第3節 環境リスクの低減及びリスクコミュニケーションの推進


1 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律に基づく取組

化審法に基づき、平成17年度は、新規化学物質の製造・輸入について420件(うち低生産量新規化学物質については193件)の届出があり、事前審査を行いました。
また、昭和49年の化審法公布時に製造・輸入されていた化学物質(既存化学物質)等の安全性点検を行っており、平成17年度には、分解性・蓄積性に関する試験を34物質、人への健康影響に関する試験を17物質、生態影響に関する試験を82物質について行いました。さらに、既存化学物質の安全性点検を加速するため、国と産業界が連携し、平成17年6月に「官民連携既存化学物質安全性情報収集・発信プログラム(通称:Japanチャレンジプログラム)」を開始しました。同プログラムは、国と産業界が連携し、国内製造・輸入量が1,000t/年以上の既存化学物質について、安全性情報(物理化学的性状、人への毒性、生態毒性等)を収集し、国民に対し分かりやすく情報発信することを目的としています。
これらの取組を通じ、平成17年度末現在、第一種特定化学物質としてPCB等15物質、第二種特定化学物質としてトリクロロエチレン等23物質、第一種監視化学物質として酸化水銀(II)等25物質、第二種監視化学物質としてクロロホルム等842物質を指定し、製造・輸入等について必要な規制等を行っています(図5-3-1)。

図5-3-1	化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律の概要


2 特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律に基づく取組

OECDによる加盟国に対するPRTR制度(化学物質排出移動量届出制度)の導入の勧告等を踏まえ、事業者による化学物質の自主的な管理を促すため、PRTR制度とMSDS(化学物質等安全データシート)制度を二つの大きな柱とする、化学物質排出把握管理促進法が平成11年7月に公布されました(図5-3-2)。

図5-3-2	化学物質の排出量の把握等の措置(PRTR)の実施手順

平成17年度には、同法施行後の第4回目の届出として、16年度に事業者が把握した排出量等が都道府県経由で国へ届け出られました。そして、18年2月に、事業所からの届出排出量等の集計結果及び国が行った届出対象外の排出源(届出対象外の事業者、家庭、自動車等)からの排出量の推計値の集計結果を、あわせて公表しました(図5-3-3、図5-3-4)。公表日以降、届出された個別事業所のデータについて、国民からの開示請求を受け、そのデータの提供を行っています。

図5-3-3	届出排出量・移動量の排出先・移動先別の内訳


図5-3-4	届出排出量・届出外排出量上位10物質とその排出量

MSDS制度については、パンフレットの配布等を行うとともに、より一層の定着を図るため、MSDSの提供を受けられなかった事業者や、技術上、企業秘密上の問題を抱えているMSDSを提供する側の事業者等からの相談や意見等を広く受け付ける窓口として、「MSDS目安箱」(http://www.meti.go.jp/policy/chemical_management/law/)を設置しました。

3 ダイオキシン類問題への取組


(1)ダイオキシン類とは
ダイオキシン類対策特別措置法(平成11年法律第105号。以下「ダイオキシン法」という。)では、ポリ塩化ジベンゾ−パラ−ジオキシン(PCDD)とポリ塩化ジベンゾフラン(PCDF)に加え、同様の毒性を示すコプラナーポリ塩化ビフェニル(コプラナーPCB)をダイオキシン類として定義しています。
ダイオキシン類は、生殖機能、甲状腺機能、免疫機能などに対して生じ得る影響が懸念されており、研究が進められていますが、日常の生活の中で摂取する量では、急性毒性や発がんのリスクが生じるレベルではないと考えられています。
ダイオキシン類は、炭素・水素・塩素を含むものが燃焼する工程などで非意図的に生成されます。現在、日本での主な発生源は廃棄物焼却施設ですが、その他にも金属精錬などにおける熱処理工程などのさまざまな発生源があります。

