制度全体に大きく影響するような状況にはなっていませんが、自動車リサイクル法の見直しの検討の中で、鉄スクラップ市況の急激な変化が自動車リサイクル制度に及ぼす影響について検討を行っています。


図2-2-13 鉄スクラップ価格の推移

 ペットボトルの原料であるポリエチレンテレフタレート(PET)の価格についても、秋頃から急激かつ大幅な下落が見られるようになりました(図2-2-14)。


図2-2-14 国内のPETフレーク・バージン市況推移

 これは、使用済みペットボトルの輸出にも影響を与え、これまで容器包装リサイクル法に基づき再商品化を行う指定法人を利用せず市町村からの独自処理を引き受け中国等へ輸出していた事業者において、引取契約解除の動きが顕在化し、使用済みペットボトルが輸出事業者や市町村において大量に滞留することが懸念されました。また、使用済みペットボトルから再商品化される国内のフレーク等の価格の大幅な低下をもたらすことも懸念され、指定法人から処理を委託された再商品化事業者において、再商品化が円滑に実施されない場合も想定されました。このため、主務省の依頼を踏まえ、指定法人において市町村からの追加引取りを行ったほか、再商品化事業者との契約条件の変更を行うなどの緊急措置を実施しました。

 このように循環資源の価格は、市場で取引されるようになると、天然資源の価格変動の影響を大きく受けます。したがって、安定した国内循環システムの体制整備においては、国際市況といった経済要因の影響を理解し、これを考慮した仕組みを作ることが重要です。


(5)不況による環境関連の設備投資への影響

 平成20年後半からの世界同時不況により、企業の設備投資が抑えられる傾向にあります。法人企業統計調査(平成20年10月~12月期、財務省)によると、同期の設備投資額は前年度比17.3%減少し、経常利益は前年度比64.1%減少しています。このような時期こそ、環境関連の設備投資を行い、効率性の高い産業構造へと転換することが必要です。それにより、環境問題への十分な対応ができるだけでなく、景気対策、雇用対策にも効果が波及し、わが国の産業の競争力が高まると考えられます。

 実際にも、この不況期にあって、太陽光発電パネルは生産が拡大されています。企業においても、将来の見通しに立って今後成長すると見込まれる部門において、生産を拡大していることが注目されます(図2-2-15)。


図2-2-15 わが国における太陽電池出荷量の四半期別推移

 以上、見てきたように経済活動の動向は、エネルギーの構成、燃料や資源の価格、環境関連の設備投資等に様々な影響を与えます。環境政策の検討には、エネルギー価格の変動のような経済事情を織り込んでいくことが重要です。低炭素社会づくり行動計画では、あらゆる部門における二酸化炭素の排出削減を進めるため、二酸化炭素に価格を付け、市場メカニズムを活用するとともに、二酸化炭素排出に関する情報提供を促進することとしています。また、環境基本計画に基づき環境的側面、経済的側面、社会的側面の統合的な向上を図っていくことが必要となっています。

3 環境負荷を低減する活動の動向

 環境負荷を低減するために、国、地方公共団体を始めとして、企業やNPO、NGOなど、様々な主体が取り組んでいます。こでは、関係する基礎的なデータによって、こうした取組の全体を概観します。


(1)国の取組

 国では、環境保全のための基盤となる施策として、環境上の各種規制の立案、施行、環境を改善する事業、環境影響評価の運用、調査研究及び監視・観測等の充実、環境技術の振興、環境情報の整備と提供・広報、地域の環境保全の助言や支援、環境保健対策、公害紛争処理等及び環境犯罪対策、環境教育・環境学習等の推進、社会経済のグリーン化、国際的取組などの様々な施策を推進しています。

 その中で、環境省は、毎年度、環境保全に係る施策が政府全体として効率的、効果的に展開されるよう、各府省の予算のうち環境保全に関係する予算について、その見積りの方針を調整し、また、その結果として確保された予算を環境保全経費として取りまとめています。近年、環境保全経費の国の予算額に占める割合は、平成5年の環境基本法(平成5年法律第91号)の制定以降について見ると、国の予算に占める割合は概ね横ばいですが、国の予算全体の減少に応じて環境保全経費の合計額も概ね減少傾向にあります(図2-3-1)。


