第4節 国際的動向と日本の取組


1 国際的動向


(1)国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)
1990年代中頃からの、化学物質によるリスクを削減するためのさらなる手法の必要性や、化学物質に関する国際的な活動をより調和のとれ効率のよいものとすべきとする議論等を踏まえ、2002年のUNEP管理理事会において、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)が必要であることが決議されました。2002年のヨハネスブルグ・サミット(WSSD)で定められた実施計画において、2020年までに化学物質の製造と使用による人の健康と環境への悪影響の最小化を目指すこととされ、そのための行動の一つとして、国際的な化学物質管理のための戦略的アプローチ(SAICM)を2005年末までに取りまとめることとされました。
これを受け、数回にわたる準備会合や地域会合等において、SAICMの文書について協議を重ねてきました。18年2月にドバイにおいて開催された国際化学物質管理会議において、今後、国際機関、各国政府、産業界、NGO等の各主体が講じるべき対策を目標年限付きで記載した包括的な枠組みとして、SAICMが採択されました。

(2)UNEPの活動
PCB、DDTなどの残留性有機汚染物質(POPs)は、国境を越えて広い地域を移動し、生物の体内に蓄積されるため、ホッキョクグマやアザラシから検出されるなど、地球規模の汚染をもたらしています。このため、国際的な協調のもとにその製造・使用の廃絶・削減等を行う目的で、平成13年5月に「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」が採択され、16年5月に発効しました。同条約は難分解性、生体内での高蓄積性、長距離移動性、人の健康や環境(生態系)に対する悪影響を有する物質として、当面、PCB、DDT、クロルデン、ダイオキシンなど12物質を対象に、その製造・使用の禁止・制限、排出の削減、廃棄物の適正処理や在庫・貯蔵物の適正管理等の措置を各国に義務付けており、17年11月には、条約対象物質として追加すべき物質について検討が始まりました。
また、有害な化学物質による人の健康及び環境を潜在的な害から保護し、並びに当該化学物質の環境上適正な使用に寄与するため、「国際貿易の対象となる特定の有害な化学物質及び駆除剤についての事前のかつ情報に基づく同意の手続に関するロッテルダム条約」(以下「PIC条約」という。)が平成10年9月に採択され、16年2月に発効しています。

(3)国連の活動
国連においては、化学物質の分類と表示の調和を図ることを目的とした「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」について検討され、平成15年7月に、20年中の導入を各国に求めました。なお、国連経済社会理事会の下に設置されたGHS専門家小委員会では、分類基準の充実、実施のためのガイダンスドキュメント作成などの作業を引き続き進めています。

(4)OECDの活動
OECDでは、環境保健安全プログラムの下で化学物質の安全性試験の技術的基準であるテストガイドラインの作成及び改廃、優良試験所基準(GLP)の策定、化学物質のリスク評価手法及び管理方策の検討、化学品の有害性項目の分類や表示の方法等について検討を行う有害性に関する分類と表示の調和作業(国連と協力)、化学品事故への対応方策の検討、環境ばく露評価手法の開発、化学物質の環境中への排出量の推計方法の検討や情報交換等を通じたPRTR推進等の活動、新規化学物質届出様式の標準化など新規化学物質の届出や評価の調和、OECD加盟各国で大量に生産されている化学物質(HPV Chemicals)の安全性点検の分担、農薬の安全性に係る再評価の国際分担や農薬によるリスク削減対策等についての検討等が行われており、これらの活動の成果を受けて、化学物質の適正な管理に関する種々の理事会決定や理事会勧告が採択されています。

(5)EUにおける総合的な化学物質対策の導入
EUでは、平成13年8月に公表された白書「今後の化学品政策のための戦略」を踏まえ、REACH規則の導入に向けて検討が進められてきており、平成17年12月にEU競争力理事会での政治的合意に達しました。REACH規則の特色としては、既存化学物質を含めた登録制度を始めとして、事業者へのリスク評価の義務付け、流通経路を通じた情報伝達などの仕組みが挙げられます。今後、さらなる審議を経て平成18年秋に最終決定がなされ、平成19年春に施行(実質的な運用は平成20年から)される見込みです。

2 国際的動向を踏まえた日本の取組

わが国は、SAICMの準備会合や地域会合などに積極的に出席し、その策定作業に能動的に関与してきました。国内に対しても、平成17年度には、17年6月及び18年2月の化学物質と環境円卓会議において、関係者の間でSAICMについて意見交換を行いました。
POPs条約については、日本は平成14年8月に締結しており、16年5月から条約が発効しています。17年6月には、POPs条約に基づく国内実施計画を策定し、同計画に基づき条約の義務を着実に履行しています。また、14年度より毎年、東アジアPOPsモニタリングワークショップを開催するなど、アジア・太平洋地域におけるPOPsモニタリングについての協力等の取組を進めているほか、15年度より中国における残留性有機汚染物質管理システムの構築に係る研究協力を進めています。また、化学物質管理に関する能力構築として、15年から実施している先進ASEAN諸国に対するGHS能力構築に加え、17年度より化学物質管理全般に関する研修を開始しています。さらに、新たにPOPs条約の対象物質として追加が検討されている化学物質について、日本独自の情報を提供するなど、国際貢献を進めています。
また、PIC条約については、日本は平成16年6月に締結しており、同年9月から日本において効力が発生することになりました。現在、関係府省が連携して条約を着実に履行しています。
GHSについては、関係省庁連絡会議のもと、作業を分担しながら、各種法令対象物質の分類事業を行うとともに、勧告文書の翻訳を作成するなど、平成20年の導入に向けて着実に作業を進めています。
関係府省においては、OECDにおける環境保健安全プログラムに関する作業として、HPV化学物質の安全性点検作業に積極的に対応するとともに、新規化学物質の試験データの信頼性確保及び各国間のデータ相互受入れのため、GLPに関する国内体制の維持・更新、生態影響評価試験法等に関する日本としての評価作業、化学物質の安全性を総合的に評価するための手法等の検討、内外の化学物質の安全性に係る情報の収集、分析等を行っています。平成17年度においては、OECDのHPV点検プロジェクトにおいて、生態影響試験、毒性試験等の実施により必要な知見を収集、整理し、初期評価報告書を作成し、OECDの初期評価会合に5物質の初期評価報告書を提出しました。


前ページ 目次 次ページ