(2)ダイオキシン類対策の枠組み
ダイオキシン類対策は、「ダイオキシン対策推進基本指針」(以下「基本指針」という。)及びダイオキシン法の2つの枠組みにより進められています。
基本指針では、「今後4年以内に全国のダイオキシン類の排出総量を平成9年に比べ約9割削減する」との政策目標を導入するとともに、排出インベントリーの作成や測定分析体制の整備、廃棄物処理・リサイクル対策の推進を定めています。
一方、ダイオキシン法では、施策の基本とすべき基準(耐容一日摂取量及び環境基準)の設定、排出ガス及び排出水に関する規制、廃棄物焼却炉に係るばいじん等の処理に関する規制、汚染状況の調査、汚染土壌に係る措置、国の削減計画の策定などが定められています。

(3)環境への排出と人への影響
ア 環境中の汚染状況
全国的なダイオキシン類の汚染実態を把握するため、平成16年度にダイオキシン法に基づく常時監視などにより、大気、水質、底質、土壌等の調査が実施されました(表5-3-1)。

表5-3-1	ダイオキシン類による環境調査結果

イ 排出インベントリー
平成16年9月にダイオキシン類の排出量の目録(排出インベントリー)の見直しが行われ、削減目標が達成されたことが分かりました(図5-3-5)。これに伴い、17年6月には国の削減計画を変更し、新たな目標値として22年までに15年に比べて約15%の削減をすることとしました。17年11月の目録では、16年の排出総量の推計は、15年から約10%の削減がなされています。

図5-3-5	ダイオキシン類の排出量の推移

ウ 人の摂取量
平成15年度に厚生労働省が実施した調査では、日本における平均的な食事からのダイオキシン類の摂取量の推計値は1.33pg-TEQ/kg/日とされています。そのほか、呼吸により空気から摂取される量が約0.019pg-TEQ/kg/日、手についた土が口に入るなどして摂取される量が約0.0052pg-TEQ/kg/日と推定され、人が一日に平均的に摂取するダイオキシン類の量は、体重1kg当たり約1.35pg-TEQと推定されています(図5-3-6)。この水準は、耐容一日摂取量の4pg-TEQ/kg/日を下回っています(図5-3-7)。

図5-3-6	日本におけるダイオキシン類の一人一日摂取量(平成15年)


図5-3-7	食品からのダイオキシン類一日摂取量の経年変化


(4)ダイオキシン法の施行
ア 特定施設の届出状況の把握
ダイオキシン法に基づく特定施設の届出状況について、大気基準適用の特定施設については、平成16年度末現在、全国で1万2,811施設の届出があり、廃棄物焼却炉が1万1,860施設(4t/h以上の大型炉:1,092、2〜4t/hの中型炉:1,545、2t/h未満の小型炉:9,223)、産業系施設が951施設(アルミニウム合金製造施設:784、製鋼用電気炉:116等)でした。また、16年度に648の廃棄物焼却炉が廃止又は排出基準の適用を受けない小さな規模に構造が変更されました。
水質基準適用の特定施設については、平成16年度末現在、全国で3,896施設の届出があり、その大部分(3,105)が廃棄物焼却炉に係る廃ガス洗浄施設・湿式集じん施設・灰の貯留施設でした。
イ 規制指導状況
ダイオキシン法に定める排出基準の超過件数は、平成16年度は大気基準適用施設で146件、水質基準適用施設で4件、合計150件(平成15年度163件)で、前年度に比べ減少しました。特に大気基準適用施設の超過件数のうち2t/h未満の施設が128件(88%)と多く、濃度規制や構造基準等への対応ができず、廃止に至ったものが多いこともその一因と考えられます。また、法に基づく命令が発令された件数は、大気関係46件、水質関係4件で、法に基づく命令以外の指導が行われた件数は、大気関係5,850件、水質関係300件でした。
ウ 土壌汚染対策
環境基準を超過し、汚染の除去等を行う必要がある地域として、これまでに4地域がダイオキシン類土壌汚染対策地域に指定されています。このうち3地域で対策計画が策定され、同計画に基づき都道府県等が実施したダイオキシン類による土壌の汚染の除去の対策等について都道府県等が負担する経費を助成しました。なお、これら3地域のうち2地域では、対策計画に基づく対策が完了し、平成17年8月に対策地域の指定が解除されています。さらに、ダイオキシン類に係る土壌環境基準等の検証・検討のための各種調査を実施しました。