図2-3-1 環境保全経費の国の予算に占める割合の推移


(2)地方公共団体の取組

 今日のわが国の環境行政は、国レベルでは環境省を中心に関係府省が連携して、地方レベルでは、環境省など国の機関と、都道府県・市町村などの地方公共団体が連携して取組を進めています。今日の環境問題は、地球温暖化や都市・生活型の大気汚染など多様化しています。このような環境問題の解決に向けた取組を進める中で、住民に身近な存在として、地方公共団体が果たす役割はますます大きくなっています。ここでは、環境の質を向上させ地域と経済を活性化する地方公共団体の環境行政に係る取組を見ていきます。

 ア 地方公共団体の環境部門における組織・決算の状況

 地方公共団体において環境行政に従事する職員数は、平成20年4月1日現在、全団体で75,235人で、普通会計部門に従事する職員数(一般行政部門)の3.0%です(図2-3-2)。この割合は、近年減少傾向にあります。その内訳を見ると、清掃部門の職員数が大幅に減少しており、ごみ・し尿などの収集・処理業務を民間業者などへ委託する取組が進められています。


図2-3-2 地方公共団体の普通会計部門従事職員数に占める環境行政従事職員数の推移

 市町村合併による地方公共団体数の減少や、地方公共団体による業務効率化推進などにより、地方公共団体の職員数は減少傾向にあります。環境行政担当職員のうち、公害部門はやや減少傾向ですが、環境保全部門の職員数だけを見ると、近年やや増加(図2-3-3)しています。


図2-3-3 地方公共団体の部門別環境行政従事職員数の推移

 地方公共団体において、廃棄物や公害以外の分野の環境保全の位置づけが高まっていることが見てとれます。

 都道府県の環境行政に係る予算の推移及び普通会計予算に占める割合は、図2-3-4のとおりです。環境行政に係る予算額及び普通会計予算に占める環境行政に係る予算の割合は、平成9年まではともに増加傾向にありましたが、近年はともに減少傾向にあります。また、市区町村の環境行政に係る予算の推移及び普通会計予算に占める割合は、図2-3-5のとおりです。市区町村の環境行政に係る予算額び普通会計予算に占める環境行政に係る予算の割合は、平成13年までは増加傾向にありましたが、近年は減少傾向にあります。地方公共団体における環境行政への位置づけは高まっていますが、予算面では地方公共団体の厳しい現状が伺えます。


図2-3-4 都道府県における環境関連予算の推移


図2-3-5 市区町村における環境関連予算の推移

 イ 地方公共団体の公害施策

 地方公共団体が、平成19年度において支出した公害対策経費は、2兆7,514億円となっており、前年度から2,025億円減少しています。

 また、全国の地方公共団体の公害苦情相談窓口では、平成19年度に91,770件の相談を受け付け、前年度から5,943件減少しています。また、地方公共団体における国等による環境物品等の調達に関する法律(平成12年法律第100号。以下「グリーン購入法」という。)に基づくグリーン購入の取組は着実に増加し、平成19年度で76.2%の実施率となり、前年度から0.1ポイント増加しています(図2-3-6)。


図2-3-6 地方公共団体におけるグリーン購入実施率

 ウ 地方公共団体の環境力

 住民に身近な地方公共団体の取組は重要であって、行政、市民、事業者などを含めた環境への対応の力、すなわち地域環境力を高めていくことが必要です。地方公共団体の環境対策を評価するものとして、全国の環境NGO13団体で構成する環境首都コンテストネットワークが主催して「日本の環境首都コンテスト」が行われています。同コンテストは、全国の市・町・村・東京都特別区を対象としたコンテストで、地方公共団体の全施策に対する環境施策の調査を行い、その結果を集計し、ポイントの高い地方公共団体を公表・表彰しています。このコンテストを通じて、それぞれの地域の特性に合わせた環境自治体づくりへの支援やNGOと自治体あるいは自治体間で環境問題に関する情報の交換が行われています。

 平成20年度のコンテストへの参加は67団体でした。市町村合併で全国の市町村数が減少したため、参加団体数が減少する傾向を示しましたが(図2-3-7)、参加団体数を全国の地方公共団体数で割った参加率は概ね上昇傾向にあります。また、参加団体の平均得点、総合順位10位までの団体の平均得点はともに上昇傾向にあります(図2-3-8)。地方公共団体への設問内容が年々改良され、点数の獲得が難しくなっている中で、参加団体の平均得点が上昇傾向を示していることは、参加団体の環境施策が底上げされているものと考えられます。


図2-3-7 「日本の環境首都コンテスト」への参加自治体数と参加率の推移


図2-3-8 平均点の推移(参加団体・総合上位10位)