(5)その他の取組
ア ダイオキシン類の測定における簡易測定法の導入について
「ダイオキシン類の測定における簡易測定法導入のあり方について」(平成16年11月中央環境審議会答申)を踏まえ、平成16年12月にダイオキシン法施行規則の改正を行い、廃棄物焼却炉から排出される排出ガス等の測定の一部に、迅速で低廉な簡易測定法である生物検定法による測定方法を用いることができることとしました。これを受け、排出ガス、ばいじん及び燃え殻について各種生物検定法による測定方法の技術的評価を行った結果、17年9月に具体的な測定方法を定めました。
イ ダイオキシン類の測定における精度管理の推進
ダイオキシン類の環境測定における的確な精度管理を推進するために定めた「ダイオキシン類の環境測定に係る精度管理指針(平成17年11月18日改定)」の普及を図るために、測定分析機関に対する受注資格審査を行いました。さらに、分析技術の向上を図るため、地方公共団体の公的検査機関の技術者に対する研修を引き続き実施しました。
ウ 河川等の底質対策について
河川等の環境基準値を超える底質を除去し、分解・無害化するための対策技術の実用化に向けた検討を行いました。また、港湾においては、「港湾における底質ダイオキシン類対策技術指針」(15年3月策定、同年12月改定)及び「港湾における底質ダイオキシン類分解無害化処理技術データブック」(17年3月策定)に基づき、ダイオキシン類により汚染された底質の除去対策を推進しています。また、ダイオキシン類を高濃度に含んだしゅんせつ土砂を大量かつ安全に処理する技術に関する調査研究を実施しています。
エ 調査研究及び技術開発の推進
ダイオキシン法附則に基づき、臭素系ダイオキシン類の毒性やばく露実態、分析法に関する情報を収集・整理するとともに、環境中の臭素系ダイオキシン類の排出実態に関する調査研究等を進めました。
また、ダイオキシン類の各種環境媒体や食物を通じたばく露等に関する科学的知見の一層の充実を図るため、血液中のダイオキシン類の蓄積量調査や環境中でのダイオキシン類の実態調査などを引き続き実施しました。
さらに、廃棄物の適正な焼却技術、汚染土壌浄化技術、ダイオキシン無害化・分解技術、廃棄物焼却炉解体時の周辺環境調査、簡易測定等に関する技術開発等に取り組みました。
オ 廃棄物・リサイクル対策の推進
廃棄物の減量化の目標量を踏まえ、循環型社会形成推進基本法をはじめとする廃棄物・リサイクル関連法に基づき、廃棄物等の発生抑制やリサイクル対策を推進しました。

4 農薬のリスク対策


(1)農薬の環境影響の現状
農薬については、毒性の低い薬剤の開発が進み、毒性及び残留性の高いものは使用されなくなったことなどから、農薬による環境汚染の問題は少なくなってきています。また、農薬取締法(以下「農取法」という。)の改正により使用規制が強化されています。
しかし、本来、農薬の使用は生理活性を有する物質を環境中に放出するものであり、今後とも、人体や環境に悪影響を及ぼすことのないよう、安全性を評価し、適正に管理していく必要があります。

(2)農薬の環境リスク対策の推進
農薬は、農取法に基づき規制されており、農薬の登録を保留するかどうかの基準(農薬登録保留基準)等に基づいた農林水産大臣の登録を受けなければ製造、販売等ができません。農薬登録保留基準のうち、作物残留、土壌残留、水産動植物に対する毒性及び水質汚濁に関する基準を環境大臣が定めています。
生態系保全を視野に入れた取組を強化するために改正した、水産動植物に対する毒性に係る農薬登録保留基準については、平成17年4月に施行され、個別農薬の基準値設定に向けた検討を行いました。また、環境中における残留性及び生物濃縮性の観点から、より適切なリスク管理を行うため、土壌残留及び水質汚濁に係る農薬登録保留基準を平成17年8月に改正するとともに、同基準の平成18年8月の円滑な施行に向け体制づくりを行いました。さらに、農薬登録保留基準については、国内外の知見や国際的な動向を考慮して、その充実を図るための検討を行いました。
特定農薬については、「特定防除資材(特定農薬)指定のための評価に関する指針」に基づき特定農薬指定の評価に必要なデータを作成・収集し、指定に向けた検討を行いました。
さらに、農薬の環境リスク対策の推進に資するため、農薬使用基準の遵守状況の確認、農薬の各種残留実態調査、農薬の生態影響調査、農薬の飛散対策に関する調査、内分泌かく乱作用を考慮した農薬の環境リスク管理に関する調査研究を実施しました。
その他、POPs条約を踏まえ、過去に埋設されたPOPs等廃農薬について、埋設現場の実態を踏まえた無害化処理技術の検証調査を行いました。