 また、環境省では、「循環・共生・参加まちづくり表彰」を行っています。この表彰は、地球温暖化問題からリサイクル対策まで多岐にわたる地域の課題を視野に入れ、地域における様々な主体と協働を図りながら、環境の恵み豊かな、持続可能なまちづくりに取り組んでいる地方公共団体などを讃えるもので、環境大臣表彰を平成2年度(平成2年度から14年度までは「アメニティあふれるまちづくり優良地方公共団体表彰」として実施。)から実施しています。市区町村(市区町村協議会等、地方公共団体連携による共同体を含む)では、平成20年度までにのべ115団体が表彰されており、平成20年度は、豊富な地下水の保全と、それらの地域資源を活かした地域活性化への取組などを行っている富山県入善町、菊池川流域の市町村と住民団体が連携して、流域全体での川の水環境保全などに取り組んでいる熊本県菊池川流域同盟、行政と住民が一体となって循環型社会の形成に向けた取組などを行っている鹿児島県志布志市の3団体が表彰されました。受賞を機に、それぞれの地域での活動の輪が、ますます広がっていくことが期待されます。

 エ 地球温暖化対策における地方公共団体の役割

 わが国は、人口が集中している都市部や過疎化が進む農村部、海に面した地域や山間部の地域など、自然的地理的特性が多様です。そのため、それぞれの地域で発生する環境問題も多様なものとなっています。地方公共団体は、豊かな自然や資源、人材など、地域特性を活かしながら、市民や企業、団体などの地域を構成する各主体に身近な存在として、それぞれとの連携・協力を図りながら、地域ならではの環境問題への取組を進めることが期待されています。

 特に地球温暖化問題は、その原因が私たちの生活にあります。そのため地域毎に異なる事情を考慮して、地域特性を活かした対策を進めることも重要です。地方公共団体では、地球温暖化対策の推進に関する法律(平成17年法律第61号。以下「地球温暖化対策推進法」という。)に基づく地方公共団体実行計画を策定し、地域における地球温暖化防止への取組を進めています。各都道府県には地球温暖化防止活動推進センターが設置され(平成21年4月現在45都道府県で設置。)、地球温暖化を防ぐための情報の収集、提供や調査研究などを進めています。また、行政、企業、市民がパートナーシップを組んで地球温暖化防止への取組を進める地球温暖化対策地域協議会が全国各地に設けられ、各地域での地球温暖化防止の具体的な取組を進めています。さらに、地域における地球温暖化防止の取り組みを進める者として、都道府県知事から委嘱を受けた地球温暖化防止活動推進員は、各地域で特色のある活動を行っています。近年は地球温暖化問題への関心の高まりとともに委嘱数が増えており、平成20年7月1日現在、45道府県で約6,800名の推進員が活発に活動しています。

 そのような市民の環境保全のための取組を促すためには、環境教育を通じて、生命を尊び、自然を大切にし、環境の保全に寄与する態度を一人でも多くの市民が養うことが重要です。この環境教育を各地域で着実に行うためにも、地方公共団体の取組が欠かせません。

 現在、地方公共団体が環境教育に取り組むに当たっての基本となる方針又は計画等を策定している地方公共団体の割合は、都道府県では7割を超えていますが、市町村等については、策定は必ずしも進んでいるとは言えない状況です(図2-3-9)。また、具体的な地方公共団体による環境教育の取組事例としては、場・機会の提供がもっとも多く、取組事例数は、伸びつつあります(図2-3-10)。


図2-3-9 地方公共団体における環境教育に関する方針、計画等の作成状況


図2-3-10 環境教育の取組事例数の年度推移

 環境教育の現状を把握する調査を行った結果、回答した小学校の8割近くの学校で、野外で自然に親しむ活動、動植物の飼育・栽培、ゴミの分別・リサイクル等の体験的な環境教育が行われていることが分かりました(図2-3-11)。また、学校内に設置してある環境施設としては、ビオトープ・校庭緑化やゴミの保管・分別所等について数多くの学校で設置されていることが分かりました。さらに、今後環境教育を行うために設置したい施設等としては、太陽光、風力などの新エネルギー施設が関心を集めていることが分かります(図2-3-12)。なお、環境教育を推進する上では、副読本や資料等の生徒用の教材、教員用の指導資料等の充実、教員の環境教育についての研修の充実等があげられていました(図2-3-13)。


図2-3-11 環境教育の一環として実施している体験活動(小学校)


図2-3-12 環境保全活動や環境教育を行うために今後設置したい施設等


図2-3-13 環境教育を推進する上での課題・要望


(3)企業及びNPO、NGOなどの取組

 企業では、環境保全のための取組として、環境情報の開示や環境会計の導入等が進められています。環境省の調査によれば、平成19年度に環境情報の開示を実施している企業数は、1,631となっており、情報開示の方法は、ホームページ上の記載や環境報告書の公表が多数を占めています(図2-3-14)。


図2-3-14 環境情報開示を実施している企業数

 一方、環境会計は、761社において既に導入されていますが、現在のところ導入は検討していないとする企業数も多い状況です(図2-3-15)。


図2-3-15 環境会計の導入状況

 グリーン購入法に基づき、グリーン購入を実施している企業の割合は増加しており、グリーン購入の取組は定着しつつあります(図2-3-16)。


図2-3-16 企業におけるグリーン購入実施率

 環境マネジメントシステムの認証登録を要件とする低利融資制度により、事業者のISO14001認証取得と環境対策投資の支援を実施し、平成20年9月末現在、審査登録件数は25,736件に達しました。また、平成20年10月から開始した排出量取引の国内統合市場の試行的実施に目標設定参加者449社、取引参加者61社、国内クレジット制度排出削減事業者13社の計523社の参加申請があったほか、商品・サービスや事業活動に伴う排出量についてカーボン・オフセットの取組が進展する等、企業の環境対策はますます多様になっています。

 環境保全のための取組において、NGOやNPO等の非営利部門が果たす役割はとても大きく、独立行政法人環境再生保全機構が監修した調査によれば、平成19年の環境NGO数は4,532となっています。活動分野別(複数回答)にみると、全国で500を超える団体が活動しているのは、環境教育、自然保護、まちづくり、森林の保全・緑化、美化清掃、水・土壌の保全、リサイクル・廃棄物、地球温暖化防止などの分野となっています。この点について、2年前の調査と比較すると、環境教育や地球温暖化防止と森林の保全・緑化を活動分野とする団体数に大きな増加傾向が見られています。(図2-3-17)。個人会員数の内訳では、10人以上100人未満のものが多くの割合を占めています(図2-3-18)。


図2-3-17 環境NGOの活動分野(複数回答)


図2-3-18 環境NGOの個人会員数


(4)国際社会の取組

 国境を越えた環境問題がますます大きくなる中で、国際社会でも、地球環境関連問題への取組が増してきています。環境関連条約の発効数は近年増大しており、その分野も多様になってきています(図2-3-19)。


図2-3-19 地球環境関連条約採択数の推移

 また、このような国際社会の環境問題への取組に対して、わが国は環境分野のODA等を通じて協力を行っています(図2-3-20)。


図2-3-20 わが国のODAの環境分野での実績

4 環境と経済を持続的に発展させる新しい価値観の形成

 2008年7月に行われたG8北海道洞爺湖サミットでは、2050年までに世界全体の温室効果ガス排出量を少なくとも半減する長期目標について、気候変動に関する枠組条約(以下「気候変動枠組条約」という。)の全締約国と共有し採択を求めること、G8各国が自らの指導的役割を認識し、全ての先進国間で比較可能な努力を反映しつつ、排出量の絶対的削減を達成するため、野心的な中期の国別総量目標を実施することなどを盛り込んだ首脳宣言がとりまとめられました。また、世界同時不況下においても環境対策の充実強化とそれによる雇用創出とを進め、「環境」を新たな成長のエンジンとしてとらえるという世界の趨勢が見て取れます。さらに、2009年12月に開催される気候変動枠組条約第15回締約国会議(COP15)における京都議定書第一約束期間後の枠組の合意に向けて、国際交渉が行われており、世界が一体となって温暖化対策を進めようという共通の価値観が徐々に定着しています。

 また、ノーベル平和賞受賞者でケニアの元環境副大臣のワンガリ・マータイさんは、昔の日本人のものを大切にする気持ちから誕生した「もったいない」という言葉に感銘を受け、世界共通語としての「MOTTAINAI」を広めることを提唱しました。「MOTTAINAI」という言葉は世界で注目を集めており、MOTTAINAIキャンペーンは持続可能な循環型社会の構築を目指す世界的な活動として発展しています。