5 リスクコミュニケーションの推進

化学物質やその環境リスクに対する国民の不安に適切に対応するため、これらの正確な情報を市民・産業・行政等のすべての者が共有しつつ相互に意思疎通を図るというリスクコミュニケーションを推進しています。
環境省では、情報の整備のため、「PRTRデータを読み解くための市民ガイドブック」、「化学物質ファクトシート」の作成・配布や、化学物質の情報データベースや化学物質と環境に関する学習関連資料データベースのホームページでの設置などを進めています。平成17年8月には、身近なところから排出される化学物質について、市民が自らの生活と関連付けて考え、一人ひとりができる環境リスクの低減のための取組について考えるきっかけとなるよう、子どもにも親しみやすい小冊子「かんたん化学物質ガイド」を新たに作成・公表しました。また、「化学物質環境実態調査を読み解くための市民ガイドブック」を新たに作成・公表しました。さらに、これら関連情報を掲載した「リスクコミュニケーションホームページ」(http://www.env.go.jp/chemi/communication/)についても、17年8月に、市民向け、子ども向け、専門家向けのページに分けるなど、内容の整理を行い、デザインも一新しました。経済産業省では、化学物質のリスクコミュニケーションを効果的に行うため、化学物質のリスクの理解を助けるパンフレット「化学物質のリスク評価について−よりよく理解するために−」を作成・公表しました。また、事業者と市民が円滑なリスクコミュニケーションを展開するための手がかりとなる市民向けリーフレット「化学物質 対話でリスクをへらしていこう」を作成しました。さらに、(独)製品評価技術基盤機構のホームページ上で化学物質の有害性や規制等に関する情報を総合的に検索できるシステムやリスクコミュニケーションのための情報の提供を行いました。
また、対話の推進には、対話を円滑に進める人材等が必要です。環境省では、化学物質アドバイザーの育成・活用を推進するため、研修・登録・派遣を行っています。平成17年度には、PRTR制度についての講演会講師等として延べ42件の派遣を行いました。市民が化学物質と環境に関する身近な疑問を持ったときにインターネット上で簡易に応答できるシステムの整備の一環として、17年度には、e-ラーニング機能の開発を行いました。
さらに、環境省では、場の提供として、市民、産業、行政等による情報の共有及び相互理解のための「化学物質と環境円卓会議」を継続的に開催し、そこでの議論の内容を広く公開しています。平成17年度には、地方でのリスクコミュニケーションの促進を支援するため、愛知・福島県と協力して計2回地方で開催し、合計4回開催しました。

6 その他の取組


(1)PCB対策
PCBについては、昭和47年から新たな製造がなくなり、さらに49年に事実上製造・輸入禁止となって以降、約30年間にわたって保管が続けられてきましたが、国はポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(平成13年法律第65号。以下「PCB特別措置法」という。)に基づき、PCB廃棄物の拠点的処理施設の整備を推進しています。また、これとは別に電力会社等の多量のPCB廃棄物を所有している事業者の中には、自社でPCB廃棄物を処理する取組もあり、PCB特別措置法に定められた平成28年7月までのすべてのPCB廃棄物の処理を目指して取り組んでいます。
また、使用中のPCBを含む電気工作物及び保管されているPCB廃棄物の紛失・不適正処理等を未然に防止するため、事業者は電気事業法(昭和39年法律第170号)及びPCB特別措置法に基づき、保管・使用状況について届出を行うこととなっています。


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