 2010年には、愛知県名古屋市で生物多様性条約COP10が開催されます。人間が必要な水や食糧、工業製品の原料等の確保は、生態系という生産基盤が健全であることを前提とします。わが国では、長年、里地里山で培われてきた生物多様性を維持しながら農業などを営むシステムがあります。これを人間と自然が共生するモデルとして、「SATOYAMAイニシアティブ」を世界へ発信していきます。

 平成20年9月には、新潟県佐渡市で10羽のトキを試験放鳥し、野生復帰に向けた大きな一歩を踏み出しました。放鳥に向けて、地元では、餌場やねぐらの確保、減農薬稲作、田んぼへの冬季湛水など様々な準備をしてきました。これは、まさに自然と人間が共生するための環境づくりに他なりません。

 地球の環境は、大変に複雑なシステムから成り立っており、そのメカニズムが完全に解明されているわけではありません。原因に係る不確実性があることを理由に対策を取らないでいると問題発生により生ずる被害や対策コストが非常に大きくなります。地球温暖化問題のように一度生ずると将来世代わたって取り返しがつかない影響をもたらす可能性がある問題もあります。このような問題に対しては、完全な科学的証拠が欠如していることをもって対策を延期する理由とはせず、科学的知見を充実させながら対策を実施する予防的な取組方法の考え方に基づく対策を必要に応じて実施していかなくてはなりません。環境についての科学研究が盛んになり、また、人々がその成果を積極的に現実の行動に反映させるように努力するようになったのも、人類の最近の大きな進歩です。

 また、国民生活に関する世論調査で、心の豊かさと物の豊かさのどちらを大切にするかを聞いた結果では、心の豊かさを大切にする人の割合が高い率で推移しています(図2-4-1)。


図2-4-1 物の豊かさから心の豊かさへの重きのおき方の変化

 この結果から、物質的な豊かさの追求から、国民一人ひとりの意識が変化しつつあるのではないかと考えられます。このような根底にある意識の変化が、身の回りの環境を良くしたり、資源を無駄遣いしないようにしたりする意識につながっているのではないでしょうか。環境への意識の変化を例示してみると、家電や自動車の売り上げに占める省エネ製品や低燃費車の割合が向上したり、近年各地で導入が進んでいるレジ袋の有料化によって「レジ袋は、実はいらなかったのではないか」ということに気づいたり、マイバッグを持とうという行動が促進されたり、輸入食品の安全性への不安から国産の安全な食品への需要が高まり、副次的に二酸化炭素排出量が削減されたりするなど、環境への関心が身近な生活と結びついてとらえられるようになってきています。また、平成21年は電気自動車元年と言われ、国内メーカーによる本格的な市販がスタートする見込みです。100年続いた内燃機関を駆動力とする自動車を電動化することは、ガソリンという液体燃料を流通させる方法から、電気エネルギーを二次電池に供給する方法への大転換であり、エネルギー供給インフラ及びそれに関連する産業構造をも変えるかも知れない出来事と言えます。

 このように、環境の保全と経済の発展を両立させ、健康で豊かな生活を送るため、地球温暖化の防止、循環型社会の構築及び自然との共生などの取組が不可欠であるという価値観が世界の動きから個人の意識に至るまで共有されるようになってきました。


トキの野生復帰


 平成20年9月25日、新潟県の佐渡島において10羽のトキが放鳥されました。日本の空にトキが羽ばたくのは昭和56年に野生のトキを捕獲して以来、27年ぶりのことです。放鳥されたトキの中には、本州に渡って広範囲に移動しているものや、本州に渡った後に再び佐渡に戻ったものもいます。環境省では、このようなトキの動きを見守りつつ、モニタリングを行ってトキの生態に関する情報収集を行っています。

 トキは、江戸時代には全国各地で見られるごくありふれた鳥でしたが、狩猟などにより、その数は激減しました。昭和56年にわが国最後の5羽全てを捕獲し、佐渡トキ保護センターで人工繁殖の取組を開始しました。平成11年に中国から贈呈されたトキにより初めて人工増殖に成功し、現在では100羽を超えるまでになりました。

 新潟県の佐渡島では、平成27年頃に60羽程度のトキが定着することを目標に、トキが安心して生息できる環境を整えるため、行政機関や農家、大学、NGO等が合意形成を図りつつ連携・協力して、環境保全型農業やエサ場づくりなどを展開しています。また、野生復帰ステーションでは飼育下のトキが自然の中で自立して生存できるよう、野生順化訓練を進めています。


トキを放鳥される秋篠宮同妃両殿下


田んぼで餌をついばむ



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